短い短いお話(28)
思いついた掌編をいくつか投下
その1
時々思う。
俺以外の人間は、実はもういないんじゃないかって。
だって、俺は誰の心も覗けないんだ。
俺以外、みんなロボットでもおかしくないだろ?
みんな隠してるだけかもしれないんだからさ。
親だって、偶然普通の人間として現れた俺を拾って、育ててるだけ。
いやいや、監視するためかもな。
唯一の人間である俺の事を調べて、より人間に近付くために。
なーんて、バカみたいな妄想をする夏の夕方。
「そろそろ降りて来て、ご飯を食べちゃいなさい」
一階から母親の声が聞こえた。
今日のご飯はなんだろう。
まあ、レギュラーだろうな、母さんまとめ買いしてたし。
偶にはハイオクが良いんだけど。
その2
2DKの広さで、家賃二万五千円。
不動産屋の窓ガラスに張ってあったその物件を見て、俺は住んでいたマンションからすぐに引っ越した。
1Rで五万も取られる所だったんだ。
そりゃ、即決するしかない。
けど、引っ越してすぐ、俺は後悔した。
いわくつきの物件の方が大分住み易いと思う。
なにしろ、毎晩隣の部屋から親子喧嘩が聞こえるんだから。
喧嘩と言うより、一方的な母親の怒鳴り声と子供の泣き声か。
壁が薄いから、お隣さんの声が余さず残さず全部聞こえる。
たまったもんじゃない。
おかげで俺は、今日も寝不足だ。
近所の人に聞いてみると、結構有名な母子家庭らしく、児童相談所に電話してみようか、なんて話さえ出ているらしい。
今晩も五月蠅かったら俺が電話をかけよう。
そう思いつつベッドに潜り込んだ。
今日こそ安眠出来ますように、と祈りながら。
夜中の十一時、やっぱり、お隣さんは五月蠅かった。
母親の声だけが、休む事なく聞こえる。
その3
俺は鼻詰まりが酷かった。
それはある意味長所であり、短所でもある。
臭い物を臭いと思わないから、場所次第で他人よりずっと不快な気分にはならない。
例えば、公園の便所とかな。
そんな俺の鼻詰まりを知ってる知人は、汚い仕事を俺に押し付けて来る。
臭いじゃわからねぇけど、視覚で感じる不快感はあるんだよ、バーカ。
そう言いたいが、知人が持ってくる仕事の給料は良い。
渋々だけど、俺は今日も今日とて現地に向かう。
到着すると、責任者である知人が待っていた。
「今日も酷いぞ。ほかほかのこたつの中で、一ヶ月以上放置されてたらしいからな。ドロドロになってる」
いつもの事じゃないか。
それより俺は、スイッチが一ヶ月入ったままの状態でも、意外とこたつは火事にならないもんだな、と思った。
その4
貝のアクセが若い女の子の間で流行ってる。
私もまだ若いつもりだけど、流石にマスコミの情報操作に流され過ぎでしょ。
だって貝なんて、この前までパワーストーンの一つに過ぎなかったんだよ?
なのに今じゃ、どれどれの貝の何色に凄い効果があるらしいよ、なんて会話が日常。
海に行けば簡単に拾えそうなのに、何千円も払って、安っぽい貝でブレスレットやネックレスを作ってる。
馬鹿らし過ぎてついていけないよ。
私はそう思いながら、貝殻の模様が描かれている箸とお茶碗を持って、シジミのお味噌汁を口にした。
その5
私が働いている施設に、目の見えない男性がいる。
事故で視力を失ってしまったそうだ。
それ以外はいたって正常で、まだ施設内限定だけど、杖を突きながら歩く事にも慣れた様子だ。
「先生のおかげで、やっと生きているって実感が湧いてきました。ありがとうございます」
「いえ、あなたの強い意志があってこそですよ。今日はもう遅いので、いつものお薬を飲んで、眠って下さい」
「わかりました」
置いている場所を完全に覚えており、私の補助なく、彼は一人で薬を呑み込んだ。
彼の頭に取り付けている機械で脳波を調べ、完全に眠ったところで透明なマスクを付けて注射を打つ。
さて、今日はどの部分を交換しようかな。
その6
目を覚ましたら異世界だった。
衣服が違うのもそうだけど、大通りを歩いている人は、堂々と剣や弓や杖を持っている。
すげぇ、ファンタジーの世界だ!
そう喜んだのも束の間、俺はすぐに絶望した。
まず、言葉が通じない。
ジェスチャーで話そうとしても、首を傾げられるか、指を差して笑われるだけ。
当然、買い物なんて出来やしない。
観察してみると、やっぱり金も日本の金とは違う。
かと言って、盗んで食料を得る度胸もない。
完全に詰んでいた。
だが、途方に暮れる俺の前に救世主が現れる。
「君、もしかして異世界の人かな?」
俺の知っている言葉だ。
喜びのあまり、俺は恥ずかしげもなく、涙を流してしまった。
それだけ嬉しかったんだ、まともに誰かと話す事が出来て。
彼は慣れた様子で、ずっと俺の背中を擦ってくれていた。
落ち着いてから話を聞いてみると、時々俺みたいのがこの世界に迷い込んで来るらしい。
そして彼は、俺みたいなやつの案内人との事。
「元の世界に帰してあげられるけど、暫く残ってもいいよ。どうする?」
正直、こんな場所から早く脱出したかった。
けど、この世界の話を聞いて、少し見て回りたいとも思った。
その事を口にすると、なら僕が案内してあげるよ、君の言葉が通じる知り合いにも紹介するね、と彼は微笑んだ。
彼の言葉は今までに出来た、どんなに親しい友人よりも頼もしく感じた。
俺は少し躊躇い気味に、よろしく、と伝える。
「なら、この紙にサインを書いて。一応、案内をするお仕事だからね、こういう形式が必要なんだ。もちろん、お金は発生しないから安心して」
完全に信頼してしている俺は、疑う事なく名前を書いた。
街の地下で呻いている、俺と同じ異世界人の存在に気付かないまま。
その7
「出来た!」
僕は喜んだ。
長い年月をかけて完成させた、人間関係予想装置。
プロフィールを入力すれば、人間関係について色々予想してくれる、まぁ名前の通りの機械だ。
例えば、結婚する相手は誰か、付き合う事になる人は誰か、生涯の親友は誰か、などなど。
結婚の場合、離婚はするのか、するならば何年間夫婦でいるのか、などもわかる。
生涯付き合う恋人の数も、入力するだけで一発だ。
あまり自分のも他人のも見たくはないけど、不倫をする相手も検索可能。
産まれて来る子供についても容易に調べられる。
これを使って、僕は占い師として大金持ちになるつもりだ。
色んな所に営業に行ったりして、テレビに出るのもいいかも。
それはそれとして、まずはテストを兼ねて、僕で占ってみよう。
内容はそうだなぁ、妥当に結婚をする相手でいいか。
可愛い女の子だったら嬉しいな、っと、出た出た。
えっと、名前は……佐藤、翔太……?
その8
五年間住んでいた家が燃えた。
俺が知ったのは、海外出張が終わって帰国した時だった。
すぐに警察に呼ばれ、話を聞く。
とは言っても、半ば放心状態の俺の耳には入らない。
これから住む場所はどうするのか?
燃えた通帳や印鑑は?
火災保険に入っていたと思うけど、実際はどうだっただろうか?
そんな事ばかり考えていた。
警察官は相槌も打たない俺に呆れたのか、話を変えて一枚の写真を取り出した。
「この人に見覚えはありますか?」
記憶にある女が映っている。
六年前に別れた元彼女だ。
別れた後から、会うどころか連絡も取ってないけど。
そう伝えると、なぜか俺を疑うような目で見ながら警察官は言う。
「この人があなたの家で焼死体となって発見されました」
その9
朝日が昇るより早く、俺はアパートに戻った。
仕事を終えたばかりだから疲れていた。
けど、その疲れもすぐに吹き飛ぶ。
同じアパートの女性と顔を合わせる事で。
「おはようございます」
「おはよう。今日もこんな時間までお仕事? いつもお疲れ様」
「いえ、貴女ほどではありませんよ。毎日、こんなに朝早く出勤だなんて」
「ほんと、もう少し近い職場を選べばよかったわ」
そう言って微笑む彼女に俺は惚れている。
少し幼さがある顔立ちに反して、大人びた性格。
外見も中身も俺の理想と一致している。
そんな彼女と、こうして少し話すだけでも俺は幸せを感じる。
しかし数日後、彼女はアパートの前で涙を流していた。
事情を聞くと、恋人が交通事故で亡くなったらしい。
彼女を抱きしめながら、丑の刻参りって本当に効くんだな、と何年間も毎日欠かさず繰り返した行為を思い出す。
その10
俺には幽霊が見える。
意思の疎通も可能だ。
幽霊たちは、普通の人が思っているよりも寂しがりやで、他愛のない話しでも喜んで聞いてくれる。
特に俺の周りは子供の幽霊ばかりで、感情が凄く豊かだ。
だから、少しでも喜んで貰うために、沢山のお話をしようと思っている。
ぼっちだった俺の大切な友達。
年齢は一回り離れているけど、贅沢は言わない。
今の状態でも、楽しいんだから。
けど、やっぱり友達は多い方がいいな。
これからも少しずつ、幽霊の友達を増やそう。
よし、決めた。
今日はあの子供にしよう。
少ないけど、これで終わり
ありきたりな物ばっかりだから何かでネタが被ってたらごめんな
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