レナ「喧嘩売ってきたのはそっちでしょ!?」 かえで「それ蛙さんだよレナちゃん」 (58)

蛙「……」ピョンビョン

レナ「黙ってないで何とか言ったらどうなのよ!」

かえで「レナちゃん、止めようよ、蛙さん可愛そうだよ……」

レナ「かえでは黙ってて!これはコイツと私の問題だから!」

かえで「ふゅぅ……」

蛙「ケロケロ」

レナ「ふざけてないで、ちゃんと質問に答えろっての!」

かえで「ごめんね、蛙さん……」



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蛙「別にふざけては居ません、水波レナ、私は喧嘩を売ったつもりはないのです」

レナ「人の足を汚しておいて、喧嘩売ってないワケないじゃない!」

蛙「その点については謝罪します、貴女に私の存在を気づかせる為、仕方なく足に飛びついたのです」

レナ「ぜんっっっぜん謝られてる気がしないんだけど!」

かえで「レナちゃん、大きな声で独り言するのやめようよ……」

レナ「はあ!?誰が独り言なんて……!」

蛙「私の声は、水波レナ、貴女にしか聞こえません」

レナ「……は?」

蛙「先ほど飛びついた時に、対話の為の魔力を繋げさせてもらいました」

蛙「今、私と貴女は魔力で作られた糸で繋がっていて、会話できているのです」

蛙「当然、魔力の糸が繋がっていない他の方には私の声は聞こえません」

レナ「……あんた、何者よ」

蛙「私は、貴女と同じ……」



「魔法少女です」



 

レナ「あははは、かえで、聞いた今の」

かえで「え、何を?」

レナ「こいつ、今、自分の事を魔法少女だって言ったじゃない、傑作よね!」

かえで「うわあ……」

レナ「誰かの悪戯かしら、この蛙が玩具で、マイクを仕組んでいるとか」

蛙「止めなさい、足を掴むのは止めなさい、水波レナ」ジタバタ

レナ「うわっ、本物じゃない、キモっ」ポイッ

蛙「きゃっ……」

レナ「あら、旨く着地するわね」

レナ「凄いじゃない、蛙に芸を仕込むなんて」

かえで「レナちゃん……」

レナ「棒で突いてみよっと」

蛙「やめなさい、やめるのです」

かえで「レナちゃん!」

レナ「わっ、な、なによ突然大きな声出して」

かえで「……レナちゃんがクラスで苛められてるのは、ちょっと知ってるよ」

かえで「けど、レナちゃんはずっと平気そうにしてたし、大丈夫だと思ってた」

かえで「けど、けど辛かったんだね、ごめんね、レナちゃん、気づいてあげられなくて……」

レナ「かえで?」

かえで「大丈夫!皆に相談して、きっと何とかしてあげるから!」

レナ「え、な、なにを?」

かえで「心配しないで!レナちゃん!私達に任せて!」

レナ「う、うん、何だか良くわからないけど、あの、ありが、と」

かえで「それと、そのシュレーゲルアオガエルさんを苛めちゃ駄目だよ!」

レナ「シュレ……何?」

かえで「シュレーゲルアオガエルさん!少しの間だけ、レナちゃんの心を守ってあげて!」

蛙「はい」

かえで「えっと、まずももこちゃんの所へ行って事情を話して……」タッタッタッ

レナ「……行っちゃった、何なのよ」

蛙「きっと、友達想いなのでしょうね」

レナ「それで、アンタは何なの?どっかから魔法少女が操ってるんでしょ?」

蛙「いいえ、私は魔法少女本人です」

蛙「遠隔で蛙を動かしていたり、幻聴や幻覚を貴女に齎している訳ではありません」

レナ「……ひょっとして、変身能力?」

レナ「私以外にそんな力持ってるヤツ、居たんだ……」

蛙「流石は水波レナ、察しが良いですね」

蛙「しかし、半分は間違っています」

蛙「私は、確かに蛙に変身してしまっていますが、自分でそのような能力を持っている訳ではありません」

蛙「魔女との交戦中に、何故か蛙になってしまったのです」

レナ「魔女との戦いの最中に?魔女の攻撃で蛙になったって言いたいの?」

蛙「……或いは、それ以外の介入があった可能性も否定できません」

レナ「魔女以外に、誰がそんな事できるのよ」

蛙「貴女は知っているはずです、魔女以外でも、このような事を出来る可能性がある者達がいる事を」

レナ「魔女以外にって……そんなの……」

レナ「……」

レナ「……」

レナ「魔法少女の誰かが、アンタを蛙にしたって事?」

蛙「可能性の一つとしては、ありえる話です」

蛙「水波レナ、貴女のように『自分が他人になる能力』を持つ方が居るように」

蛙「他人を蛙に変えてしまう能力を持つ方が居ても、不思議ではありませんよね」

レナ「……はっ、そんなのありえないでしょ」

レナ「魔女の力だって言われても眉唾な話なのに、それを魔法少女の仕業だなんて……」

蛙「……それは、調べていくうちに自ずと判っていくことでしょう」

レナ「調べるって、誰が?」

蛙「それは当然……貴女と私が、です」

レナ「はあ?」

レナ「アンタの話を聞いてあげただけでも感謝して欲しいんだけど?」

レナ「何で私がそんなことしなくちゃならないのよ!」

蛙「報酬は払います」

レナ「はっ、別に今はお金には困ってないし!」

蛙「グリーフシード10個で如何でしょう」

レナ「グリーフシードにも困ってない!」

蛙「では、神浜駅前のスイーツバイキング入場券では如何でしょう」

レナ「スイ……ツ……入場券って、あのとんでもなく高いお店の?何時も予約でいっぱいだって言う……」

レナ「い、いや、やっぱり駄目よ!どう考えてもアンタの話は厄介事の匂いしかしないもの!」

レナ「私をハメようとしてね可能性だってあるんだし、そんなの気軽に受けるわけには……!」

蛙「貴女が推しているアイドルの限定握手券では如何で」

レナ「やる!」

レナ「本当にさぁちゃんの握手券くれるんでしょうね!?」

蛙「二言はありません」

レナ「それって二人分とか用意できる!?」

蛙「それは、水波レナ、貴女の働き次第です」

レナ「よーし、ももこの分も手に入れちゃおっと……」

蛙「では、契約成立という事で」

レナ「けど、具体的に何すればいいのよ?」

蛙「まずは……」

レナ「あ」

蛙「何ですか?」

レナ「やば!遅刻する!」

蛙「え?」

レナ「学校よ!学校!」


ムンズ


レナ「うわっ、やっぱりキモッ」

蛙「乱暴につかまないでください、ちょ、どこに押し込もうとして……」

レナ「ちょうど鞄の中に空のペットボトルがあったから、この中に入ってて!」

蛙「ちょ、水波レナ……」

~学校~

~放課後~


レナ「ふう、やっと今日の授業終わった」

レナ「さーて、早く家に帰ってライブのDVDでも……」

女生徒「あー、水波さん、丁度良かった」

レナ「……!」

女生徒「私、今から部活があるんだけど、教室の掃除当番に当たっちゃってさ、困ってるんだけど」

レナ「……それが何」

女生徒「は?何その口のきき方」

レナ「……」

女生徒「まあ、いいや、ねえ、水波さん、何時もみたいに掃除当番変わっくれるわよね?」

レナ「……」

女生徒「はい、これ箒とチリトリ」

レナ「……なんでレナが」

女生徒「だって、アンタ、帰宅部で暇でしょ」

レナ「……」

女生徒「早く受け取ってよ、箒」

レナ「……」ハァ

レナ「わかっ……」


『水波レナ』


レナ「え?」


『契約の事を、忘れていませんか』


レナ「あ、蛙の事忘れてた……」

女生徒「は?帰るって言ったの?」

レナ「い、いや、ちがくて……」

『学業の妨げになるのは気が引けましたので放課後まで待ちましたが』

『これ以降の遅延は貴女の報酬に影響を与えると認識しておいてください』

『それと、早くペットボトルから出してください』


レナ「ちょっと、アンタうるさいっ……」

女生徒「……は?」

レナ「やばっ……」


『貴女が行動するには、まずその女生徒と交渉する必要がある、という事ですね』

『判りました、では私が言うとおりに喋ってください』

『その際、女生徒の言葉は完全に聞き流してください』


レナ(聞き流す?)

レナ(まあ、どうせそうするつもりだったから、いいけどさ)

レナ(酷い事言われまくるんだし、だったら言葉の意味なんて深く考えないで……)

レナ(頭真っ白にして……)

『本日は家に帰って弟の世話をする必要があるので、掃除の手伝いをすることができません』

『また後日、埋め合わせをさせていただきます』

『おやめください、それは貴女自身を蔑む言葉です』

『その言葉は、貴女の本心ではないはずです、きっと部活の疲れがあるのでしょう』

『いいえ、それは逆です、私は貴女の事を尊敬しています』

『部活での苦労と活躍、お聞きしています、常日頃から尊敬の念を抱かせていただいていました』

『私にとって貴女は眩しい存在なのです、顔を見て話すなんて、照れくさいのです』

『ついつい、乱暴な口調になってしまうのも、その為です』

『今は勇気を出して話していますが、内心では……はい、そうです』

『私もそう思います』

『それは、大変でしたね、お察しします』

『はい、影ながら応援しています』

『そんな、勿体ないお言葉です』

『判りました、今度、お昼でもご一緒しましょう』

『では、また、明日』

『失礼しますね』

蛙「さて、行きましょうか水波レナ」

レナ「さて、いきましょうか……」

蛙「聞いていますか、水波レナ」

レナ「きいていま……」

蛙「ふむ……、今なら報酬無しで働いてもらう事も可能でしょうか」

レナ「いまなら……ほうしゅう……ほうしゅう……」

レナ「報酬」

レナ「さぁちゃんの握手券!それだけは譲れないんだから!」

蛙「ならば、働きなさい水波レナ、この私のために」

レナ「……働けって言ったって、何するのよ」

レナ「魔女を探すの?」

蛙「いえ、その前に私は取り戻さねばなら無い物があります」

レナ「取り戻す?」

蛙「はい、私は蛙の姿に変化した時に、二つの情報を奪われているのです」

蛙「一つ目は、自分の名前」

蛙「二つ目は、対人感情に関する情報」

レナ「は?アンタ、自分の名前忘れちゃったの?」

蛙「忘れたのではなく、失われたのです」

蛙「勿論、自分の名前を取り戻そうと色々策は練りました」

蛙「この姿のまま、自宅に忍び込み書類を調べさえしました」

蛙「幸い、識字能力は失っていませんでしたので、ちゃんと文字は読めます」

蛙「しかし、私の名前に関する情報だけは、読み取れないのです」

蛙「読み取ろうとしても、脳が理解しない」

蛙「意味不明な文字の羅列に見えるのです」

レナ「ふーん、呪いみたいなものかしらね」

レナ「けど、それならレナがアンタの名前が書かれた書類を読み上げれば解決するんじゃない?」

蛙「それも一度試しました、知人が私の話題を出すように仕向け、名前を呟かせてみたのです」

蛙「しかし、その呟きは文字の時と同じく、意味不明な音の繋がりにしか聞こえません」

レナ「なら、どうやって名前を取り戻すのよ」

蛙「もっと情報を集めて、自力で思い出すしか無いでしょうね」

蛙「失われたもう一つの情報……『対人感情』を把握していけば、道は開けるのではないかと予想しています」

レナ「対人感情って?」

蛙「人間であった頃の私は、複数の魔法少女と交流を持っていました」

蛙「仲間……といえる者も、存在したのです」

蛙「しかし、私と彼女達の間にどんな感情が結ばれていたのかが、思い出せないのです」

レナ「仲間なんだったら、尊敬とか好意とか、そういうのじゃないの?」

蛙「いいえ、違いますよ、水波レナ、人間は負の感情を抱いていても協力関係を築けるのです」

蛙「例えば、水波レナ、貴女は仲間に対して友好的な感情だけを抱いていますか?」

蛙「今まで、一度も負の感情を抱いたことはありませんか?」

レナ「そ、それは……」

蛙「もし仮に、負の感情を抱いた事があるとして……何故、そんな相手と仲間のままでいるのですか」

レナ「……」

蛙「そこには、貴女にしか判らない理由があるのでしょう」

蛙「当然です、人が心の奥に抱いている感情なんて、他人には判らないのですから」

蛙「だからこそ、私は仲間達ではなく貴女に協力を求めた」

レナ「アンタの仲間より、私のほうが信用できるって事?」

蛙「そうです」

レナ「……レナだって、そんな立派な人間じゃないと思うけど」

蛙「知ってます、この一ヶ月、監視していましたから」

レナ「は?」

蛙「私の頭の中には、様々な魔法少女に関する情報が残っています」

蛙「そして、その中で一番怪しかったのが……他者に変身する能力を持つ魔法少女、水波レナ、貴女だったのです」

レナ「アンタ、何言って……」

蛙「他人に変身できるのであれば、他人を変身させる事も可能なのでは無いか……」

蛙「そう考えるのは、自然なことでしょう?」

蛙「だから、私はこの一ヶ月で貴女の事を観察していました」

蛙「授業の時も、仲間と遊んでいる時も、家に帰った後も」

蛙「その結果、貴女が犯人である可能性は限りなく低いという結論に至ったのです」

蛙「だって、貴女はちょっと頭がわる……いえ、細かい策略を練るようなタイプでは無いと……って、や、やめなさい水波レナ」

レナ「……」ブンブンブン

蛙「ペットボトルを振るのは止めなさい、今すぐ止めなさい!や、やめ……!」

レナ「アンタ、頭良さそうな喋り方してるけど自分が蛙になってるって自覚無いんじゃない?」ブンブン

蛙「ぐぐぐぐぐぐ……し、仕方ないでは無いですか……」

レナ「レナをストーキングしておいて、何が仕方ないのよ」ブンブンブン

蛙「わ、私には、誰が味方で誰が敵が判らなかったのです!」

蛙「人物に関する情報は頭に残ってますが、誰が信用できるのかわからない!」

蛙「そんな状況で他人をまず疑ってかかるのは当然の事です!」

蛙「ずっと1人で……あ、貴女には、私の気持ちがわからないのです!」

レナ「……」

レナ(ずっと、1人で、か)

レナ(確かに、こいつの状況には同情できるかも)

レナ(だって、だって……)

レナ(レナも、クラスでは似たような感じだったから)

レナ(誰が敵か味方かも判んなくて、ずっと怖がって一人で)

レナ(感情を殺して、今まで過ごしてきたんだから)

レナ(ももこや、かえでが居なかったら、今もきっと……1人で……)

レナ(……)

レナ(それに引き換え、こいつは1人で立ち向かおうとしてたのよね)

レナ(一ヶ月も蛙のままで、たった1人で)

レナ(その辺は、ちょっとだけ、尊敬できるかも)

レナ(レナをストーキングしてたのは、気に食わないけど)

レナ「ま、いいわ、アンタには握手券を用意して貰わなきゃならないし、今回だけは大目に見てあげる」

蛙「……」グッタリ

レナ「それで、結局、レナは何をすればいいのよ」

蛙「か、簡単です、私の協力者や仲間と接触して、彼女達が私に対してどんな感情を抱いていたか調べるのです」

レナ「どうやってよ」

蛙「私の姿に変身した水波レナが、その相手と会えばいいのです」

蛙「その時の反応を見れば、大よその見当はつくはずです」

レナ「そう上手くいくかしらね……ま、レナに出来ることはやってあげるわよ」

レナ「感謝なさい、そしてレナの下僕になりなさい」

蛙「遠慮いたします」

レナ「はっ、可愛くないの」

蛙「……」



蛙(……何とか、水波レナの信用を得ることが出来たようですね)

蛙(この一ヶ月、彼女を観察して、色々と判った事があります)

蛙(水波レナは、クラスでは孤立し、仲間同士でも簡単に諍いを起こします)

蛙(ですが、決して孤独に強い人間ではありません)

蛙(恐らくここまでの人生で何度も自問自答をしていた事でしょう)

蛙(孤独である自分と、孤独を愛さない自分の差に、悩み苦しんでいたはずです)

蛙(だからこそ、私の言葉に反応した)

蛙(1人で苦しんできた事を、私が仄めかせば)

蛙(確実に共感するだろうと、私は読んでいたのです)

蛙(きっと、水波レナは、可能な限り私の力になろうとしてくれるはずです)

蛙(私の境遇を、自分の境遇と重ね合わせて)

蛙(……)

蛙(……)

蛙(一つだけ、確実なことがあります)

蛙(人の心に付け込む策を練る私は、仲間からも、きっと嫌われていたのでしょうね)

~ファミレス~


蛙「予想通り、先に席についていますね」

蛙「いいですか、水波レナ、基本的に会話の内容は私が考えて貴女に伝えます」

蛙「貴女は、それらしい仕草だけを取り繕ってくれればいいのです」

レナ「ううーん……」

蛙「聞いていますか、水波レナ」

レナ「いや、アンタが自分の写真を用意してくれたから変身は出来たんだけどさ」

レナ「なんか、見覚えあるのよね」

レナ「ミラーズで見たんだっけ?」

レナ「うーん……」

蛙「水波レナ、貴女は今、私と魔力の糸で繋がっています」

蛙「ですから、情報の共有が発生している可能性があります」

蛙「既視感があるのは、そのせいでしょう」

レナ「ま、いいけどさ……それで、今から会うのは誰なんだっけ」

蛙「彼女の名は、遊佐葉月、私と協力体制を取っていた魔法少女です」

レナ「前に言ってた、仲間ってヤツ?」

蛙「いえ、仲間ではありませんでした、あくまで協力体制を取っていただけです」

レナ「ふーん」

蛙「では、行きますよ、水波レナ」

レナ「はいはい……」

レナ(葉月、葉月、何か聞き覚えがあるわね)

レナ(何処で聞いたんだっけ)

レナ(そうだ、随分前に喧嘩売った覚えが……)

葉月「……あ、○○○さん!」

レナ(ん、今、何か意味が判らない音がしたけど……あれって、蛙の本名を呼んだのよね?)

レナ(どうしてちゃんと聞こえなかったんだろ)

レナ「え、えっと……」



レナ『こんにちは、お久しぶりですね、葉月さん』

葉月「もう!心配しましたよ~? 一ヶ月も連絡無いんですもん」

葉月「何かトラブルとかありましたか?」

レナ『少し事情がありまして、身を隠していました』

葉月「……かこちゃんとかにも内緒でですか?」

レナ『……』

葉月「うちのあやめが言ってましたよ、かこちゃんが探してたって」

レナ『少し、複雑な事情がありまして』

葉月「そうですか!まあ、けどそれも解決したんですよね?」

葉月「わざわざファミレスまで呼び出したっていうのは、そういう事ですよね?」

レナ『そうですね、事態は改善に向かっています』

葉月「改善に、ね」

レナ『実は、その事で少しご相談が』

葉月「……謝らないんだ」ボソッ

レナ『え?』

葉月「いやいや、なんでもないですよ~」ニコニコ

レナ(何かコイツ、様子が変ね)

蛙(もしかしたら、私が蛙に変化したことについて何か情報を握っているのかもしれません)

蛙(少しだけ踏み込んだ質問をしてみましょう)



レナ『葉月さん、私が居なかった一ヶ月の間、何か変わったことはありませんでしたか』

葉月「んー、変わったこと、ねぇ……」

レナ『何でも良いのです、例えば、奇妙な力を持った魔法少女や魔女を見た、とか』

葉月「……」

レナ『葉月さん?』

葉月「あ、そっだ」

レナ『何かありましたか?』

葉月「ごめん、ちょっと私、お手洗い行って来ます!」ガタッ

レナ『あ、はい』



レナ(やっはり変ね、何か隠してるのかしら)

蛙(或いは、仲間に電話で連絡する為に席を立ったのかもしれません)

蛙(ちょっと、様子を伺いに行って来ましょう)

レナ(ええと、お手洗いは、と)

レナ(ここね)

レナ(そーっと中を……)

レナ「あれ、誰も居ないじゃない、個室の方も……全部開いてるし」

レナ「すれ違いで席に戻った?」

レナ「けど……」



バタンッ


カチカチ



レナ「……!」

葉月「……」

レナ(こいつ、いつの間に後ろに……)

蛙(不味いですね、扉の鍵を閉められました)

蛙(交渉を進めて見ますが、荒事になる可能性もあります、注意してください)

レナ(判ってるわよ……)



レナ『あら、葉月さん、お手洗いは済みましたか?』

葉月「……」

レナ『葉月さん?』

葉月「そういうの、もう止めませんか?」

葉月「白々しいですし」

レナ『……!』

葉月「見え見えなんですよね、○○○さんの魂胆は」

レナ『すみません、言っていることが判らないのですが』

葉月「だから、もういいですって、判ってますから」

レナ『……』



レナ(ちょっと、これ、私が変身してることがばれてるんじゃないの)

蛙(看破されたのだとしたら、その理由は何でしょう)

蛙(もしかして、私が姿を現すはずがないと確信しているからでは無いでしょうか)

蛙(蛙になったはずの私が姿を現すはずがない……と思考しているのだとしたら)

蛙(私を蛙化させた犯人は、遊佐葉月のグループで……)



葉月「私を焦らせて、面白がってるんですよね」

葉月「私の気持ちを理解していて、こんな事をしてるんですよね」

葉月「一ヶ月も、放置して」

葉月「次に会う時は返事を聞かせてくれるって言ったのに」

葉月「ホント、○○○さんには、勝てないなあ……」

レナ『え?』

葉月「……けど、けどいいです」

葉月「許しちゃいます、こうやって戻ってきてくれたんですから」

葉月「ねえ、○○○さん……」グイッ

レナ『え、ちょ……』

葉月「あの時の、続き、してもいいですよね?」

葉月「○○○さんが悪いんですよ、こんな生殺しみたいなことするから」

葉月「私、もう我慢が……」

レナ『ひっ……』




レナ(ちょ、トイレの個室に追い詰められたんだけど!)

レナ(何か、レナの服を脱がそうとしてくるんだけど!)

レナ(い、いや、落ち着くのよレナ、蛙の事だからきっと何か策を……)

蛙(わ……)

レナ(蛙!次に何をすればいいの!?何を言えばいいの!?早く指示を!)

蛙(あわわわわわわわ……)

レナ(あ、駄目だコイツ)

葉月「○○○さん……ああ、○○○さぁん……」ハァハァ

レナ『や、やめっ……』



レナ(だ、駄目だ、このままだと押し負けちゃう!)

レナ(まさか、こいつがこんなド変態だったなんて……!)

レナ(こうなったら蹴りの一発でも入れて……)

蛙(ま、待ってください!違うのです!)

レナ(な、何が違うってのよ!)

蛙(違うのです!)

レナ(だから何が!)

蛙(彼女は、遊佐葉月は、こんな事をする方ではないのです!)

レナ(は、はあ!?)

蛙(確かに!葉月さんは計略家です!)

蛙(人当たりのよい態度で他の方と接し、相手の気が緩むのをじっくりと待つ)

蛙(そして相手も気付かぬうちに自分の策に絡め取る)

蛙(ある意味、私と似た人種なのでしょう)

蛙(けど、けど決して)

蛙(私のように望んでそんな事をやっておられるわけではないのです!)

蛙(全ては、全ては自分の仲間を守る為に)

蛙(已む無くやっておられるだけなのです!)

蛙(それが、遊佐葉月という魔法少女なのです!)

蛙(だから、だからこんな……)

蛙(こんな自分の欲望の為だけに行動するなんて……)

蛙(き、きっと何か事情があるのです!)

蛙(何か已む無き事情が!)

レナ(……)

レナ(どんな事情があったら相手の服を無理やり脱がして身体を触ってハァハァするって状況になんのよ!)

蛙(し、しかし!)

レナ(しかしも糞も!)

葉月「ふふふ、どうしたんですか○○○さん、さっきから黙っちゃって」

葉月「ひょっとして怖いんですか、大丈夫です、ちゃんと気持ちよくしてあげますから」

葉月「だから……」

レナ「うるさい!レナが喋ってるのに!」

葉月「え?」

レナ「邪魔するなー!」



ガツンッ



 

葉月「いっ!」

レナ「っ!」




レナ(あ、あれ、何か気が遠く……)

レナ(なんで……)

レナ(……あ、そっか)

レナ(頭に来ちゃったから、レナ……)

レナ(アイツの頭に頭突きを……)

レナ(ちょっと、強くイキすぎたかなあ……)



蛙「……!…………!」



レナ(カエルがなにか言ってるけど、わかんないや)

レナ(まあ、カエルが言ってることを理解できる状況のほうが……)

レナ(おかしい……んだけど……)

レナ(ね……)

葉月「ああ、もう、疲れちゃったな」

葉月「この街には魔法少女が多すぎるんてすよ」

葉月「今はまだ誰からも敵視されないように立ち回ってますけど」

葉月「そのうち、ボロが出そうで」

葉月「……そりゃ怖いですよ、私1人の問題じゃありませんし」

葉月「○○○さんは、怖くないんですか」

葉月「だって、○○○さんって、私よりも、その、黒い事をしてるでしょう?」

葉月「何が目的なのかは、判りませんけど」

葉月「その目的を果たした時、周りの魔法少女が貴女の本性に気付いたとき」

葉月「どんな事が起こるのか……」

葉月「恐く、ないんですか?」

○○○「            」

○○○「                         」

葉月「……は?」

葉月「冗談……ですよね?」

葉月「もし本気だとしたら」

葉月「ちょっと、頭おかしいですよ、○○○さん」

それまで、○○○さんはただの同盟相手だった。

けど、それ以来、彼女に対する見方が変わった。



彼女は、何故そんな決断が出来るんだろう。

いや、決断自体は不思議ではない。

世の中には、自暴自棄になって似た決断をする魔法少女も存在する。

けど。

じゃあ、どうして。

○○○さんは、そんなに楽しそうに笑っていられるんだろう。



不自然だ。

不可思議だ。

他人の感情の動きに敏感な私にとって。

彼女の不透明さが酷く気になった。

その日以来、私は彼女の事を深く観察するようになった。

何気ないやり取りから相手の本質を引き出すのは、私の特技だから。

彼女は何を考えているのか。

何を望んでいるのか。

何故そんなにも強いのか。

何時も何時も観察するようになった。

細かい仕草から、他愛のない会話まで。

そうして観察を続けていくと、いつも同じ結論に至った。



「かなわないなあ、○○○さんには……」

行動の節々に強い意思を感じられる。

言動の端々に気高さを感じられる。

所作の隅々に美しさを感じられる。



特に、何か考え事をしている時。

口元に指を持っていく仕草が。

顔の奇麗さと違い、まるで童女のようで。

ああ、凄い。

凄く、惹かれてしまう。

可愛い、可愛い、可愛い。

奇麗、奇麗、奇麗。

あんなの強い意思を持っているのに。

こんなにも可愛いなんて。



そう、私は。

○○かさんの事を。

凄く好きになってきている。

可愛い可愛い、○○かさん、凄く可愛い。

○○かちゃんって呼んでしまいたい。

けど、嫌われるかな、それは怖いな。

定例の情報交換の時間が、何時も何時も楽しみで仕方ない。

昨日なんて、家のご飯当番をサボってまで会いに行ってしまった。

ごめんね、このは、あやめ。

けどこんな気持ちははじめてで。

ああ、彼女にも私と同じ気持ちを味わってもらいたい。

そうすれば。

そうすればきっと。

彼女が望んだ、あんな結末を諦めさせることが出来るかもしれないから。

だから。

「そうだ、私が○○かさんの恋人になればいいんだ」

「そうすれば色んなものが解決しそう」

「正式に付き合ってるって事を言えばこのはやあやめだって納得してくれるだろうし」

「そうと決まれば急がないと」

「次の情報交換のときに、○○かさんに想いを伝えて」

「伝えて、ふ、ふふふふ……」

「そのまま……そのまま……」


そう、こんな感情ははじめてなのだ。

けど、私は今まで自分の中にある感情は全てコントロールできていた。

この感情だって、きっと制御できている。


私は正常。

私は正しい。


さあ、彼女に会いに行こう。

「起きなさい、水波レナ、起きるのです」ペタペタ


レナ「う、うう、レナは、正しい……」


「何を寝ぼけているのですか、水波レナ」ペタペタ


レナ「あ、あれ、何か顔の上に冷たい感触が……」


「やっと眼を覚ましましたか、水波レナ」


レナ「……」

レナ「……」

レナ「なんでレナの顔の上に乗ってるのよ」

蛙「貴女がなかなか目を覚まさないからですよ、水波レナ」

レナ「ワケわかんないこと言ってないで、さっさと……痛っ……」

蛙「頭部に傷はありませんよ」

蛙「額が少し赤く腫れていますが、暫くすれば痛みも治まるでしょう」

レナ「頭……そ、そっか、レナはアイツに頭突きを……」

レナ「アイツは!?葉月は何処に!?」

蛙「後ろで伸びています」


葉月「……」キュウ

レナ「……」

蛙「葉月さんも、頭に傷はありませんので、暫くすれば目を覚ますでしょう」

蛙「その前に、立ち去ってしまいましょう」

蛙「少し状況を整理したいですし」

レナ「……判ったわ」

レナ「……」

レナ「……」

蛙「水波レナ?」

レナ「判ってるって、今行くわよ」



レナ(さっき、私が見た夢は)

レナ(状況的に考えると、葉月の記憶なのかな)

レナ(蛙と私みたいに、一時的に魔力でラインが繋がった……とか?)

レナ(ううーん、難しいことは判んないけど)

レナ(葉月の必死さは、何となくわかったわ)

レナ(けど、葉月が必死になる理由って、なんだったんだろ)

レナ(あの時、蛙は葉月に対して、何て言ったんだろう)

レナ(何か、気になる)

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