【ミリマス】このみ「いわゆる一つのぱにっくホラー」 (19)

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突如として劇場に響き渡った絹を裂くような乙女の悲鳴!
偶然にも廊下にいたこのみと風花は声のした方へと疾く走る、走る!

「一体何があったっていうの!?」

「このみさん! あれを見てください!!」

勢いよく楽屋に駆け込んだ二人をショッキングな光景が出迎える。

風花が指でさすその先では、二つの人影が床の上で激しく取っ組み合っている最中だったのだ。

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「莉緒ちゃん! あなた何してるのよ!?」

仰天したこのみが声を上げる。

今、二人の目の前では、普段以上にあどけない表情の莉緒が歌織を床へと押し倒し、
さらには嬉々とした様子で馬乗りになって彼女の自由を奪っていた。

恐らく、先ほどの悲鳴は組み伏せられた歌織が上げたものなのだろう。

莉緒は唖然と立ち尽くすこのみたちの眼前でチロリと赤い舌を出すと、
次の瞬間には小さな口を大きく開けて、押さえつけていた歌織のはだけた胸元にカプリと噛みついたのである!


悲鳴、再び。歌織の顔が痛みに歪む。

「えぇ!? そ、そういうプレイなの?」と戸惑う風花を置き去りにして、このみは金縛りが解けたように足を動かして走り出し、
満身の力を込めた体当たりで歌織に覆いかぶさる莉緒の体を吹き飛ばした――ように見えはしたのだがそこはそれ。

小さなこのみの体では莉緒の半身を歌織の上から少しどかすだけで精一杯。

「今のうちに風花ちゃんは歌織ちゃんを!」

「は、はい!」

このみに激を飛ばされた風花も弾かれたように動き出した。

急いで歌織の体を莉緒の下から引きずり出し、そのまま彼女との距離を離す。
その間、このみも暴れる莉緒の動きをどうにかこうにか押さえ込み。


「莉緒! ホント何してるの!! 喧嘩にしたってやり方も妙な――」

そこまで言ってハタと気づく。目の前の莉緒が虚ろな瞳をしていることに。

と、同時に彼女の口元から漂ってくる甘酸っぱい香り。
そう、例えるなら食べ頃の苺のような甘い匂い。

刹那、莉緒は大きく口を開けるとこのみ目がけて首を伸ばした。

「このみさん、危ないっ!」

間一髪! すんでのところで風花が莉緒を羽交い絞めにできなければ、
このみの顔にはクッキリとした歯形が残ったことだろう。

彼女はまだ驚きでドキドキしている胸を撫でおろすと、急いで部屋の隅っこにある
ロコがアートを作るための道具や材料をしまっているガラクタ置き場を漁り出した。


そうしてこのみは、その中から梱包用の大きなテープを見つけ出すと。

「風花ちゃん、悪いけどそのまま捕まえてて。今すぐ莉緒ちゃんの手足縛っちゃうから」

「え? まさか、このみさんまでそういう趣味が……」

「おぉっと、ついでに口を閉じられたいのかしら?」

テープを巻くこと二重三重。
すっかり誘拐されてきた人質のようになった莉緒が床の上へと転がされる。

彼女は自分から自由を奪ったこのみと風花を睨みつけ、
ガチガチとその歯を鳴らしては「あー」だの「うー」だの妙に可愛らしいうめき声を上げ続けていた。

二人が話しかけてもまともな返事が返ってこない。


「困ったわね。一体何がどうなってるんだか」

先ほど受けたショックからか、気絶してしまった歌織をソファの上に寝かしてこのみが参ったとかぶりを振る。

突然様子がおかしくなった莉緒。

その理由を、直前まで一緒にいた彼女ならば詳しく知っているかもしれないのに……。

だがここで、意外にも風花が「分かりましたよ」と声を上げた。
「本当に?」このみが驚いて訊き返す。

「はい、病院でお仕事をしていた頃に聞いたことがある症状とそっくりです。口から香る甘い匂い、恐ろしさよりも可愛らしさが勝る動き。
……間違いありません! 莉緒さんは"コケティッシュゾンビ"ですよ!」


コケティッシュゾンビ! それは近年になって海外で発見された脅威の感染症であった。

患者の大半は十代前半の若い少女。

ガールからレディへの成長期にかかるとされていて、
発症すると少々おませさんになってしまうと言われている。

例えば「子どもでも努力すれば一人でできるもん!」と、
教育番組の子供向けお料理番組のオーディションに一発合格してしまったり、

「わたし、みんなからチヤホヤされるのだーい好き!」なんて宣言通りに
甘やかされ小悪魔キャラでバラエティに引っ張りだことなってしまったり。

その症例は千差万別、ただ一つだけ共通しているのは。

「ちょっと待って! あの病気って成人はかからないんじゃないの?」

「それはよくある誤解です。おたふく風邪みたいなものですから、
大抵の人は子供の頃にかかってある程度の抵抗が生まれるハズなんですけど……」

「じゃ、莉緒ちゃんは今頃それにかかった?」

「だと思います、昔の日本には無かった病気ですから。……でもこの病気が本当に恐ろしいのは、
成人してからだとコケティッシュ度が馬鹿みたいに大きく跳ねあがる所にあるんです!」


そう言って風花は気の毒そうに莉緒を見やった。

相変わらず彼女は床の上でうーうー唸っているのだが、
どうも自分の手足が拘束されていることを理解できてはいないようで、

悩ましく体をよじらせては「あぁぁ……うあぁぁぁ……」とゾンビのように呻いている。

その度にたゆたゆと揺らされる胸とお尻。
重なり合った太腿が作り出す天然の蠱惑のシルエット。

それを見た風花は顔を真っ赤にしながらこのみに言った。

「見てください! あの庇護欲を誘う危ない色気。思わずお世話しなくちゃとこちらに訴えかける甘え上手!」

「あ、これって甘えてたの? ……にしちゃ、鼻を齧られそうになったんだけど」

「甘噛みですよ、それは。猫だってよくするじゃないですか」

つまるところ、莉緒は大きな猫となったワケだ。
それも甘えてじゃれつき可愛がられたくて仕方がない盛りのついたような猫に。

……余りの事態のバカらしさに、このみは額に手を当て嘆息する。


「……で、風花ちゃん。治す方法は?」

「注射を打てば一発です。ただ、病院で診てもらうのに苦労すると思いますけどね」

「そりゃあまあそうでしょうとも。この状態の人間一人抱えて病院に行くのは骨よ」

特に女二人(そのうちの一人は規格外にタッパが小さかった)の力では。

――と、その時、タイミングよくこの場に姿を現した者がいた。
それも願ってもない男手の登場である。


「おっと、こりゃあ一足遅かったな」

それは我らが765のプロデューサー。

彼は楽屋の惨状を一目見るなり事態を把握し終わったようで、
床に転がされている莉緒をチラリと一瞥すると。

「あーあー、嫁入り前がなんて恰好……。このみさんたちは噛まれてないかい?」

「プロデューサー、ナイスタイミング!」

「私たちは大丈夫です。でも莉緒さんは病院に連れて行かなくちゃ」

心配そうに言う風花に、プロデューサーは「大丈夫だ」と手にしていた書類鞄を見せて言った。


「たった今ドクターの所から戻ったトコさ。薬やらなにやらも全部預かって来たよ」

そうして彼は、楽屋に置かれたテーブルの上に鞄の中身を広げだすと。

「じゃ、そういうことで注射は風花は任せるぞ。早速ブスッとやってくれ」

「え、えぇ!? そんなこと急に言われたって!」

「元看護士だろう? 頼むよぉ」

慌てる風花にニマリと笑い、プロデューサーはこう続けた。

「……それともなにかい? ド素人のこっちに打たせるってか」

「風花ちゃんには悪いけど、こればっかりは私も自信ないわ」

「う、うぅ……悪人! プロデューサーさんは悪い人ですっ!」

「うん、知ってる♪」

「今さら言っても無駄じゃないの。……ささ、風花ちゃん早く早く」


結局風花は、その場の勢いに流されるまま注射の準備を始めだした。

その間も莉緒はセクシーというよりもキュートな声で唸りを上げ、
その無防備な姿をプロデューサーに晒し続けていたのである。

「結構結構、眼福だねぇ」

「サイッテー。普段はそんな目で見て無い癖に」

「お二人とも、準備できたので手伝ってください。
一回分しかありませんから、莉緒さんが暴れないようしっかり押さえてもらわないと」


傍で聞こえる雑音から意識を患者に集中させ、風花がキリッとした真剣な表情で指示を出した。

このみたちもその通りに動き出したが、途中、プロデューサーがドコを押さえるか決めるのでひと悶着。

「足から手を離しなさいってばこの変態!」

「でも腕より足のが大変だよ?」

「だからって上に乗ろうとする必要なんてないでしょう!?」

「静かにして! 手元が狂うっ!!」

ピシャリ、風花に怒鳴られてこのみたち二人は押し黙った。普段は見られない剣幕だ。

風花はライブ前でも見せたことが無いほど張りつめた表情で注射器を右手に構えると。

「私なら打てる、私なら打てる、私なら打てる、私なら打てる……!!」

ブツブツと呪詛のように繰り返す表情からは完全に血の気が引いていた。
瞬間、このみたち二人も理解する。

「――打ちます!」


プスリ、針先は呆気なく莉緒の腕へと突き刺さった。

次いで泣くでもなく、喚くでもなく、全身の筋という筋を強張らせて、
彼女が痛みを堪えているのが押さえているこのみたちにも伝わって来る。

「あぁ良かった。今回は上手くいったみたい」

そうして、注射をし終わりホッと胸を撫でおろす風花に向け、しかし、このみたち二人は無言で「違う」と視線をやるのだった。

===

「でもまあ、これで一件落着っと」

大人しくなった莉緒を解放して、このみが肩をほぐすように腕を伸ばす。
風花はそんな彼女に微笑むと使った道具を片付けながら。

「お疲れ様でした。時間が経てば莉緒さんの症状も落ち着いてくるハズですから」

するとプロデューサーが莉緒を指さし。

「それまで彼女は床の上かい?」

「そんなワケにもいかないでしょ。ソファにでも寝かせてあげましょうよ――って、あー」

けれども、ここでこのみは思い出した。楽屋に一つしかないソファには先客が。

彼女はすぅすぅと寝息を立てている歌織の傍までやって来ると。

「歌織ちゃん、ねえ、歌織ちゃんってば」


もういい加減に気がついてもいい頃だとペチペチ頬を叩いてみる。
「う、ぁ……」と歌織の口から声が漏れる。それと同時に、このみの背中に流れた嫌な汗。

「ああぁ、うぅう……!」

目覚めた歌織は笑っていた。慌ててしまったと身を引くが後の祭り。

伸ばされた両腕が一瞬のうちに背中まで回って、
このみは彼女の豊満な胸へと体ごと引き寄せられて顔を埋めた。

背後で事態に気づいた風花たちの慌てる声が聞こえて来る。

「なんてこった!? 彼女もなのか!!」

鼻をくすぐる苺のような甘い香り。掴まれた腕を伝う微弱な痛み。
そう、例えるなら動物に軽く歯を立てられたような――。

「……ねが……い」

噛まれた先から急速に力が抜けるのが分かる。全身を襲う倦怠感。

このみは弱々しくも口を開き、自身を助け出そうと駆け寄ってきたプロデューサーに残った力を振り絞ってこう伝えた。


「注射は……風花ちゃん以外にお願いして……!」

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以上おしまい。
お読みいただきありがとうございました。

>>9訂正

〇「元看護師だろう? 頼むよぉ」
×「元看護士だろう? 頼むよぉ」

あれ病気だったのか……
乙です

百瀬莉緒(23)Da/Fa
http://i.imgur.com/M7fgmBg.jpg
http://i.imgur.com/TUMGpkk.jpg

>>1
豊川風花(22)Vi/An
http://i.imgur.com/dXr4ywy.jpg
http://i.imgur.com/i6QGTMx.jpg

馬場このみ(24)Da/An
http://i.imgur.com/FKjgCr1.png
http://i.imgur.com/qHsWyvK.jpg

>>12
桜守歌織(23)An
http://i.imgur.com/ah2Judv.png
http://i.imgur.com/w8yQGf1.png

今回’は’という最高の恐怖
乙っした

莉緒ちゃんえろい

確かにこのみさんがやった方が上手くいきそう
手際良い品

待ってくれ。莉緒姉さんは歌織さんのおっぱいを噛んだんだろ?
つまりソファーに寝かせたままの歌織さんはおっぱいをはだけさせたままなのでは?

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