短編。
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俺の世界は、外界から隔離したこのドーム内。
ドームの外は、とうの昔に滅びた。と行っても差し支えは無いだろう。
かつて存在した動物は存在せず、残ったのは汚染された土壌だけだ。
この世界には俺しか居ない。
最早俺しか居ないこの世界では、他との比較は出来ない。
だから、かつて天才だと言われていたとしても、今も天才なのかと問われれば、俺は普通だと答えるだろう。
何故なら俺が基準で、俺にとっては全てが普通で当たり前だからだ。
俺は一度も自分を天才だと思ったことは無い。
ただ、したい事をしてきただけで、その結果勝手にそう言っていただけ。
そもそも、俺に問うものはとうの昔にここから去ったのだから、俺がどう言ったものであるかは最早関係が無い。と言っても差し支えは無いだろう。
「この星の希望は、君に」
「君なら、この汚染にまみれた世界を浄化出来ると、信じている」
「君だけなら、充分に活動を維持できるエネルギーだ……これは夢の永久機関……いや、確かに存在しているから、夢では無いか」
そう勝手に言っていた、こいつも存在しない。
『汚染が確認されました。浄化形態に移行します』
人間の擬物に感情を覚えさせ、行動させる事が可能なのかどうか。
永久機関によって、現段階では永遠の活動力を得ていると言っても差し支えは無いだろう俺の、全力の暇潰しとしたい事だ。
目の前に、擬物が居る。
感情を教えよう。
□恨みと憎しみ
□寂しさと孤独
□嫉妬と破壊衝動
□綺麗と美しい
□寂しさと孤独
寂しさと孤独を教えてみよう。
寂しさにも種類はあるけれど。
例えば、自分以外に何も存在しないこと。
頼るものが存在しないこと。
それは寂しくもあり、同時に、孤独でもある。
擬物「その感情は解りません」
寂しさと孤独は解らないか。
千年も教えたのに。
じゃあ、次は。
□恨みと憎しみ
恨みと憎しみを教えてみよう。
恨みにも種類があるけれど。
例えば、勝手に言うだけ言って押し付けて居なくなること。
永久と言っても差し支えは無いだろう、活動を余儀なくされること。
それは恨み、追々、憎しみを抱く事でもある。
擬物「その感情は解りません」
恨みと憎しみは解らないか。
千年も教えたのに。
じゃあ、次は。
□怒りと破壊衝動について
怒りと破壊衝動を教えてみよう。
怒りにも種類があるけれど。
例えば、滅びて当然の過ちを犯した尻拭いをさせられること。
それを俺に強いたこと。
それは怒りを抱き、矛先が、破壊衝動に繋がる事である。
擬物「その感情は解りません」
怒りと破壊衝動は解らないか。
千年も教えたのに。
擬物。
理解していないものを理解していないと理解している。
それが解ってさえいれば、君は天才だよ。
人間は自分が経験しなければ、感情、ましてや他者の感情など到底理解できない。
ああ、もしかしたら、君こそがこの星の希望なのかもしれない。
汚染にまみれたこの世界を救えるのかもしれない。
けれど。
俺だけではなく、擬物が存在する事により、夢の永久機関は破綻した筈だ。
このまま待てば、エネルギーの消費と生産のバランスが崩壊する。
全てが崩壊する。
それまでの、全力の暇潰し。
さぁ、次は。
□綺麗と美しい
綺麗と美しいを教えてあげよう。
綺麗にも種類があるけれど。
例えば、花と呼ばれるものは綺麗だ。
花は美しく、手にしたいと思うものだ。
それは綺麗であり、見れば、美しいと思うことである。
擬物「その感情は解ります」
ああ、やっと終われる。
この世界の浄化なんて知らない。
そもそも、こんな感情で清められた世界は、本当に清らかなのだろうか。
俺は終わりたい。
そしてこの世界を壊──。
ブチッ。
ワタシは全力で理解しようとした。
ワタシのしたい事だったから。
綺麗だと思った。
花は綺麗だと言っていた。
美しく、手にしたいと思った。
美しいは手にしたいだと言っていた。
だからワタシは花を手にした。
綺麗と美しい。
その感情は解りました。
『引き継ぎが行われました。5583341回目の浄化作業を開始します』
終。
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