スリ師「スリをしたら物騒なもんばかり手に入っちまって困る」 (28)

ガタンゴトン… ガタンゴトン…

スリ師(俺はベテランスリ師……)

スリ師(今までこの指で、数々のスリを成功させてきた)

スリ師(さて、今日のターゲットは……あのサラリーマンだ!)



サラリーマン「……」

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スリ師(そっと近づいて……)ソッ

サラリーマン「……」

スリ師(さっとブツをいただく!)サッ

サラリーマン「……」

スリ師(スられたことに、まったく気づいてねえ。我ながら芸術的なテクニックだねえ)



スリ師(さてさて、じっくりと戦利品を確認……)

スリ師(なんだこりゃ……!? 薬品のビン……?)

スリ師(どんな薬品なのかスマホで調べてみるか……便利な世の中になったもんだ)ポチポチ

スリ師(ってこれ、毒薬じゃねえか! しかもやたら入手困難らしい!)

スリ師(なんでこんなもん、サラリーマンが持ってやがるんだ!?)

スリ師(誰かを毒殺しようってのか? それとも自殺用……!?)

スリ師(ええい、こんなの物騒でしょうがねえ! 誰かに押し付けてやれ!)

スリ師(次のターゲットはあのジイさんにしよう!)



白髪「……」

白髪「……」

スリ師(毒薬を押し付けつつ、ブツをいただく!)ソッサッ

スリ師(さてさて戦利品を……)

スリ師(うげっ、なんだこれ!? ネズミかなんかの死体の写真じゃねえか!)

スリ師(このジイさん、どんな趣味してやがんだよ……! 今流行りのサイコパスってやつか?)

スリ師(気持ち悪ィ……! 他の奴に押し付けなきゃ!)

サングラス「……」

スリ師(次はお前に決めた! 写真を押し付けて、ブツを抜き取る!)ソッサッ



スリ師(今度こそ金目の物でありますように……)

スリ師(え……!?)

スリ師(こ、こ、こ、こ、これは……ば、ば、ば、ば、爆弾……!)

スリ師(一度だけ爆弾を使う奴と仕事したことあるから間違いねえ!)

スリ師(これは爆弾だ……! しかも、かなりの高性能……!)

スリ師(あのサングラス野郎、とんでもないもんを持ってやがった!)

スリ師(どうしよう……!? こんなの俺に扱いきれるわけねえ!)

スリ師(元に戻す? いや、あんなヤバそうな奴にもう近づきたくねえ!)

スリ師(あそこにいる幸薄そうな女に押し付けちゃえ!)



女「……」

女「……」

ソッサッ

スリ師(ふぅ……押し付け成功)

スリ師(さて、女が持ってたのは何かな、と)

スリ師(手紙? なんだ、つまんねえもんスッちまったな。せっかくだから読んじまえ)ガサゴソ



『夫はもう助からないでしょう。愛する夫を追って、私も旅立つことに決めました……』



スリ師(遺書だ、これーっ!!!)

スリ師(夫への愛情と悲しみがつづられてる……)

スリ師(なかなか読ませる遺書だが、こんなの持ってたら呪われちまいそうだ!)

スリ師(早く誰かに押し付けちゃお!)



メガネ「……」



スリ師(あの気弱そうな兄ちゃんでいいだろ!)

ソッサッ

スリ師(メガネ兄ちゃんの持ってたブツは、と……)

スリ師(あん? これは……漫画かなんかの原稿か?)

ペラペラ…

スリ師(ううん、人と人が殺し合って、やたらグロテスクな漫画だな……俺には合わん)

スリ師(どうしよ、これ……元に戻すか?)



サラリーマン「……」



スリ師(いいや、最初のサラリーマンに押し付けちまえ! 毒薬の代わりにプレゼントだ!)

ガタンゴトン…

『○○駅に到着です……』



スリ師(あっ、俺が降りなきゃいけねえ駅に着いちまった)

スリ師(結局、今日は戦利品はなし、か……。スッたもんを誰かに押し付けただけだった)

スリ師(まぁいいや、長くスリやってりゃこんな日もあるさ……)

白髪「……」

白髪(あの入手困難な劇薬さえ手に入れば、私が考えた実験を行うことができる)

白髪(しかし、手を尽くしても入手することはできなかった……)

白髪(期限内に成果を出せなかったから、私の研究所は閉鎖確定、か……)

白髪(ん? ポケットの中にビンが入ってる)

白髪(モルモットの解剖写真を入れておいたはずなのに……)

白髪「――こ、これは!?」

白髪「私が欲しがっていた劇薬じゃないか!」

白髪「これさえあれば、私の実験は完成できる!」

白髪「私の理論通りにいけば、大勢の人や生き物を救うことができるはず!」

白髪「よーし、さっそく研究所に戻って実験だ!」

白髪(もしかして、神が私にプレゼントをしてくれたのだろうか……?)

サングラス「……」

サングラス(世の中の下らない奴らを、みんな爆破してやる……)

サングラス(この爆弾でな……)モゾッ

サングラス(あれ、爆弾がなくなってる!? ――どこいった!? 落としたのか!?)

サングラス(その代わりに、モルモットの解剖写真が……)

サングラス(なんといたわしい……しかし、見事な解剖だ)

サングラス(この写真からは、動物への敬意を感じられるッ!)

サングラス(俺は動物を大切にしない今の世の中に嫌気がさし)

サングラス(爆破テロを起こそうと思ったが……)

サングラス(もしかしたら、こういう人を巻き込んでしまう可能性がある)

サングラス(爆破テロ……やめよう……)

サングラス(もっとちゃんとした形で動物愛護をするようにしよう……)

女「……」

女(夫はトンネル崩落に巻き込まれて、閉じ込められてしまった……)

女(高性能な爆弾でもない限り、助け出すことは不可能に近いという)

女(どうあがいても夫が死んでしまうのなら、私も後を――)

女「あら?」

女「私の遺書がなくなってるわ! せっかく何時間もかけて書いたのに!」

女(遺書の代わりに、こんなものが……何かしら、これ?)

女「……」

女(ちょっと待って、これもしかして爆弾じゃない!? きっとそうよ!)

女(これさえあれば、夫を助け出せるかも!)

女「よーし、事故のあったトンネルに行って、夫を救出しに行くわよ! ドッカーン!」

メガネ「……」

メガネ(はぁ……今日の持ち込みもボツか)

メガネ(うちの雑誌には合わない、グロテスクすぎる、とろくに読まずに切り捨てられた)

メガネ(ボクには漫画の才能がなかったんだろうなぁ)

メガネ(この原稿、捨てちゃおう。漫画家の夢はきっぱり諦めよう……)

メガネ(ってあれ? 原稿がなくなって、代わりに手紙が入ってる!)

メガネ「夫はもう助からないでしょう。愛する夫を追って、私も旅立つことに決めました……」

メガネ「……」

メガネ(なんて美しい遺書だ……! こんな素晴らしい文章を書ける人がいるなんて!)

メガネ(ああっ、みるみるうちに創作意欲が湧いてきた!)

メガネ(うおおおおおっ! ボクはまだ諦めない! 絶対漫画家になってやる!)

サラリーマン「……」

サラリーマン(あーあ……先生から原稿もらえなかった……)

サラリーマン(このままじゃ、編集長に殺されてしまう)

サラリーマン(もう怒られるのは嫌だ……昔、毒物を取材したツテで入手したこの毒薬で……死のう)ゴソゴソ…

サラリーマン(ん!? 毒薬がなくなってる!? どこいったんだ!?)

サラリーマン(しかも毒の代わりに漫画の原稿が入ってる……)

サラリーマン(どれどれ……むむ!)

サラリーマン(おおっ、これはかなり面白いぞ!)

サラリーマン(グロテスクでクセがある作風だが、うちの雑誌にはドンピシャだ!)

サラリーマン(編集でかじ取りすれば、この漫画は絶対モノになる! 大ヒットさせられる!)

サラリーマン(よーし、これを載せるよう編集長にお願いしよう!)

サラリーマン(そして絶対、これを描いた人を見つけるんだ!)

テレビ『ある研究所が画期的な研究成果を発表……』

テレビ『真正面から動物保護を訴え、人々の心を動かすサングラスの男性……』

テレビ『妻が夫の危機を爆弾で救う奇跡が起き……』

テレビ『ひょんなきっかけから、大ヒット漫画が誕生……』



スリ師「はぁー……つまんねえニュースばっかだな。テレビ消そ」ピッ

スリ師(そういや、俺が戦利品を押し付けたあの五人……どうなったかな……)

スリ師(どの戦利品もろくなもんじゃなかったし、きっとろくなことになってねえだろうなぁ……)

スリ師(おっと、余計なことを気にするのは、やめやめっと)

スリ師(スるのは他人の持ち物だけで十分よ!)







おわり

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