あ (9)
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私には死が見える。
死は人の形をしている。
死は美しい青年のようで少女でもあり、時には老人の姿で現れる。
死は共通して気高い瞳をしている。
死は私の側で友人の様に寄り添い、私を受け入れている。
だが、私はまだ死を受け入れていない。
死が常に側にいようとも…私は生きる。
世界中を敵にまわしても…王国民を全て巻き込んでも私は生きようとするだろう。
だって私は臆病な王なのだから、死が怖いのだ。
死「私は優しいのよ…だって貴方の全てを受け入れるから」
人の王「死よ、全てを受け止めることが優しさではない、あとそれは全ての生物に対しても同じだろう?」
死「えぇ…たとえ貴方が世界を滅ぼそうとね…死は全ての生き物に訪れる平等なものなのだから」
人の王「死よ…私は決して死なない、できることなら永遠に生きてみせるよ」
死「なぜ頑張るの?いえ、なぜ頑張れるの?」
死「砂漠の大国が豊かな土地と海を求めて南下した…それも物凄い大軍勢で…もう貴方の国は絶体絶命…」
人の王「勝ってみせるさ…私は死なない」
死「それにこれは貴方の大好きな民を全て巻き込むわ…それでも降伏しないのね」
人の王「砂漠の王…ゴブリン王の降伏条件は私を含めた王族の死だ…当然受け入れられない」
人の王「国が滅びようと私が生き残れば、私の勝利だ!民の命など私の命より軽い…」
死「でも、私が現れたのだから貴方の死は確実よ?これは運命、でぃすてぃにー」
人の王「運命?そんなもの覆してみせる」
死「そう?なら、せいぜい頑張りなさい…もしかしたらまた会えるかもしれないわね」
そう言い死は消えた
人の王「もう2度と会うものか」
大丈夫…私はこれまでも色々な壁を乗り越えてきた。
この戦いも勝利してみせる。
渇きを癒したい…豊かな土壌が欲しい…命を繋ぐ塩が欲しい。
そんな思いを数百年間、我慢してきた。
かつて弱小種族であった我々は当時の強国たちに砂漠に追いやられた。
だが…少しづつ人口を増やし、土地を開拓し我々は一つの大国と成った。
もはや、かつての強国は無く…新たな国、新たな大国が躍動する時代。
さあ…豊かな土地を取り戻そう!
さあ…我々の故郷に戻ろう!
さあ…かつての強国達に恨みを晴らそうか!
我が全てを手に入れよう…土地と富と人をゴブリンの王である、我が手中に収めるのだ。
ゴブリンの王「まずは…人の国から支配しようか」
我はタクトを振る。
3万の大軍が一斉に南に向かう。
小国である人の国を侵略するには十分すぎるくらいの大軍。
本来ならば…王が直接、軍を率いることはなく、さらには人の国を侵略する事に戦略的な意味はあまりない。
目的を達成するのなら、最も自然豊かなエルフの国に侵攻した方が良いのだ。
それではなぜ、人の国を攻めるのか?
それは将来、人の国は我の前に立ち塞がり、強大な敵となると預言者が言ったからだ。
だから…我は人の国が成長する前に潰すのだ。
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戦争というものは戦う前から始まっている。
戦う直前には勝敗はすでに決していると教えられた。
ごく稀に奇跡が起こることもある、だがそれは日頃努力をしているからこそ、起こる現象だ。
怠け者には奇跡はない。
王であり、軍人であった父の言葉だ。
戦いには下準備が必要なのだ。
ゴブリンの王が軍を編成している事は各国に散らばる斥候から情報を得ていた。
当たり前だ…万を超える軍を編成しているのだ、どうやっても情報はもれる。
それはゴブリンの王もわかっているだろう。
ただ問題はどの国を侵略するかだ。
北は大陸最強…竜族が治め多種族が暮らす雪の超大国。
寒さや雪のせいで進軍速度は遅くなるうえ、数は少ないが最強の竜族もいる。
それに補給もままならないだろう。
というわけで当然、北はない。
次に東はどうだろうか?一見、小さな国々ばかりで侵略しそうに見える。
東で一番の大国も海にある魚人の国だけだ。
ゴブリンの国と魚人の国は遠く離れていて、東の国々を侵略するのに影響はない。
だがゴブリンは東の国々を攻められない。
なぜなら聖国があるからだ、ゴブリンの国はここを通らなければ東を征服できない位置にある。
そして聖国は神の血を受け継ぎ、この大陸の全ての生命を生んだとされる天使族の末裔国家だ。
だからこの国は聖域であり、たくさんの種族から崇められている。
そんなところに軍を進めればどうなるか、四面楚歌となり周りの国々がゴブリンの国に軍を向けるだろう。
そうなればゴブリンの国は終わる。
だから東もない。
では西はどうだ。
西には大国が三つある。
一つは商人達で作られた商業国家。
世界で一番富を持つ国で、大陸全ての国と関わりを持つ国だ。
侵略すれば武器や富を手に入れることができるがこの国と取引している国も多く、竜の国とも同盟を結んでいるため攻めることができない。
二つめはドワーフの国である。
彼らは武器を作ることに長けており、商人商業国家によく武器を輸出していて、ほぼ全ての国がドワーフ製の武器を使用している。
性能のいい武器を持つ彼らの国を侵略するのはなかなか骨がいるだろう。
そして三つ目は魔女の国。
麗しい女性しかいない国家で、魔法により女性のみで子供を産むことができる、男がいない稀な国だ。
全てが黒に覆われていて夜の国とも呼ばれている。
魔法を得意としていて商人の国、ドワーフの国と同盟を結んでいるため…どちらかが攻められたら援軍を送る事になっている。
二つの大国を盾にするような位置に国があるのでゴブリンの国は先ずどちらかを落とさなければならないが魔女の援軍がそれをさせないようにしているのだ。
なので西も厳しそうだ。
最後は南。
南には鬼の国と人の国、そしてエルフの国がある。
エルフ、鬼、人は決して親密ではない。
いわゆる三竦みの状態であり、睨み合いや小競り合いを数十年繰り返し、もはや修復は不可能な関係だ。
それも滅亡の危機に瀕しない限り協力する事はないだろう。
だから一国だけを相手にできる可能性が非常に高く侵略しやすい。
そして何より三カ国は海に面しており、ゴブリン達が欲しがる塩が手に入る。
自然も豊かで農耕に適した土地も多く存在するのだ。
決まりだ。
ゴブリンの国は南を侵略する。
ならば蹴散らすのみだ。
エルフの女王「さてと、ゴブリン風情が調子に乗ってる様だから小突いてやらないとね~」
人の王「ゴブリンの国が軍の編成を始めている予想では南進の可能性が高い」
人の王「なので軍事訓練はしっかりすることと雪の国の犬族に至急、使者を送るようにしろ」
家臣「はい」
人の王「兵糧と武器を大量に仕入れてくれ、必要になる、あと新たな斥候をゴブリンの国に潜伏させてくれ」
将軍「了解した」
人の王「国はしばらくお前達に任せる、私は鬼の王とエルフの女王に会いに行く…護衛は最低限でいい」
家臣「王よ、お待ちをどちらとも会う約束はしておりません、まずは使者を送りましょう」
人の王「家臣よ戦争は下準備が必要だ、ゴブリンの国の戦支度が終わる前にできるだけ有利な状況を作らなければならない」
人の王「そのためにはスピードと行動力が必要だ、今はいちいち使者を送るなど悠長な事はしてられない」
家臣「ですが、会うことができるとは限りませんぞ!」
人の王「大丈夫だ!ゴブリン軍勢が南進して来ることに二カ国とも気づいているだろう、彼らのプライドが話し合いの場を作ろうとしないだけだ、場さえ設ければいい」
家臣「本当にそうなれば良いのですが……」
侵略するのは人の国…預言者が我々の前に立ち塞がる巨大な敵になると言った。
後顧の憂いを断つためにも先に潰しておく。
人の国を潰し、始めて我は覇道を歩むこのができる。
そのためにはまず雪の国と不可侵条約を結ばなくてはいけない。
聖国に沢山の貢物をしてようやく取り次いでもらったのだ。
失敗するわけにいけない。
竜王「ゴブリンというのは噂よりも醜い生き物だ」
ゴブリンの王「…お初にお目にかかります、竜王さま」
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