男「あなたは？」

女医「はじめまして、あなたの執刀の担当医です」

男「あなたが……！」

女医「私は女ですが、腕は男性の医者に引けを取らないと自負しております」

女医「先日も、難しい症例の患者様を救ってみせましたのよ」

男「し、失礼しました！」

男（このスキのなさ、自信に満ちた態度……これは名医だ……！）

女医「というわけで、あなたは何も不安に感じなくてよいのです」

女医「どうぞリラックスして、しゅじゅちゅを受けて下さい」

男「ん？」

看護婦「え？」

女医「あっ……」

女医「リラックスして、しゅじゅちゅ……」

女医「しゅ、しゅじゅちゅ……」

男「しゅじゅちゅ？」

女医「しゅじゅちゅを……えぇと、しゅじゅちゅ……」

男「落ち着いて下さい。手術ですよ、手術」

女医「しゅじゅちゅ……」

女医「と、とにかく！」

女医「私にしゅじゅちゅを任せて下さい！　――ああっ、もう！」

男「はい」ｸｽｸｽ

看護婦「……」ﾌﾟﾌﾟｯ…

女医「んもう……っ！」

手術三日前――

女医「体調はいかがですか？」

男「とても順調です」

男「女医さんこそ、ちゃんと手術といえるようになりましたか？」

女医「もちろんです」

女医「しゅじゅちゅ……」

男「いえてませんね」

女医「くっ……！」

男「あ、そうだ。一つ、ゲームをしませんか？」

女医「なんです？」

男「手術までの三日間、もしもまた“じゅちゅ”といってしまったら――」

女医「いってしまったら？」

男「“じゅちゅ”だし、先生は俺に“十回キス”して下さい」

女医「な……！」

男「自信ないですか？」

女医「ないわけないでしょう！　受けて立ちます！」

男「ついでに、デートも一回……」

女医「却下します！」

二日前――

男「女医さん」

女医「なんです？」

男「俺の手術はどんな内容になるんですか？」

女医「あなたの……オペは、まず全身麻酔で眠らせて……」

男「オペ？　なんで手術っていわないんですか！」

女医「そんなの私の勝手でしょう。オペという言葉の何がいけないのですか」

男（逃げたな……）

前日――

男「女医さん、手術っていって下さいよ」

女医「いいません」

男「ずるいですよ！　卑怯ですよ！」

女医「ずるくも卑怯でもありません」

女医「明日はオペなのですから、もっと気を静めて下さい。体調が悪化してしまいますから」

男（挑発にも乗りそうにないな……ダメか。明日が最後のチャンス！）

当日――

女医「いよいよ、オペですね」

男「……」

女医「そう緊張なさらないで。寝て起きたら終わっていますから」

男「はい……」

男「ですが、手術の前に一つだけ質問よろしいですか？」

女医「なにかしら？」

男「品物を注文をすることを……“発注”といいますよね？」

女医「そうですね」

男「ですが、注文を受けることを、なんといいましたっけ？　ど忘れしちゃって……」

女医「受注でしょう」

男「やった！　いった！」

女医「え！？」

男「今、いいましたよ！　“じゅちゅ”って！」

女医「な……！」

男「これで、あなたからキス十回だ！　やったーっ！」

女医「なにをいうの！　こんなの無効よ！　だって私、しゅじゅちゅっていってな――」

女医「あ」

男「よし」ｸﾞｯ

男「これで決まりだ！　やったーっ！」

女医「うぐぐぐぐ……」

助手「あの……」

女医「さっさとこの患者をしゅじゅちゅ室に運びなさい！」

……

……

……

……

男「手術は……終わったんですか」

女医「ええ、成功しました」

女医「経過にもよりますが、一週間後には退院できるでしょう」

男「さすがですね……本当にありがとうございます」

男「ところで……」

女医「……」

男「十回キスの件も、よろしくお願いしますね」

女医「ああ、あの件ですか」

女医「もう済ませましたよ」

男「は？」

女医「あなたへのキスは、あなたが麻酔で眠ってる時にしましたので」

男「ウソだ、絶対ウソだ！　他の人は見てたんですか！？」

女医「眠っている患者にキスをするなど大問題ですから、他の者が見てないうちに済ませました」

男「なんだそれ！　インチキだ！　やられた～！」

女医「でも……」

男「？」

女医「あなたには見事にしてやられましたからね……」

女医「キスは無理でも、デート一回ぐらいであれば付き合ってもいいですよ」

男「ホ、ホントですか！　やったぁ！」

女医「もちろん、退院後の話ですけどね」

男「よーし、だったらすぐ退院できるよう頑張ろう！」

女医「ふふっ……」

男「ちなみに、女医さんはデートの場所としてどこか希望ってあります？」

女医「そうですね……」