白菊ほたるの不思議体験 (27)


・白菊ほたる、安部菜々のコミュ1以前の話として書いています
・事務所が潰れて路頭に迷ったほたると地下アイドル時代の菜々さんが同居しています

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その1・アイドルこわい


ほたる「ランニングしていたら、靴紐が切れて」

菜々「ふむふむ」

ほたる「そのまま転んで土手を転がり落ちて」

菜々「大変でしたねえ」

ほたる「それで土手にあった古い祠にぶつかってちょっと壊しちゃって」

菜々「そしたらケモミミが生えちゃったと?」

ケモミミほたる「そうなんです…!」


菜々「そんな馬鹿な」

ケモほた「でも生えたんです!(耳ぴこぴこ)」

菜々「うわあ耳動いてる」

ケモほた「どう思います、これ」

菜々「いやどうもこうも…」

ケモほた(涙目で耳をぴこぴこさせている)

菜々「流石にこれはあざと過ぎるなあとしか…」

ケモほた「好きであざとくなってるわけじゃありません」


菜々「ちょっと尖り気味で前を向いてて…狐の耳ですかねえ」

ケモほた「こんな耳が生えちゃって…もうケモミミアイドルを目指すしかないんでしょうか」

菜々「心配なのそこ?」

ケモほた「重要です!」

菜々「ほたるちゃんなら立派なケモミミアイドルになれると思いますが、実生活に差し支えありますし、なんとかしたいですね」


ケモほた「なんとかなるものなんでしょうか…」

菜々「とりあえずお酒を買いに行きましょうか」

ケモほた「お酒?」

菜々「はい。とりあえずその祠の神様に謝りに行くのが大事だと思うので…とりあえずお酒を持っていけば間違いないかなと」

ケモほた「そういうものなんですか」

菜々「はい!『酒はのめのめ茶釜で湧かせ』って歌もあるぐらいで」

ケモほた「ああ、お神酒あがらぬ神はない、でしたっけ…」

菜々「……あー」

ケモほた「?」


菜々「ああいえいえ。そういうことです。日本の神様への供物ならお酒が鉄板です。あとは―――」

ケモほた「あとは?」

菜々「冷蔵庫からあぶらげを出してー(ごそごそ)」

ケモほた「出して?」

菜々「濃い目のお出汁でじっくり煮てー(ことこと)」

ケモほた「見るからにおいしそうです…!」

菜々「でしょう?はいどうぞ(ほたるの前にあぶらげの皿を置く)」

ケモほた「え?」

菜々「はいどうぞ召し上がれ」


ケモほた「え?これはその神様にお供えするんじゃあ…」

菜々「その必要は無いでしょう。というかいつまでほたるちゃんのふりをしてるんですか」

ケモほた「な、何を言って…」

菜々「フッ、簡単な推理です…いいですか」

ケモほた(ごくり)

菜々「このごろの女子中学生はデカ○ショ節なんて知らないんですよ!正体を出しなさい!」

狐憑きほたる「お主、拾ってもらえないのが解ってて何故ネタをふった!?」

菜々「どうでもいいじゃないですか!ただの自爆です」

狐憑ほた(かわいそうなものをみる目)

菜々「と、とにかく、祠を壊したのは謝りますから、早くほたるちゃんから出てあげてください…というか何故取り付いてるんですか。祠を壊された罰ですか?」


狐憑ほた「うむ、最初はそのつもりでな。ちょっと脅かしてやるだけの予定だったのだが」

菜々「だったのだが?」

狐憑ほた「この娘に憑いて気が変わった。わらわもアイドルになりたい!!」

菜々「ええええ」

狐憑ほた「いやあ今の世の中アイドルなんてのがあるんじゃなあ。憧れるのう」

菜々「お、お気持ちは解らないでもないですが…!」

狐憑ほた「そのためには身体が必要じゃ。この娘の身体はこれからわらわが使わせてもらう」


菜々「そんな…!やめてください!それにアイドルへの道はそんな簡単じゃないですよ!?」

狐憑ほた「なあに、知っとるぞ?ケモミミ美少女とかお前ら好きなんじゃろ。ケモミミアイドルとしてデビューして手っ取り早くチヤホヤ」

菜々「正座」

狐憑ほた「えっ」

菜々「そこに正座してください」

狐憑ほた「なんかお前顔恐くない?」

菜々「ケモミミアイドルとして人気者になるのが、そんな簡単な道だと思っているんですか…?」

狐憑ほた「あっ、ひょっとしてわらわ地雷を踏ん…」

菜々「これからナナがケモミミアイドルの道の厳しさをしっかり教えてあげます。逃がしません」

狐憑ほた「ひいいい!」


●一時間後

ほたる「…あの、菜々さん…」

菜々「なんですか?まだ話は途中ですよ。そもそもケモミミは過剰供給気味で…」

ほたる「いえ、あの…」

菜々「なんですか。そう簡単には許しませんよ!?」

ほたる「私、どうして油揚げの煮物を前にして菜々さんにケモミミについてお説教されているんでしょう…」

菜々「あ、ケモミミ消えてる。逃げられた…!」

ほたる「逃げ…?」

菜々「ほたるちゃん!今日ランニング中にぶつかった祠に案内してください」

ほたる「えっ、えっ」

菜々「あの狐にケモミミを甘く見たことを反省させてあげなくちゃ…!」

ほたる「???」

そしてそれ以来、土手の祠からは夜になると『アイドル恐い、アイドルこわい』と呟く声が聞こえるようになったそうな。

めでたしめでたし。


その2・『食べ合わせ』

ほたる(ある冬の夜、菜々さんと私、二人ぐらしのアパート)

ほたる(その夜、妙に眠りが浅くて、息苦しくて。私は夜中、目を覚ましてしまいました)

ほたる(飛び起きて、よかった夢だったと胸を撫で下ろそうとして―――私はまだ夢が続いているのかと目を丸くしました)

ほたる(だって、だって)


ほたる「な、菜々さんの上に半裸の女の人が馬乗りになってるー!?」

???「あら、目を覚ましてしまったのね貴女。運が悪いこと」

ほたる(限りなく全裸っぽい半裸のお姉さんは、色っぽく舌なめずりしました)

ほたる「な、菜々さんが痴漢に襲われ…あ、女の人だから痴女さん―――!?」

???「痴女違いますー!!夢魔です!夢魔!!」

ほたる「夢魔…!」

夢魔「そう、夢魔!」

ほたる「…って、何ですか?」

夢魔「近頃の子供は夢魔も知らないの」

ほたる「す、すみません…」

夢魔「まあ妖怪ね。夢を見せて、そのかわり大きくなった夢と精気を喰うの」


ほたる「…精気を食べられた人はどうなってしまうんですか?」

夢魔「ちょっと疲れるだけよ。ただ―――」

ほたる「…ただ?」

夢魔「あたしの夢はとってもいい夢なの。もう一度、もう一度見たいって願う人は多いわ」

ほたる「……」

夢魔「あたし、親切だから。そしたら何度でも夢を見せてあげるの。でも、そうして夢を見すぎると、魂まで磨り減って死んじゃうかも?」

ほたる「な―――菜々さんを、殺す気なんですか!?」

夢魔「嫌ねえ。選ぶのは本人よ。だけど、人間の、『いい夢を見ていたい』って気持ちは本当に強いわ。その中で、夢と一緒に死んじゃうならそれも幸せじゃなくて?」

ほたる「そんな―――そんな事…!!」

夢魔「いま、この子はアイドルになった夢を見ているわ。デビューして、CDも売れて、大きな会場でコンサート。一躍時の人。長く求めて叶わなかった夢が叶う夢はどんなに甘美かしら、ほほほ」


ほたる「そんな―――菜々さん!菜々さん!目を覚まして!!」

夢魔「無駄よ。あたしの甘美な夢から抜け出せるものは居ない。ふふ、貴女にも後でとってもいい夢を―――」

菜々「―――チ」

夢魔「…え?」

菜々「ウサミン・パーンチ!!!!!!」

夢魔「ふぎゃーーー!?」

ほたる「菜々さんのパンチが夢魔の人を!?」

菜々「ええいナナを騙そうったってそうは―――あれ?ここはナナの部屋!?ヘンなPさんは?ていうかこの半裸の女の人は?痴女?」

ほたる「違うんです菜々さん。かくかくしかじか!」

菜々「なるほどナナに夢を見せていた夢魔なんですね了解です!!」

夢魔「端折るな!というか何故だ!私の甘美な夢から何故…!!」

菜々「え、だって都合よすぎたから」

夢魔「  」


菜々「いきなりスカウトされて鳴り物入りでデビューが決まってCD初回百万枚とか言い出すからこれは絶対詐欺師だと思ってそのプロデューサーさんぶっとばそうと、こう、パンチを」

ほたる「それが夢魔さんに命中して目が覚めたんですね…」

夢魔「そんな馬鹿な。甘美な夢に抗うなど…」

菜々「ナナが何年アイドル目指してると思うんですか!そんな都合のいい話が無いってことは、ナナが、ナナが一番…うわーん!!」

ほたる「菜々さん!?」

菜々「あんな、あんな夢見せるなんてひどいー!!」

夢魔「いやほら、いい夢。いい夢だったでしょ?ね?」

ほたる「…菜々さんに謝ってください」

夢魔「貴女目が据わってない?」

ほたる「いいから、謝ってください。菜々さんを傷つけたことを!」

夢魔「…う、うるさい!喰らえ!!」

ほたる「あっ…!(ばたり)」

菜々「ほたるちゃん!?」

夢魔「大体貴女が起き出したのがケチの付き始めよ。眠れ!!あんたの夢ごと、魂を貪り食ってあげる!!」

菜々「や、やめなさい!ほたるちゃんから離れて!!」

夢魔「うるさい!この娘の夢と魂を喰い尽したら次はお前―――(ぴたっ)」

菜々「…え?」

夢魔「うっぷ」

菜々「えっ、えっ!?」

夢魔「なにこの子の夢。濃い。悪夢濃い…」

菜々「えええええ」

夢魔「さっきまでの夢と食べ合わせ悪すぎ。ごめん帰ります胸焼けするうっぷ」

菜々(唖然)

夢魔「退散するわ。もっと食べやすい夢を探すとしましょう―――(どろん)」

菜々「消えちゃった…」


ほたる「う、ううん…」

菜々「ほたるちゃん!!だ、大丈夫ですか!?」

ほたる「はい、特に何も―――あの、何がどうなって」

菜々「よかった…ほたるちゃん」

ほたる「は、はい…?」

菜々「…明日、二人で神社に行って、獏のお札を貰ってきましょうね。きっといい夢見られますよ…!」

(ちなみに、獏のお札はよく効きました)



その3・貴女の夢は何ですか


少女幽霊「恨めしや」

ほたる「ごめんなさい私のせいで…!」

少女幽霊「えっ」

ほたる「えっ」



少女幽霊「初対面の人にいきなり謝られるとは思わなかった」

ほたる「あの、てっきり私の不幸に巻き込まれてお亡くなりになったとかそういうことかと…」

少女幽霊「違う違う初対面」

ほたる「でも、恨めしいって…」

少女幽霊「生前夢が叶わなかったり理不尽な目ばかりだったから、なんかこう…世間の全てが恨めしいというか」

ほたる「……」

少女幽霊「誰でもいいから八つ当たりしたかったというか…」

ほたる「……」

少女幽霊「なんか改めて口に出すと私みっともなくない…?」


ほたる「でも気持ち解ります…」

少女幽霊「解っちゃうんだ」

ほたる「苦しいことばかり起こったり、傷ついたり、巻き込みたくない人を巻き込んだり、世の中って思うに任せない事ばかりで…」

少女幽霊「えええ何、なにそのやたら訳ありっぽい表情」

ほたる「…私、不幸体質で…」

少女幽霊「ハッ不幸?言ってみなさいよあたしより不幸ってことはないでしょ」

ほたる「アイドルになろうと頑張ったら●●●が×××で」

少女幽霊「えっなにそれ」

ほたる「△△△しようとしたら▼▼▼だったり」

少女幽霊「ええええ」

ほたる「私のせいで事務所が三件潰れて、沢山の人を不幸にして…」

少女幽霊「ごめんあたしが悪かった」


少女幽霊「あのねー」

ほたる「はい」

少女幽霊「たぶんあんた、死んだほうがラクよ?」

ほたる「……」

少女幽霊「死んだら『周り』はないもの。誰も巻き込まないし、あんたに後ろ指したみんなを、好きに恨んでいいのよ」

ほたる「……」

少女幽霊「人を不幸にするとか、誰かに気を使ってびくびくしたりしなくていい。あんたみたいなのはその方が絶対ラクだって」

ほたる「…でも」

少女幽霊「でも?」

ほたる「今死んだら、私は人を不幸にするだけのものだったことになっちゃうから」

少女幽霊「……」

ほたる「それをもう二度と覆せなくなっちゃうから」

少女幽霊「バカな子ねえ…」

ほたる「ごめんなさい…」


少女幽霊「恨めしいって祟りに来たのに謝ってどうすんのよ。死なないんなら覚悟決めなさいよ。あんたの行く道は、ガチで自殺者が出るぐらいは厳しいんだから」

ほたる「はい、ありがとうございます」

少女幽霊「お礼言うのもやめて!なんかすごい変な気分になる!!…それじゃね」

ほたる「あ、あの」

少女幽霊「何よ帰るって言ってるでしょ」

ほたる「幽霊さんの、生前果たせなかった夢、って―――?」

少女幽霊「あんたに聞かせる義理ないでしょ」

ほたる「おばけに驚かされた側としてはちょっとあるかなと」

少女幽霊「あんた実は図太くない!?」

ほたる「ごめんなさい、でもちょっと気になって」

少女幽霊「……」

ほたる「……」


少女幽霊「アイドル」

ほたる「えっ」

少女幽霊「文句ある!?あたしもアイドルになりたかったのよ!全然ダメだったけど!!」

ほたる「幽霊さん…」

少女幽霊「そんな目で見ないで」

ほたる「ううん、見てください」

少女幽霊「えっ?」

ほたる「私を、見ててください。頑張ってみますから」

少女幽霊「……」

ほたる「諦めず、最後まで、やってみますから。幽霊さんの言うように覚悟決めてるかどうか、見ててください」

少女幽霊「……」

ほたる「それが、幽霊さんの夢の替わりになったりはしないと思うけど…」

少女幽霊「バカじゃないの。あたしの夢はあたしのものよ。替わりなんかない」

ほたる「す、すみません」

少女幽霊「でも、解った。見ててあげるから―――がんばりなさい。それじゃ」

ほたる「消えちゃった―――」


●後日

悪徳P「何故だ」

悪徳P「何故白菊にセクハラしようとすると肩が滅茶苦茶重くなって寒気がするるのだ!!」

悪徳P「くそう負けん!あの幸薄そうな子を今日こそ(滅茶苦茶に重くなる肩)うぐぐぐく…!」

悪徳P「今日のところは諦めてやろうじゃないか…!」

(おしまい)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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