吹き矢使い「君のハートを射抜いてみせる!」弓道娘「とっくに射抜かれてますけど」 (38)

ある高校――

―教室―

担任「では次は教科書の56ページを……」

ブーン…

担任「ん?」

友「うわ、スズメバチだ!」

女「きゃーっ!」

吹き矢使い「……」フヒュッ

ブスッ

オォ~…!

友「飛んでるスズメバチを一発で仕留めた……!」

女「さすがだわ……」

弓道娘「……」

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担任「スズメバチは刺されたら大変だからな……よくやった」

吹き矢使い「ありがとうございます」

担任「だが、教室で吹き矢はダメだ! 危ないだろ!」

吹き矢使い「す、すみません!」

クスクス… ハハハ…

友「そりゃそうだ」

女「ってか、教室以外でもダメだよね」

担任「……ん」

担任「あの貼り紙、画鋲が一つ外れてるな。頼む」

吹き矢使い「分かりました」フヒュッ

プスッ

友「画鋲を飛ばして、貼り紙を直すとは……」

女「先生も結局、彼によく頼ってるよね~」

昼休み――

友「お前の弁当、チクワだらけだな」

吹き矢使い「チクワ、好きなんだ」

女「筒だから~?」

友「よく見たらマカロニも入ってるし!」

ワイワイ…

弓道娘「吹き矢使い君」

吹き矢使い「! ……はいっ!」

友(来た、クラスの……いや学校のアイドル!)

女(弓道では全国クラスの実力を誇る、才色兼備の美少女!)

弓道娘「昼食が終わったら、一緒に稽古しましょう」

吹き矢使い「は、はいっ! 喜んで!」

―弓道場―

弓道娘「……」ギリッ… ヒュンッ

スパンッ

吹き矢使い「……」フヒュッ

プスッ

スパンッ プスッ スパンッ プスッ スパンッ プスッ …



オォ~……!

友「すっげえ……! 両者とも的のど真ん中に命中させ続けてる……!」

女「まったくの互角だわ……!」

弓道娘「ありがとうございます。いい稽古が出来ました」

吹き矢使い「こ、こちらこそ」



友「だけど、凛とした弓道娘ちゃんと、おどおどした吹き矢使い……イマイチ絵にならねえな」

女「矢の腕は互角なんだけどねえ」



不良「チッ、なんであんな冴えない奴がこんなに目立ってんだよ……」

不良「面白くねえ……!」

体育の授業――

体育教師「今日はスポーツテストを行う!」


えぇ~……!


友「うわっ、マジかよ。たりーな……」

友「そこいくと、お前は吹き矢で鍛えてるから体力にゃ自信あるんじゃねえか?」

吹き矢使い「いや、そんなことないよ……」

100メートル走――

吹き矢使い「……」タタタタタッ

友「おいおい、20秒って……」

不良「マジかよ、遅すぎだろ! 亀かよ!」



ソフトボール投げ――

吹き矢使い「えいっ!」ポイッ

ボトッ

友「あちゃ~……10メートル……」

不良「ギャハハハッ! 女子でももっと投げれんぞ!」

友「次は肺活量か……」

吹き矢使い「あの……先生」

体育教師「なんだ?」

吹き矢使い「全力でやって大丈夫ですか?」

体育教師「当たり前だ! 全力でやれ!」

吹き矢使い「分かりました」



不良「へっ、どうせ1000ccとかしょぼい記録出すに決まってるぜ!」

吹き矢使い「プーッ!!!」

グググググ… ボンッ!



体育教師「な……測定不能!? 機械が壊れてしまった!」

友「さっすがいつも、吹き矢フーフー吹いてるだけあるな……」

不良「うぐぐっ……!」

ザワザワ… ガヤガヤ…

女「みんな、帰ろー!」

友「おう!」

吹き矢使い「うん」

弓道娘「今日は部活もありませんし、私もご一緒してよろしいですか?」

吹き矢使い「ど、どうぞどうぞ!」

友「んじゃ、喫茶店にでも寄り道してこうぜ!」

―喫茶店―

吹き矢使い「……」チューッ

友「おおっ……! メロンソーダを一吸いで飲み切りやがった!」

女「すっごーい!」

吹き矢使い「あ、ありがと……」ゴボボボ…

友「戻すな! 汚ねえって!」

女「なにしてんのー!」

弓道娘「……」

友「前から聞きたかったんだけど、お前って鼻でも吹き矢できるの?」

吹き矢使い「できるよ。口が使えない時のためにね」

友「マジかよ」

女「そんな場面まで想定してるんだ~」

友「ってことは、その気になれば、矢を三本同時発射できるわけか」

吹き矢使い「いや、四本だよ」

友「四本? だって、口と鼻の穴二つで三本だろ?」

吹き矢使い「他には尻からも……」

友「おい、やめろ!」

友「じゃあなー!」

女「また明日ー!」



吹き矢使い「……」

弓道娘「……」

吹き矢使い(二人きりになっちゃった……)

弓道娘「あの、これからご自宅にお邪魔してもよろしいですか?」

吹き矢使い「えっ、あっ、どうぞどうぞ!」

―吹き矢使いの家―

弓道娘「立派なご自宅ですね」

吹き矢使い「一応、吹き矢の道場をやってるんで……」

吹き矢使い「あなたの実家も、弓道の道場をやってるんだよね?」

弓道娘「ええ」

吹き矢使い「……」

弓道娘「……」

吹き矢使い(どうしよう、どうやって会話を広げればいいのか……)

吹き矢使い「えぇと、吹き矢の筒を≪吹き筒≫っていうんだけど……」

吹き矢使い「よかったら、色んな種類の吹き筒を見ていかない?」

弓道娘「是非」

吹き矢使い「これは遠距離狙撃用の“ロングバレル吹き筒”!」

吹き矢使い「全力で吹けば、数百メートル離れた的にも命中できるんだ!」

吹き矢使い「こっちは黒く塗られた“暗殺用吹き筒”!」

吹き矢使い「もちろん、今は吹き矢で暗殺が行われることなんてないけどね」

吹き矢使い「この大きいやつは“大口径吹き筒”!」

吹き矢使い「これを口にくわえると、顎が外れそうになって大変なんだ! アハハッ!」

ペチャクチャペチャクチャ…

弓道娘「……」

吹き矢使い「あ、ごめん……つまらなかった?」

弓道娘「いえ、とても興味深いです」

吹き矢使い(しまった……! 吹き矢のことになるとつい夢中になっちゃうんだ、ボク……)

母「あら、こんな可愛い子連れてきちゃって!」

母「アンタもすみにおけないわね!」

吹き矢使い「お、お母さん……」

母「この子、吹き矢しか取り柄のない子だけど、仲良くしてあげてね~」

弓道娘「いつも、一緒に稽古させて頂いております」

母「一緒に稽古? ってことは、付き合う日も近いのかしら?」

吹き矢使い「そんなっ! ボクなんかが釣り合うわけないよ……」

母「そんなの二人を見比べれば分かるわよ~」

吹き矢使い「ハッキリいわないで……」

弓道娘「……」

吹き矢使い「今日は……ごめんね。せっかく遊びに来てくれたのに」

弓道娘「いえ、とても楽しかったです」

弓道娘「ではまた明日、ごきげんよう」ペコッ

吹き矢使い「……」

吹き矢使い(思いきって告白しようと思ったけど……ダメだ)

吹き矢使い(だって、フラれるって分かり切ってるもんなぁ……)

吹き矢使い(好きだって口に出すのは、吹き矢を吹くようにはいかないや……)

―教室―

ワイワイ… ガヤガヤ…

友「聞いたか? 拳銃持った二人組の強盗が逃走中なんだってよ」

女「やだ、物騒~!」

友「いざとなったら、お前が吹き矢でやっつけてくれよ!」

吹き矢使い「いや、そういうのはちょっと……。人に当てるのはマズイし……」

友「おっと、次は移動教室だ! 急ごうぜ!」

吹き矢使い「うん!」

吹き矢使い(吹き筒は机にしまっておこう)

タタタッ…



不良「……」コソッ

授業が終わり――

吹き矢使い「あれ、ボクの吹き筒に瞬間接着剤が……!」ベットリ…

友「マジで!? これじゃ矢を撃てないじゃん!」

女「ひどいことする奴がいるわね!」



不良(へっ、ざまあみやがれ!)

友「どうすんだ、それ?」

女「もう使い物にならないよねぇ……」

吹き矢使い「いや、これぐらいどうってことないよ」

吹き矢使い「プーッ!!!」ベリッ

友「あっさりはがした!」

女「すごいパワー!」



不良「……!」

不良(あの野郎……こうなったら!)

―校舎裏―

ボカッ!

吹き矢使い「ぐあっ!」ドサッ…

不良「てめえ、調子にのんなよ!」

吹き矢使い「な、なんで……ボクを……」

不良「俺はな、てめえみたいなナヨっちい奴が大嫌いなんだよ!」

不良「小学校の頃から、お前みたいな奴はいつもいじめて、ボコボコにしてやった!」

不良「筒に細工なんてしねえで、最初からこうすりゃよかったんだ! オラ、立て!」ガシッ

吹き矢使い「う、うぐっ……」

弓道娘「おやめなさい」ザッ…

不良「……!」

弓道娘「抵抗しない相手に暴力を振るって……恥ずかしくはないのですか」

弓道娘「もし、私が先生に報告したら、停学では済みませんよ」

不良「……ちっ!」タタタッ



弓道娘「大丈夫ですか? 彼に呼び出されるあなたを見て、嫌な予感がいたしまして」

吹き矢使い「あ、ありがとう……」

吹き矢使い(好きな子に助けられて……ボクは……なんて情けないんだ……)

不良(くそっ……ムシャクシャする……!)



強盗A「……おい、高校に逃げ込んだはいいけど、これからどうする?」

強盗B「なんも考えてなかった……とにかく逃走経路を――おっ!」

強盗A「どうした?」

強盗B「あそこ……高校生がうろついてやがる」

強盗A「一人か……サボリか? あれなら苦も無く捕まえられそうだな」

強盗B「よし、あいつを人質に取っちまおう」

ザワザワ… ドヨドヨ…



強盗A「オラオラァ! このガキを人質に取った!」

強盗B「安全な逃走ルートを確保しねえと、こいつ撃っちまうぞ!」ジャキッ

不良「ひっ……! た、助けてっ……!」



担任「くっ、不良の奴、姿が見えないと思ったら……!」

友「あれじゃ警察も手を出せない!」

女「ど、どうしよう!?」

吹き矢使い「大変だ、不良君が……!」

弓道娘「犯人の二人組は興奮しています。いつ彼が撃たれてもおかしくはありませんね」

吹き矢使い「そんな……!」

弓道娘「安全に救出するなら、遠距離から二人を同時に無力化するしかありません」

吹き矢使い「よし……だったらボクが!」

弓道娘「あなたの腕なら、たしかに可能かもしれません」

弓道娘「しかし、彼は先ほどあなたに理不尽に暴力を加えました。それでも助けるのですか?」

吹き矢使い「当たり前だよ!」

弓道娘「!」

吹き矢使い「ボクは自分だけの都合で、吹き矢を吹く吹かないを決めたくはない……」

吹き矢使い「吹き筒のように、いつもまっすぐでいたいんだ!」

弓道娘「なるほど、あなたのお気持ち、よく分かりました」

弓道娘「では、私もお手伝いさせて下さい」

吹き矢使い「!」

弓道娘「私達二人なら、この作戦必ず成功します」

吹き矢使い「……ありがとう!」

弓道娘「では」サッ

吹き矢使い「さっそく始めよう」サッ

弓道娘「私は右の強盗を狙います」ギリッ

吹き矢使い「ボクは左を……」スッ

弓道娘「……」

吹き矢使い「……」



二人(今ッ!!!)



ヒュンッ! フヒュッ!

強盗A「うわっ!」パキンッ

強盗B「わっ!?」バシッ

強盗A「な、なんだ!?」

強盗B(どこからともなく、矢が飛んできて拳銃が弾かれ――!)

不良(これは……あいつら!?)



警官「今だ! 確保、確保ーっ!!!」ドドドドドッ



強盗A「や、やべえっ!」

強盗B「ちくしょぉぉぉぉぉっ!」

ドタバタ… ドタバタ…

担任「相談もなしに勝手なことをして!」

担任「まったく……成功したからいいものの、外れてたらどうするんだ!?」

吹き矢使い「すみません……」

弓道娘「申し訳ありませんでした」

担任「……反省しているなら、もういい」

担任「それと、個人的には“よくやった”といっておこう」

吹き矢使い「ありがとうございます!」

弓道娘「ありがとうございます」

不良「筒に細工して、しかも殴ったのに……俺なんかを助けてくれて、ありがとよ」

不良「本当にすまねえ……!」グスッ

吹き矢使い「ううん、いいんだよ! 気にしないで!」



友「まさか、マジに強盗退治しちまうなんてなぁ! ウソから出たマコトだな!」

女「二人とも、特殊部隊からスカウト来ちゃうんじゃない~?」

吹き矢使い「ボクじゃきっと、訓練についていけないと思うよ……」

弓道娘「私は実家の道場を継がねばなりませんので、特殊部隊は遠慮いたします」

弓道娘「二人きりになってしまいましたね」

吹き矢使い「うん……」

吹き矢使い「……」ゴクッ

吹き矢使い「あのボク、君にずっと言いたかったことがあるんだ」

弓道娘「なんでしょう?」

吹き矢使い「ボクは男としても吹き矢使いとしてもまだまだ未熟だけど……」

吹き矢使い「君と釣り合う男じゃないけど……」

吹き矢使い「いつか君に堂々と『好きだ』といえる男になってみせる!」

吹き矢使い「君のハートを射抜いてみせる!」

弓道娘「とっくに射抜かれてますけど」

吹き矢使い「え!?」

弓道娘「私、ずっと昔からあなたをお慕いしておりました」

弓道娘「吹き矢の腕前だけではございません。慎ましく穏やかな性格、先ほど見せた正義感……」

弓道娘「さまざまな矢で、私の心はあなたに射抜かれていたのです」

弓道娘「私のような者でよければ、どうかよろしくお願い致します」

吹き矢使い「は、は、はははははは、はいっ!!!」

吹き矢使い「あっ……緊張しすぎて、息が……!」クラッ…

弓道娘「まぁっ、吹き矢使いさんでも呼吸が苦しくなることがあるのですね」








<終わり>

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