【モバマス】赤いリボン (23)
シンデレラガールズのSSです。
言葉遣い等、違っているかも知れませんが、ご了承くださいませ。
あらかじめ。
まゆちゃんに恨みはありません。むしろ、好きなキャラクターです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1509007740
【佐久間まゆ】
私は、東京に来る前、仙台で普通の女の子をしていました。
少し違っていたのは、「読者モデル」をしていたということ位でした。
そんな私も、中学3年。将来のことをしっかりと考えなければならない時期になっていました。
しかし、どうしても、その時の私には、自分の将来が全く見えませんでした。
世界のすべてがモノクロームで、ひどくつまらないものに思えていました。
その日も、私は公園で、缶のミルクティーを飲みながら、ぼんやりと一人過ごしていました。
そんな時、ふと視線を感じ、顔をあげると、そこには彼がいたのです。
なぜでしょう?彼と目が合った瞬間から、世界は鮮やかに色づき、
見慣れたはずの公園の景色さえも、とても新鮮に感じられたのです。
そして、彼は私に話しかけてきました。
「東京で、アイドルになりませんか?」と。
その時は別件での出張であったため資料を持っていないからと、名刺を渡されました。
私には、それだけで十分でした。
家に帰り、何度もその名刺を眺め、そのプロダクションのことを調べました。
数日後、私は貯金を下ろし、東京行きの新幹線に飛び乗りました。
ただ、あの人に会うために。
【P】
あれはようやく、プロデューサーとして任命された時のことでした。
私はイベントの打ち合わせのために仙台に来ていました。
そして仙台の街並みを見ようと散歩をしていた時のことです。
公園に、一人の少女が座っていました。
ガーリーな雰囲気の服装が良く似合っていました。
そして何より、彼女自身がその場の空気を作り出すオーラを持っていました。
私は、彼女から目が離せなくなってしまいました。
ふと、少女が顔をあげ、私と目が合いました。
私は何も考えず、彼女に話しかけました。
「東京で、アイドルになりませんか?」と。
その時は資料を持っていなかったため、名刺を渡し、電話をして欲しいと言いました。
まさか、一人で訪ねてくるとは、思いもしませんでした。
彼女、佐久間まゆは、それまで将来のことが特に決まっていなかったこともあり、
ご両親の了承は割と簡単に得られました。
そして、彼女は元からの容姿とキャラクターに加え、努力を怠らないひたむきさで、
トップスターへの階段を駆け上っていきました。
【三船美優】
私がPさんに出会ったのは、大学1年の春でした。
大学で、何を研究のテーマしようかと相談するために、研究室を訪れた時のことです。
その研究室にいたのが、彼、Pさんでした。
Pさんは当時大学4年生。就職活動や卒業論文で忙しい時でしたが、
とても親切な方で、私の相談に丁寧にのってくださいました。
そんな彼の人柄に魅かれ、私はその研究室によく出入りするようになりました。
そして、卒業式を間近に控えた日、私は彼に想いを告げ、結ばれました。
卒業後、彼は芸能プロダクションに入社、事務員やマネージャーなどの職務をこなしながら、
趣味のバンド活動にも打ち込んでいました。
私は、卒業後、彼とは別の会社に就職、OLとして働きはじめました。
また、その傍ら、彼のバンドのマネージャーのようなこともしていました。
そして、昨年、そのバンドに音楽事務所から声がかかったのです。
しかし、彼は、メンバー全員が大喜びしている中、否定的でした。
「自分たちは、まだ十分な実績を残せていない。まだ早すぎる。」と。
結果、彼と私はバンドを脱退しました。
しかし、そのことが会社に認められ、彼はプロデューサーとして働くようになりました。
そんな矢先に、彼と、佐久間まゆさんは出会いました。
【佐久間まゆ】
東京に来てから、私は必死に努力しました。
歌、ダンス、演技、様々な厳しいレッスンを毎日こなしました。
しかし、Pさんが私を見てくださるだけで、私はどんなことも乗り越えていけました。
どんなに辛いレッスンも、彼が声をかけてくれるだけで、幸せに変わりました。
そして、CDデビュー、テレビ出演、ドラマ出演と、どんどん「売れっ子」になりました。
そしてついに、CDがオリコンでトップ10入りを果たしました。
その後、仕事はどんどん増えていきました。
それと同時に、どうしてもPさんには相談し難いことが出てくるようになりました。
そんなある日、私はPさんに告げられました。
「まゆに、会わせたい人がいる。」と。
彼の表情から、嫌な予感はしましたが、私は了解しました。
そして当日、彼が紹介してくださったのは、三船美優さん。彼の婚約者でした。
私は平然を装いましたが、美優さんは気付いていたのでしょう。
彼が席を立った時、美優さんは言いました。
「まゆさん、Pさんのこと、好きですか?」
あぁ、やっぱりこの人は気付いていたんだ。私は素直に頷きました。
「そう・・・でも、私、まゆさんとは友達になりたいな。名前も似ているし。」
なんて甘い人なんでしょう。それとも、それは私など眼中にないということでしょうか。
「そんなことを言っていると、まゆ、Pさんのこと取っちゃいますよ?」
「その時はその時。一人の男のせいで、人生の実りを少なくすることはないわ。」
あぁ、まゆは、今はこの人にかなわない。そう思いました。
そして、少しずつ話をするうちに、私と美優さんは打ち解けていきました。
【P】
まゆのCDがオリコンのトップ10入りをした日、私は美優にプロポーズをしました。
そして、私と美優は「婚約者」となりました。
まゆの仕事はどんどん増えていきました。
それと同時に、男である私には相談し難いこともあると、わかってきました。
そこで、私は彼女に言いました。
「会わせたい人がいる。」と。
男性の私よりも同性の、それも仕事とは関係のないところにいる相談相手がいた方がよいと、
私は考え、佐久間まゆと三船美優を会せようと思ったのです。
少し戸惑ったように見えましたが、まゆはOKを出してくれました。
そして、当日、レストランの一角で、私達3人は顔を合わせました。
最初、美優とまゆは互いに口を利かず、ぎこちない空気が流れていましたが、
私が用を足しに席を立った後からは、少しずつ会話をするようになりました。
美優さんなら、まゆの良き相談相手になってくれる。私はそう、確信しました。
レストランを出る頃には、私ぬきで、二人で会話をするほどに親しくなっていました。
私は心底、二人を会せて良かったと思っていました。
【三船美優】
Pさんは正式に、佐久間まゆさんのプロデューサーとして活動することとなりました。
まゆさんはとても可愛らしく、その上、非常に頑張り屋さんだったようです。
デビューしてから、瞬く間に「スター」の仲間入りを果たしました。
彼女がオリコンのトップ10入りを果たした日、私は彼からプロポーズをされました。
そして、私たちは「婚約者」となりました。
それから数日後、彼は私にこう言いました。
「佐久間まゆに、会ってくれないか?」と。
私は特に断る理由もないので、了解しました。
そして当日、私達3人は顔を合わせました。
その時、同じ女である私はすぐにわかりました。彼女はPさんに恋をしていると。
彼女のPさんを見る眼差しは、恋をする乙女のそれでした。
Pさんが席を立った時、私は意を決して聞きました。
「まゆさん、Pさんのこと、好き?」と。
彼女は素直に、頷いてくれました。
そして思ったのです。この人と、友達になりたい、と。
同じ人を好きになってしまったけれど、そんな私達なら、きっと仲良くなれる、と。
「そう・・・でも、私、まゆさんとは友達になりたいな。名前も似ているし。」
「そんなことを言っていると、まゆ、Pさんのこと取っちゃいますよぉ?」
表情こそにこやかでしたが、そこには明らかな敵意がありました。
「その時はその時。一人の男のせいで、人生の実りを少なくすることはないわ。」
Pさんは私にとってとても大切な人だけれど、私はこの人と仲良くなりたい。そう思いました。
少しずつ話をしていくうちに、まゆさんも心を開いてくださりました。
【佐久間まゆ】
いつしか私は美優さんを姉のように慕っていました。
二人で買い物をしたり、食事をしたり、映画を見に行ったり・・・
Pさんには相談し難いことでも、美優さんになら相談できました。
美優さんも、私が相談したことは決して誰にも話さないでいてくださいました。
それこそ、仲の良い姉妹のように見えたと思います。
Pさんの誕生日には、美優さんと二人でドッキリを仕掛けたりもしたんですよ。
あの時のPさんの顔は、本当に面白かったです♪
本当に、あの頃は幸せでした。
クリスマスも近づき、私はPさんにプレゼントするマフラーを編んでいました。
そこへ、美優さんからメッセージが来ました。
「24日、もしよかったら、3人でパーティをしましょう。」と。
私は即、「いいですね。ご一緒させてください。」と返しました。
そして12月24日。東京ではめずらしく、ホワイト・クリスマスになりそうな程寒い日でした。
私と美優さんはPさんの部屋で食事の用意をしました。
そしてPさんが帰ってきて、3人で食事をし、プレゼント交換をして・・・
幸せそうに笑うPさんと美優さんを見て私は、
「この人なら、Pさんを幸せにしてくれる。」
そう心から思いました。この二人なら、絶対に幸せになれる、と。
楽しい時間は、すぐに過ぎて行き、寮の門限が迫ってきました。
Pさんは私を寮まで送り、その間に美優さんは片づけするために部屋に残りました。
そして、私は寮に帰り・・・・
真っ暗な寒い部屋に戻った時、私の中で、何かが壊れていったのです・・・
【P】
まゆと美優を会せてから、まゆの調子はますます上がっていきました。
どうやら二人で出かけたりもしていたようです。私には一切話してくれませんでしたが。
3人で食事をしたりした時も、二人は仲の良い姉妹のように見えました。
私の誕生には、二人でドッキリを仕掛けてきたんですよ。
あの時は本当にびっくりしました。
部屋に戻ると、美優が倒れていて、まゆが必死に呼びかけているんです。
部屋の中は二人がいたとは信じられないほどに散乱していて・・・
私が慌てて、声をかけると、まゆが私の後ろを見て、怯えだしたんです。
そこで、恐る恐る後ろを見ると、「ドッキリ成功!」の段ボール。
振り返ると、二人で抱き合って笑っていました。
え?ありきたりなドッキリだって?いやいや、リアルでやられると、本当に焦りますって・・・
それに、まゆの迫真の演技。そんなところで日頃の成果を発揮されると思いませんでした。
そして12月24日。その日は3人でパーティーをすることになっていました。
部屋に帰ると2人で準備を整えてくれていました。
食事をし、プレゼントを交換しました。
まゆはマフラーを手編みしてくれたんですよ。彼女は本当に、良いお嫁さんになれますよ。
いいえ、良いお嫁さんになれたはずだったんです・・・
【三船美優】
まゆさんと出会ってから、私たちは二人でよく遊びました。
彼女は年齢以上にしっかりとしたところと、逆に幼いところとがありました。
私は、まるで急に妹ができたようで、とてもうれしかったです。
彼女も私を慕ってくださり、よく相談をされました。
相談の内容?女同士の秘密です。
Pさんの誕生日にはふたりでドッキリを仕掛けました。発案はまゆさんでした。
さすがに日頃レッスンしている方ですね。迫真の演技でしたよ。
あの頃は本当に幸せでした。あんな日が、ずっと続くものと信じていました。
12月になり、私はまゆさんをクリスマス・パーティーに誘いました。
彼女も良い返事をくださいました。
そして12月24日。私とまゆさんはPさんの部屋でパーティーの準備をしました。
それにしても、まゆさんは本当にお料理もお上手でした。私が教わりたいくらいに。
Pさんが帰宅後、3人で食事をし、プレゼントを交換しました。
まゆさんったら、ペアルックのマフラーなんて手編みしてくださったんですよ。
あれは、本当なら最高の宝物になるはずだったんです・・・
それくらいに、本当に心のこもった、素敵な贈り物でした・・・
【P】
歳も変わった1月の中旬。世間ではセンター試験の日でした。
その日は本当に寒く、夜明け前から雪が降っていました。
「センター試験の日は雪になる」なんてジンクスを思い出したくらいの雪でした。
たまたま休みだった私は、家で資料をまとめ、今後の方針を再度確認していました。
そして、遅めの昼食を食べ、趣味のギターでも弾こうと思っていた時でした。
ふと廊下で足音がしました。
私の住んでいたマンションは廊下の足音が響くので、住民からよく改善の声が上がっていました。
その足音は、間違いなく、まゆのものでした。
玄関を開けて迎えると、まゆは寒そうにしていました。
そこで私はホットココアを入れ、ヒーターの前に座らせました。
まゆは、とくに来た理由を話すことはありませんでした。
ただ、普段通りに雑談をしていました。
3時近くになり、お茶にしようと思ったところで、まゆは立ち上がりました。
「コーヒー、淹れますね。」と。
それはよくあることなので、いつも通り、お願いしました。
しかし、まゆの持ってきてくれたコーヒーを飲んだ後から、急に眠気が襲って来て・・・
私は意識を失いました。
【三船美優】
あれは忘れもしない、1月の中旬。センター試験の日でした。
夜明け前から雪が降る、非常に寒い日でした。それこそ、心までも凍えてしまいそうなほど・・・
その日、私はなぜか、胸騒ぎがしていました。理由など、何もないのです。
私はそれを、雪のせいだとして出勤しましたが、胸騒ぎは一向に収まりません。
仕事も全くはかどらず、ミスも多発してしまいました。
そこで、私は体調不良といい、早退しました。
そして、そのままPさんの部屋へと急ぎました。
本当に、一刻も早く、行かなければならない。そんな気がしたのです。
電車を駆け下り、街を走り、階段を駆け上って・・・
あの時ほど必死に走ったことは、それまでなかったのではないかと思います。
部屋につくと、Pさんとまゆさんが、重なり合って倒れていました。
【P】
私が再び気が付いたのは、病院のベッドの上でした。
美優さんが発見して、救急車を呼んでくれたそうです。
聞いた話では、私はまゆに毒を飲まされたそうです。
そして、まゆ自身もその後すぐに服毒し、無理心中を計ったのだとか。
私が気が付いたのは意識を失ってから2日後のことでした。
私は睡眠薬が入っていたことと、毒が遅効性だったこともあり、一命を取り止めたそうです。
まゆのことは、誰も、何も教えてはくれませんでした。
私はその後、3日間入院したのち、退院しました。
そして事務所へ顔を出すと、1週間の自宅謹慎を言い渡されました。
そこで初めて、まゆが息を引き取ったことを知りました。
人気絶頂のアイドルが、無理心中の末、死亡となれば、マスコミが放っておくわけがありません。
騒動が収まるまで、私は自宅で大人しくしていることにしました。
その夜のことでした。廊下にコツン・・・コツン・・・と聞き覚えのある足音が響きました。
間違えるはずもない。その音は佐久間まゆの足音でした。
彼女は生きていたのです。
私は喜んでドアを開け、そして、「お入り」と迎えました。
彼女が言うには、退院して、今は親戚と、少し離れたところで暮らしているのだとか。
「ニュースでは息を引き取ったとあったが?」と問うと、
「そんなことありませんよぉ。」
と、独特の少し舌足らずな話し方で否定したあと、ウフフと笑いました。
そして、自分が生きていることは内緒にしてほしいと言いました。
まゆはその夜、数時間お喋りをした後、親が迎えに来たからと帰っていきました。
【三船美優】
Pさんは発見から2日後に意識を取り戻しました。
睡眠薬が入っていたので周りが遅くなったことと、毒が遅効性であったことが幸いしたそうです。
しかし、まゆさんは、既に生きる気力を失っていました。
お医者様の話では、毒そのものよりも、そのことの方が重大だったそうです。
結果、まゆさんはその日のうちに、息を引き取りました。
Pさんには、そのことは話しませんでした。
いいえ、私自身、まゆさんの死を受け入れられなかったのです。
私にとってまゆさんは、血は繋がっていないけれど、大切な妹でした。
まゆさんの死後、私はご両親から彼女の日記を渡されました。
そこには、Pさんに対する、16歳の少女の切ない胸の内が熱く綴られていました。
所々、インクの滲んだ箇所があるのは、きっと涙の跡でしょう。
その日記も、12月23日で止まっていました。
その時、私は理解しました。
私達は、なんてむごいことをしてしまったのかと。
Pさんは意識が戻ってから3日、全部で1週間の入院ですみました。
しかし、その後は騒動が大きくなってしまっていたため、彼は1週間の自宅謹慎となりました。
事務所へ行ったのならば、間違いなく、まゆさんのことは耳にしたと思います。
彼の体や心のことを考えると、その方が良かったのだと思いました。
それから私は、極力、彼のところへ行くことにしました。
不思議なことに、彼は少し嬉しそうにしていました。
理由をきいても、答えてはくれませんでした。
私達は話し合い、結婚を少し先に延ばすことにしました。
【P】
まゆはそれから毎晩、私のところへ来ました。
ただ、不思議なことに、同じように毎晩のように来ている美優と会うことはありませんでした。
私はまゆに言われた通り、まゆのことは秘密にしていました。
1週間の自宅謹慎が終わり、私は出社しました。
全員への挨拶とお詫び周りが終わった時のことです。私はある少女に呼び止められました。
「そなたー、死相がでておるのでしてー。」
彼女は依田芳乃。とても不思議な力を持っている少女でした。
「そういえば、ちょっと疲れ気味かな?まぁ、病み上がりだしな。」
とごまかしたものの、彼女ははっきりと言いました。
「そなたの所へ通っている者は死霊の類でしてー。」
「疑うのであれば、その者の靴か、その者が住んでいるという所を調べるとよいのでしてー。」
私は、まさかと思い、笑いましたが、あまりに彼女が真剣なので、少し不安になりました。
その日、夕方から雨が降り始めました。冷たい、冷たい雨でした。
部屋に戻り、しばらくすると美優が来ました。
そして、共に夕食を食べ、少しの時間を過ごした後、彼女は帰っていきました。
そして夜半近くなり、いつも通り、カツン・・・カツン・・・と音を立てて、まゆが来ました。
外ではまだ、しとしとと雨が降り続けていました。
彼女は部屋に入ると傘を置き、靴を脱ぎ、上がりました。
そしていつも通り、お茶をしながら雑談をして、帰っていきました。
その後、玄関を良く見ると、まゆの靴と傘のあった所が濡れていないことに気が付きました。
外では、雨が降り続けていました。
【P】
翌日、私は芳乃のところへ行きました。
「やはり、わたくしの言った通りだったのでしてー。」
「一体、どうすればいいんだ?」
「これを玄関の上に飾っておくとよいのでしてー。」
そう言って渡されたのは、古びた木の札でした。
「これは、樹齢1000年を超えるご神木の枝から作られた、特別なお札なのでしてー。」
「それと、これを持っておくと良いでしょー。これも同じ枝から作られた仏像でしてー。」
「その者が来たならば、この仏像を拝み続けておれば、よろしいかとー。」
「どちらもわたくしが東京に来る時に、ばば様から渡されたものでしてー。」
「根本的な解決にはなりませぬが、そなたを守ってくださるでしょー。」
「ただし、決して彼の者を招き入れてはなりませぬー。」
「招き入れてしまっては最期、そなたの命はないものと思われますようー。」
私はその日、帰って早速、その札を玄関の上に飾り、机の上に仏像を置きました。
そして、夜半頃・・・・
カツン・・・カツン・・・という足音が廊下から響いてきました。
私は怖くなり、仏像に向かってひたすら、拝んでいました。
そして足音が私の部屋の前で止まりました。
「Pさぁん。今日は迎え入れてくださらないのですかぁ?」
「Pさぁん。まゆが来ましたよぉ。」
「Pさぁん。入れませんよぉ。」
「Pさぁん。なんでですかぁ?」
「Pさぁん。寒いですよぉ・・・・・。」
「Pさぁん・・・。」
そのうち、まゆのすすり泣く声が聞こえてきました。
私は心が痛み、何度も玄関をあげて迎え入れたくなりましたが、その都度、芳乃の言葉と美優のことを思い出し、心を鬼にして、こらえました。
2時間ほど経ったでしょうか。まゆの声が消えていきました。
私はどっと疲れて、そのまま眠ってしまいました。
翌晩も、そのまた翌晩も、まゆは来ました。
その度に私は、迎え入れたくなる心を抑え、こらえていました。
そんな日が1週間ほど続きました。
【三船美優】
仕事が始まってから1週間、Pさんは日に日にやつれていきました。
お医者様に行くように言っても、聞き入れてはもらえませんでした。
その日、私は仕事が休みだったので、Pさんの部屋へ行きました。
そして部屋の掃除をしていました。
彼の部屋は非常にきれいだと思うのですが、やはり細かいところが抜けていたりします。
ふと、彼の机の上に、前までは見たことがない、木像のようなものがあることに気付きました。
とても古ぼけていて、それにあちこち擦り減っています。私はそれを、ゴミ袋に入れました。
そして、玄関の上にも、同じように古ぼけた木の札があることに気が付きました。
思えば、1週間前まで、このような物はありませんでした。
私は気味が悪くなり、その札もゴミ袋に入れました。
そして、マンションの共同ゴミ置き場へと捨ててきました。
夕方になり、Pさんが帰ってきました。そして二人で食事をしました。
やはり、彼は昨日よりもやつれていました。
しかし、明日からはきっと元気になってくれることでしょう。
「明日も元気がないようでしたら、無理にでもお医者様へ連れて行くことにします。」
と彼に告げ、私は自分の部屋へと帰りました。
【P】
確かに、芳乃からもらった御守りの力は絶大で、まゆは部屋には入ってこれませんでした。
しかし、毎晩、玄関前で泣かれるので、私の疲労はどんどん溜まっていきました。
そして1週間が経ちました。
その日、美優は仕事が休みだったので、昼間から私の部屋に来ていたようでした。
仕事が終わり、部屋に戻ると、いつもより豪勢な夕食が出来ていました。
二人でそれを食べ、雑談をしました。
彼女には、どうしても、まゆの亡霊のことは話せずにいました。
妹のように大切にしてくれていた美優に、亡霊となって出てくるなどと、言えませんでした。
そして、「元気になってなければ病院に連れて行く」と言い、彼女は帰っていきました。
そして、その日の夜半頃・・・・
カツン・・・カツン・・・と足音が響き始めました。
私は仏像を拝もうと、机に向かいましたが、仏像が見当たりません。
必死になって探しましたが、どうしても見つかりません。
そうこうしているうちにも・・・
カツン・・・・カツン・・・・・
足音は近づいてきて・・・・
カツン
私の部屋の前で止まりました。
三船美優】
次の朝、私はPさんの部屋に忘れ物をしたことに気付き、彼の部屋へと行きました。
すると、玄関から、赤いものが流れてきていました。
それは、まるで、まゆさんが愛用していた、赤いリボンのようでした。
私は急いで、鍵を開け、中に入りました・・・・
そして私が見たのは・・・・・・・
恐怖と苦痛で顔の歪んだ、Pさんの亡骸でした。
以上となります。
ありがとうございました。
元ネタは、非常に有名な話なので省略します。
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