志保「別に、私は未来のこと嫌いじゃないわ」【ミリマス】 (24)

可奈「ねぇ、志保ちゃんって未来ちゃんのこと好きだよね」

ファミレスで和風御膳を食べていると、目の前でシチューオムライスを食べている可奈からふとそんなことを言われた。

志保「何よいきなり」

可奈「いや志保ちゃんって未来ちゃんのこと好きだよねー って」

志保「別にそんなこと無いわよ」

いきなりの可奈の言葉に、てっきり今からドラマで見るような痴情の縺れが始まるのかと思って身構えたのだが、そんなことは無いらしい。

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可奈「でも、この前の土曜日 わたしがデートに誘った時に『先に約束してる子が居るから』って言ったのって未来ちゃんのことでしょ?」

志保「そうだけど……」

一体誰がそんなことを……

可奈「未来ちゃんから聞いたの」

本人からか

志保「弟にちょっとしたプレゼントをあげようと思ってね、何でだか知らないけど未来のセンスってうちの弟に丁度合うから、買い物に付き合ってもらったの」

可奈「そんなことがあったんだね~」

志保「言った方が良かった?」

可奈「あっ! 別に怒ってるとかじゃないよ! 今日は志保ちゃんと二人っきりだし!」

可奈「でも純粋にね、志保ちゃんって未来ちゃんのこと好きだよねって思ったの」

志保「別に……」

『別に』それ以上の言葉は出てこなかった。

未来とは確かに同い年ということもあって話す機会は多い。 未来は可奈と同じで放っておけない子だから面倒を見ることも多少ある。

けどあの子には静香が居る。 別に私が未来を助けてあげる必要なんて無い。 私に可奈が居るように未来には静香が居る、それが全て。

その日は次のドラマの台本を覚えるため、私は仮眠室に一人居た。

人が一人眠れるベッドがあるだけの狭い部屋、たまにプロデューサーさんが使うくらいの誰も来ない部屋。 だからこそ一人で集中出来る…… つもりだったのだが

未来「あっ! し、志保っ!」

ドタバタと足音がして、一人用のはずの部屋にもう一人の客人、未来が現れた。

未来は酷く焦った様子で私に必死の思いの丈を述べる。

未来「ねぇ志保! 今からここに静香ちゃんが来るかもしれないけど、ここにはわたしは居ないってことにして!」

そう言うと未来はベッドにその身を隠した。 それじゃあ簡単にバレそうだけど……

少しして、再びのドタバタ音と共に未来の言うとおり静香が現れた。

静香「未来っ!」

勢いよく扉は開き、静香が飛び込んでくる。 相変わらず静香は未来が絡むとうるさい。 痴話喧嘩ならもっと静かにやって欲しいわ。

静香「あ、志保 ここに未来が来なかった?」

志保「来てないわよ」

静香「そう……」

志保「静香」

静香「何?」

志保「あんまり未来にうるさく言ってると嫌われるわよ」

静香「なっ……」

静香「余計なお世話よ!」

そう言って静香は仮眠室を後にした。 確かに今のは余計な一言だったかもしれない。 静香のことは好きじゃないけど、わざと怒らせて楽しむほど歪んではないつもりだ。

じゃあ何で言ったか、本当に静香が未来に愛想をつかされるのを心配して…… あり得ないわね。 まぁ未来の方が心配だったとかでしょう。

志保「行ったわよ」

未来「ほんと……?」

そう言って布団にくるまったまま顔だけ出す未来。 何やってるんだか。

未来「ありがと志保、わたしのこと黙ってくれて」

志保「別に、静香に少し頭を冷やさせたかっただけよ」

未来「静香ちゃんすごく怖かったよ~……」

志保「それで、今回は何をして静香を怒らせたの?」

未来「もう! それじゃわたしが悪いみたいだよ!」

志保「違うの?」

未来「冷蔵庫にシュークリームがふたつあって、美味そうでつい食べちゃったらそれ両方とも静香ちゃんのものだったみたいで……」

未来「謝ったし、同じの買うからって言ったのに『そうじゃないの!』って凄い怒るもんだからつい逃げちゃった……」

冷蔵庫にシュークリームがふたつ、好きな子が鈍感だと困るわね、同情してあげるわ。

志保「100%貴女が悪いじゃない」

未来「そうだけど…… あんなに怒らなくてもいいのに……」

志保「素直に謝れば静香なら許すわよ」

未来「そうかなー……」

志保「そうね、未来もシュークリームを2つ買って『一緒に食べよ?』って可愛く甘えたら簡単に許すと思うわ」

これも余計な一言、未来のことになるとお喋りになってしまうのかもしれない。

未来「うどんじゃなくていいの!?」

とことん鈍感。 そろそろ真面目に話すの面倒になってきたわ。

志保「まぁうどんでもいいかもしれないわね」

未来「ありがと志保、志保って優しいね」

志保「…… そんなこと言うの可奈と貴女くらいよ」

未来「えー? 志保ってすっごく優しいよー、今だって静香ちゃんとどう仲直りしたらいいか教えてくれたし」

志保「……」

本当、我ながら余計なこと言ったものね。

志保「感謝するくらいなら早く静香と仲直りしなさい。 あの子未来のことになるととことん面倒なんだから」

未来「うん! ほんとありがとう、志保!」

いつもの笑顔を取り戻した未来の顔をなんとなく見つめていると、未来は部屋を駆け出した。

話しながら、頭の中に常にあったのはこの前の可奈の言葉。 今の未来との距離は友人として適正なものだとは思うけど、可奈に勘違いされるくらいなら少し距離を置こうかしら。

またある日、書類提出のために事務所に行くと、居合わせた百合子さんにまたアレを言われた。

百合子「あのさ、志保って未来のこと好きだよね」

妙にキラキラした、好奇心の抑えが効かないような様子で百合子さんは向かいのテーブルから身を乗りだし問う。

志保「別にそんなことないですよ」

百合子「えー? 志保って可奈ちゃんと同じくらい未来のこと好きだよー」

志保「可奈にも同じようなこと言われました」

百合子「ほらやっぱり!」

何がやっぱりなのか

志保「普通ですよ。 ある程度は仲良いとは思いますけど、それだけです」

百合子「そう? よく一緒に居る気がするけど」

志保「未来がいつも一緒に居るのは静香とか翼とかですよ」

それに、どんなに仲が良くたって『いつも一緒に居る』なんてあり得ないと思う。

…… 百合子さんと杏奈を除いて。

杏奈「百合子さん……」

百合子「あっ、杏奈ちゃん」

どこからかのそのそと現れた杏奈が百合子の袖を掴む。 そして私に向けられる敵意の視線。 間違っても百合子さんを取ったりしないわよ。

百合子「そうだ、今日は帰り何処か寄ってく?」

杏奈「うん…… 駅前のたいやき屋さんがいいな」

百合子「あっ、紗代子さんがオススメしてた奴?」

あっという間に二人だけの世界に入ってしまった百合子さんと杏奈を放って私は事務所を後にした。

『仲が良い』っていうのがあの二人くらいのレベルを指すなら、この世に仲の良いカップルなんて居なくなるんじゃないかしら。

私は未来とずっと一緒に居るわけじゃないし、未来のことは別に好きじゃない。 誰から聞かれてもそれが私の答え。

と、結論を出していたのだけれど……

未来「ライブ、一緒に頑張ろうね!」

どうしたことか、次の大きなライブでのリーダーに未来と私が任命され、これからしばらく未来とずっと一緒にレッスンすることになってしまった。

過去のライブで未来と静香、私と星梨花の組み合わせでリーダーになったことがあるし、色々な組み合わせを試すために私と未来がリーダーをやるのはそこまでおかしなことじゃないけど……

でも、少し気にしすぎかもしれない。 最近未来との関係について言われ続けて未来に対して色々過敏になりすぎている。 誰がパートナーだろうと、私はその人と協力して最高のステージを作り上げるだけ。

だから斜め後ろから感じるピリピリする視線も気にしないようにしよう。

志保「はっ……」

未来「今! 今良かったんじゃない!?」

志保「ええ、大分息があってきたわ……」

未来「でへへ、なんていうか…… 志保って頼もしいね」

志保「何よいきなり」

未来「志保はいっつも練習頑張ってて、だからあんなにかっこよくステージで歌って踊れるんでしょ?」

志保「別に、普通よ」

未来「レッスンシューズ、2週間前と変わってるよ」

志保「っ……」

何でそんなところは気付けるのかしら……

志保「早く帰るわよ」

未来「あ、待って待って~」

未来「うぅ…… ちょっと寒いかも……」

志保「そんな薄着だからよ、今日は冷えるって言ってたじゃない」

未来「昼はあったかかったもん」

志保「知らないわよ」

未来「ねぇ志保…… 手袋貸して?」

志保「はぁ?」

未来「この前似たようなことがあった時ね、静香ちゃんが手袋貸してくれて、もう片方の手を繋いだら凄く暖かくて……」

貴女たち普段そんなことしてるのね……

志保「それ、静香以外に頼まない方がいいわよ」

未来「え、何で?」

未来「あ、そう言えば静香ちゃんに聞かれたんだけどさー」

未来「志保ってわたしのこと好きなの?」

志保「は?」

また突拍子の無いことを……

未来「静香ちゃんがね」

静香『ねぇ! 未来は志保のことが好きなの!? 事務所の色んなところで聞いたんだけど!』

未来「って言っててね」

涙目の静香が目に浮かぶわね

未来「それで静香ちゃんも志保も大好きだよー って答えたらとぼとぼ帰っちゃって」

志保「未来、そういう時は『静香ちゃんが世界一好きだよ』って言ってあげなさい」

未来「どうして?」

志保「どうしてもよ」

未来「それで、わたしは志保のこと好きだけど、志保はわたしのこと好き?」

志保「……」

自分の中で何度も結論を出したことだ。 私は別に未来のことを特別好きでも嫌いでも無い。

だけど、未来はとても魅力的な人間だと思う。 いつも笑顔で、未来の笑顔に釣られてこっちまで楽しくなる、そんな笑顔。

正直無愛想な私より余程アイドルに向いていると思うし、あんな笑顔を私も出来たら、と羨んだことだってある。

未来は私のことを努力家と評したけど、私から見たら未来だって十分努力家だ。 頑張っているところを応援したくなる、そんな子。

だから、正確に言えば私は未来に惹かれている。 これが『好き』なのかはわからないけど。

もし、未来が静香より先に私と出会っていたら、私が可奈より先に未来と出会っていたら……

未来「志保?」

なんてところまで考えたところで止めた。 もしもや仮定の話なんてしたって意味は無い。 私の心はひとつ。


志保「別に、私は未来のこと嫌いじゃないわ」



おわり

読んでくれた人ありがとうございました。

遠まわしに言うところがらしいっすな
乙です

>>1
北沢志保(14) Vi/Fa
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矢吹可奈(14) Vo/Pr
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>>4
春日未来(14) Vo/Pr
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>>5
最上静香(14) Vo/Fa
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>>11
七尾百合子(15) Vi/Pr
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>>13
望月杏奈(14) Vo/An
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