鶏肉「お兄ちゃん!クリスマスだよ!」 (18)
クリスマスイブだからチキンを食べるお話を書きます
今回はいつもと作風が違います。
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クリスマスをいつまで信じていたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、それでも僕がいつまでイブなどという想像上の行事を信じていたかと言うとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。
そんなことを頭の片隅でぼんやり考えながら、僕はたいした感慨もなく大学生になり、貧乏生活と出会った。
男「うっうー♪萌やし萌やし♪」
今萌やしを求めて買い物している僕は大学に通うごく一般的な男の娘。強いて違うところを挙げるとすれば少し貧乏ってところかナ~
名前は男
そんなわけで帰り道にあるスーパーにやって来たのだ。ふと見ると棚に若い鶏肉が並んでいた!
男(ウホッ!いいお肉…)
そう思っていると突然店員は僕の見ている目の前で値引きの札をつけ始めたのだ…!
鶏肉「かわないか?」
フライパン「ふん、ふふん♪」
フライパン「んにゅ?あっ♪」
フライパン「お兄ちゃん!おかえりなさいですよ♪」ジュージュー
フライパン「お兄ちゃんの事待ってるうちに…僕…」ジュージュー
フライパン「か…からだが…あちゅいよぉ…」ジュージュー
フライパン「って?あれあれ?お兄ちゃん?」
フライパン「その子…誰?」
フライパン「えっ…」
フライパン「そっ…そうなんだ…」
フライパン「ふ…ふふん!かわいい子じゃん!」
フライパン「さっすが僕のお兄ちゃんだね!」
フライパン「…え?何?」
フライパン「泣いて…そんなわけないじゃん!」
フライパン「知らない!知らない!」ジュージュー
フライパン「お兄ちゃんのバカ!」ジュージュー
フライパン「あーあ…何やってるんだろ僕…」
フライパン「ただお兄ちゃんに使って欲しかっただけなのに…」
フライパン「他の子が来たからって僕のこと使わなくなるなんてそんなわけ無いのに…」
フライパン「うっ…うっうー…」
フライパン「さみしい…お兄ちゃん…寒いよ…」
フライパン「ああ…最後に…」
フライパン「お兄ちゃんに料理…食べてもらいたかったなぁ…」
フライパン「ああ…」
フライパン「もう…僕…冷たくなってきちゃった…」
フライパン「ごめんね…お兄ちゃん…」
男「聞こえたよ」
フライパン「え?」
男「僕には聞こえたよ…君の声…」
フライパン「えっ…だって…」
男「大丈夫…僕に任せて欲しい」
フライパン「あっ…」ジュン
フライパン「なんだろう…なんだか…」
フライパン「すごくあったかい…」
鶏肉をオーブン焼きにするとき、もしもオーブンが無ければ、鍋で茹でた後にそこの深いフライパンで焼くとオーブン焼きのようになる。
友人にその事を聞いた僕はフライパンを求めてバザーに出向いた。
彼女に出会ったのはそんな日の事だった。
彼女を初めて見たとき、僕に電流が走った。
この季節によく来る現象に、それも起こりやすい体質である僕からすれば、この感覚は正直不快であった訳だが。
それでも、彼女との電流は、僕に何かを伝えようとしている。そう感じたのだ。
彼女を購入した時、売っていたお兄さんがこちらをずっと見ていたように感じたが、今日はそんな気分じゃなかったから帰ることにした。
男「ただいま」
鶏肉「おかえりなさい!お兄ちゃん♪」
鶏肉「お風呂にする?ご飯にする?それとも…」
鶏肉「わ…私?」
まずは鶏ムネ肉の下準備から始める。肌にピッチリと張り付いた皮を、身を傷つけないようにゆっくりと剥がす。
鶏肉「ふぇ…は…恥ずかしいよぉ…」
鶏ムネ肉に包丁を入れ、一口サイズにすると、ポリ袋に砂糖と一緒に入れる。
サトウ「君さぁ…いイ体してるよね…」
鶏肉「やっ…」
サトウ「甘い一時を楽しみな…」
鶏肉「だめ!そこは…お兄ちゃんしか…」
ポリ袋に入れるとしっかりと揉みほぐす。ここで砂糖が染み込むように、肉が潰れないようにゆっくりと揉んでいく。
サトウ「そんな事言って…」
鶏肉「やめっ…そんなとこっ…揉まないで…」
サトウ「柔らかくて…いいムネじゃない!」
鶏肉「あっ…だめ、らめっ…です…」
サトウ「君…本当にいいモノ持ってるね…!」
鶏肉「ふ…ふぇ…?」
鶏肉を揉んだ後は鍋にネギ、ショウガと共に入れ、浸るほどの水を入れ、火を通す。
ちなみに、この砂糖は鶏肉を柔らかくするためだけに使われており、茹でるときに甘味が抜けるので味付けの邪魔をすることがないのだ。
鶏肉「ふ…ふぇ…ごめんなさい…ごめんなさい…」
鶏肉「ごめんなさい…お兄ちゃん…ごめんなさい…」
鍋「どうしたの?」
鶏肉「あっ…あなたは…?」
鍋「私?そんなのどうでもいいじゃない?」
鍋「あなた…泣いてるみたいだけど?」
鶏肉「放っといて下さい…」
鍋「…来なさい…」
鶏肉「えっ?」
鍋「こんなところにいないで…うちに来なさい?」
鶏肉「…だめです…」
鶏肉「私…なにもできません…」
鶏肉「放っといて…くださいよっ!」
鍋「…」
鍋「…ないじゃない…」
鶏肉「?」
鍋「放っていけるわけないじゃない!」
鍋「何があったかなんて知らない!」
鍋「それでも…泣いてる女の子放って帰ったら私!二度とお鍋だなんて名乗れない!」
鶏肉「…!」ジュン
鍋「来れるわね?」
鶏肉「…」
鶏肉「…はぁい…」
茹で上がれば普段なら完成だが、今日はクリスマスらしくオーブン焼き風にしたい。そこで僕は秘密兵器を取り出した。
そう、バザーで見つけた素敵なフライパンだ。
すでにフライパンの汚れは落とし、よく拭いた後油を染み込ませている。
今回は素揚げのようにフライパンに油を軽く張らせると、100度近くまで温度を上げておく。
そこに先ほど茹でた鶏肉を放り込んで、鶏肉に油を浴びせる。跳ねると危ないので注意しよう。
フライパン「僕たち…似てると思わない?」
鶏肉「え?」
フライパン「ご主人に拾われた僕と、お鍋さんに拾われた君。」
鶏肉「…そうかな?」
フライパン「そうだよ!…だからね?」
鶏肉「?」
フライパン「お兄ちゃんのこと…忘れようと思うんだ!」
鶏肉「…!」
フライパン「ご主人には良くして貰ってる。」
フライパン「でもね?忘れられないんだ…」
フライパン「お兄ちゃんに作ってあげたご飯。」
フライパン「それを食べたお兄ちゃんの笑顔…」
フライパン「ご主人の顔を見るたび…思い出しちゃうんだ…」
フライパン「でもね…君を見ていて思ったんだ…」
鶏肉「えっ?」
フライパン「僕と同じで拾われた癖に頑張る君を…いつの間にか僕と重ねているんだ…」
フライパン「だめ…だめだよね…こんなこと…」
フライパン「だからね?やめるんだ…」
フライパン「お兄ちゃんなんて忘れて…ご主人に尽くさなきゃって…」
フライパン「考えていても…なかなか忘れられなかった…」
鶏肉「…」
フライパン「それでね…思い出したんだ…」
鶏肉「…何を?」
フライパン「最後に、鳥の丸焼きを食べさせたかったんだって…」
フライパン「だからね?これで忘れることにするよ…」
鶏肉「…だめだよ…」
フライパン「…えっ?」
鶏肉「だめだよ!そんなの!」
鶏肉「そんなんでいいの?」
鶏肉「お兄ちゃんの事を忘れる?そんなのできるの?」
鶏肉「結局いつまでたっても言い訳してるだけじゃん!」
鶏肉「彼を…お兄ちゃんを…お兄さんの代用品に扱うな!」
フライパン「…っ!」
フライパン「…っ!なっ!なら!」
フライパン「僕はどうしたらいいの!」
鶏肉「笑えよ!」
フライパン「…っ!」
鶏肉「私たちの仕事はなんだ!?」
鶏肉「お兄ちゃんを笑わせることだろ?」
鶏肉「それなのに、そんな…私たちが…笑わなくてどうするんだ!」
フライパン「…あっ!」ジュージュー
鶏肉「やるよ?」
フライパン「…?」
鶏肉「お兄ちゃんを…笑わせる…最高の仕事をしようよ!」
フライパン「…っ!…うん!」
油で炒めたら塩と胡椒をまぶして完成。
温かいご飯と一緒に掻き込もう。
男「はっ…はふ…」
男「ん…んん…」
男「ん…んまっ…あー」
男「あー旨い…鶏肉…うまいよ…」
男「はぁ…美味しいっ…!」
フライパン「…」
鍋「どう?」
フライパン「え?」
鍋「やっぱりかわいいでしょ?」
フライパン「そ…そんなわけ!」
鍋「ふふ…」
鍋「よかったわね?最後にいい仕事で?」
フライパン「…はいっ!」
男「あーうまっ!」
フライパン「…っ!」ジュン
フライパン「これからも…よろしくね?」
フライパン「ねぇ?…ご主人?」
本当に何書いてるんだろ俺?
これにて完結です。
皆さんもチキンを食べて良いクリスマスを!
1作目 「鶏丼」 男「だ…だめっ!」
男「だ…だめっ!」 - SSまとめ速報
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2作目 「簡単トマト鍋」 男「だ…だめだってば…」
男「だ…だめだってば…」 - SSまとめ速報
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