ガヴリール「悲しみとか痛み、その他ぜんぶ」 (57)

四月。

桜が舞い、爽やかな風が吹く季節。

そんなうららかな日々の真ん中で。

私はひとり、窓から空を見上げていた。

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まずはいまの状況について軽く話しておこう。

紆余曲折ありながらもなんとか舞天高校を卒業できた私たち天使と悪魔四人は、一度実家に帰ることになっていた。

もともとそういう決まりだったし、これが今生の別れなんてことになるなんてことはないのだけれど、やっぱり卒業式というのはどこか悲しくなるもので。

私たち四人は式の後に桜の木の下に集まり、目を潤ませながらこれからについて語り合った。

ヴィーネ。

悪魔なのに悪魔らしいことのできなかったやつ。私のお世話をしながらも勉強は怠らずに取り組み、優秀な成績で卒業。

逆に悪魔としての成績はよろしくなかったらしいけど……ま、それもヴィーネらしい。

サターニャ。

私より勉強が苦手だったあいつも、みんなに支えられてなんとか卒業できた。

ああ見えて案外地道に悪魔的行為を重ねていたサターニャは、わりと優秀な悪魔だったらしい。

ラフィエル。

流石天使学校次席というべきか。勉強も天使的行為もそつなくこなしていたらしい。

私たちにはあまり見せていなかったが、あいつも裏では善行を積んで天使らしくしていたみたいだ。


……そして、私はというと。

出席日数もなんとかクリアしたし、気は進まないながらも実家に帰るつもりだったんだけど。

我ながら情けないことに、卒業間際までゲームに熱中したこともあり、なんとアパートの引き払いの連絡を怠ってしまい、強制的に下界に一か月滞在することになってしまった。

「……はあ、まったく何やってんだか」

自虐的に呟きながら、開いていた窓を閉じる。

いくら綺麗な桜でも、一人で眺めつづけるのは苦痛だ。

ダメダメな自分と見比べてしまい、憂鬱な気持ちになる。

そんな気持ちを振り払うように頭を横に振ると、私はいつものようにパソコンの電源をつけた。

学校に行く必要がなくなり、仲のいい友達も帰ってしまった今、私を満たせる娯楽はゲームだけになっていた。

別にいいじゃん、すごく気楽で極めて自堕落な生活だ。

口うるさいヴィーネも、騒がしいサターニャも、導ってくるラフィエルもいない。

誰にも咎められない。私を邪魔するやつはいない。

私の、完璧な王国の完成だ。

「……」

かたかた、かたかた。

キーボードを打ち付ける音と、パソコンの微かな起動音。

我がガヴリール王国を満たす音楽は、それだけ。

女王の私は、ネトゲの中でもちやほやされている。

そりゃそうだ、毎日暇さえあればログイン。高校時代からやり込んでいる廃課金ユーザー。

姫プレイではないけれど、私はリーダー的な存在で先陣を切って敵をなぎ倒す。

ドガッ!バシッ!

か弱い女の子のアバターにはおよそ似合わない、重たい効果音をまき散らしながら進んでいく。

そんな私のあとをうろちょろと付いて回る、乞食のようなプレイヤーたち。

いや、別にいいんだけどさ。私もおなじようなことしたことあるし。でも……

「お前ら、ほんとにそれで楽しいのか?」

周りに合わせるのは、そりゃ安心するだろう。

何も考えずにリーダーについていくのは、そりゃ楽だろう。

あとをついて回るやつらを見て、ふと天使学校時代を思い出した。

主席だった私の周りにはたくさんの同級生がいたけれど。

今考えてみると、本当に友達と言えるのは、ほんと一握りだったんだろうと思う。

……つまらないことを思い出した。

途端に集中力が切れて操作が疎かになる。

あっさりと敵にやられた私を置いて、取り巻きはばらばらと散っていく。……薄情な奴ら。

ネトゲをやる気すら失った私はパタリとパソコンを閉じる。

再び外を見ると、太陽がまぶしく輝いていた。

「……まだ昼か」

忙しい時ほど時の流れは速く、何もすることがないと時間の進みは遅い。

学校に行かなくていい、天使的行為のする気のない私にとって毎日の目標などない。

ただ、空虚な日々を貪るだけ。

……暇だ。

いてもたってもいられなくなった私は、のそりと立ち上がりながらそっと呟いた。

「……外、出てみるか」

こんな感じで少しずつ書き進めていきます。遅筆になると思いますがよろしくお願いします。

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