-Day After Day- 【im@as cg SS】 (11)


   -Day After Day-



 ――夢が、あったんです。


 きっと届くと信じていました。

 手を伸ばせば、つかめるはずだと思っていました。


 ――努力をしたんです。


 お金をかき集めて、故郷を飛び出して。

 実家よりもずっとボロボロのアパートに住んでいました。

 家賃以外は不満しかない部屋だったけれど、それでよかったんです。

 夢を叶えて、すぐに出ていくんだから。これでいいんだって。


 ――たくさん、努力をしたんです。


 仕事とレッスンで毎日が充実していました。

 楽しかった。デビューを約束し合った仲間もいたんですよ。

 最高に輝いていると思ってました。精一杯に生きていると充実していました。


 ――たくさん、たくさん、努力をしたんです。


 そうして、何年かが過ぎました。夢はまだつかめてなくて。

 走っても走っても、届かない気がしました。初めて、夢が……遠いなって。

 心が迷いました。それでもくじけなかったです。

 いらないものを捨てました。欲しいものを諦めました。

 前だけを見据えて、夢だけを真っ直ぐに見つめて、走り続けたんです。


 ――たくさん、たくさん、たくさん、努力をしたんです。


 時間だけが過ぎていきました。必死に伸ばした指先は、なににも届かなくて。

 一緒に頑張ろうと励まし合ってきた仲間は、いつの間にかいなくなっていて。

 すぐに出ていくつもりだった部屋の空気が、気づいたら実家よりも身体に馴染んでたんです。


 ――人は、誰かになれる。


 昔の言葉です。大好きな言葉だったんです。

 初めて聞いた時は、心が踊ったのを覚えてます。

 あの頃は、無限の可能性が私にはあるんだって、根拠もなく信じる純粋さがあったのに。


 ――ねえ、見てください。私の手。


 洗剤で荒れた、冷たい指でしょう。最後にネイルサロンに行ったのが、もう何年前かも思い出せなくて。

 身体に無理が効かなくなって、レッスンはやめました。それで浮いたお金で、ようやく貯金を始めたんです。

 毎月、少しずつ残高が増えていきました。このまえ確認したら、故郷を飛び出して以来の、まとまった額になっていたんですよ。

 嬉しかったなあ。日々の節制が大きく実った証でしたから。わくわくして、何をしようかと考えて、それで。それで……。


 ――アイドルになりたかったんだって、思い出しました。

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 どうして、忘れていたんでしょうね。そのために私はここにいるというのに。

 どうして、思い出しちゃったんでしょうね。もう届かないとわかっているのに。

 夢が、あったんです。希望が、あったんです。

 そのために努力をした自分がいました。無茶を通した自分がいました。

 覚えています。可能性があったことを。誰かになれると信じた私がいたことを。


 ――でも、いまは?


 自分に問いかけて、びっくりしました。預金通帳を取り落としました。

 努力はしたんです。したはずなんです。頑張ったはずだったんです。

 振り返るまでもなくわかっています。走り続けてきたって。何もかも置き去りにしてきたって。

 友達も、仲間も、両親も、故郷も、青春も、恋も、ぜんぶ切り捨てたんですから。

 夢のために。夢のために。夢のために……っ!

 追いすがるのに邪魔なものは、捨ててしまいました。

 だからもう何もなかったんです。私の人生には。

 あるのは、慎ましい金額ばかりの通帳と、歩くだけで軋むボロアパート。

 そして、誰かになれると信じて、誰にもなれなかった、私だけ。

 気づいたときには、もう遅かった。

 後戻りはできず、前に進むこともできない。

 すでに道はなく、光もなく、夢すらない。

 希望は擦り切れて、感情は色褪せて、涙は枯れ果てて。

 生きているのかも、死んでいるのかも、わからないまま。

 ただ時間だけが過ぎていきました。心だけが、渇いていきました。


 ――灰の中を這いずり回るような、そんな日々です。


 いまは、なりたかったものの真似事をして、食いつないでいます。

 どれだけ滑稽でも、無様でも、構いません。

 これは下積みなのだと自分に言い聞かせているから、平気です。

 だって、下積みって辛いものじゃないですか。辛いとわかっているから、へっちゃらなんですよ。

 辛いのは、下積みであって……誰にもなれなかった、私の人生じゃないんですから。


 ……お店、出るんですか? え、一緒に来てほしいところがある?

 いいですよ。お兄さん、すごく優しいから……どこへでも連れて行ってください。

 こんな私の愚痴を聞いてくれたお礼に、なんでもしてあげちゃいますから。

 ふふっ、うそじゃないですよ。私にできることだったら……どんなことでも、だいじょうぶです。

 ……………………。

 …………………………………………。

 ……あの、まだ歩くんですか? えっ、もう着いた?

 ここは……? 真っ暗ですけど、入っていいんですか?

 ほ、本当に入っていいんですか? 守衛さんに怒られたりとか……しないんですね? 本当ですね?

 ……わわっ、まぶしっ! い、いきなり電気点けないでくださ、………………。

 えっ? あっ、はい。確かになんでもするとはいいましたけど……でも、あの、その。

 すみません、ここって、私の勘違いじゃなかったら……レッスンルームですよね?

 ここでなにを……? え、自己紹介……? なりたかった自分の、自己紹介ですか?

 い、いえ、できますけど……本当にいいんですか? じゃあいきますよ? すぅ――キャハっ! ナナは永遠の17歳! 声優アイドルになるため、ニンジンの馬車に乗って、ウサミン星から地球にやってきました☆ はいっ、ウーサミン!

 ……ちょ、ちょっとぉ。そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。一発で酔いが冷めたような顔をしなくたって……。

 はい? どうしてこういうキャラなのかって? それはだって、ほら。見てて辛くなりません? うわ、何やってるんだこの人! ってなりますよね?

 ――そう思ってくれた瞬間は、その人にどんなに辛い事があっても、それを忘れているわけじゃないですか。

 人間、生きてるだけで辛いことなんていくらでもあります。でもナナを見て、一瞬でもその辛さを忘れてもらえばいいなって。

 そのためには濃い目の味付けというか、キャラ付けが必要なので……まあ、半分は趣味ですけど。

 ……あの? お、お兄さん? なんですかいきなり? 両手で顔を覆ってうずくまって……泣くほどキツかったですか?  

 尊い? よくわかりませんが、ありがとうございます。それで、あの、どうしてここでこんなことをさせたんです? ……なんですか、これ。名刺? ……しぃじぃぷろだくしょん、ぷろでゅーさー……?

 ぷろでゅーさー……プロデューサー……プロデューサー、さん? え、なんでプロデューサーさんが、名刺を……?

 ニンジンの馬車は用意できないけど、カボチャの馬車はある……??? え??????

 …………ぇ、あの、もしかして……あ、あの……ぇっと……ぁ、あっ……す、スカウト……です、か………………?

 うそ………………です、よね……? ちが、う……? うそじゃ、ない……? ほんとう、に……?

 ……本当に、私が……ナナが、アイドルに……? や、やります……っ! やってみせます! アイドル、やらせてくださいっ!


 ――夢が、ありました。

 いつか叶うと信じていました。

 ――努力をしたんです。

 軋む身体に鞭を打って。悲鳴を食いしばって。

 ――たくさん、努力をしたんです。

 失敗をしても平気でした。だってすごく楽しかったから。

 ――たくさん、たくさん、努力をしたんです。

 アイドルの仲間たちはみんなキラキラしてて、まぶしくて。

 ナナが一緒にいてもいいのかなって思うことも有りましたよ。

 けれど、もう迷いませんでした。

 ――たくさん、たくさん、たくさん、努力をしたんです。

 いつだって身体は辛いですけど、心はへっちゃらなんです。

 だって、プロデューサーさん。あなたがナナを見つけてくれたから。

 灰にまみれて、声も上げられなかったナナの手を、つかんでくれたから。

 ――人は、誰かになれる。

 昔の言葉です。今も大好きな言葉です。

 子供の頃は、無限の可能性が私にはあるんだって、根拠もなく信じる純粋さがありました。

 いまは、プロデューサーさんを信じる強さがあります。

 ――ねえ、見てください。私の手。

 加蓮ちゃんがネイルをしてくれたんです。綺麗ですよね。すっごく真剣な目で、時間をかけてくれて……ナナの宝ものです。

 ほかにも、たくさんあるんです。皆との宝ものが。毎日毎日、増えていくんです。

 満たされて、幸せて、胸が苦しくなるくらい嬉しくて。

 これもぜんぶ、プロデューサーさんのおかげです。感謝してもしきれません。

 ナナはどうやって、この気持ちをお返しすればいいんだろうって、すっごく悩みました。

 それで……ふふっ。それで、こう思ったんです。

 ――プロデューサーさんを、すごく喜ばせてあげたいって。

 プロデューサーさんが、灰の中の私を見つけてくれたから、ナナはここにいる。

 素敵なドレスと、カボチャの馬車と、ガラスの靴をくれて。

 そして、仲間たちとの素敵な舞踏会を開いてくれた。

 夢だったんです。希望だったんです。いまこの瞬間が。

 努力をした自分が救われました。無理を通した自分が報われました。

 やっと、ナナは胸を張って言えます。遠い昔に、誰かになれると信じた私に。

 ――夢を諦めないで、って。

 じゃあ、そろそろいってきますね、プロデューサーさん!

 感謝を声に乗せて、想いを胸に秘めて、かけがえのないあの人に手を振って。

 夢と希望がきらめくステージに、飛び出した。

 ――人は、誰かになれる。私は、なりたい。

 信じてくれたファンの人たちのために。

 勇気をくれたプロデューサーさんのために。

 皆を笑顔にする、シンデレラガールに――!


 そして、それ以上の幸せが私に許されるなら。

 どうか、これまでも、これからも。

 来る日も、来る日も、いつまでも。

 夢のような日々を、プロデューサーさんと。



   -Day After Day-

      END

あ…ありのまま 今朝 起こった事を話すぜ!

「おれはPCの前で【Day After Day】を聴いていたと思ったら いつのまにかSSを書き上げていた」

な… 何を言っているのか わからねーと思うが 

おれも 何をされたのか わからなかった…

それはともかくとして、菜々さん七代目シンデレラガールおめでとうございます

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