池袋晶葉「逆月の兎」 (16)


モバマスSSです


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~事務所ビル・屋上~


高峯のあ「・・・」

鷺沢文香「・・・」


のあ「・・・・・・」

文香「・・・・・・」



のあ「・・・・・・・・・」

文香「・・・・・・・・・」



文香「・・・あの・・・」

のあ「・・・なに?」


文香「寒くありませんか?」

のあ「大丈夫よ」


のあ「・・・」

文香「・・・」




文香「・・・その・・・」

のあ「・・・?」


文香「ここで何をしているのか、聞いてもよろしいでしょうか?」

のあ「ええ・・・」


のあ「一人で月を眺めたい・・・そんな気分なだけよ・・・」

文香「そうでしたか・・・」


のあ「・・・」

文香「・・・」


文香「・・・あ・・・」

のあ「・・・?」


文香「もしかして私、お邪魔してしまいましたか・・・?」

のあ「・・・いいえ」


のあ「今は・・・二人で眺めたい気分ね」

文香「あ、えっと・・・気を遣わせてしまってすみません・・・」



のあ「そんなに恐縮する必要はないわ・・・」



のあ「月は、誰のものでもないのだから」



文香「・・・」

のあ「・・・」

文香「・・・ふふっ」

のあ「・・・?」

文香「あ・・・失礼しました・・・」

文香「高峯さんは、ロマンチストなんですね」

のあ「・・・それは褒めているのかしら?」

文香「もちろんです」

文香「本当にイメージ通りと申しますか・・・とてもお似合いです」

のあ「・・・そう」


のあ「・・・・・・まあ、悪い気分ではないわ・・・」



のあ「文香、貴女はなぜここに・・・?」

文香「えっと・・・今日、ある小説を読み終えたのですが・・・」

文香「その中の一節に、月に関する描写がありまして」

文香「その文章がとても美しくて、感銘を受けてしまい・・・それで月を眺めたくなったんです」

のあ「・・・そう」

のあ「貴女も・・・中々のロマンチストね・・・」

文香「そう・・・でしょうか?」

のあ「ええ・・」



池袋晶葉「おや?先客がいたか」




文香「こんばんは、晶葉さん」

のあ「・・・いい夜ね、晶葉」

晶葉「ああ、こんばんは」

晶葉「こんな寒い中、何をしているんだ?」

のあ「・・・月見よ」

晶葉「ほほう、それは風流だな」

文香「晶葉さんは、何をしに来られたのですか?」

文香「その抱えている機械が関係しているのでしょうか?」

晶葉「うむ、そんなところだ」

のあ「それは・・・?」

晶葉「これは所謂ドローンというやつさ。少し前に流行っただろう?」

文香「はい、ニュースで何度か見たことがあります」

のあ「・・・?」

晶葉「知らないのか?まあラジコン飛行機の発展型だとでも考えればいい」


のあ「・・・・・・知っていたわ」


晶葉(あ、絶対知らなかったな・・・)

文香(知らなかったみたい・・・ですね)


晶葉「流行に遅ればせながら、暇つぶしに余った部品で自作してみたのだ」

晶葉「で、作ったはいいが使い道を思いつかなくてな」

晶葉「テスト飛行がてらに何か面白い使い方を考えてみようとここに来た次第だ」

のあ「・・・そう」


晶葉「ふむ・・・しかしお月見中か・・・」

晶葉「ドローンを飛ばすといささか風情が損なわれてしまうな」

晶葉「テスト飛行は場所を移してやるとしようか」

のあ「いえ・・・ここでも、別に構わないわ」

のあ「月は・・・」



のあ「誰のものでもないのだから」
文香「誰のものでもないのだから」



のあ「・・・」

文香「・・・」


のあ「・・・ふふっ」

文香「・・・ふふっ」


晶葉「ははっ、ずいぶんと仲が良いんだな」

のあ「ええ・・・今しがた同志であることが判明したわ」

文香「はい、同じロマンチスト仲間です」

晶葉「楽しそうで何よりだ」



晶葉(ん?そういえばのあが仕事以外で笑ったところは初めて見たな)

文香(あ・・・高峯さんが笑ったところ、初めて見ました)


晶葉(美しいな・・・)

文香(とても、美しいですね・・・)



晶葉「さて、ではお言葉に甘えてここでテストを行うとしようか」ポチッ


ブィーン!!


のあ「・・・思ったよりも高く飛ぶのね」

文香「それにスピードも凄いですね」

晶葉「ふふん、そりゃあ私が作ったものだからな!」

晶葉「そんじょそこらのオモチャとは性能が違うさ」


のあ「このまま・・・月まで届くかしら?」


晶葉「ふむ・・・知っているかな?」

晶葉「地球から月までの距離は約384400kmだ」

晶葉「ドローンの最高時速を40km、無休で飛び続けると仮定したとしても9610時間か」

晶葉「割ることの24時間で・・・約400日かかる計算だな」

晶葉「そもそもドローンはプロペラ式なので空気がないところでは推力が得られない」

晶葉「大気圏を越えて宇宙空間に出てしまうと・・・」


のあ「・・・」

文香「・・・」


晶葉「ああ・・・すまない、ここはもっと文学的というか、詩的というか・・・」

晶葉「ロマンのある返答をしたほうがよかったかな?」


文香「いえ、そんなことは・・・」

のあ「問題ないわ・・・私は天体観測が趣味なのだけれど・・・」

のあ「月までの距離なんて、知らなかった・・・」

のあ「ひとつ、勉強になったわ」



晶葉(お、今度はちゃんと知らないことを認めたな)

文香(ここは知らないと認めるんですか・・・)



のあ「・・・」

文香「・・・」

晶葉「・・・」


晶葉「もしかすると・・・」

のあ「・・・?」

文香「・・・?」


晶葉「世の中には、知らないままでいるほうが面白いことがあるのかもしれないな」

晶葉「例えば、雲の上に乗ることは出来ないだとか、月に兎はいないだとか・・・」

晶葉「知らなければ、夢は夢のまま、ロマンはロマンのまま・・・楽しめたのかもしれない」

晶葉「どうやら私はリアリストのようだ」

晶葉「ロマンチスト仲間には入れそうもないな・・・」



のあ「知ってしまったことを、なかったことには出来ない」

のあ「そして、知ることは過程にすぎない」

のあ「重要なのは、知った後どうするか・・・」



のあ「雲に乗れないのなら、乗れる雲を作ればいい」



晶葉「ふむ、なるほどな」

晶葉「月に兎がいないのなら、私が月面対応型ウサちゃんロボを量産すればいい、というわけか」

文香「それが本当のロマン・・・ですね」

のあ「そして晶葉・・・貴女には夢を現実にする力がある」


のあ「貴女もまた、立派なロマンチストよ」

文香「はい、同志ですね」

晶葉「フフッ、ありがとう。仲間はずれにされなくて安心したよ」



のあ「・・・」

文香「・・・」

晶葉「・・・」

のあ「・・・そろそろ冷えてきたわね」

文香「そうですね・・・ところで・・・」

文香「温かい紅茶を持参してきたのですが、皆さんも飲まれますか?」

のあ「いただくわ」

晶葉「私もいただくよ」

文香「はい・・・どうぞ」

のあ「ありがとう・・・いい香りね」

晶葉「ああ・・・やさしい味がするな」


文香「・・・あ・・・」

のあ「・・・?」

晶葉「・・・?」


文香「こほん・・・知っていますか?」


文香「こちらをご覧ください」

のあ「紅茶の水面に・・・」

晶葉「月が映っているな」

文香「はい・・・このように飲物に逆さに映る月を」

文香「杯とかけて『逆月』と呼ぶそうです」

のあ「へえ・・・風流ね」

晶葉「うむ、とても文学的だな」


晶葉「今はまだ、本物の月には届かないが・・・」

晶葉「いずれはこの『逆月』のように、手中に収めて見せたいものだな」



晶葉「・・・ああ、いや・・・やはり止めておこう」

晶葉「月は・・・」



のあ「誰のものでもないのだから」
文香「誰のものでもないのだから」
晶葉「誰のものでもないのだから」



のあ「・・・」

文香「・・・」

晶葉「・・・」


のあ「・・・ふふっ」

文香「・・・ふふっ」

晶葉「・・・ふふっ」



P「おーい!そろそろ事務所閉めるから降りてきてくれ!」



のあ「・・・そろそろお開きね」

文香「とても楽しかったです・・・名残惜しいですね」

晶葉「ああ、実に有意義な時間だった」

のあ「じゃあ、帰りましょう」

文香「はい」

晶葉「うむ」



晶葉「さて、明日は何を作ろうかな!」



おわり


以上。
ふと見上げた月が綺麗だったので頭をやられたみたいです、はい。
ともあれ、池袋晶葉はロマンチスト可愛い、高峯のあはミステリアス美しい、鷺沢文香は文学的可愛い。
それだけ伝われば十分だ。


過去作宣伝

基本・・・晶葉推しSS・・・

池袋晶葉「逆襲の谷」

池袋晶葉「逆説の楽」

鷺沢文香「逆光の園」

池袋晶葉「逆調の星」

池袋晶葉「逆睹の衣」

池袋晶葉「逆賭の衣」

池袋晶葉「逆感の僕」


・・・そろそろタイトルが苦しくなってきたな

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