【ミリマス】ロボ・アイドル (17)
ロボ・コップって面白いですよね
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「昨今、個人情報の流出やサイバー犯罪、そういったものが多発している」
下ろしたブラインドの間を指で広げ、外を覗きながら堂城社長は言った。
その姿は、まるで昔のドラマの、犯人を監視するために、張り込みをする刑事のようだった。
「我が事務所も、芸能界に属している限り、その対象にならないとは、残念ながら言い切れない」
ブラインドの間から外を見るのを気に入ったのか、高木社長は、ブラインドを広げたり閉じたりして、カシャカシャと音を鳴らした。
「社長、そうやって外を見るの、ブラインドが痛むのでやめてください。」
高木社長とプロデューサーにお茶を淹れてきた、765プロ事務員音無小鳥が社長をたしなめる。
そう言われ、高木社長が渋々とブラインドから指を離し、こちらを振り向いた。
「そこで、だ。君にはその対策をしてもらおうと思っているのだよ。どうか、わが事務所、765プロを守ってくれないか?」
「わかりました。慎んでお請けいたしましょう。」
事務所のアイドルたちを守る、そんな使命を受け、プロデューサーは立ち上がった。
「という訳で、全員にに集まってもらった」
劇場の控え室に、ミーティングと称して765プロのアイドルたちを全員召集した。
社長から言われたことを説明し、そしてその対策を発表するという話を、何故か全員、真剣な面持ちで聞いていた…一人を除いて。
「あの、プロデューサー、ミーティングの意図がいまいちわかりません。それに全員集まってません。」
率直な疑問を、アイドルの最上静香がプロデューサーに投げかけた。
それに、全員強制召集と称して、レッスンや仕事をわざわざキャンセルし、オフのアイドルたちも呼んだというのに、数人のアイドルがいなかった。
それに、そのような対策ならば、パソコンをネットに繋がないとか、SNSはプロデューサーの承認を得て書き込むとか、今までの対策で十分なはずだった。
「ああ、今ここにいないアイドルたちのことか。それなら大丈夫だ。」
プロデューサーが指を鳴らすと、いないアイドルの人数分の何かが、金属音をたてながら入ってきた。
「我が765プロの誇る最大の対策、ロボ・アイドルたちだ。」
「右から自己紹介を」
「AKN80C、野々原茜チャンダヨ。ヨロヨロヨシシシクククク…」
爆発音とともに、ロボ・アイドル野々原茜の体が四散した。
爆発せずに残った首が、床に転がった。
「…そして次に…」
「待ってください、プロデューサーさん。茜さんの首が落ちてます」
北沢志保が冷静に指摘する。
「そっち!?そうじゃなくて、プロデューサー!何やってるんですか!?」
驚きと怒りの混じった声を、静香はプロデューサーにぶつけた。
それに対して、プロデューサーはきょとんとした顔で首を傾げた。
「何を言ってるのか解らない、って顔しないでください!アイドルを改造するなんておかしいと思わないんですか!?」
「これはアイドル皆を守るためにやったことだ。むしろ褒め称えられるべきと思うのだが…」
ややいじけた様な言い方で、プロデューサーが静香に言い返した。
「そうよ、プロデューサーさんの言う通り、アイドルとしての自分の身を守るためには、ロボ・アイドルになることも仕方ないわ」
「志保!?」
静香は、志保の言ったことに驚きを隠せなかった。
志保とはよく意見が対立するとは言え、少なくとも常識に則った事を言うとよく知っていた分、今ここで志保が全くの常識はずれなことを言うとは、思っていなかったのだった。
「ちょっと志保、大丈夫?あなたは流石にそんなこと言わないはずなのに、どうして、ねえどうして…?」
「私は至って普通よ。あなたの方こそ大丈夫なの」
話を元に戻すために、プロデューサーが静香と志保を見ながら咳払いをした。
「もういいか?続けたいんだが」
「よくありません!こんなの間違えてます!」
「なら仕方ないな、連れていけ!」
プロデューサーの指示で、千早と昴のロボ・アイドルが静香の腕を脇に抱えて拘束した。
「ちょっ、やめて、千早さん!昴!嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
静香は、必死の抵抗も虚しく、二人のロボ・アイドルによってどこかへ連れていかれてしまった。
「さて、紹介を続けよう。」
GNH961我那覇響、MTK65ロコ、A0N0R1横山奈緒や、静香を連れて行ったB72AA如月千早、NS47永吉昴の紹介をし、ミーティングが終わる直前に静香は戻ってきた。
「UDN77最上静香デス、ヨロシクオ願イシマス。」
こうして、765プロに6人のロボ・アイドルが誕生した。
「さて、この6…だな…6人は、来月の定期公演でデビューということになるから、みんな手伝ってほしい。よろしく頼む。」
こうして、ミーティングは終わった。
全ては765プロのアイドルを守るため、新たなアイドル時代が幕を開ける。
「すばるとロコかっこいい!ねえねえ!おやぶん、たまきもロボ・アイドルになりたいぞ!」
目を輝かせながら、環はプロデューサーに言った。
「そうだな、じゃあ次は環をロボ・アイドルにしてあげるからな」
「わ~い」
環は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「さて、瑞希、6人の様子はどうだ?」
765プロ劇場の地下の秘密施設で、瑞希はロボ・アイドルたちの調整を行っていた。
「はい、曲はインストールしましたので、いつでも大丈夫です。ただ、ダンスの方にやや問題が…」
ロボ・アイドルは一体あたり300kg近い重量があるため、素早い動きや機敏な動きはできない。
そのため、ダンスの調整は極めて困難だった。
「来月までに間に合いそうか?」
「むむむ…出来るとこまではやってみましょう。やるぞ、ギーク瑞希」
それからは、ロボ・アイドルの調整と話題作りの毎日だった。
動作確認のために、走らせたり、踊らせたり、仕事に行かせたり…
メディアは連日765プロの新アイドルの話題で持ちきりで、トークショーや、バラエティー、クイズ番組に引っ張りだこになった。
他にも、車や電車と並走する、公園でダンスの練習をする、プロレスラーに挑む…etc等SNS上でも大いに賑わった。
一ヶ月後、ついにロボ・アイドルのステージ初御披露目となる。
あれから色々な改善の甲斐もあり、動作はもはや人間のものと変わらないまでに改善されたロボ・アイドルたち。
新たな765プロの、否、アイドル史の幕開けとなる。
これが成功すればロボ茜の修理と環のロボ化と、全765プロアイドルを段階的にロボ・アイドルにする野望は目の前だった。
そして当日、劇場のチケット売り場は一目ロボ・アイドルを見ようと大勢の人が押し掛けた。
劇場事務員の青羽美咲一人では対応しきれないことは明白だったため、10体のロボ・美咲を起動して事に当たった。
チケットを買えなかった人のために、街中の大型ディスプレイや地上波で生放送をすることとなったのは、高木社長の力によるものが大きい。
「いよいよだな…」
舞台袖からステージを見つめているプロデューサーの目には、熱いものが込み上げていた。
今ここで、自分の作り上げた伝説が始まろうとしているという、感慨深いものがあった。
開演のブザーが鳴り響き、いよいよ新たな伝説が幕を開けるときが来た。
「本日の765プロライブシアターにお越しいただき…」
開演の挨拶が終わる。
6人がステージに上がり、曲が始まった。
そして、それは曲の中頃位だった。
「ん?」
「どうしました?プロデューサー」
「いや、ステージの床が」
6人の踊るステージの床に、亀裂が走っていた。
どうやら、ステージが6人の踊りに耐えきれていないようだった。
「まずい、ステージの床を下から補強するぞ!急いで資材を持ってくるんだ!」
もしもステージの床が抜けてしまえば、765プロ史上最大の失態となってしまう。
それだけは避けなければならなかった。
ステージの裏では、床板がミシミシと嫌な音を立てていた。
「持ってきたか!?」
「すみません!今用意できるのはこれくらいしか」
「いやとりあえずこれでいい!とにかく床下に入れるんだ!」
ステージの床を突き破る音がしたのはその時だった。
「しまった、あれはロコの足か!すぐ行くからな!」
「プロデューサー!」
設営のスタッフが止めようとするのを振り切って、プロデューサーはステージ下からロコの足を持ち上げようとした。
「プロデューサーさん。客席が大パニックです。」
「み…瑞希か…今そんなところじゃ…うおおおおおおおお!痛っ!」
300kgを越える体の一部を持ち上げようと必死になるプロデューサーだったが、ダンスのプログラムが止まらず、ロコの床にめり込んだ足は動き続けた。
頭にロボロコ蹴りを喰らいながら必死になるプロデューサーだったが、更に悪いことに、ロボ響の足も床にめり込んだ。
「ひ、響ー!!!!!」
「まずいです、プロデューサー。ロボ伴田さんのモーターが焼けつきそうです。このままだと、最悪爆発…」
「うおおおおおおおおお!!!!!!!!」
「プロデューサー、最終手段です。ステージの床を落としましょう。そうすれば少なくともロボ・アイドルの爆発は防げると思います。」
「…仕方ないか…」
6人の両足は全て床にめり込み、ステージ下はモーターオイルの蒸発した煙で充満していた。
そして、両足がめり込んでもなお6人がダンスを止める気配は無かった。
プロデューサーは最終的に顔にいい蹴りを食らい、KOされてしまった。
それを、スタッフが命を懸けて助けたのだった。
「ここに爆薬があります。ステージの骨組みにセットして、このリモコンで爆発させます。」
「わかった。俺がやる。瑞希たちは客を避難させてくれ。」
「それじゃあ、プロデューサーは…」
「これは俺がふざけた責任だ。最後まで責任をとらせてくれ。それと、ロボとリンクさせてる6人を解放してくれ…あと茜も」
そう言って、プロデューサーは煙の充満するステージ下へと消えていった。
「ゲホっ!煙い…こ、これが骨組み…か?とにかく、できる限り仕掛けなければ…!」
煙で何も見えず、まともに息もできない状況下で、プロデューサーは爆薬を仕掛けていった。
客席の方は、スタッフとアイドルが総出で避難を誘導していた。
(息が…もう、爆薬は…ない、はず…リモコンを…)
「…プロデューサー、…客席と、スタッフ、アイドルたち避難は終わりました。急いで…避難を…」
無線から、瑞希の通信が聞こえた。
(俺は…ダメみたいだ…仕方ない…か)
プロデューサーは最後の力を振り絞って、リモコンを手に取りスイッチを押した。
ステージは爆破され、資材とロボ・アイドルたちに押し潰され、プロデューサーは気を失った。
「うーん…ステージが、アイドルが落ちてくる…はっ!?」
何かが落ちてくる悪夢にうなされたプロデューサーは、目を覚ました。
「なんだか変な夢だったな…ロボ・アイドルか…」
夢について、しばらくプロデューサーは考えた。
そして結論に達した。
「よく考えたら、ナシだな」
完
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