【デレマスSS】翠の恩返し (20)
鶴の恩返しのパロディです。
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むかしむかしあるところに、柳瀬美由紀という女の子が暮らしていました。
美由紀「よいしょ、よいしよ」
採った海鮮物を町で売り、いつも一生懸命に働いていました。
美由紀「ふう、疲れてきちゃった……ん?」
ある日いつもの通り町へ向かう途中、美由紀は道の途中に何かを見つけました。
鶴「」グッタリ
美由紀「わ、鶴さんだ!」
美由紀は驚いて、その美しい鶴のそばへかけていきました。様子を見ると、どうも力が無くなっているように見えます。
美由紀「もしもし鶴さん、だいじょうぶ?」
鶴「キュー」グッタリ
美由紀「うーん、困ったなあ……あ、おなかすいたのかな」
すると美由紀は積んでいた荷物を開け、鶴に差し出しました。
美由紀「はいこれ。かにだよ!」
かに「」
鶴「!?」ビクッ
鶴はとても嬉しそうです。
鶴「」ビクビク
美由紀「どうしたの……あ、ごめんね? すぐに用意するから」ガッ
バキッ ベキベキッ
鶴「」
ベキッ バキッ
数分後
美由紀「よし! はいどうぞ、かにだよ!」
鶴「」ソーッ パクッ
美由紀「どう? げんきになった?」
鶴「‼ キューッ」バサバサ
美由紀「うん、げんきになったね! 良かった!」
美由紀からもらったかにを食べて、鶴はとっても元気になったようです。ばさばさと羽ばたいてすぐに飛んでいきました。
美由紀「あ、行っちゃった。気をつけてねー!」
鶴「キュー」バサバサ
美由紀「えへへ、よかった! ……さてと、いそがなきゃね」
少し気になりはしましたが、あまりだらだらしていられません。美由紀はひとまず町へ向かうことにしました。
その夜のこと。
自分のお家に帰った美由紀は、次の漁のための用意をしていました。
美由紀「……」スッ スッ
お昼のこともちょっとは気になりましたが、美由紀は漁をおろそかにするわけにもいきません。
すると突然トン、トンとお家の戸が叩かれました。
美由紀「……? はーい?」
翠「あの、ごめんください」
若い娘の声がしました。美由紀が戸を開けると、そこには三度傘を被った美しい女性が立っていました。
翠「夜分遅く申し訳ありません。私は旅の途中でして……」
美由紀「旅人さん?」
翠「はい、辺りに他の家も見つからず……どうか一晩、泊まらせていただけないでしょうか」
娘は流麗な動作で、美由紀に頭を下げました。
美由紀「いいよー! ねえねえ、そこじゃ冷えちゃうよ。入って入って!」
美由紀は喜んで娘を迎え入れました。
翠「ありがとうございます。このご恩、消して忘れません」
美由紀「もう、そんな堅苦しくなくていいよ〜。ほら、靴も脱いで!」
翠「わ、そ、そんなに引っ張られると……」
美由紀「あ、ごめんね? えへへ、お客さんって久しぶりだから嬉しくって……」
美由紀は照れくさそうにほほえみました。
美由紀「あ、ご飯の用意しなきゃ! えっと、えーっと……何さんだっけ?」
翠「……ああ、申し訳ありません。私、名を翠と申します」
美由紀「うん! えっとね、みゆきはみゆきって言うの! それじゃ……翠、ちゃん!」
翠「み、翠ちゃん……ですか」
美由紀「うん!」
翠「で、では私も……美由紀、ちゃん」
お互いに名前を呼び合い、なんだか嬉しそうに微笑みあいます。
美由紀「えへへ……あ、ご飯にしないとね! えーと今日は……うん、嬉しいからかににしよう!」
翠「」ビクッ
その日の夜は、翠の旅のお話をたくさん聞いて楽しい夜を過ごしました。
次の日の朝のこと。
美由紀「ふわ……」
美由紀が朝起きると翠の姿がありません。ですが、外でばさばさと布をはたく音が聞こえます。音のする方へ行くと、美由紀の服が綺麗になって干されていました。
翠「おはようございます、美由紀ちゃん」
美由紀「わぁ……すごい! とーってもきれい!」
今まで見たことがないほど、服が綺麗になっています。美由紀はぱたぱたと跳び跳ねて喜びました。
翠「ささやかですが、泊めていただいたお礼です。お気に召されたでしょうか?」
美由紀「うん、うん! ありがとう、翠ちゃん!」
ぐるぐると翠の周りを走り喜ぶ美由紀。
翠「私の旅での知恵が役に立ったのであれば、何よりです」
美由紀「すごいね〜! 翠ちゃん、なんでもできちゃうんだ!」
翠「ふふ……」
美由紀「あ! 起きてお腹すいちゃったよね、ご飯作らないと!」
翠「でしたら、既に」
翠はそう言い、家の中を指差します。その先には美由紀が見たことのない食べ物が置いてありました。湯気が出ており、動物の形をした食べ物がとてもかわいく、それでいてとても美味しそうです。
美由紀「わわっ、わぁー! すごーい!」
翠「お口に合えば良いのですが……」
ほこりをたてないように近より、まじまじと見る美由紀。近くで見るとよりいっそう美味しそうで、いいにおいまでしてきます。
美由紀「なにこれ、とってもいいにおい!」
翠「どうぞ、ご遠慮無く頂いてください」
美由紀「いいの?」
翠「もちろんです、貴方のために用意したのですから」
美由紀「うわぁ……ありがとう! えへへ、じゃあいただきます!」
ぱく、と口に入れると今まで味わったことのない旨みが口のなかに広がります。美由紀は思わず声を上げて喜びました。
美由紀「んぅ〜おいしい!」
翠「ふふっ、それでしたら何よりです」
美由紀「翠ちゃん、お料理もできちゃうんだね! これ、すっごくおいしい!」
たまらずぱくぱくと食べる美由紀。ですが、翠の分がないことに気づきます。
美由紀「あれ? 翠ちゃんの分は?」
翠「いえ、私は良いのです。美由紀ちゃんが喜んでくれれば」
それを聞いた美由紀は、むぅと言って台所へ向かいました。そして翠の分のご飯を持ってきて、
美由紀「はい、翠ちゃんも一緒に食べよ!」
翠「え、その……」
美由紀「……1人で食べるより、皆で食べた方がおいしいの。だからさ、一緒に食べよ?」
翠「……はい。そうでしたら……ご一緒に」
美由紀「うん!」
そうやって、翠と美由紀はしばらく二人楽しく暮らしました。二人で漁をしたり、料理を作ったり、楽しく遊んだり……そんなある日のことです。
美由紀「翠ちゃん、大丈夫?」
翠「ええ、これしき。私にかかれば」
美由紀「えへへ、いつもありがと! じゃ、行こっか」
翠「はい、行きましょう」
ある日、二人は漁で捕れた物を売りに町へ向かいました。二人になったので危険なこともなく、今までよりも早く着くようになりました。
美由紀「ふぅ、到着到着」
翠「……」
美由紀「? 翠ちゃん、どうしたの?」
翠はあるものをじっと見つめています。美由紀は気になり、何かと思ってみてみると、どうやら糸のようです。
翠「……あの、美由紀ちゃん。あの糸を……買ってもらえないでしょうか?」
美由紀は驚きましたが、同時に嬉しく思いました。今まで翠は、自分からはなにも欲しいものを言わなかったのです。
美由紀「うん、もちろん! 翠ちゃんの頼みだもんね!」
美由紀は喜んで買って、翠に渡しました。
翠「ありがとうございます、美由紀ちゃん」
美由紀「いいよいいよ、気にしないで♪」
その日、帰るなりすぐ部屋に入り、翠は言いました。
翠「美由紀ちゃん、私は今から機を織ります。ですがその間、けして覗かないでもらえますか?」
美由紀「はた?」
翠「……えっと、つまり布を作りますから覗かないでほしいのです」
美由紀「? うん、わかった!」
いまいちよくわかりませんが、美由紀はそれを守ることにしました。
そして三日後のこと、織り上がったものを差し出し、翠は言います。
翠「美由紀ちゃん、どうぞ。これを売って、また新しい糸を買ってきてください」
その手にはためいきがでるほど綺麗で輝かしく、軽やかな布がありました。
美由紀「すごいきれい……翠ちゃん、どうやってこれを?」
翠「……申し訳ありません。この技は水野家秘伝でして……美由紀ちゃんであっても見せるわけにはいかないのです」
翠は申し訳なさそうに頭を下げます。美由紀は少し気になりましたが、ひとまず翠の言うとおり売りに行くことにしました。
布は、糸を買っても大きく余るほどに高く売れました。美由紀は驚きましたが、大きいお金を使うことに慣れてなかったのでひとまずお家に帰りました。
翠「お帰りなさい、美由紀ちゃん。どうでしたか?」
美由紀「うん、すっごく売れたよ!」
翠「ふふ、ならよかった……では、次の糸を」
美由紀「え? ……うん、はい」
美由紀は糸を渡します。翠は受けとるなり、
翠「ありがとうございます。では……申し訳ありませんが、またしばらく織らせていただきますね」
美由紀「……うん、わかった」
美由紀はすごく気になりましたが、翠から頼まれたことなので決して覗くことはありませんでした。その日は、1人でご飯を食べました。
そして、また三日後のこと。
翠「……はい、美由紀ちゃん。これを」
翠は前と同じぐらい、美しい布を渡しました。
美由紀「うわぁ……」
翠「では、また糸、を……」フラッ
美由紀「! 翠ちゃん!?」
翠「……ごめんなさい、少し寝不足のようです。お休みしていますので、またお願いしますね」
そう言い、翠は横になりました。翠が寝たのを確認すると、糸を買って欲しいと言っていたことを思い出し、喜んでくれることを願ってまた買いに行くことにしました。布はまた、とても高く売れました。
翠「……おかえりなさい、美由紀ちゃん」
美由紀「うん、ただいま」
翠「では、糸を……」
美由紀「……ねえ翠ちゃん。また二日かかっちゃうの?」
翠「ええ。……お手伝いできなくてごめんなさい」
美由紀「……ううん、いいよ」
そういうとニコッとほほえみ、翠はまた部屋に閉じ籠りました。
美由紀はまた、1人でご飯を食べました。
そして、二日後のことです。
翠「……」
きこ、きこ、ばた、と音だけが部屋に響いています。機織りの上にはとてもとても綺麗な布ができつつありました。
翠「ふぅ、ふぅ……これで、美由紀ちゃんが、楽になれば」
翠は美由紀のために機を織り続けます。
翠「あっ……」
ですが疲れが貯まったのか、少しふらついてしまいます。思わず床に手をついてしまいました。
翠「ふぅ……いけません、ね……」
すると突然、がらっと戸を開ける音がなりました。ビックリして振り返ると、そこには美由紀が悲しそうな顔で立っていました。
翠「!! み、美由紀ちゃん」
美由紀「……」
美由紀はそこにいる、弱々しい姿になった鶴を悲しそうな顔で見つめています。
翠の正体は、あのとき助けた鶴でした。翠は自分の羽毛を使い、あの美しい布を織っていたのです。
翠「……ばれてしまっては、しかたがありせんね」
美由紀「……」
翠「私は、あのとき貴方に助けられた鶴でございます。どうかご恩を返したいと人の姿になっていました」
美由紀「……」
翠「……ですが、もうお別れですね。人の身ではない私は……あなたと一緒に住むわけにはいきません。どうか、いつまでもお元気でーー」
美由紀「……やだ」ギュッ
美由紀は痩せこけてしまった鶴を抱き締めます。
翠「み、美由紀ちゃん?」
美由紀「やだよ……お別れなんていや……」
美由紀は抱き締めたまま、震える声で話し始めました。
美由紀「1人で、ずっと、ずーっと寂しかったんだもん……いやだよ……翠ちゃんがきて、まるでお姉ちゃんができたみたいって……すっごく嬉しくて、楽しくて……」
翠「……」
美由紀「みゆきね、翠ちゃんが糸欲しいって言って、布をつくって、すごく嬉しかったの。お金になるからじゃないよ、翠ちゃんの好きなことかあったんだ、ってわかったと思ってたからなの。……でも」
美由紀「でも、こんなになるまでみゆきのためにしてもらっても、嬉しくないよ……」
翠「……美由紀、ちゃん」
美由紀「ねえ、いかないで……? 綺麗な布なんて……いや、みゆきにお礼なんてもういいの。ずっと、みゆきと一緒にいて……いてよぉ……うぅ……」グスグス
美由紀はついに泣いてしまいました。鶴は腕を優しく外し、少し離れると人の姿へと変化しました。
翠「……美由紀ちゃん、ごめんなさい。私、美由紀ちゃんが楽に暮らせるなら私がどうなろうと……なんて、勝手に思ってました」
美由紀「」グスグス
翠「ですが……違ったのですね。美由紀ちゃんは私と暮らすだけで幸せだと、そういうことだったんですね」
翠は少し細くなってしまった腕で美由紀の頭を撫でます。
翠「それが、美由紀ちゃんへの恩返しなら……私は貴方と共にいます。……それに」
美由紀「?」グスグス
翠「……それに、私自身も美由紀ちゃんと共に暮らしたいと。そう心から思いましたので」
美由紀「み、みどり、ちゃん……」グスグス
翠「ですが、私は人ではありません。本当によろしいのですか? 何か困ることもあーー」
美由紀「ううん、そんなことないよ! 翠ちゃんは翠ちゃんだもん!」
翠「でしたら、もう大丈夫です。……これから、どうかよろしくお願いしますね」
美由紀「……うんっ!」
こうして、翠は美由紀と一緒に暮らすこととなりました。
そして、いくつかたったのち……
美由紀「翠ちゃん、そっち引っ張ってー!」
翠「わかりました……えい!」
美由紀「……よし、あとは朝になればできあがり!」
翠「ふふ、楽しみですね……干物は食べたことがありませんので」
美由紀「とってもおいしいよ! あ、でも今回はあんまり作ってないから翠ちゃんじゃあ足りないかも」
翠「そ、そんなこと……ない、ですよ?」
美由紀「……ふふっ」
翠「……ふふ」
美由紀「えへへ、翠ちゃん。楽しいね!」
翠「ええ、とっても♪」
二人は町でも噂になる仲良しな姉妹として、楽しく豊かに、そして健やかに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
終わりです。依頼出してきます
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