【モバマス】速水奏の人生相談部屋 (35)
1
私の名前は速水奏。
事務所で人生相談のボランティアをしているわ。
人生相談といっても大袈裟なものではないの。
愚痴を聞いてあげたり、落ち込んでいる子が前を向けるようにひと言ふた言アドバイスしてあげるだけ。
大抵はそれだけで終わる。
みんな元々強いもの。
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転んだりつまずいたりすることはあっても立ち上がるだけの意思があるのよ。
私のやっていることは…そうね…。
うん、例えば、転んだ時に擦りむいた傷に絆創膏を貼ってあげたり、立ち上がる時に手を差し伸べるくらいの役目かしら。
ほんの少しだけ手助けしてあげているのよ。
立ち上がるのは本人が頑張らなきゃいけないわ。
ふふ、少し前置きが長くなってしまったみたい。
さて、今日はどんな迷える子羊がくるのかしら。
本当は1日中誰もこないのが1番なのだけれど…。
「おはようございます!! お悩み相談室はここですかー!!」
…意外な子が来たわね。
「日野茜です! よろしくお願いします!」
「おはよう茜。そんなにかしこまらなくていいわよ」
「は、はいっ!」
今日初めての来訪者は日野茜ちゃん。
あまりに一緒の仕事をしたことはないけれど、彼女のことはそれなりに知っているわ。
茜は目立つもの。
活動的、前向き、元気、強気、けれど案外乙女。
私は彼女のことをそう捉えていたけれど…実は深刻な悩みを抱えているのかしら?
表面上は明るくても深く傷付いている子はいるもの。
パーソナリティを要素に分けて単純化して、その人を知ったつもりになっちゃダメよね。
まずは先入観を持たずに話を聞いて、それから判断することにしましょう。
「さて、茜。今日は何の用かしら?」
「…実は悩みがありまして」
「うん。よければ悩みを話してもらえるかしら?」
「は、はい。実は…ここだけの話ですが、最近、未央ちゃんと藍子ちゃんの様子がおかしいように感じるんです…!」
「あの2人の様子がおかしい?」
「ええ」
「具体的にはどんな風におかしいのかしら?」
「例えばですけど、2人きりでコソコソ出かけたり、話をしていたり…」
「でも、私とはいつも通り接してくれているので嫌われているわけではないと思うのですが…」
「んー…何やら気になってしまうんです」
「なるほど…ね」
案外、素直な悩みね。
普段食べているご飯が5杯から3杯に変わってしまったとか、そういう悩みじゃないかって一瞬でも思ってしまった自分を恥じるわ。
「2人がコソコソし始めたのはいつ頃なのかしら?」
「1週間くらい前ですね」
「それじゃあ夏休みに入る前頃ね」
「はい」
「よそよそしくなった…わけではないのね?」
「そうなんです。ただ私にだけ何かを隠しているような…」ウ-ン
「…」
そういえばつい最近…私も同じようなことを感じたわね。
フレデリカと周子がヒソヒソ2人で話してニヤニヤして私も蚊帳の外にされていたわ。
今は7月の終わり…そういえば茜は…。
「茜。ちょっとごめんなさいね」
「携帯電話…あ、誰かからメールでもきたんですね」
「そんなところ」
未央に連絡を入れて…と。
…。
やっぱりそうだったのね。
茜には言わないでくれ、か。
まあ当然ね。
この場合は言わない方がいいもの。
「茜」
「な、なんでしょう。何かわかりましたか?」
「ううん。何もわからなかったわ」
「…そうですか」
「でも、あの2人を信じていいと思うわ。大丈夫。気にしすぎなければいいのよ」
「は、はい。分かりました」
「…」
まだ納得いっていないような顔ね。
でも、こればっかりは言えないの。
ごめんね。
「ありがとうございました」
首を傾げながら帰っていったけれど心配はいらないわ。
8月4日には全部わかるもの。
その日は茜の誕生日。
2人はサプライズで祝ってくれるわよ。
そうしたらモヤモヤしていた分が喜びに変わる。
…私も楽しみにしてるわ♪
2
さて、次の子は…。
「奏さん!! 助けてください!! 夏休みの宿題が全然わからないんです~!」
この子はお客さんじゃないわね。
「見てください! この量!」
「ユッコ。自分で頑張りなさい」
「ひーん! 手伝ってくださーい! おーねーがいーしーまーすぅー!」
「ねぇ、ユッコ」
「は、はい!」
「自分で頑張りなさい」
「2度繰り返さないでください!」
「こうして話している時間ももったいないと思うけど?」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
プロデューサーに頼んでみるって言ってたけど、プロデューサーはできるところは1人でやれって言うでしょうね。
あの人も厳しい時は厳しいもの。
…ふう。今回はスピード解決だったわね。
3
さて、次のお客さんは…。
「こんにちは。よろしくお願いします」
可愛らしいお客さんね。
橘ありすちゃん。
ユニットでは何度か一緒に活動させてもらっているわ。
ちょっぴり背伸びしがちだけど、努力家で真面目な子ね。
「座って頂戴」
「は、はい」
「緊張してなくてもいいのよ。それじゃあ、話を聞かせてもらえるかしら」
「あの…今日は大人っぽくなるためのコツを聞きに来たんです」
「あら。美波や文香によく聞いているみたいじゃない」
「はい。ですが、意見は出来るだけ多く収集して分析するのがよいのだという話を本で読んだんです。ですから、ぜひ奏さんのお話も聞きたいと思いまして」
「…すごく大人っぽくて素敵ですし」
「ふふふ。ありがとう」
…さて、どんな風に答えようかしら。
憧れるという感情は素敵なもの。
感情を否定することはいけないわね。
なら…。
「ありす。美波や文香は意識して大人っぽくしようとしていたかしら?」
「いえ。していませんでした」
「私も同じよ。大人っぽくしようと振舞っているわけではないの」
「…そうなんですか?」
「ええ。私もそうだけれど、美波も文香も、自分らしく生きることで精一杯だと思うわ。大人っぽくしようとして大人っぽくなれるほど、私たちは器用じゃないもの」
「…で、でも…私には素敵に見えます」
「だったら、ありすもそこを真似をすればいいじゃない」
「え?」
「みんな大人っぽくなろうとしていない。けれど、大人っぽく見える」
「なら、真似すべき部分は『自分らしく振舞うこと』でしょう。ありすはありすの信じるように振る舞えばいいのよ」
「…」
「ありすのひたむきなところや、向上心の強いところはみんな長所に思っているわ」
「だから、無理することはない。憧れの人の真似をするのはいいけれど、表面的なところじゃなくて、本質的な部分を見習うほうがいいわ」
ありす「…!」
「…というのが私個人の意見よ。どうかしら?」
「あ、ありがとうございます。 すごく参考になりました!」
「ふふふ。あくまで一個人の意見だもの。鵜呑みにしちゃダメよ」
「批判的に意見を分析する、ですね」
「あら、難しい言葉を知ってるのね」
「当然です♪」
ふふっ。生意気なところは抜けないみたいだけれど、来た時よりも晴れやかな表情になってくれたみたい。
この先、ありすがどうなるかはわからないけれど…きっといいアイドルに成長してくれる。そんな予感がするわ。
4
「シクシク…ヒュードロロ…」
…大きな布を被ったお客さんが来たわね。
おばけのつもりかしら。まだハロウィンはまだ先よ?
「どうぞ。そこにかけて。前が見辛そうだから転ばないようにね」
「シクシク…ありがとうございます」
「あらどうして泣いているのかしら?」
「実は、最近…同じユニットのメンバーであるK.Hさんという子が構ってくれないんです…シクシク…アタシたちの大切なお友達なのに…」
「なるほど。それは悲しいわね」
「でしょ? 鬼だよね?」
「その子にも事情があると思うのだけれど」
「ノンノン♪ 事情があろうとなかろうと、フランスっ子はフレンドと一緒にティータイムをエンジョイしたいのさ♪」
「ほとんど英語ね」
「イェース。ウィーキャーン♪」
ふぅ、どうしようかしら。
面倒だから帰りなさいと追い出すのは簡単だけれど…確かにしばらく遊んであげていないわね。
仕事が忙しかったり、モデルの仕事ですれ違いになったりして…顔も合わせていなかったもの。
でも…1週間前にお茶したわよね?
今週は忙しかっただけでそんなに寂しがるほどでもないわよね?
…。
「フレちゃん」
「なぁに。奏ちゃん」
「いまからお茶にでも行きましょうか」
「行くー♪ 行く行く♪」
「ちょっ。飛び出して来ていきなり抱きつかれると驚くわよ」
「えへへ♪ 奏ちゃーん♪」
ふふふ、甘えられると困るわね。
5
もう夕方ね…あと何人かの話を聞いたら終わりにしようかしら。
真面目な相談以外は来て欲しくないのだけれど…。
「話を聞いて!! 奏ちゃん!!」
思ったそばからね。
一応、聞くだけ聞こうかしら。
「どうしたのかしら。友紀」
「プロデューサーに怒られて事務所でビールを飲むのを禁止されてしまったんだよ…!」
「友紀。机に突っ伏さないでちょうだい」
「あたしは悔しいんだよ…奏ちゃん…!」
「自業自得よ。飲んでも他の子に絡まなければよかったのに」
「ひーん!! そんな殺生なー!!」
「友紀」
「な、何さ」
「帰って飲みなさい」
「…そうします」
酔っ払いの相手も疲れるわ。
でも、こういう平和な相談ばかりの方がいいのかもしれないわね。
6
少し眠くなってきたわ。
もう今日は終わりにしましょう。
色々な子から話は聞けたし…充実した1日だったわ。
「こんばんは。まだやってる?」
あら、意外なお客さんね。
「ええ。どうぞ、プロデューサーさん。どんな相談なのかしら?」
「実は俺の知り合いにさ、自分も仕事で忙しいくせに、他人の悩みの相談を受け付けてる子がいるんだ」
「それは頑張り屋さんなのね」
「ああ、だけど心配なんだよな。休むときはちゃんと休んでもらわないと」
「本人がやりたがってるなら無理に止める必要はないと思うわよ」
「止めようとは思ってないよ」
「それがいいわね」
「でも、他人の話ばっかり聞く立場は疲れると思うんだ。自分で思ってる以上にさ」
「うん。それで?」
「奏」
「はい」
「帰り。ご飯食べに行こう」
「いいわよ。プロデューサーさん」
ふふっ、回りくどいお誘いだったわね。
でも、心配してくれているんだもの。
こういう時は…素直に甘えるのが1番よね。
終わり
以上です
お読みいただきありがとうございました
なんか毎回ユッコが出てる気がするな…
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