【ミリマス】P「願いを灯に込めて」 (12)
アイドルマスターミリオンライブ!のSSです
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昨春、765プロにシアター部が設立されてから、一年と少し。
初めの頃はほぼほぼ素人同然でレッスンに掛かりきりなアイドル候補生たちと共に細々と営業回りをしていたが、最近は様々なところで着実に成果を上げてきている。
こうして階段を登っている僅かな時間に静寂が存在しているのを改めて意識すると、仕事がないせいでアイドルたちが遅くまで事務所で駄弁っていたのが遠い昔のようだ。
ぎいっと鳴る扉を慎重に開ける。
廊下を進んで奥の左側、談話スペース。居た。
やや癖のあるこげ茶の髪。
俯きながら片手でスマホをいじっていて、せっかく横顔も綺麗なのに、ふわふわの髪ですっかり覆い隠されてしまっている。
とはいえ、背筋が美しいのはさすが、レッスンの賜物でもあるだろうが、彼女自身の心掛けも良い。
スマホをいじってはいるが、それほど指が動いていないところからすると、おそらく次回のオーディションの資料を見ているのだろう。
ふむ。
あまり資料が必要な仕事ばかりというのも何だし、今度は雑誌の仕事も入れてみるか。
「志保」
「あ……お疲れさまです」
すいっとスマホをポケットに仕舞った。たった一つの仕草だけで、ずいぶんと成長を感じられるものだ。
「すまん、遅くなって。長引いてな」
「プロデューサーさんから呼びつけておいて待たせるなんて……しっかりしてください」
「まあまあ、その分収穫はあったから」
「なら、いいです。それで、何ですか」
がさりと、左手に提げていたビニール袋を掲げる。怪訝そうな顔。うん、可愛いな。
「ええ、と……見ても?」
「もちろん。志保へのプレゼントだ」
「あ、ありがとうございます。……これは」
志保の両てのひらに載るくらいの鉢植え。
慎ましい幸せを連想するような、白くて小さなベルが連なっている。
「スズラン。渡したかった季節とは、違うんだが。この時期のものだから」
「スズラン……可愛い花ですね」
「だろ。ランプみたいで、なんだか暖かそうだと思ったんだ」
「暖かそう、ですか」
「うん」
人の行く先を照らす光であり、帰り路を導く標。
あるいは、人の集まる場を見守る祈り。
「だから、志保にいいなと思って」
そう伝えると、鉢植えに視線を落とす志保。
華奢な指がそっと花に触れる。
「プロデューサーさんが何を考えているのかは、分かりませんけど。でも、たぶん……きっと、私のことを考えて選んでくれたんだろうなってことは、分かります」
ふふ、と口元が綻んだ。
俯き気味な志保の顔を直視出来ない位置にいてよかったと思う。
「ありがとうございます。大切にします」
きっととても、綺麗な表情をしていただろうから。
「さて、用事はこれだけだ。わざわざ事務所に帰ってきてもらって悪かったな。仕事の話の方が嬉しかったか?」
「いえ、そんな。お花も……嬉しいです」
「そうか。いや、実は、週一のラジオのレギュラーなんて話も来てたりする」
「!」
「分かりやすくていいな、お前は」
一瞬だけ目が輝いたあと、慌てて左上を向く。
本当に、志保は感情表現が分かりやすい。それを汲み取る術を知っているならば。
「よし、帰ろうか。いつもより遅いだろ、送ってくよ」
「そうですね、プロデューサーさんが直帰じゃなくて事務所で待ってろって言うから」
「手厳しいな……」
右手に提げていたビニール袋をデスクに置く。
今日の水やりは、まあいいか。
「何ですか、それ」
「ん? これもスズラン。2つ買ったんだ」
「…………、……ふぅん」
劇場に居住まう光を支える柱であり続けたいという所信表明、になるのかな。
いつまでも彼女たちの未来を示す存在として、そしていつでも彼女たちが帰ってこられる場所として。
扉の端の方を抑えながら鍵を差し込んで回す。
あぁ、夏に入るまでに業者さんにエアコンを見てもらわないとな……。
たるき亭の横を二人で通り過ぎる。
「そういえばそれ、有毒だから食うなよ」
「たっ……!? 食べませんよっ、プロデューサーさんは私を何だと思ってるんですか」
「まあほら、弟さん小さかったじゃないか。そうだ、なんなら寄ろうか」
「駅までお願いします」
「はい」
ちゃりんちゃりんと指で鍵を回す。
来年のことを言うと鬼が笑う、などというし、こと芸能界においては少し先のことだって分かりやしない。
けれどどうか少しでも……この小さな幸せを、出来るだけ長く感じていられることを願わずにはいられない。
「プロデューサーさん、歩くのが速いです」
「このペースでしか歩けないもので。頑張って追い付いてくれ」
「大人げないですよ」
「うるせえ」
おしまい。
グリマス更新終了が悲しくてかっとなってめちゃくちゃ久しぶりにSS書いた。
あと20分ラスイベ頑張れ。
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