【初投稿】七本脚の賢い獣 (6)

初投稿です。
よろしくお願いします。
グロ方向でR-18になるかな?という予定です。
書き溜めはありませんがプロットは一応完成しているので、
逃げずに完結させたいと思っています。

お楽しみください。

「埒が明かないな……」
 警官隊のひとりが憎々しげに呟いた時には、傍若無人なテロリストたちが人質を取ってビルに立てこもり既に三時間が経過していた。
 説得にも交渉にも応じる気配はなく、ひたすら自分たちの要望を押し付けてくるだけ。警官たちにとってすれば人質の安全を保っているのが精一杯という状況である。
 だが、それも時間の問題だろう。ピリピリとした拮抗状態はいずれ崩れる運命にある。そうなる前に、どうにか苦境を打開しなくては――。

 そう、誰もが考えていた時だった。

「ちょっと失礼します!」

 真っ赤な拡声器を小脇に抱えた黒髪の青年が、動揺する警官たちでできた人垣をかき分け、事件現場にかぶりつきの最前列へ駆け抜けてくる。何人か静止しようとする警官もいたが、青年の胸元に目をやるとすぐさま立ち退いた。
 先程愚痴を吐いた警官の近くまで到着すると、青年は怒りと使命感に満ちた雰囲気の顔つきでビルの四階――テロリストが立てこもっているあたりを睨みつけた。この警官も例によって非常識な青年を注意しようとしたが、ふと思い至るところがありこう質問した。

「もしかして、黒猫団の?」
「はい。だけど説明は後です。ちょっと俺から離れていてください」
「は、はぁ……」

 自信満々の形相で拡声器を構える青年を見て、警官は一歩後ずさる。
 赤い拡声器? そうだ、思い出した。

「君、確か名前は葛城」
「――バカヤロー!」

 状況に見合わない、素っ頓狂な罵声。
 だが、周囲にいる警官たちや野次馬にその声は届いていない。至近距離にいた警官にもだ。ただ、この葛城という青年が拡声器に向かって口をパクパクさせている様子しか分からなかった。

 ガシャン。

 一拍間を置いて、四階の窓から警官たちを見張っていた武装テロリストのひとりが、転倒してそのまま姿を消した。
 拮抗状態が潰えた瞬間である。

「警察の皆さん、今です! 急いで!」
「と、突入ー!」

 完全に意味が分からないが、葛城の胸元で光っている銀色のバッジと、噂に聞く赤い拡声器が警官を後押しし、号令をかけさせた。きっと、今から事件は解決するのだろう。

 なぜなら、ここに現れたのは紛れもなく、悪を滅する力を持った正義のヒーローなのだから。

***

「やれやれ、もうちょっとまともな決め台詞とかは思いつかないのかよ」
「ヒッ!」
「お、あんたはあの声に耐えられたのか。ご愁傷様」

 葛城の『声』で気を失わなかった一部のテロリストは、裏口から脱出を試みた。しかし彼らは揃って不運である。気絶しておけばよっぽど幸せだった。
 そこで待ち構えていたのは葛城のバディ、刀使いのヒーローである三賀だったからだ。

 サアッ、と風が薙ぐように、三賀は刀を振り下ろした。そうすると怯えた悪漢が一瞬で静かになる。

「悪いが俺はあいつみたいに甘くなくてね……ってもう死にかけか」

 こんなんじゃまた降格だな、とぼやいているのに口元は笑みに似て歪んでいる。三賀がダークヒーローの一歩手前、『灰被り』と呼ばれる所以だ。

 なにはともあれ、ヒーローの葛城と裏方の三賀、そして有象無象の警官たちのおかげで事件は収束した。
 今生まれた一時のクールタイムの間に、この奇妙な世界のいきさつについて語らなければならないだろう――。



 七本脚の賢い獣
  episode 1 さよならバディ

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