橘ありす「私は子どもじゃない」 (18)

この作品は青少年の悩みを書いた作品ですが、少しR指定にかかりそうな描写があります。




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 おはようございます、橘ありすです。
私は現在12才の小学6年生で、世間一般でいうところの子どもです。ですが、私は子どもではありません。
 日本において大人、つまり成人とは満20歳を迎えた人の事を指します。ですが、それは果たして適切でしょうか?
 毎年成人式の季節になると『荒れる成人式』といって身勝手な若者の事が取り上げられたりします。もちろんそれだけは無く、日々のニュースでは精神的に未熟と言わざるを得ない人々の行動が事件としてニュースで流れます。
 大人とは、身体と精神の両面において成熟した存在です。つまり、私は年齢が足りていないだけで単なる子どもだとは言えません。

 ……ですが、私には最近悩みがあるんです。前述の通り私は現在12才で、第二次性?の最中です。説明するまでもありませんが、第二次性?とは簡単にいうと身体が子どものそれから大人へと変化してゆく事です。
 個人差があるのは百も承知です。が、私は……私には、未だに陰毛が一切生えてきません。
 女子における第二次性?は平均して10才、早ければ7才からでも起きます。なのに、私の身体には大きな変化がまだ訪れていません。

 しかし、まだ私の発育が遅れているという証拠には足りません。データ上では10才頃からと言われていましたが、それが古い可能性だってあるんですから。
 幸いにも、私以外の発育状況を確認出来る日は早く訪れました。私が所属するユニット『L.M.B.G』のレッスンがあり、レッスン後に皆で汗を流すことになったんです。
このユニットは小中学生を中心としたユニットで、サンプルには事欠きません。今回のレッスンは少人数ではありますが。

「今日も疲れたわねー」

 先ずは1人目、的場梨沙さん。私と同じ12才ですね。かなりのお父さん好きな彼女ですが……。うっすらと産毛が生えていますね。胸も私より少し膨らんでいますし、ややリードされているみたいですね。

「あら、それにしては涼しい顔をしてらっしゃいますけれど?」
 
 櫻井桃華さん、同じく12才。言葉遣いや所作から育ちの良さが伺える人です。……濃さは的場さんと余り変わりませんが、そちらも金髪なんですね。
 同い年2人は既に生えていましたか。ですが問題は年下です。彼女たちの成長如何では私の沽券に関わりますから。

「ねぇねぇ、みりあもまだまだ元気だよっ」

 赤城みりあさん、10才。言動はやや幼いですが、身体はどうでしょうか。……うっ、まさか生えていたとは。範囲なら櫻井さんたちには及びませんが、気持ち濃いような。

「ありすちゃん、大丈夫? なんか顔色悪いけど……」

「いえ、問題ありません。あと、橘で……っ!?」

 佐々木さん、まさか赤城さんと同い年でここまで生え揃ってきているだなんて……! 彼女と私、どこで差がついたんでしょうか?

「ねぇ、さっきからアタシたちの身体ジロジロ見てるけどなんなの?」

「まぁまぁ梨沙さん、そんな言い方では聞けるものも聞けませんわ」

 中々の洞察力ですね。ここはなんとしても誤魔化さないと。

「いえ、私たちもアイドルですから所謂ムダ毛の処理についても考えなければと思いまして。皆さんがどうしているかつい目で追ってしまいました」

「ムダ毛ー? 髪の毛とは違うの?」

「あのね、みりあちゃん。大人になると足とかにも毛が生えてくるでしょ? そういうのを剃るのがマナーなんだよ」

「アタシたちにはまだ先の話じゃない?」

「そうですわね。ですがわたくしたちの年齢となると身体の変化もありますし、大人の方々に聞くことも時には必要ですわ」

 大人に聞く……! なるほど、それは盲点でしたね。

「そうですね、その内そういった機会を設けるのも必要かもしれませんね」

 ショックを受けている場合ではありません、誰か信頼出来る人に相談したほうが得策でしょう。

「い、陰毛について……ですか」

 数日後、私は文香さんと美波さんの元に相談に来ました。年齢は19才と世間一般ではまだ未熟と言われてしまう2人ですが、この事務所の中ではとても信頼出来ます。

「うーん、難しい問題よね。それこそ個人差、としか言えないもの」

「はい、それは私も分かっています。しかし、赤城さんや佐々木さんも生えているのに私だけというのはやはり納得出来ません」

 やはり、二次性徴について聞くのは間違っていたのでしょうか……?

「ありすちゃん、少なくとも私には貴女の悩みについて納得のいく答えを出す自信はありません。ですが、デリケートな悩みを打ち明けてくれたことは嬉しく思います」

「そうね。そういう悩みを打ち明けられる存在ってことなんだもの」

「もし宜しければ、私にも協力させて頂けますでしょうか?」

 協力? どういうことでしょうか?

「ありすちゃんの悩み、という事は伏せて他の方に聞いてみても良いでしょうか?」

 ……余り色んな人に知られたくはありませんが。

「よろしくお願いします」

「ありすちゃん、私たちで良ければいつでも話は聞くから気軽に相談してね?」

「はいっ、ありがとうございます」

 やはりこの2人に相談して正解でしたね。

 数日後、私はまた寮の大浴場に来ました。なんでも文香さんが相談に適した相手を用意してくれたそうです。
入り口には清掃中の看板、恐らく他の人が入ってこない為の処置でしょう。流石文香さんです。

「とは言え、1人で身体を洗っているだけというのもつまらないですね……」

 果たして誰が来るのでしょうか? やはり本命は元看護師の柳さんでしょうか。木場さんや東郷さんも有り得ますね。

「ヘーイッ! 待たせたわねありす!!」

 勢いよく扉を開けて現れたのはヘレンさんでした。

「ヘレンさん、今は清掃中ですよ。終わってからにして下さい」

「もちろん承知よ。貴女も文香に言われてここに来たのでしょう?」

 ……文香さん、貴女は一体何を考えてここに彼女を連れてきたんですか。

「ありす、貴女成長期にも関わらず陰毛が生えてこないとで悩んでいるそうね」

「え、えぇ」

「なら先ずはこの世界レベルの身体をご覧なさい!」

 大きく足を広げたポージングのヘレンさん、やはり何を考えているの、か……!?

「は、生えて、ない……!?」

一体どういうことでしょうか?とっくに成人している筈なのに……?

「ハイジニーナ、という言葉を知っているかしら?」

「いえ、知りません……」

「ハイジニーナとは陰毛を永久脱毛した状態を指す言葉よ」

 永久脱毛……! 言葉は知っていましたが、まさかそんな所までやるだなんて!

「日本ではまだ一般的では無いけれど、世界においては剃ることがマナーとされる国も少なくは無いわ」

「そ、そうなんですか……。でもそれは自分の意思でやったものですよね?」

「そう、その通りよ。でも仮に剃っていなかったとしても私はヘレンであることに変わりは無いわ!」

「……?」

「いい、ありす。貴女はどんな姿であっても貴女であることを変える事は出来ない。なら貴女自身を誇りなさい」

……っ! どんな私でも、誇る……。

「今後、毛の有無で貴女を子どもだと笑う者もいるでしょう。でもそれがどうしたの? 生えていることが大人の証明? そんなことは無いわ!」

「では、ヘレンさんのいう大人ってなんですか?」

「自分の選択に責任を持てる事よ! 私は私が世界レベルであることを自分で選んだ! そこに一切の後悔は無いわ!!」

 何を言っているのかは分かりませんが、ヘレンさんが自分に自信があることだけは伝わってきますね。

「……はっきり言って、根本的な解決にはなってません。ですが、少し気が楽になりました」

「気にすることは無いわ。迷える子羊を導くこともまた“ヘレン”のつとめだもの」

「では、私はこれで失礼します」

「そう、私は汗を流してからにするわ。最後に、成長期に必要なものはよく食べよく動きよく寝る事よ。当たり前の事だけれど、それが心理。覚えておきなさい」

「……ありがとうございました」

 私は私、か……。確かにそうかもしれませんね。目の前の事だけに目を奪われて大切な事を忘れていたのかもしれません。
もしかしたら、大人になるというのは思っていた以上に難しい事なのかもしれません。でも、私は私なりに大人の階段を登るべきなんだと思います。それは決して1人でではなく、時には人の手を借りて。
 私は子どもではありません。が、まだ大人とは言えないのかもしれません。今後私の身体はどのように成長するのかはわかりませんが、どんな私でも胸を張って生きていけるようになろうと、そう思います。

以上です。
身体の成長についての悩みは誰しも通る道だと思い、書いてみました。
アイドルの成長具合についてはそれぞれ思うところはあるでしょうが、この作品内ではこうしました。
それでは失礼します。

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