【ゼノブレイド2】人喰いの捨て人形 (14)
ゆっくり更新、視点不固定の地有りSSです
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それは突然の事で、ニア自身にも予測が出来ないことであった。いや、正確にはそもそも予測する力が無かったのだ。
突然引きずり出されるような感覚と、後にフワフワと浮くような感覚が訪れる。
視界が真っ白と少し青色に染まる。目の奥を灼く様な感覚と脳に大量の情報がぶち込まれる感覚はほぼ同時に起こったものだった。
少しずつ意識は覚醒し、自身が何者なのかを一瞬で理解する。
そして、目を開いた。ニアの目の前で目を丸くしていた少女と男性─容姿から察するに親子─の少女が自身のドライバーであることを直感的に悟り、ニアは産声をあげた。
「私の名前は、ニアです」
あまりにも知的過ぎる産声であった。
ニアの意に反して、最初に口を開いたのは父の方だった。
「お─おぉ、━━。まさかお前がドライバーになるとは…」
焦りつつも喜んだように、━━に話しかける。ようやく━━も自身が行った事に気付いたようで、ハッと顔を上げる。
「私─私の、ブレイド?」
ニアの方を恐る恐る見て首を傾げる━━に、ニアはニッコリと歯を見せて笑う。
「そ、『アタシ』はニア。よろしくね。」
━━はパッと笑い、父親の袖を引っ張りながらニアを指差す。自分のおかげで喜んでもらえたようで、ニア自身の口元も綻んでいた。
父親が口を開く。
「しかしなんだ。━━と…ニアは、そっくりだなぁ」
そうなのか─と、ニアは思う。何しろ生まれたばかりなので自分の顔は見た事がない。しかし自身のドライバーである目の前の━━とそっくりであるなら、きっと可愛らしいのだろう。そう思う。
「以前、なにかの本で読んだ事があるな。確か─ブレイドは初同調の時にドライバーの影響を受けるとか。ニアは━━が初めてだったんだな。」
きっとそうなのだろう。━━は父親が考察している間も私の事をぺたぺたと触ったりじっと見てくる。
突然それが止んだと思ったら、━━はまるで大発見をしたように身体を動かし、「そうだ!」と叫ぶ。
「お父様、ニアを家族に─私の、妹に出来ないですか?」
父親はえっと驚愕の顔を見せる。当然だろう。ブレイドはあくまでも仲間、友のようなものであり家族では無い。大昔には添い遂げる者もいたと聞くが、それは大昔であり今は違うのだ。
「それは…どうだろうな。」
しかし、父親は娘のこの願いを引き下げたく無かった。と言うよりも娘のあらゆる願いを尊重したいと考えているのだ。
娘は身体が弱く、寝たきりではないものの常に身体に強い負担が掛かっている。その為外にはあまり出ないし勉強の時間も少ない。
娘を治してやろうと各地から医者を呼んだりしたが、治りはしなかったのだ。命が短いことは嫌でも分かってしまっている。
なにより娘はとても父親思いで、父が嫌がる事、困る事は避けて来た。それは父親にも薄々伝わってきていたのだ。
だからこの娘の願いを無下にはしたくなかった。
「お願いします、お父様。ニアが私にそっくりならば、きっと楽しく生活出来ると思うんです。」
━━も、自身が無茶なわがままを言っていることは分かっていた。だけれど、━━は寂しかったのだ。家族は父以外にいなかった。お手伝いはいたけれど、皆━━を主人の娘としてしか見る事はなく、友達はいなかった。
「……そうだな、お前がそう言うのならきっとそうなのだろう。」
父親はふっと笑い、━━の頭を撫でる。━━は本当に嬉しそうに笑った。
「ありがとうごさいます。お父様!」
特にする事がなく、自身のドライバーとその父の話を横耳に聞きながら、ニアは窓を眺めていた。正確にはその外を。
外には多くの人々がいる。行商人の様な人もいるし、店を開いている人もいる。少し目を細めると見えるその先では農民がいた。
その窓から見える範囲にこの建物よりも高い建物はない。きっとお金持ちなのだろう。そう想像するのは難くない事であった。
「私はね─」
背後から男─父親の声がする。ニアは目をそちらに向け、今度は首と身体を少しそちらに向ける。
優しそうな笑い顔と共に窓の外をニアの横に立ち眺める。
「この土地の領主なんだ。ここにいる全ての人間は私の所有物なのだそうだ。」
その言葉に、ニアは一つも疑問を持たない。彼女はドライバーの持ち物だ。だから生き物を所有される、所有するという事に疑問を持つことは無かった。
「ただね、私はそうは考えちゃいない。」
ニアは父親の方を見つめる。まるで何かを探すかのように。
「人間ってのは人が持つものじゃない。いや、人間だけでなくノポンもターキンもなのだが……。それを所有する、というのは間違っていると考えているんだ」
父親はゆっくりとニアの方を見る。
「ニア──私の、娘にならないか。」
先程聞いていた言葉を、聞き─
「…あぁ、よろしくな!」
ニアは、快く返事を返した。
父親の瞳の奥に見えた、「嘘」を押し隠して──
第一話『目覚め』
今日はここまでです
この作品は原作のセリフ、映像からニアの過去を考察し、更に複数の脚色を加えたものになります。その為原作の情報とは異なる部分が存在しますが、ご了承ください。
ニアには部屋が与えられた。同時に日常生活の用品も与えられたが、あくまでも必要不可欠な分のみでコーディネートと呼べるようなものではなかった。
ニアとしては与えられただけで十分であったが、そこで父親が口を開く。
この家の様々な情報を教えられた。娘が不治の病である事。父親が領主であることや、家族の構成、召使いや…。
ニアはそれは頷きながら聞いている。
最後に父親は「君を家族として認めはするが、娘として教育しなければならない」という事と「娘の面倒を見てくれ」と言い残し部屋を去って行った。
ニアは部屋から出てドライバーの元へと向かう。特に用事がある訳では無いものの面倒を見てくれと言われた訳だし、そもそもドライバーであるからだ。
ドアを開けドライバーが横たわっているベッドの横に座る。ドライバーもニアがそこに来たことに気付きこちらを見る。
「おはよぅ…」
消え入るような小さい声でそう呟く。調子が悪いのかと思ったが、差し伸べられた手の暖かさからして恐らく寝起きだからだろう。
「ごめん、起こしちゃった?」
頬に触れた手をそっと身体に戻し、ニアはそう聞く。ドライバーはニッコリと笑って「暇だったから平気」と呟いた
しばらくの談笑を交わす。どうもニアのドライバーは本来同調する気は無かったらしい。
父親はドライバーに憧れていたのだがドライバー適性がなく、自分の父の家業─領主─を継いだそうだ。
それでもなお諦めることが出来ずコレクションとして集めていたコアクリスタルと偶然、ニアのドライバーが同調したのだ。
「でもまさか、私が同調するなんてね。」
ドライバーはちょっと困ったように笑う。何故そんな風に笑ったかをニアは計り知れない。
「ブレイドって攻撃とか、回復とか─色んなタイプがあるって聞いたけど」
思い出したようにドライバーが聞いてくる。
「アタシは…」
武器を取り出し、目を閉じる。本能的に可能な攻撃を瞬間的に理解する。
「回復だよ」
すぐに武器をしまう。ドライバーを殺してしまうと自分も消えるので普通のブレイドはそんなことをする必要はないが─あらぬ誤解を受けることは避け たいからだ。
少しドライバーの顔が明るくなる。「そっか─」と、上擦った声で仰向けにベッドに倒れ、また顔だけをこちらに向ける。
「ねぇ──もしかしたら、私の病気も治せる?」
ドライバーはさも当然の様に─しかし、何かに縋るようにニアにそう聞く。
ニアにもその思いは何かしら伝わっており、少し罪悪感のような、胸が締め付けられる感覚を味わう。
「分からない──けど、やってみても…」
ドライバーの手をぎゅっと両手で握り、目を瞑る。瞬間ニアの周りに緑色の淡い光と緑色の光の玉が現れる。
淡い光は少しずつ煙の様になっていき、ドライバー全体を包む。光の玉はドライバーの身体に吸い込まれていき──
「……気にしないで。本当は…今までも何度も試してもらっていたの。」
ドライバーは落ち込むニアの頭を撫でる。結果は、不可能だった。ニアの力では治すに至らなかったのだ。
(もっと力があれば──)
ふとそう思う。しかしそれは叶わぬ願いなのだ。ブレイドは生まれながらにして力が決まっている。回復の力を使うブレイドはそれを中心とした技しか使うことは出ないのだ。
「…ごめん」
「ねぇ、ニア。」
「ん─…」
「私のことを姉と呼んで。」
今までも何度か聞いてきた──家族として。そういう意味での言葉なのだろう。
でも──
「じゃあ、それが贖罪…?でいいわ。」
心を見透かされたような事を言われ、ニアは少し驚く。
ぱっと顔を上げると、ドライバーはいたずらっぽく笑っていた。
返事をするようにニアは口を閉じたままニッコリと笑う。
「うん、よろしく─ねぇさん」
ニアは自身の部屋に戻り、生まれて初めての夜を過ごす。その夜はむしろ耳が痛くなるほど静かで、退屈なものだった。
目が冴えているからなのか、それとも退屈を紛らわせる為かニアはベッドから立ち窓を開け外の空気を吸う。土の匂いと草の匂い、それと少しだけ湿った風の匂いがした。
静かな夜は窓を開けると一変しスズナラシムシの声やグーラフクロウの鳴き声、夜行性動物の声がする。それらに混じってターキンやノポンの声が時々する。
(窓が閉まってるよりこっちの方がいいな)
ニアはもう二度三度深呼吸をし、最後にほっと息をついてベッドに入る。
今度はすぅとそのまま目を閉じ、次の瞬間には寝息を吐いていた。
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