※あっという間に終わります
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近頃困った奴がいる。頭を悩ます奴がいる。
これで相手がアイドルなら、彼だって少しは強気に出れただろうが……。
「おはようございますプロデューサーさん!」
劇場事務室の扉を開ければ間髪入れずに聞こえて来る。
元気一杯の声の主、それが男の頭を悩ませる、青羽美咲なのであった。
「お、おはよう青羽さん。今日もやっぱり――」
「お疲れ様です! ドリンクあって、ジュエルがあって、マニーとレッスンチケットもあって」
「うん、うん、受け取るから。慌てなくても受け取るからっ!」
「なんとっ!! 只今スペシャルログインボーナスも――」
「実施してない! 話を聞けっ! とりあえず落ち着こう青羽さん!!」
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まるで飼い主を待っていた犬である。
人懐っこい笑みを浮かべ、
自分の傍まで駆けよって来た美咲の肩を掴み座らせる。
キョトンと瞬き一つせず、
こちらを見上げる彼女の顔から男が思わず目を逸らす。
「どうかしましたプロデューサーさん? 今日も一日頑張りましょう!」
美咲の頭には目には見えない耳があり、お尻にも見えない尻尾がついてるよう。
尻尾はフサフサした毛並み、パタパタと千切れんばかりに振られてる……実際そこに、あったらだが。
とはいえ、目には見える事実として見過ごせない物がもう一つ。
それは目の前に座る美咲の顔に、明らかな疲労が色濃く出ているということ。
髪は跳ね、目の下にくま、着ている事務服もちょいとヨレて、おまけに無駄なハイテンション。
誰がどこから見ても分かる通り、彼女は恐らく眠ってない。
「青羽さん昨日もそんなだった」
「はい? 何がです? あっ、ログインボーナスの最後には、いつもより豪華なアイテムを――」
「何日寝てない? いつ帰った? 劇場にいつから泊まってる?」
「もう、プロデューサーさんいやですよ。劇場はみんなのホームだって――」
「言ってはいるけど意味が違う! 二十歳の娘が夜も帰れず、泊まり込むほど仕事があるじゃなし」
男が険しい顔で美咲を見る。
すると彼女は何かを思い出したように、虚ろな視線を事務室に這わす。
「あー……お仕事。お仕事ですか? してます。今、ようやく次のデザインが上がったトコで」
「で、デザイン?」
「これから生地の選定と、小物の吟味買い出しと……。予算はそれほど多くないので、失敗はなるべくできなくて……」
スッと瞳を半目閉じ、ブツブツ呟き出す美咲。
それから彼女はゆっくりと、体を前後に揺らし出した。
そのうち口元にやっていた手も落ちて、聞こえてくるのは可愛い寝息……。
「……美咲?」
「……ふひゃっ!? ね、寝てません! 寝てません! 袖を縫い付けちゃったりもしてません!」
慌てて椅子から立ち上がり、覗き込んでいた男の額へ華麗なまでのヘッドバット。
「ふごっ!?」
「痛ったあー!!?」
男が仰向けのまま床に倒れ、美咲も頭を押さえてしゃがみ込む。
痛みを堪える彼女の目尻に、浮かぶは乙女の涙かな。
「す、すみませんプロデューサーさん。だっ、大丈夫で――」
「おわっ!?」
そうして手を出しよろよろと、相手を心配して立ち上がろうとした美咲の両足は見事にもつれ
――なにせ彼女は寝てないのだ。ふとした瞬間に力が抜けることも多い――そのまま男の上へと倒れ込んだ!
「ひゃっ!!?」
途端、男の体に加わる重みと感じる人肌甘い熱。
胸元に強く乗っかった、美咲の頭からは得も言われぬ程の良い香り。
男が「ヤバい」と息を飲み、美咲が「眠い」と顔をしかめる。
美咲の下から慌てて脱出を試みる男を、彼女はしっかと捕まえて。
「……お兄ちゃん。このまま仮眠室まで連れってぇ」
甘えた様子でおねだりを、する顔は正に「妹」のソレ。
あれほど公私混同に気をつけろと厳しく言っておいたのに……。
「寝る、寝るよぉ、ちゃんと寝る。だけど一人じゃ歩いてけないからぁ」
「そこを無理やり起きての社会人! いい加減俺に手を焼かすな!」
「うぅん、冷たい~! ……あ、お兄ちゃんの上は温かいけど」
ぷぅっと頬を膨らませ、美咲が抗議の目を向ける。
しかし次の瞬間にはへにゃへにゃと、溶け切った笑顔ではにかんで。
「美咲を運んでくれたなら、きっとイイコトありますよ~? えへっ♪」
結局この後妹をおぶり、男が仮眠室に向かったのは言うまでもない。
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ログボの台詞が変わってて、その可愛さに衝動的に書いたから短いけどおしまい。
ボーナスは美咲ちゃんの笑顔でしたとさ。
では、お読みいただきありがとうございました。
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