【ミリマス】北上麗花と星を知る者だよ茜ちゃん (13)

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あのね、よくさ、物語は先が見えないからこそ面白い! だとか、
突然のハプニングを楽しんでこその人生だよね♪ なんて粋がっちゃう人いるじゃない?

別に他人のライフスタイルを真っ向からヒテーする程心狭いつもりじゃないんだけどね、
だからと言って毎度毎度、それに巻き込まれるってんじゃ正直堪ったもんじゃないのである。

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つまり、彼女との関係はそんな感じ。
歳の差は大体四つって感じ。

向こうが上で、こっちが下。
人生における先輩後輩というヤツだ。


でも、二人の力関係は仲良く横並びだと思う。
本気で嫌だよと伝えてなお、無理強いしてくるほど相手が子供過ぎるって話もない。

むしろ笑顔も崩さずあっさりと「そう? じゃ、別の人と行くね」なんて言われちゃうのが容易く想像できちゃったり。


……あれれ? それじゃあなんのかんのとこうやってさ、
二人でお出かけしてる今ってのは好きで巻き込まれに行った結果じゃない?


なんてこったいと空を仰ぐ。
深くて広い頭上の海が広がってる。

誰しも心は網目模様。

自分がとんだ寂しんぼだという事実に図らずもぶち当たってしまい、
これもある種のハプニングだねと瞼を閉じて胸いっぱいに息を吸い込む。

それで満たされるってワケでもないのにさ。


だけど感じて嬉しい夜の匂い。

シンと冷たい風が運ぶ少し湿った土の香り、辺りの木々の噂話。

そして――そうそうこれこれ♪ 山に来て忘れちゃいけないよね、食欲をそそるカレーの匂い!


「……って、んなわけあるかー! 折角の雰囲気ぶち壊しじゃん!」

「茜ちゃんなにに怒ってるの? はい、ラーメンお待ちどーさま♪」


返事をする代わりにくしゅん! と小さなくしゃみが出た。

鼻をすすって振り返れば、湯気の立つカップラーメンを手にした麗花ちゃんが後ろに立っていた。

ここに来る途中のコンビニでプリンと一緒に買っておいて、お湯は車用のケトルで沸かして作った夜食。

プラスチックのフォークも受け取ったら、熱々の麺を口に運ぶ。……美味しい。

いつでもどこでも誰とでも、変わらない味でそう思わせられるカップラーメンは実に偉大。
隣に立ってる麗花ちゃんも、自分と同じように感じて、おんなじ気持ちでいたりするのかしらん。


「それで、ねぇ、麗花ちゃんさ。流れ星っていつ頃降るの?」

具として入ってる謎のお肉をフォークの先でつつきながら、
かれこれ一時間は抱きっぱなしになってた疑問を良い頃合いだとぶつけてみる。

すると、麗花ちゃんはスープを味わうために容器へとつけてた口を離し。

「ん~、いつっていうのは分かんないかな。とにかく待つのが大事だから」

今宵も無邪気な笑顔を浮かべて衝撃的な「待てば?」発言。
思わず喉から出掛かった、「マジか」という言葉を麺にからめて押さえこむことになってしまう。

「お星さまにでも訊いてみる? ……おーい! いつ頃降りますかー?」

「いやいやいやいや麗花ちゃん、訊いても答えてくれないでしょ」

「そろそろ降りそうな気分ですかー?」

「だからさ、ねぇ、答えないよね? 星はハイハイ答えないよね?」

「最近調子はどうですかー? 私は寒い季節になってきたから、風邪を引かないようにしなくちゃって――」

「おぉっと、星とお喋り始めちゃいましたよ? 茜ちゃん流石に困っちゃうなー。本気かどうか分かんないなー」


すると彼女は出し抜けに、星空に向けていた視線をこっちの顔へとひょいと移し。

「ねぇねぇ、茜ちゃんはお星さまに質問してみないの? 今ならなんだって聞き放題なのに」

……お言葉ですがね麗花ちゃん。

確かに普段アナタの目に映る茜ちゃんは、
いつもふざけてるように見えてるかもしれませんけども。

だからって犬や猫に話しかけるの同じ感覚で、
星屑へ質問を浴びせるなんてーことはー致しませんっ!

これでも一応、自分の中の常識と節度を守って騒いでるんだから。

麗花ちゃんほど自由奔放に動くなんてこたぁ「もしもし? 声、届いてますかー?」……無いのだ、実際。

ただし、空気を読むのは得意だぞ。


それでもさぁ、麗花ちゃんさ。

そんな風にじぃっと見つめるんじゃなくて、ウキウキしながら耳を澄ませるんじゃなくて、
もっと分かりやすい伝え方ってのがあるんじゃないの?

もっとこうね、人類同士お手軽なの。
正直、茜ちゃんじゃないと見逃しちゃうと思うんだな。分かり辛いアナタのサイン。

「……はい、はい。ハイハーイ! こちら銀河に輝く茜ちゃん星、
ちょーっと距離が空いてたから、ちょーっと返事をするのが遅れちゃった。声、ちゃんと届いてるよー」

「ああ良かった! じゃあじゃあ茜ちゃん星さんに質問です。今、なにか面白いことをやってますかー?」

「ザザ、ザー。キュイーン……えーっと、その、今は星を見てる人を見ています。
次に何をするかが分かんなくて、見ていてずっと飽きませんね」

「へぇー。そんな面白い人がいるなら私も一緒に見てみたいな。何処です?」

「ジッジジジ……。うーん、その位置からじゃキョロキョロしても見えないかな。
……っていうか、ちょっと、待って待って! 麗花ちゃんウロウロするのストップ!」

「あ、そっか。動いたら折角の交信が途切れちゃいますもんね♪ ……ピピッ、ガガガガ、ザザザザーぶちんっ!」

「って、おおーいっ! 折角繋がってたのに切っちゃうワケ!?」

でも、心と心は繋がってる。だって二人ともこんなに笑顔なんだもん。

――ひとしきり麗花ちゃんと笑った後、星を眺めながらラーメンの残りをお腹に入れた。
麺はすっかり伸びちゃってて、食感も悪くなってたけど。

「茜ちゃん茜ちゃん、私、大発見しちゃったかも!」

「なに?」

「ラーメンって伸びると美味しくない」

「奇遇だね。ちょうど茜ちゃんもおんなじ気持ちになってたトコ」

不思議なことに、美味しくなくても嬉しいのだ。ラーメンはやはり偉大だった。

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それから時間はさらに経って。

車から持って来たピクニックシートに腰を下ろし、
麗花ちゃんと二人、並んで見上げる星の海。

時計も零時を回る頃には夜風もすっかり冷たくなってたから、
用意しておいたブランケットだけじゃ心許ないのも本音だった。

「ねぇ茜ちゃん。寒くなって来ちゃったから、ぎゅーってくっついちゃってもいい?」

そんな時、不意に出されたこの提案。

普段はお構いなしで抱き着いて来るのに一体全体どうしちゃったの?
なんて思わなかったと言えば嘘になるね。

でも茜ちゃんだって鬼じゃないし、なにより心が広いから。

「うん、いいよ」

「ん、ありがとう」

麗花ちゃんがシートの上をもぞもぞ這って近づいて来る。
こっちの後ろに回ったら、そのまま茜ちゃんのことを抱きかかえるようにハグしてくる。

むぎゅ……っと、背中で感じる彼女の熱、重み、柔らかさ。
続いて小さな麗花ちゃんの頭が肩の上にちょこんと乗っけられて。

「……茜ちゃん、あったかいね」

星空の下で抱きしめられ、すぐ耳元じゃ美女の囁き。
まるで絵に描いたようなワンシーン。

おお、なんともまぁロマンチック♪ ――なーんて嘘ウソ! 茜ちゃんは健全ノーマルなおにゃのこです。

麗花ちゃんから甘えられるようにハグされてもドキドキなんてするワケ無いし、
そもそも麗花ちゃんカレー臭い。ガム一枚じゃ足りなかったよ。ムードもへったくれもあったもんじゃない。


……だけど、夜空を見上げてた視線はずらせなかった。
時間が少しづつ流れる中で、お互いの呼吸する間隔まで徐々に、徐々に重なっていく。

シートの上はまるでステージ。二人っきり、星空の下のライブ会場。
シンクロしていくのはなにも、感覚だけじゃあないみたい。

「麗花ちゃんも、さ……。その、あったかい、よ?」

小っちゃな勇気を奮い立たせ、茜ちゃん、お返事しましたとも。

正直な話、とんでもなく心地良い時間。

このまま「星よ、流れるな!」と、本末転倒なお願いをしたくなっちゃうほど。


でもでもだけど、だからこそ、かな?
目の前に見えてる海の中で、光の筋が横に流れた。

さらに一つ、また一つ、おまけにおまけでもう一つ。

みるみるうちに起きた出来事。

まるで今までは我慢してたんだぞと、
鬱憤を爆発させるように流れ始めた星の数に思わず気持ちだって逸る。

「見えたっ!! 今さっき流れたよね!?」

なのに、おいおい、なんてこったい。後ろのあの子は夢心地。
瞼はとっくに落ちていて、ふにゃふにゃ口を動かしたら。

「……卵、あたため……茜ちゃんの――」

何言ってるんだと面食らった。けれども無理に起こしたりはしなかった。

優しい星明りが降る下で、「まっ、それもいいや」と欠伸を一つ。

静かに瞳を閉じたなら、大きく、深く、彼女と一緒に息を吸って吐いて。
風の匂い、土の匂い、ちょっとしつこいカレーの匂い。

それからそれからもう一つ、いつも傍に居てくれる大切な香りと温もりにも包まれて、こっくりこっくり船を漕ぐ。

行き先はきっと星の海。夢でも一緒だといいね…・・なんて、うっそー♪
夢の中でまで振り回されちゃ堪らないって!


――でもね、だけどね、そうは言っても。

たまにこんな夜があること自体はいいんじゃない?

なんだかんだ、それも一つのライフスタイルだと茜ちゃん的には思うのだ。

===
おしまい。

会話の自由さ凄く麗花らしかった
乙です

北上麗花(20) Da/An
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野々原茜(16) Da/An
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