― カフェ ―
男(お、いい席が空いてる)
男(今レジに並んでるのは俺だけだから、確実にあの席に座れる! ラッキー!)
店員「ご注文は?」
男「ホットコーヒーと……」
客「……」スタスタ ドサッ
客「……」スタスタ
男(は!?)
男(俺の後から店に入ってきた客が、カバンで俺の狙ってた席を取ってから、俺の後ろに並びやがった!)
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――
――――
男(あ~……思い出してもムカムカする)
友「さっきからなにイライラしてんだ?」
男「実はさ、今日の昼間さぁ!」
男「あ~……ダメだ! 口に出そうとするとさらにムカムカしてくる!」
友「お、落ち着けよ。とりあえず、そこらのバーにでも入って一杯やろう。な?」
男「ああ……そうするか」
― バー ―
友「ま、乾杯」
男「……乾杯」
友「で? なにをそんなにカリカリしてたんだよ」
男「カフェとかで席取りするのってずるいよな」
友「は?」
男「さっきこういうことがあったんだよ」
男「先にレジでメニュー頼むタイプのカフェでさ、いい席が空いてたわけよ」
男「窓際の景色のいい、ゆったりしたソファ席がさ」
男「で、レジには客が俺しかいなかったから、あの席に座れると思ってたわけよ」
男「あそこでのんびりコーヒー飲みながら本読んだらさぞ優雅だろうな、とウキウキだったよ」
友「うんうん」
男「そしたら、後から店に入ってきた奴が、俺の狙ってた席にカバンをドサッと置いてから」
男「悠々と俺の後ろに並びやがってさ……」
男「そいつのせいで俺はその席に座れなかったんだよ! あんなのアリかよ!?」
友「ああ、なるほど……」
男「ああいう店って俺の中じゃ、注文してはじめて席を選ぶ権利を得られる、みたいな認識があったから」
男「コーヒーを頼んで受け取ってから席につこうと思ってたのに」
男「それをああもあっさり横からかっさらわれてさ」
男「正規のルートでレースしてたら、ショートカットで追い抜かれた気分だ」
男「俺は……悔しい!」
男「おかげで、せっかく頼んだホットコーヒーも苦々しかったよ!」
友「それ、お前が砂糖入れ忘れてたからだろ」
男「まあ……そうなんだけど」
友「お前の悔しい気持ちは分かる。俺も似たような経験はあるからな」
男「だろ?」
友「だけど、そいつをずるいとも断言はできないな」
友「店によっちゃ注文前の席取りを推奨してるとこも多いし」
男「そうなの? なんで?」
友「注文して金払って見回したら席がありませんじゃ、クレームつけてくる奴もいるだろうし」
友「席の確保はお前らでやっとけよって風にしといた方がトラブルも少ないだろ」
男「ああ……そういうこともあるか」
男「でもさ、ああいうの認めちゃうとなんでもアリになっちゃうじゃん」
男「たとえば、まだ注文決まってないのに席にカバンだけ置いてゆっくり悩むとかずるいだろ」
男「席はいい場所取るし、注文はじっくり悩む。お前どんだけ自分が好きなんだよと思っちゃう」
友「まあ、そういうのはたしかにずるいかもな」
友「でも、禁止されてるわけでもない以上、結局席取りした奴の勝ちになっちゃうんだよ」
友「事実“好きな席に座る勝負”が今回行われてたとしたら、お前の負けだったんだから」
友「お前は狙ってた席に座れなかった、そいつは座れた。それが全てだよ」
友「結論としては、じゃあ次からはお前も席取りするようにしようね、ってなっちゃう」
男「そう! 俺がいいたかったのはまさにそれだよ!」
男「席取りがやったもん勝ちだとすると、やられた方だって当然次はやろうってなる」
男「今回、俺がこの敗北を反省して次からはカバンを置くようにするとしよう」
男「そうすると、敵は当然『もっと早くカバン置かなきゃ』ってなる」
男「そしたら俺だって負けないように『もっと早くカバン置かなきゃ』ってなる」
男「これがイタチごっこみたいになるわけだよ」
男「そのうち俺たちのスピードは音を越え、光の速度になっちゃうかもしれない!」
友「ならねえよ」
友「てか、お前が今日のそいつとまた会う可能性は限りなく低いだろ」
友「だけどまあ、いわんとしてることは分かるよ」
友「一度席取りしたもん勝ちなムードになると、それが加速してっちゃうかもってことね」
男「そうそう!」
男「会社の花見なんかもさ、いい場所取ってる会社に限ってみんな残業して遅く来たりすんだよな」
男「席取りというと、こういうこともあったな」
友「なに?」
男「俺……まだ受験生の頃、図書館によく通ってたんだよ」
友「へえ、そんなキャラだったんだ」
男「まあな……結局、志望校には受からず滑り止めに入ったんだけど」
男「ああ……センターの日に体調崩さなきゃなぁ……。なんで風邪ひくかなぁ……」
男「なにやってんだ俺……」
友「自分で勝手にトラウマ掘り起こさないでくれる?」
男「で、図書館の自習室みたいな場所っていっつも混んでてさ」
男「せっかく来たのにどこも座れないこともあったわけよ」
友「ふうん、俺の実家近くの図書館は全然そんなことなかったけどな。いつもガラガラ」
男「うちの図書館は近所に塾も多かったから、その影響もあったんだろうな」
男「でさ、席を取れないこと自体はまぁしょうがないんだけど」
男「許せないのは、席を外す時に荷物置いて席を確保しようとする奴な」
友「へ? それの何がいけないの?」
友「勉強中ちょっと席を立つことぐらいあるだろ。トイレとか」
男「トイレぐらいならいいよ。長くても10分程度だ」
男「でもさ、何時間も席を外す奴も多いんだよ。多分メシとか食ってるんだろうけど」
男「何時間も席を立つなら、他の人に譲ろうよって話だよ」
友「ああ……それは確かによくないな」
男「しかも、そういう奴に限って、席取りの仕方が雑でさ」
男「ノート一冊とかプリント一枚だけ置いて、数時間席をキープってそりゃおかしいだろ!?」
男「そんなムシのいい話あるかよ! 他に勉強したい奴はいっぱいいるのに!」
男「ああいう奴がいなければ、俺もきっと志望校に合格してたはず……」
友「いや、その理屈はおかしい」
男「あと話は変わるけど、コミケ。コミックマーケット」
友「めっちゃ変わったな」
男「あれだって、徹夜で並ぶ奴が迷惑だって問題になってるじゃん? 行ったことはないけど」
友「そうらしいな」
男「あれも早い時間から並んだ方が自分の狙ってる商品を買えるから」
男「いくら注意されても徹夜で行列してるわけじゃん? 行ったことはないけど」
友「欲しいグッズとかがあるんだろうな」
男「席取り合戦の行きつく果てはあれだよ」
男「いずれエスカレートして『俺が先にカバン置いた』『俺がペン置いた』『消しカス置いた』ってなるよ」
男「まぁコミケ行ったことないけどさ」
友「いいよ、そんなに強調しなくても」
友「で?」
男「え」
友「本当は?」
男「え?」
友「行ったこと?」
男「……ある」
友「やっぱりな」
男「ごめん」
友「いや、謝られる意味が分からない。で、どうだった?」
男「ゴチャゴチャしててよく分かんなかった……何も買わずに風邪だけもらってきた」
友「何しに行ったんだよ……」
男「とにかくだ!」
男「ああいう先にツバつけたから俺のものね、みたいなのはよくないと思う!」
男「一度始まったら、互いにツバつけ合ってベチョベチョになるもん」
男「画期的なアイディアを俺が先に考えた、いや俺だって奪い合ったり」
男「この業界を牛耳ってるのは先駆者だったうちの組織なんだからみんな従え、とか」
男「うちの国民を先に住まわせたからこの領土はうちのものね、とかさ……」
友「なんかどんどん話がでかくなってきたな……」
友「とりあえず、いったんここで話を区切ろうぜ。収拾がつかなくなる」グビッ
男「そうだな」グビッ
男「それにしても、このバーは客入りが少ないな」
友「確かに……。もう小一時間はいるのに、誰も客が来ないな」
男「こういう場所なら、席取り合戦なんてのも起こらないんだろうけどな」
友「そりゃそうだ」
男「だけど、こんな客入りで儲かるのかな?」
友「今日はたまたま人が少ないのかもよ」
バーテンダー「お客さん」
バーテンダー「本日の料金です」サッ
¥100,000
二人「は!?」
男「ちょ、ちょっと待ってくれ! なんだよ10万円って!」
友「俺たち酒一杯飲んだだけじゃないか!」
バーテンダー「うちは少々値段設定が高めでしてね。きっちり払ってもらいましょうか」
男「誰が払うかこんなもん! ぼったくりだ!」
友「意地でもここを抜け出して、近くの交番に駆け込んでやるよ!」
バーテンダー「そうですか。だったら仕方ありませんねえ」
バーテンダー「おい!」
用心棒「へい」ズイッ
男「なんだこいつ……」
友「で、でかい……」
バーテンダー「こいつは元関取でしてねえ。同門の力士を半殺しにしてるんですよ」
用心棒「抜け出せるもんならどうぞ」パキポキ…
二人「関取はずるいよぉぉぉぉぉっ!!!」
― 終わり ―
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