会社の同僚達「みんなでボーリングやろう!」俺「ターキー狙うよ!」同僚達「ぷっ!」 (31)


終業時刻となった。

俺の会社は今比較的ヒマな時期である。

会社の同僚達が一斉に席を立ち、帰り支度を始める。


「みんなでボーリングやろう!」


みんなやろうやろうと口にする。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1514615730


いつもだったら、俺は参加しなかった。

奴らの行く場所は大抵居酒屋やカラオケで、俺は酒も歌も大の苦手だからだ。


だが、ボウリングとなると話は別だ。

ボウリングは、俺の特技ランキングの中で二位、三位には間違いなく入る。
アベレージは180を越え、200以上のスコアを出したこともある。

俺の腕前を、一度みんなの前で披露してみたかった。


「俺も参加していいですか?」


普段めったに誘いに乗らない俺からの申し出に、同僚達も驚く。

どういう風の吹き回しだ、と思ってるに違いない。


「いいけど、お前ボーリングできるの?」

「もちろん! ターキー狙うよ!」


この瞬間、誰かが吹き出す声が聞こえた。


「ぷっ!」


他の同僚達も冷笑まじりに、


「連れてくの?」

「ま、いいんじゃない?」

「参加するのは自由だけど」


と歯切れの悪い返事をする。


とにかく参加は認められた。

しかし、どこか不安を感じながら、俺は奴らについていくことにした。


会社の近くにボウリング場は一つしかない。
巨大なピンが目印になっている建物だ。

なのに、同僚達はまるで見当違いの方向に歩いていく。


「みんな、ボウリング場はあっちだよ?」


俺が指摘しても、誰も方向を変えない。

ニヤニヤしてる奴もいる。


俺の知らない穴場があるのだろうか……?

とてもそうは思えないが、俺は奴らを追いかけた。


俺たちは辺り一面土しかない場所にたどり着いた。

入り口には『ご自由にお掘り下さい』の立て看板。


呆然と立ち尽くす俺を尻目に、同僚達はバッグから部品を取り出し、一人一人機械を組み立て始めた。

次々にドリルの化け物のような機械を完成させていく。


俺以外の全員がそれをできたことを確認すると、同僚のリーダー的な男がこういった。


「じゃあ、誰が一番深く穴を掘れるか競争だ!」


轟音を立て、穴を掘っていく同僚達。

俺はその中の一人に、おそるおそる尋ねた。


「あの……ボウリングは?」

「だからみんなで今やってるだろ。ボーリングを」

「ストライクやスペアを狙うアレは……?」

「それは球を転がすボ、ウ、リ、ン、グだろ? 俺たちがやってるのは穴を掘るボ、ー、リ、ン、グ。
 ここは自由に穴を掘っていい場所で、俺たちは自作の機械でボーリングするのが趣味なんだよ。
 だからみんなでたまーにここに来るんだ」


説明を終えた同僚は、作業に集中すべく俺を追い払うような仕草をした。


ボウリングとボーリング。

どちらも英語のカタカナ化なので、表記が厳密に分かれているわけではないだろうが、
(たとえば球を転がす方を『ボーリング』と書いても必ずしも間違いとはいえないだろう)
一般的には球転がしは『ボウリング』、穴掘りは『ボーリング』と表記されていると思う。

俺は勘違いをしていたのだ。

同僚達がやろうとしてたのは“穴掘り”で、“球転がし”ではなかったのだ。

この場所は、俺が知らないという意味と、穴掘り自由という意味で、二重の意味で≪穴場≫だった。


これで、奴らの「ぷっ!」や歯切れの悪い返事の理由も分かった。

俺がターキーを狙うといった時点で、奴らは気づいてたのだ。俺の勘違いに。


そう思うと、無性に腹が立ってきた。

だったら説明してくれればいいじゃないか。俺たちは穴掘りに行くんだよ、と。


きっと奴らは今、俺を置いてきぼりにしてることを内心楽しんでるに違いない。

球転がしするつもりの奴が、あそこで所在なく立ち尽くしてるよー、と。

俺に説明しなかったのは、日頃付き合いの悪い俺への制裁かなにかのつもりなのだ。


見返してやる、と俺の心に火が灯った。


「俺もボーリングに参加する!!!」


同僚全員に聞こえるような大声で宣言すると、俺は地面の土に目をやった。

ここに来るのは初めてだが、なるほど掘りやすそうないい土だ。


しゃがみ込むと、俺は奴らの目では視認できないであろうスピードで土を掘り始めた。

道具も使わず無我夢中で一メートル、二メートル、三メートル……と下へ下へ突き進む。


同僚達の驚く顔が目に浮かぶが、もはや奴らのことはどうでもよかった。

俺はそれほどに穴掘りが大好きなのだ。


そう、俺の特技ランキング、ブッチギリの第一位はボーリング(穴掘り)なのだ。


俺は地面を凄まじい勢いで掘り進める。より速く、より深く、より美しく。

温度や圧力がきつくなるが、俺の鍛えた体ならばコアにだって耐えられる。


このままいけば、おそらく日本の裏側――ブラジル(実際は違うらしいが)あたりに
たどり着くことになるだろう。


だが、それじゃ少しつまらない。

俺は軌道を変え、北アメリカに向かうことにした。


地球を掘って掘って掘りまくり、俺はやっとこさ北アメリカにたどり着いた。

なぜ目的地を北アメリカにしたのかというと、あの鳥が生息してるからだ。


いきなり地面から顔を出した俺に、野生の七面鳥は仰天していた。

その様子を見て、俺はにっこりと微笑んだ。


「やった、ターキーだ!」









― 終 ―

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom