男「押すと10億円もらえるけど親友が失明するボタン?」 (51)

男「あーあ、金が欲しいなぁ……」

男「1億……いや10億円ありゃ一生遊んで暮らせるだろうに……」



「だったら10億円くれてやろうか?」



男「え?」

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男「だ、誰だ!?」

悪魔「私は悪魔だ」

男「悪魔!?」

悪魔「このボタンを押せば、お前は今すぐ10億円を手にすることができる」

男「マジで!? ――押す押す!」

男「……いやちょっと待て」

男「どうせ、いかがわしい金が出てくるんだろ? あるいは偽札とか」

悪魔「そこは絶対安全に使える金が出てくる、と保証しておこう。悪魔のプライドにかけて」

男「だったら、俺にとんでもない事態が降りかかるんだろ? 大怪我するとか、病気になるとか……」

悪魔「安心しろ。お前の身にはなにも起こらない」

男「ないのかよ! じゃあ押す! ……って、ちょっと待て、“お前の身には”?」

悪魔「ああ、このボタンを押すと、お前の親友が失明する」

男「なんだと!?」

男(ダメダメな俺だけど、こんな俺にも一人だけ……親友と呼べる奴がいる……)

男(あいつが……失明しちゃうだと!?)

男「ふざけんな! 押すわけねえだろ、そんなもん!」

悪魔「そうか、ならば私は消えるとしよう」

男「さっさと消えろ! シッシッ!」

悪魔「10億円よりも親友を取るならば、仕方あるまい」

男(10億……!)

悪魔「さらばだ……」

男「ちょ、ちょっと待て!」

悪魔「なんだ。やたらちょっと待たせる奴だな」

男「失明って……どんな風に失明するんだ? まさか、目をえぐったりしないよな?」

悪魔「……」ニヤッ

悪魔「単純に視力を奪うだけだ。目を傷つけるようなことはしない」

男「そ、そうか! それじゃ、たとえば医者にかかったら元に戻せたりは……」

悪魔「絶対不可能だといっておこう。悪魔のプライドにかけて」

男「やっぱり無理か……」

男「えぇと、他には……そ、そうだ!」

男「もし、仮に……仮に俺がボタンを押したとして……」

男「親友であるあいつが、“失明しちゃった原因”を知ることはあるのか?」

悪魔「ない」

男「!」

悪魔「お前がボタンを押して親友が失明したとして」

悪魔「私がそれを親友に伝えることはないし、親友も知ることはできない」

悪魔「お前が自分の口で話さない限りはな」

男(……ってことは俺が犯人だとは、バレないってことか)

男(どうする……俺自身にはなんのデメリットもなくて10億円だぞ……)

男(10億ありゃ、一生遊んで暮らせる。あんなことこんなことしたって、お釣りがくる)

男(親友は失明しちゃうけど、なにも死ぬわけじゃないし)

男(世の中、目が見えなくても立派に暮らしてる人は大勢いるじゃん!)

男(それに、親友にも何億かあげれば、あいつも幸せになれるだろ)

男(よし……押そう!)

男「あの……」

悪魔「ん?」

男「俺に、そのボタンを……」

悪魔「ほら」

男「……」

親友『飲め飲め、嫌なことは忘れちまえ!』


親友『ネットでやべぇ動画見つけたんだ。一緒に見ようぜ~』


親友『俺たちは、ずっと親友だ!』



男「……」

男「ちょっと待ってくれ!」

悪魔「またか」

男(あいつはかけがえのない親友だ……)

男(あいつを失明させるだなんて、俺は何考えてんだ!)

男「俺は押さない!」

悪魔「……ほう」

男「絶対に! 何があろうと! だから……今すぐ帰ってくれ!」

悪魔「10億を手に入れるチャンスを捨てるというんだな?」

男「ああ、そんなもん捨ててやる! 丸めてゴミ箱にポイッてなもんだ!」

悪魔「ちょっと待つが?」

男「待たなくていい! 帰れ!」

悪魔「分かった……」

悪魔「ならば、私は消えるとしよう」シュゥゥゥゥゥ…





男(消えた……)

男「これで……これでよかったんだ……」

男「親友を不幸にして手に入る大金なんて、クソ喰らえだ……」

男「……さて、今日はもう寝るか」

男(ところで、さっきの悪魔、どこに行ったんだろう?)

男(やっぱり、自分の故郷――魔界だとか地獄だとかに帰ったのかな?)

男(それとも……もしかして、他の人間のところに行った?)

男(たとえば――……)ウトウト…

…………

……

パチッ

男「……」

男「!!!」

男「見えない! 目はもう開けたのに何も見えない! 目の前が真っ暗だ!」



男「俺の目が失明してるゥゥゥゥゥ!!!」

男(やっぱりそうだ……!)

男(あの悪魔は、あの後親友のところに行ったんだ)

男(そして、例の“押すと10億円もらえるけど親友が失明するボタン”を――)

男(結果はこの通り……)

男(だけど、だけど、どうして俺があいつを責められよう……)

男(俺だって、あのボタンを押す寸前までいったんだから……!)

男「――ん?」

男(いや、ちょっと待て……これは……)

男(俺が失明したんじゃない! 俺の目の前に壁みたいなものがあるだけだ!)

男(この壁の感触……これは!)

男「親友の胸板かッ!」

親友「正解」

バッ

男「お前か……! ビックリさせやがって……」

男「なんで? なんで朝っぱらから、俺を胸で抱き締めてたんだよ?」

親友「実は昨晩、俺のもとに悪魔が現れてな」

男「!」

親友「お前とのやり取りを……全部聞かせてもらったよ」

男(あの悪魔、全部喋りやがったのか! バラさないっていってたのに!)

男(いや、あいつがいってたのはあくまで“押して失明させても押したことはバラさない”って話だから)

男(約束を破ったわけじゃないのか……)

親友「お前、10億円と俺を天秤にかけて……俺を選んでくれたらしいな。ありがとう」

親友「そしたらいてもたってもいられず、合鍵を手にここに来て、寝てるお前を抱き締めてしまったんだ……」

男「そうだったのか……いや、ちょっと待て!」

男「全部聞いたんだろ? だったら、このことも知ってるはずだ」

男「俺が……ボタンを押す寸前までいったことも!」

男「俺はお前に抱き締めてもらえるような男じゃないんだ!」

親友「……」

親友「だけど……押さなかったじゃないか」

男「!」

親友「ボタンを押さなかった。俺にはそれだけで十分だ……嬉しいよ」

男「うっ……」

男「うわぁぁぁぁぁぁん!!!」ダッ

親友「おいおい、今度はそっちから胸に飛び込んでくるなんて……参ったな」

男「えぐっ、えぐっ、えぐっ……」

親友「泣くなよ……」

男「俺たち……これからもずっと親友だよな?」ウルウル…

親友「もちろんだ」

親友「いや、これからは……親友以上だ!」

男「うん……!」

悪魔「……ううむ」

悪魔「あの親友に、“男がボタンを押す寸前までいったぞ”と伝えて」

悪魔「二人の友情に亀裂を走らせ、悲劇を生もうとしたら、まさかこんなことになるとは……」



アンッ… ンッ… アァンッ…



悪魔「あっ、あの二人、感極まってとうとう行為を始めやがった」

悪魔「私はもう退散するとしよう」

悪魔「これ以上見るのは目の毒だ……私が失明しかねんからな……」







~ END ~

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