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大晦日の夜、午後11時。アイドルプロダクションの女子寮の一室で、少女が二人コタツにあたっていた。
二人はテレビに映し出されている歌番組を見ている。年越しの代名詞の一つに数えられるこの番組に、彼女たちは夕方のパートで出演した。未成年なので、深夜の生放送出演はNGなのだ。
無事に歌とダンスを披露した彼女らは、テレビに映っていた溌溂とした表情の面影もなく、今はふやけた顔をしていた。部屋に戻ってから一時間半近く。今夜の女子寮は帰省したり番組に出演していたりと、いつもに比べて静かである。
コタツの天板の上には、チラシを折ってできたごみ入れと、それいっぱいに入ったミカンの皮、そしてところどころミカンの白い筋が落ちていた。ここ一時間の残骸らしい。
「李衣菜ちゃん、ミカンとごみ入れ取ってきてー」
「えー、またー? ライブ後とはいえ太るよ?」
いいからいいからー、と前川みくは多田李衣菜を急かす。しょうがないなあ、と李衣菜は腰を上げた。こうしてみくにミニお遣いを頼まれることは何回も続き、もはや彼女は家主よりもミカンとごみ入れの個数の推移に詳しい。戻ってきた彼女は、ミカンを二つ、ごみ入れを一つ持っていた。
「結局李衣菜ちゃんも食べるじゃん。人のこと言えないにゃ」
「ついでだしいいかなーって思っただけだよ。大晦日だしいいじゃん」
彼女らはテレビを見ながら、ミカンを剥き始める。厚皮を剥いてから半分に割るか、半分に割ってから厚皮を剥くかの言い争いは、一時間前にしたばかりだ。画面には、他のアイドルたちが歌っているところが映し出されていた。
「いいなー、歌番組に出ながら年越しできるって」
「そうだね……。けど、私たちの年齢だけはどうしようもないよね」
二人はミカンの房を口へ放り入れる。甘酸っぱさが口の中で弾けた。みくはまだ十五歳なので、二人で年越し番組に出演できるようになるのは5年後になるだろう。
「そう言えばみくちゃんは帰省しなくて……って、大丈夫? 眠いならベッド行きなよー」
「まだ……、年越しは李衣菜ちゃんと迎えるって考えてたし……、初詣も……」
みくの瞼は落ちはじめ、頭が天板の上に乗った。ライブの疲れもある。口腔に残る酸味は睡魔に飲み込まれた。彼女はゆっくりと夢の世界に入っていった。
仕方ないなぁ、と思いながら、李衣菜はみくのお気に入りのネコ柄ブランケットを慣れた手つきでかぶせた。こうなるとなかなか動いてくれない。夏は確か私がかぶせてもらってたっけ、とも思い出していた。
番組のカウントダウンに向けた準備が始まった。ここから長いよねー、と言いながら、李衣菜はみくの方を向く。彼女はみくの寝顔を見つめ、ゆったりとした笑みを浮かべて髪を軽く梳きはじめた。言葉にはできないけど、暖かな気持ちになる。こんな時間が続けばいい、いっそこのまま時が止まってもいい。そう少女は心の奥底で感じる。
カウントダウンが始まった。いつも事務所で見る面々が、画面の向こうで音頭を取っている。0に向けて、人々のボルテージは最大に近づいていく。
年が変わるからといって、何かが劇的に変わるわけではない。大した意味も感じない。とはいえ、みんなが騒いで楽しむ時間に、一緒にノらないわけはない、と李衣菜は考える。
けど、と隣で寝ている少女を見やる。李衣菜は0のカウントで「Happy New Year!」と小声で言った。こんな静かな年越しも、落ち着いていてみたいでいいよね、と、みくの寝顔から目をそらして李衣菜は思った。例えるなら、ポストロックかな。
日付が変わり、年越しの緊張が解れたのか、李衣菜にも睡魔が牙をむいた。大きなあくびをして、伸びをした。寝間着に着替えなきゃ、と思ったが、コタツは李衣菜を掴んで離さない。そのまま、彼女の瞼もゆっくりと閉じられた。
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