川島瑞樹「My Way」 (12)
瑞樹「おはようございます。」
文香・むつみ「おはようございます。」
どうやら、文学少女二人で読んだ本について語り合っていたようね。この二人なら、間違いなく冒険小説。
今日、私の予定は、鬼のベテトレさんのレッスン。・・・ちょっと憂鬱だわ。
むつみ「もう、ドキドキしっぱなしでした!」
ふふふ。相当面白かったみたいね。まぁ、文香さんのオススメなら間違いないけれど。
むつみ「やっぱりあの一言ですね!『あなたの冒険は、どこにあるの!?』って。」
!!その言葉・・・言葉は違えど、意味するものは、あの日、私に決心をさせたものと全く同じ・・・
瑞樹「・・・ねぇ、その本、私にも貸してもらえるかしら?」
文香「瑞樹さんにですか?えぇ、構いませんけど・・・」
むつみ「瑞樹先輩も、冒険に興味があるのですか?」
瑞樹「いや、冒険というわけではないのだけれど・・・」
そこにあった本は「グリックの冒険」。アニメにもなった、「冒険者たち」の続編ね。
「冒険者たち」も結構長くて、途中で断念した記憶があるわ。
瑞樹「ちょっと、今の会話で読んでみたくなったの。私がアイドルになったきっかけに似ていたから。」
文香「瑞樹さんが、アイドルになったきっかけですか?」
むつみ「知りたいです!教えていただけますか?」
瑞樹「そうね・・・たいして面白い話でもないと思うけど。」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1510441973
― - - - - - - -
アイドルになる前、私はアナウンサーをしていたのは、知ってるわね?
レギュラー番組も貰って、時々はゲスト出演なんかもしたりして、割と売れっ子だったと思うわ。
正直、将来的なことを言うなら、間違いなく、出世コースだったと思うの。
でもね・・・
当時、私の中に、一つのわだかまりがあったの。
それは「最高の傍観者」というわだかまり。
あ、勘違いしないでね。アナウンサーという仕事に誇りも持っていたし、
どんなことも可能な限り私情をはさまず、事実のみを伝えてきたつもりよ。
けれど、私はいつも、スポットライトを当てる役割だったの。
ライトを浴びるのは、ニュースだったり、他のタレントさんだったり。
そんなある日、局の中で彼に声をかけられたの。「アイドルに、なりませんか?」って。
ホント、バカよね(笑)そんなことしたら、ヘタしたら仕事なくなるわよ。
それでも、彼はそう言ってきたの。
その時は、年齢のこともあるし、アナウンサーの仕事に誇りを持っていたから、断ったわ。
でも、その名刺はなぜか捨てられなかった。
それからしばらくして、仕事でちょっと嫌なことがあって、ムシャクシャしていた時、
部屋で音楽を聴きながら一人酒をしていたのね。
どれくらい飲んでいたかしら・・・少し、頭がボーっとしていた時だったわ。
力強いサウンドと、しゃがれた独特なボーカルが流れ出したの。
「This ain't a song for the broken-hearted」って。
それは、Bon Joviってアメリカのバンドの、「It’s My Life」って曲だったわ。
高校の時に付き合っていた彼氏に借りたCDに入っていたから、かなり前の曲ね。
音楽なんて、普段は軽く聞き流す位なんだけど、その時はなんか、聴き入っちゃった。
そして、その曲は、サビで、こう歌うの。
「It's my life. It's now or never. I ain't gonna live forever. I just want to live while I'm alive.」
訳すと、「これは俺の人生だ。その時は今か、永遠に来ないか。」
「永遠に生きられるわけじゃない。俺は命ある限り、生き続けたいんだ」ね。
酔いなんて、吹っ飛んじゃった。気が付けば、何回もリピートして聴いていたわ。
私は・・・私の人生を生きたい。私のステージに立って、私らしく、輝きたい!
もっともっと、挑戦してみたい!知らない世界へ、飛び出したい!!
・・・その夜のうちに、私は辞表を書いたわ。
そして翌日、私はそれを提出。もちろん引き留められたけど、私の気持ちが変わらないとわかってくれたわ。
そして、応援すると言ってくれた。それは他の仲間たちもそうだった。
その数日後、恋人から呼び出されたの。
話はアナウンサーを辞めることについてだったわ。
彼は青年事業家として成功を収めていて、まぁ、いわゆるエリートだったわね。
そ。そのままいけば、超人気女子アナになって、近い将来、お金持ちの青年事業家と結婚して寿退職。
晴れてセレブの仲間入りってレールが用意されていたわけ。
もちろん、それだって、自分で作ってきた道だし、自分でつかみ取ったものよ。
そのコースもなかなかに魅力的だし、自分で作って来たって自負も、もちろんあるわ。
けれど・・・私には満足できる道では、なかったのね。
正直に、自分の気持ちを話したわ。そしたら彼、なんて言ったと思う?
「それなら、今の瑞樹は、ただの無職予備軍じゃないか。」
「今まで苦労して積み上げてきたものを壊すなんて、気でも狂ったのか?」ですって。
「アイドルなんて、使い捨てのお人形じゃないか。」
「露出の多い服を着て、せいぜい愛想ふり巻きながら、へたくそな歌うたって手足バタバタ動かして」
「あとは事務所の力なり何なりで『見せかけだけの人気者』になって」
「数年経って、飽きられる前に、さようなら。」
「そんなくだらない人生を歩むのか?」
「・・・そうね。それでも私は、私として輝きたいの。」
「ほんの一瞬でもいいから、私自身の足で、ステージに立って、ライトを浴びたいの。」
そして彼、こうも言ったわ。
「そんな人とは結婚できない。俺の結婚相手は、ちゃんとした肩書のある人でなければ」って。
まぁ、つまり、彼は「川島瑞樹」ではなく、「売れっ子女子アナ」と結婚したかったのね。
当然、その場で婚約も破棄する旨を告げたわ。だって、バカにしてるじゃない。
「もういい歳なんだから、大人になれ」なんてことも言っていたけど、
「私は十分に大人よ。あなたとは違う人種のようだけど」って言ってやったわ(笑)
そして、それっきり。
局を退職して、荷物を大幅に処分して、ワンルームの小さなマンションに引っ越して・・・
当然でしょ?収入が激減することはわかりきっているんだから。
それからすぐ、Pさんに電話したわ。彼、本当に喜んでくれた。
― - - - - - - - -
瑞樹「おしまい。ね、たいして面白くもないでしょ。」
むつみ「瑞樹さん。すべてを捨てて、アイドルになったんですね。」
瑞樹「そんなカッコイイもんじゃないわよ。ただ、バカなだけ(笑)」
瑞樹「収入は激減するし、レッスンはキツイし、Pさんは『お酒は控えろ』ってうるさいし(笑)」
文香「愚者・・・それは誰よりも先を進むものに与えられる称号です。」
文香「その称号を得られるのは、結果を恐れず、誰よりも勇気を持って、自らの足で歩んだ者だけ。」
文香「たしかに瑞樹さんに、ぴったりですね。」
瑞樹「(笑)ありがとう。さて、それじゃあ、その愚か者は鬼のレッスンに行くわね。」
瑞樹「自分で選んだ道なんだから、胸をはって、精一杯に走らなくっちゃ。」
そう、これは私の道。これが、私、「川島瑞樹」の人生よ!
以上です。
短いですが、ありがとうございました。
個人的には、ロックというと瑞樹さんが浮かびます。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません