サターニャ「大悪魔になるということ」 (53)

「遂に、遂に大悪魔になったわ!」

「おめでとうございます、サターニャさん!」

全身を跳ね上げ喜びを表現している赤髪の少女と、その姿を嬉しそうに眺める銀髪の少女。
二人がすっかり日も落ちた時刻にも関わらず騒いでいるのには理由がある。

まず大悪魔、という単語について説明しなければならない。

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これは役職として存在するわけではなく、サターニャと呼ばれた赤髪の少女本人が定めた個人的なものに過ぎない。
特に捻りもなく強大な力を有した悪魔が名乗るに値するものらしく、子供の夢のようなものである。

その基準となるラインに届いたと本人が判断したのだからそれはきっと大悪魔なのだろう。

とはいえ子供のようにただただ力を欲していたわけではなく、有事の際に力不足で何もできないのが嫌だからという思いが根幹にあるらしい。

自負するだけあり、その力は今や魔界全体で見ても上から数えた方が早いほどの域にある。
元々身体能力など光るものがあり、かつ妙に自らに対しシビアなところがある彼女が強大な力を有するに至ったのはそうおかしいことでは無かったのかもしれない。

また、寝食を共にし、その並々ならぬ努力を側で支え続ける銀髪の少女、ラフィエルの存在も大きなところであった。

「これで堂々と大悪魔を名乗れるわ!」

「ずっと名乗っていた気もしますけど……?」

「う、うるさいわね」

そんな簡単なやり取りも、心の安寧を誘う。

……

「では今日は大悪魔サターニャ様生誕祭ということでぱーっと祝いましょう」

「……と思ったのですが材料が尽きかけてますね、買ってきます」

さすがに今回は買いに行かされることは無いらしい。
私が祝ってもらう立場なんだから当然でしょ、と笑みが溢れる。

「神足通でぱぱっと終わらせちゃいますねー」

直後、天使の力が解放される。
彼女の天使としての姿を見る機会はあまりなく、その背中に大きな羽を構えた姿の新鮮さに少し見入ってしまうほどだった。

この時彼女の頭上に目を移したことを、どれほど後悔しただろうか。
以前目にした時には、確かにそこに燦然と佇んでいたはずの環。

その環の、昏く、輝きを失った姿を見てしまったのだから。

並べられた、待ち望んでいたたくさんの料理の味もほとんどわからなかった。

……

次の日すぐに実家を目指し、一人魔界へと降り立った。
残念ながら家族は出払っていたが、気にせず忍び込む。
そして外の明るさと裏腹に、一面に影を落とす小さな書庫へと足を踏み入れる。

「お父様が集めた本……確かこの辺りに……」

幼い頃にもこうして忍び込み、収集された蔵書を読み耽っていたものだ。
そんなことを考えながらすっかり埃を被った一冊の本を手に取った。
前に読んだのはいつだったか? 最低でも一面に分厚い埃が張りなおすだけの時間が開いたのは間違いない。

経年劣化で掠れかけた文字の中から目的の情報を見つけ出し、しばし読み耽る。

「……記憶違いだったら良かったのにね」

途端にその本が忌々しいものに感じられ、乱暴に書棚へと突っ込み戻した。
それだけ前のことを正確に覚えているとは限らないだろう、と自らに言い聞かせここまで来たはいいが、呆気なく裏切られることとなったのだから。

強大な悪魔は、近しい天使を堕落させる。
記されたこの一文を前にした今、大悪魔になるという悲願の成就に対しもはや何の喜びも感じない。
これが、大悪魔になるということだった。

……

「なによ、肝心な時に役に立たないわね……!」

帰って早々、魔界通販のカタログに端から端、隅から隅まで目を通した。
もしかしたら、悪魔の力を抑える道具なんて都合の良いものがあるかもしれない。そんな淡い希望に心を満たしながら。

しかし結果として適したものが見つかることはなく、またもなまじ希望を抱いていた反動がのしかかるだけであった。

自身の存在が彼女に悪影響を与えるという事実に、焦りと苛立ちだけが募っていく。

「……何かお悩みでも?」

「あーいいわ、気にしないで」

心配で堪らず声を掛けてきた彼女にも、苛立ちからぶっきらぼうな返事を返してしまう。

「悩んでいるなんて、サターニャさんらしくないですよ?」

これは彼女なりの激励であり、その言葉に決して馬鹿にする意図はない。過去にもこの言葉を受け、奮い立たされたことは幾度となくある。
普段通りであれば「どういう意味よ!」だなんて返して、「そうそう、その調子です」なんて返されて。二人で笑い合ったりして、全て解決するはずだった。

「気にするなって言ってんでしょ!!」

だけど今は、その激励にさえ無性に苛立ちが募って。
差し伸べられた手を、私は勢いよく跳ね除けることとなった。

「っ……!」

部屋を一時的に満たした大音量のせいか、普段通りに事が進まなかったというイレギュラーに対してか、彼女の表情は驚き一色へと染まる。

「ご、ごめん……なさい……」

続けてその顔に悲しみが湛えられていく。
違うのに、そんな顔させたかった訳じゃないのに。
謝らなきゃ。こっちこそごめん、と。

「あっ、い、いや……」

強大な悪魔は、近しい天使を堕落させる。
それなら……

謝罪の言葉を発する直前、脳内で悪魔が囁いた。

「……」

「さ、サターニャさん……?」

「くだらない」

まるで小動物のように萎縮してしまった彼女に、さらに畳み掛ける。

「何様なの、あんたは」

「天使として優秀だからって、いつも人を見下して」

「優位に立つっていうのはさぞ楽しいでしょうね?」

紡ごう。浮かぶ限りの罵倒を。

「ち、違……私そんなつもりでは……反省しますから……」

「あんたがどう思ってるかなんてどうでもいいのよ」

「現に私がこう感じたことに変わりはないんだから」

「反省する? まだ自分がチャンスを貰えると思ってるの?」

「出てって」

選ぼう。より彼女を傷つけるための言葉を。

「二度と顔を見せないで」

彼女を遠ざけるために。

……

足取りさえおぼつかない状態ながら、なお余りある強大な力で小規模の結界を展開する。
今から見せる無様な姿を千里眼に捉えられ、悟られることがないように。

「ぐっ……! う、げぇっ……! っっ……!」

胃の内容物が吐き出される。まるで自らが口にした凄惨極まる罵倒を、罪を。全てを洗い流す懺悔のように。
本心から出た言葉ではないはずなのに。

相手を傷つけるという明確な目的一つの下に選び抜いた言葉達。
それらを大切な相手に叩きつけ、守るべき笑顔を奪ったという現実が、身体の内を侵していく。

恨みを晴らし、虐げたいという本心が存在していなかったと言えるのか、もはや自らを信じることすら出来なかった。

「くっ……う、ううぅぅ……!」

涙をとめどなく溢れさせ、悲嘆に暮れる。これほど辛い経験なんて久しく味わってはいない。

なにしろ、今まではいつも側で支えてくれる相手が居たのだから。
そしてこの辛さが、その相手を害したことによるものなのだから。

堕落を重ね、堕天することは天使としての死に等しい。
当然格式高い家系の彼女が堕落を重ねれば強制送還にさえ至ることは想像に難くない。
最悪、二度と地上へ降り立つことを許されないだろう。

気ままに飛び回る彼女の、自由を掴む羽を?ぐかのような事態は避けられないのだ。

だからと言ってただ逃げたとしても全力で探しにくるだろうし、事情を説明し離れようとしても付いてきてしまうだろう。
喜ばしいはずの好意の深さまでもが枷となっていた。

ならば、その好意を崩してしまえばいい。修復不可能なほどに。
きっぱりと切り捨て、私じゃない相応しいパートナーを見つけてくれればいい。

嫌われ者にでもなんでもなってやろう。彼女の幸せを追求するためなら。

……

飴を舐め、平静を保ちつつ教室へと歩を進める。

今は私が一方的に嫌ったという関係にある。私を切り捨ててもらうなら、向こうから嫌われる必要があるわけだ。
そんなことを思案しながら教室の扉を開く。

「お、おはようございます……サターニャさん……」

「……」

強く唇を噛み締め心を抑え、無視を決め込む。飴の甘さの中に微かに血の味が混じった。

だめだ、ラフィエル本人は自分に非があると思い込んでしまっている。これじゃ何をしても自分を責めるだけだ。

どうしたものかと考えていると、視界の端に紫色の髪が揺れた。

「おはよ、サターニャ」

「遂に大悪魔になれたんだって? おめでとう!」

そっか、自分より他人のための方が怒れるわよね。
ごめんね、ヴィネット。

「何よあんた」

「……え?」

「何馴れ馴れしく話しかけてるの? って言ってるんだけど」

「な、何言って……」

「あんたが言った通り、私は大悪魔になったのよ」

「もうあんたらとはレベルが違うわけ」

「いつまでも友人面しないでくれないかしら?」

暴挙を目の当たりにし、視線に敵意が宿る。
無論ヴィネットだけではない、ラフィエルにも。

なんでこんな酷いことが言えるんだ、と何処か他人事な自分がいた。
そうでもしないと、心が保ちそうにないから。

「おーおー、朝から飛ばしてんなクソ悪魔」

「まーた魔界通販で変なもの買ったんだろ、どうせ」

呆れたような物言いをしながら、金色の髪を靡かせ小柄な天使が立ち上がる。
ごめんね、ガヴリール。

「……ご名答、この飴なんだけどね」

途端、全員の目が少しばかり穏やかなものに変わる。
なんだ、何かと思ったら魔界通販のせいか……そんな日常の一コマに過ぎなかったのか、と。

「本音しか喋れなくなる飴、なのよ」

これが嘘であることなんて誰も知らない。

消えかけていた敵意が、より激しく火を灯した。

「……私なりに悪いやつじゃないとは思ってたんだけどな、失望したよ」

「友達ごっこに本気になって、ほんと単純なやつらね」

ちらりとラフィエルの姿を横目に見やる。
その表情が私が望んだ通りのものとなっていたのを見て、つい口角が吊り上がる。

「さて、十分楽しめたし……あとは落ちこぼれ同士頑張ってね」

築き上げてきた信頼が崩れ落ちたことを確信し、言い訳混じりに教室を後にする。
その背に敵意、失望、軽蔑……様々な感情を孕んだ視線を受けながら。

ふらつきながら歩く自身を俯瞰するように問いかける。目的は果たした、もっと喜んだらどうだと。

そんな誤魔化しが効くわけもなく、大切な友人までもを巻き込んだことへの懺悔は尽きることを知らなかった。

……

どうしてこんなことをするのか。
私に見せてくれた顔は、全て偽りだったのか。

どんな事情があったにしろ、私はともかくガヴちゃんやヴィーネさんにまであんな態度を取ったことを許したくはない。

私の知る彼女は、嘘でも簡単にあんなことを言える方とは思えない。

ならばやはり嘘ではない、本音だったのだろうか。

「本当に、サターニャさんは……」

それでも彼女を信じたい。信頼だけでなく、そうあってほしいという願望を孕んだ主張が漏れ出た。

「……判断材料はまだあいつの言葉だけだしな、どうかなんてまだわからないよ」

「私も……サターニャは昔からああだったし、全部演技だったなんて思いたくない」


「……そうですよね、調べてみましょう」

ここにいる全員が、不確定だからこそ平静を保てている部分がある。
調べ、行き着いた先に待ち受けているのが、彼女の言葉通りであるという非情な現実も予想されるのだ。

その現実に直面する恐怖に誰もが一人では動けなかったが、意見の一致に伴い全員が覚悟を決めることとなった。

……

異変が起こる直前について思いを巡らす。

生誕祭を行なった段階で小さな異変自体は感じたものの……何が原因であったか見当も付かない。

ならば大きな異変の直前……私の失言が起爆剤になったとはいえ、その前から明らかな苛立ちが見られていた。
その時見ていたのは確か……

「カタログ……魔界通販の、ですね」

……やはり魔界通販についてまず調べる必要がある。

……

「何度も見返したつもりですが……」

結論から言うと、本音しか喋れなくなる飴なんてものは存在しなかった。

「なんでそんな嘘を吐いたのかはわかんないままだけど」

「まずは一安心……と言っていいのかしらね」

それは一つ希望が繋がったことを意味する。
自身らに叩きつけられたそれが、本音ではない可能性が見えてきたのだから。

ただし、あくまで可能性止まりの小さな希望である。
結局のところ、確証を得るためには本人を問い質すしかないのだろう。

「何にせよ、もう一度話をしないとな」

「そうね、言われっぱなしっていうのも嫌だし」

しかし小さな希望は、確かに彼女と再び相対するだけの勇を引き出した。

「……あの……」

「お二人にとって、酷なお願いとなってしまうのですが……」

ただ一人を除いて。

……

夢を見ていた。
広い広い空間に、ただ一人立ち尽くしている夢。

望めば大抵のことが実現し、不自由などするはずもない、いかにも夢らしい理想の世界。

だと言うのに、彼女が満たされることはなかった。

その喜びを共有する相手だけは、どれだけ望んでも現れてはくれなかったから。

「……ん」

「寝ちゃってたのね……」

最後まで望み通りとはいかなかった不快感に、身体の節々を鳴らす。

脳の覚醒に伴い、背後の存在を感じ取る。

「っ……なんで居るのよ、ガヴリール、ヴィネット」

千里眼の妨害に加え、望まぬ来客を防ぐためにも結界を展開していたはずだったのに。

原因は先ほどの夢にあった。

自分以外の存在を求めるあまり、無意識に警戒を解き、呼び込もうとした。
それは現実でも、結界を解除するという形で表れた。

いくら力を手に入れたとはいえ、そう年を重ねてもいない少女が、ましてや寂しがり屋の彼女が感情を制御し続けることなど叶わなかったのだ。

「やっと起きたか」

「おはよ、サターニャ」

いつもと変わらない挨拶だった。

ただそれだけのはずなのに、もう隠し通す余裕も失われて。

「……もう、もう嫌なの」

「ごめんなさい、助けて、ガヴリール、ヴィネット」

「お願いだから……」

一度堰が崩れてしまったからには、秘めた思いの全てを表にせずにはいられなかった。

……

「……ラフィが堕天する?」

「そんな素振りは見せなかったけど、いつの間に……」

「……私のせいなの」

悪魔の力が天使に及ぼす影響について。

そして何故こんなことをする必要があったのか。

崩れた堰から流れ出る勢いに乗せ、全てを話す。

「やっぱり無理してたのね……こんな方法じゃなくたって……」

「ラフィエルがどんな思いで過ごしてるか……私たちよりお前の方がわかるんじゃないのか?」

「……だからって、悠長にはしてられないのよ」

長引けば長引くほど、ラフィエルへの影響は大きくなるのだから。

「あいつの性格は知ってるでしょ……他にもっといい方法があったの……?」

「「……」」

「ね、浮かばないでしょ……」

「だから、ラフィエルには言わないでっ……」

「騙し続けなきゃいけないなんて、辛いことだってわかってる」

「本当に悪いけど、お願いだからっ……」

枯れかけていた涙が再び溢れ出す。
心の底からの懇願だった。


「……すまん、サターニャ」

「私たち、応えられそうにないの……」


「サターニャさん……」

物陰から、か細い声が響く。

その声の主は、最も出会いたかった相手。

同時に、今最も出会ってはいけない相手だった。

ガヴちゃん、ヴィーネさんに酷い態度を取ったサターニャさん。
そのあまりの暴挙に、私は怒りを込めた視線をぶつけてしまった。

こんなのサターニャさんじゃない。私の中のサターニャさんの姿を崩さないで、と。

けれど、最後にこちらを見た一瞬に向けられた笑顔。


それは、どこか悲しみと気遣いを秘めた……紛れもなく私の知るサターニャさんだったから。


この変化に不信さを感じた私は身を隠し、ガヴちゃんとヴィーネさんに話をして貰えるよう頼んだ。

自分だけ相対する覚悟が不完全だったとも言える。
それを察しながらも引き受けてくれた二人には、感謝してもし足りない。

「うっ……くっ……ぐすっ……」

「良かった……! 私が見てきたサターニャさんはっ……!」

偽りの姿ではなかった。
その一点が確かとなっただけで、何もかもが氷解する。

「嫌なんです、サターニャさんと離れるなんて、二度とっ……!」

懇願していた彼女は、今度は懇願される側に回ることとなった。

これが恐れていた事態だった。
今すぐにでも、なんとかここから突き放す方法を考えなければいけないのに。


「私だって……私だって離れたくなんてない……!」


大悪魔だなんて言って、結局何もかも中途半端で。
必要以上に傷つけただけなのに。

これ以上優しくされたら、我慢が効かなくなる。

「でも……だめ、なの」

「このまま私といたら、堕天しちゃう」

「だから……離れて、離れてよ……」

「……はい?」

唐突に間の抜けた声が発される。

「え、堕天って、私がですか?」

「そうよ……見ちゃったの、あんたの天使の輪」

「明らかに普通じゃなかったもん……」

「このままじゃ、私のせいで……」

「……」

言葉が返されることはなく、ただラフィエルの天使の力が解放される。
大きな羽と共に頭上に現れる、光を失った環。

「「は?」」

静観に徹していた二人も、その環を目にして声を漏らす。

「えっ……何、何なのよ……?」

わけがわからない。

「ガヴ」

「がってん」

ヴィネットの呼び掛けに応え、ガヴリールも天使の力を解放する。
小さな身体に不釣り合いな大きな翼が開かれる。
その頭上には……

「うわっ、何それキモい!!」

「しばくぞ」

ラフィエルのそれより明らかに異常とわかる、一切の光を反射しない漆黒の環が鎮座していた。

「……とまあこの通り、こんなのになっても堕天なんてしないわよ」

「こんなのって失礼な」

ガヴリールとヴィネットが続ける。その目には今や憐れみしか宿っていない。

「で……でも! 今は平気でもいつまで保つかわからないじゃない!」

頭を殴られたような衝撃に苛まれつつも反論する。

「あんた、ラフィと暮らすようになってどれくらい経った?」

「い、いきなり何よ……一年くらい……かしら?」

「だって。どうなのガヴ?」

「一年でこれだけなら、堕天する前に寿命が来るんじゃね」


「は、はは……何よそれ、そんな余裕あるものだったの……」

その言葉に、喜びが押し寄せる。
が、後悔や自らへの嫌悪感とせめぎ合い苦痛でしかなかった。

「大体光が消える程度、初期も初期症状だっての」

「あのゼルエル姉さんですら、失敗して落ち込んだりすると光消えるぞ」

「悪魔が天使を堕落させるのは確かみたいだけど、その影響なんてこの程度ってことよ」

続けざまに無情な言葉が叩きつけられる。

「……」

「……お、お父様ぁー!?」

もはや理不尽な八つ当たりしか出来なかった。

「サターニャさん」

か細いはずが、全身から血管を伝い、直に脳に叩き込まれたかのような冷たい声に戦慄する。

「な、なんでしょうか……」

「抱き締めてください」

「わ、わかったわ」

案外怒ってないことに感謝しつつ、起伏に富んだその身体を抱き締める。

……背中に回した両手に、何かが嵌められたような感触がした。

「んなっ、何よこれ!?」

するりと抱擁から抜け出したラフィエルが、嵌められた手錠から伸びた鎖を壁に繋ぐ。

「もし、もしですよ」

「サターニャさんが離れてしまうくらいなら……と魔界通販でこっそり注文していたのですが」

「早速役に立ちそうで何よりです、お仕置きは必要ですからね」

にこりと本能的に危険を感じる笑顔で笑い掛けられる。

私の守りたかった笑顔はこれじゃない!

「ふ、ふふ、私は大悪魔になったのよ? こんな鎖くらい引き千切って」

……おかしい、びくともしない。

「魔界と天界のトップが引っ張りあっても大丈夫、とお墨付きでして」

「……ガヴリール! ヴィネット! 助け」

「はいはい、撤収撤収ー」

「私たちも怒ってるんだからねー、ごゆっくりー」

「いーやー!! 助けてええぇぇ!!」

「サターニャさん♪」

「はは、はい、はい……」

ラフィエルが私の前に腰を下ろす。まるで死神とも錯覚するような威圧感に、ただ従う他ない。

ゆっくりと手が伸びてくる。
いっそ一思いにと顔を伏せ事が過ぎるのを待ち望んだ。


硬直した私の身体に与えられたのは、覚えのある柔らかな身体の感触であった。

今度はラフィエルから抱き締められており、全身の緊張が瞬く間に解れていく。

触れ合った肌を通し、私の震えが止まったことを確認し、ラフィエルは続ける。

「私を幸せにするために、なんて……独りよがりですよ」

「……悪かったわ」

「私の幸せは、いつでもサターニャさんと共にあります」

「たとえ本当に堕天するとしても構いません、サターニャさんがいなければどちらにしろ幸せなんて掴めないのですから」

「だから二度と離れないでください、絶対に」

「……ええ、約束するわ」

「だから、たとえ辛い道になったとしても後悔するんじゃないわよ」

「サターニャさんこそ」

……

「では、始めましょうか」

「えっ、今ので許してくれる流れじゃないの!?」

「そんな訳ないじゃないですか、せっかく色々買ってきたんですから」

「何に使うのよそれ!! ちょ、こっち向けないで……!」


こんなやり取りも、心の安寧を誘う……はず。


おわり

サターニャちゃん視点ラフィちゃん視点第三者視点混ざってたりして非常に読みにくかったと思います 精進します
ついで>>15の文字化け部分は もぐ のつもりでした

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