千枝「過去から未来へ」 (12)
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こんにちは。佐々木千枝です。
その日、私は同じ事務所の、尊敬するお姉さん、「三船美優」さんのお宅にお邪魔しました。
美優さんは、見た目ももちろんですが、仕草の一つ一つ、
表情のひとつひとつが大人の女性って感じで、千枝が一番憧れているお姉さんです。
ピンポーン
美優「はーい。あ、千枝ちゃん。どうぞ、いらっしゃい。」
千枝「お邪魔致します。」
うわぁ・・・すべてが無駄なく片付いていて、シンプルなのに、どこか上品で・・・
千枝「美優さんの部屋だぁ・・・」
美優「ふふふ。どうしたの?千枝ちゃん。」
千枝「いえ。なんだか、美優さんにぴったりなお部屋だなって思って。」
美優「そう?あ、今、お茶入れるね。寒いから、ココアがいいかな?」
千枝「あ、おかまいなく・・・」
ちょっと緊張している私に、そっと微笑んで、美優さんはキッチンへといきます。
本当に、「大人の部屋」という雰囲気です。千枝も、こんな部屋が似合う大人になりたいなぁ・・・
あ、窓からイチョウが見えるのですね。もうすっかり黄色くなって、とてもきれいです。
美優「おまたせ。」
千枝「ありがとうございます。いただきます。」
ふぅ・・・暖かい・・・それに、甘すぎなくて、美味しいです。それに、不思議な香りがします。
千枝「おいしい・・・これ、なんの香りですか?」
美優「よかった。私、キビ糖を使っているから、どうしても独特な香りがついちゃうのよね。」
美優「私は好きなんだけど、苦手って人もいると思うから、少し心配だったの。」
千枝「へぇ・・・。」
窓から入ってきた風が、ふわりとイチョウの香りを運んできました。
美優「もう、すっかり秋ね・・・」
そう言うと、美優さんは窓の外をみて、小さくため息をつきました。
その表情は、千枝の胸をキュッと締め付ける、千枝の大好きな表情でした。
千枝「秋に、何か思い出があるんですか?」
美優「そう、ね・・・」
そうして、美優さんはそっと、話しはじめました。
― - - -【美優 談】 - - - -
私が6歳の時だから、今からちょうど、20年前ね。その時の私は、髪をリボンで結んでいたの。
ちょうど、今のありすちゃんみたいな感じだったわ。
本当に、何も他の子と変わらない、特に目立つことのない、普通の女の子でした。
2学期になって、私の席の後ろに、男の子がきたの。その子も、普通の男の子だったな。
むしろ、周りの子と比べたら、大人しいくらいの子だったの。
ちょうどこんな、イチョウがきれいな頃だったわ。
その日、私は一番のお気に入りだった、黒に金の糸で縁取りされたリボンをしていたの。
授業が終わって帰る時、後ろの席の男の子が突然、私のリボンを取ったの。
本当に気に入っていたリボンだったから、凄く怒ったわ。そして、ずっと追いかけたの。
そして、校庭の端にあった大きなイチョウの木の下まできたの。
美優「ちょっと!返してよ!泥棒!!」
男の子「嫌だ!」
美優「なんでよ!!人の物を取るなんて、最低よ!泥棒は刑務所に入れられるんだから!」
男の子「泥棒でも、なんでもいいや。」
美優「なんでよ!!返しなさいよ!!」
男の子「嫌だったら、嫌だ!!」
美優「どうしてよ!」
男の子「だって・・・・」
そして、しばらくその子は下を向いていたのだけれど、ふと顔をあげて、はっきりと言ったの。
男の子「だって、ぼく、美優のことが好きだもん。」
そうして、その子はまた、走って行ってしまったわ。
私は、びっくりしちゃって、そこに立ってた。
この季節になると、今でも、あの時の「好きだもん」って言った声をふと、思い出すの。
顔は夕日がまぶしくて、覚えていないんだけどね。
― - - - - - - - - - - -
千枝「・・・その男の子とは、どうなったんですか?」
美優「それっきり。それからお互い、なんだか話をするのも恥ずかしくって。」
美優「それに、それからしばらくして、その子は突然、遠くへ引っ越してしまったわ。」
千枝「名前とか、顔とかは?」
美優「もう、すっかり忘れてしまったわ。」
千枝「そっかぁ・・・」
美優「きっと、すてきな男性になって、すてきな奥さんに出会って幸せに暮らしているわ。」
千枝「もし、その人がテレビとかで美優さんを見て、『あの時の!』って言って来たら?」
美優「ないと思うわ。だって、もう20年も前だもの。向こうも顔も名前も忘れているわ。」
美優「それに・・・忘れていてくれた方が、いいかも。」
千枝「なんでですか??」
美優「・・・ふふふ。なんででしょうね。私にもよくわからない。」
千枝「美優さんでも、わからないんですか?」
美優「そうよ。変ね。」
そうして、美優さんは、嬉しそうに笑いました。
私も、なんだかうれしくなって、一緒に笑いました。
美優「寒くなっちゃうから、窓、閉めるわね。」
そして、窓を閉めながら、こういいました。
美優「この話は、私と、千枝ちゃんと、その男の子、3人の秘密ね。」
千枝「はい!」
なんだか、大人の仲間入りをしたようで、とてもうれしかったです。
それからしばらくして、私は、事務所の友達の誕生会の準備をするのにプロデューサーさんのお宅に伺いました。
千枝「お邪魔しまーす。」
P「お、どうぞどうぞ。」
千枝「う~ん。男の人の部屋ですね。」
P「そうか?」
はい。同じ大人なのに、美優さんの部屋とは全く違います。散らかっていたりはしないのですが・・・
P「今、飲み物入れるな。」
千枝「あ、はい。ありがとうございます。」
部屋を見渡すと、机の上に小さな筒がありました。古い物のようで、周りの色は褪せています。
その筒はフタが開いていて、中から何か出ています。
千枝「これは・・・リボン?」
とても古い、黒いリボンでした。そして、金の糸で縁取りがされています。
これって・・・美優さんの!!
P「おまたせ~・・・あ。」
プロデューサーさんは、恥ずかしそうに、フタをして、引き出しにしまうと鍵をかけました。
そっかぁ。あの男の子はプロデューサーさんだったのですね。
あ、でも・・・美優さんは知らなくていいって言ってました。
千枝「ね、プロデューサーさん。プロデューサーさんは、美優さんのこと、好き?」
P「ブッ!!なんだい、急に。」
P「そっか。千枝は美優さんのこと、大好きだもんな。」
P「そうだな~。凄く素敵な人だと思うよ。」
千枝「そうじゃなくて!女の人として、好き??」
P「・・・・・・」
プロデューサーさんはしばらく黙って、下を見ていましたが、ふっと、私の目をしっかりと見て、言いました。
P「うん。好きだ。」
P「でも、内緒な。」
その仕草は、美優さんが話してくれた、美優さんに「好きだもん」と言った男の子を思わせました。
千枝「うん!!ヘヘヘヘ。」
きっと、この二人なら大丈夫。私はうれしくなって、プロデューサーさんに抱き着きました。
P「え・・・!?ちょっと、千枝!??」
千枝「だ~いすき!!」
プロデューサーさん、美優さんのこと、絶対に!幸せにしてくださいね。
以上です。ありがとうございました。
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