仮面ライダークウガ 狼戻 (38)

「五代......お前はどこに行ってしまったんだ......」


未確認生命体関連事件合同捜査本部の一条薫が思わず呟いた。その声がまわりに聴こえることはなかった。だけど仲間達も同じことを、考えているのだろう。

2001年1月30日。五代雄介とン・ダグバ・ゼバの激しい死闘が繰り広げられた。戦いの末にダグバは爆死。グロンギ族は絶滅したとされた。

激しい吹雪のなか、一条は倒れた両者を見ていた。しばらくすると彼は、五代に近づくために歩き出した。
けれども彼がようやく五代のいた場所に駆けつけたとき、すでにその身は消えていた。

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それから一週間が経った。ある日、愛知県近辺の海域に、直径10cmほどの石が二つ降ってきた。付近の住民はまったく気にしなかったが、この石がある事件を引き起こすことになる。


2月7日の明け方、漁師等は船に乗って網を引っ張っていた。

 
「ん? 奥から何か見えるぞ?」

「どうせ鰯を狙っている鳥かなんかだろ」

「いや......何かがこっちに向かってきているぞ! 急いで逃げた方が......」

「待てよ......まだもう少しかかる」

「うわぁぁぁぁぁ!!」

午前8時頃、愛知県警の刑事が町に訪れた。いつまでも漁船が帰ってこないことを心配した女性たちが通報したのだ。
本来海難事故は海上保安庁の管轄。しかし未確認生命体の仕業である可能性が考えられたため、このようなことになった。


「全員食べられていますね。これは未確認の仕業でしょう」


小船による捜索が行われた。ほどなくして、被害にあった漁船が発見された。その情景について刑事達が話している。


「それにしても......まだ未確認が愛知に現れるとはな......」

「少し前に未確認の大量虐殺がありましたしね」

「でも未確認って、九郎ヶ岳で零号が死んで全滅したのでは?」

「でもこれは未確認の仕業以外にはあり得ないだろ。もしも鮫などに食われたのなら、船にほとんどど傷が残っていないことの説明が出来ないからな」

その船は、被害者たちが抵抗したときに出来たと思われる傷以外はどこも壊れていなかった。
未確認生命体の中には、ルールを定めて殺人を行う者がいた。そのため、愛知県警はターゲットを漁師に絞った犯行と仮定し、県内全域に漁を禁じることを命じた。

この知らせはもちろん、捜査本部の耳にも届いた。
五代=クウガが未確認生命体を全滅させた。そう信じていた彼等にとって、そのしらせは衝撃が走った。


「未確認は五代さんが全員倒したはずじゃ......」

「笹山さんの言う通りです。第零号の圧倒的な力は皆さん知っていますよね? もしも生き残りがいたとすればそれは第零号の粛清から逃れたと言うことでしょう。そんなのあり得ますか?」


婦警の笹山望美と警部補の桜井剛が、この報告に異を唱える。しかしもちろん、真相に気づいたわけではない。

「捜査に私情を挟むな。それに桜井......お前はもし未確認の事件が起こる前に、未確認生命体の話をされたら信じたか? あんな常識はずれのことが起こったんだ。今更何が起きても不思議じゃない」


これに対して杉田守道は、あくまで提示された資料に基づいた見解を示した。


「だとしたら......」

「どうしたんだ? 一条」


何かに気づいた様子の一条。
杉田が聞き出すと、一条は突拍子もない仮説を打ち出した。


「桜井さん達の意見はもっともです。しかし今回の犯行は未確認でなければあり得ない。つまりそいつは、第零号に匹敵する強さを持っている。もしくはグロンギ族以外の、未知の知的生命体の犯行の可能性があります」

「なんだと!?」

「それって......まさか宇宙人の仕業とでも言うんですか?」

「笹山さん流石にそれは......ですよね? 一条さん」

「私にはそれを一概に切り捨てることは出来ません」

「大変です! 新たな被害者が現れました!」


会話を遮り、一人の男が割って入ってきた。彼は次の事件について説明し始める。


「愛知県豊田市武節町で、大規模な殺人事件が起こりました。域内の住民たちが、次々と被害にあっています。死因は胸に鋭いものを突き刺されての出血多量。現在までに、総死者数は141人!」

「どういうルールなんだ? もし未確認じゃ無いのなら無意味なことになるが......」


ゴ集団と呼ばれる位の高いグロンギは、ゲゲルにルールを設けて殺戮行為を行っていた。なのでその共通点の考察に入る杉田。

「被害者の詳細は解りますか?」


桜井は被害者の共通点を見つけるためにこうたずねた。しかし犠牲者の数が多かったため、彼は答えることができない。


「百人以上の被害者全員の共通点なんて、それこそ同じ場所に住んでいるくらいじゃないですか? そうですよね一条さん。ところで今回の被害者は食べられてないんですね」

「そういえば! つまり一件目と二件目の事件は違うのか? 例えば一件目は食事が目的で、ゲゲルの始まりは二件目から......とか......」


笹山のふと思い付いた疑問によって、一条の推理が展開された。


「ともかく、現在未確認は愛知県付近に潜伏していると考えられる。一刻も早く法則を見つけ出そう」


本部長である松倉貞夫がこう呼び掛けた。そして捜査が本格的に始められた。
今までのゲゲルの法則には、東京23区をあいうえお順に廻りながらや、バイクに乗った者を狙う、男性警官のみを殺害する、事前に予告した通りに殺戮を行う、などがあった。このどれでもないことは確かだ。

(キーワードは愛知県豊田市武節町と、死者141人......しかしB-9号は杉田さんと桜井さんが、B-1号は俺が倒した)

(二体も三体も生き残りがいるとは思えない。つまり審判のようなものは、もういないはずだ。なのにわざわざ縛りを設けて殺人する理由はなんだ?)


もちろん、自己満足として犯行に手を染めている可能性もある。
だがもしも何か理由があるのならば、それはなんなのか。一条は気にせずにはいられなかった。

2月8日未明。長野県の山奥にてうずくまっている男が一人。全身はボロボロになっているが、傷は驚異の回復力によっておおむね治っていた。


「よしっ! そろそろ行くか!」


彼の名は五代雄介。クウガとして人々の笑顔のために戦い、数多くのグロンギを撃破。ついには伝説を塗り替えた英雄だ。しかしその心は未だ癒されてはいなかった。
彼はこれから、失った笑顔を取り戻すために海外に旅立つ予定だ。


「ギベ! ダグバ!」


突然、五代の耳に届いた声。
なんと言っているのかはわからない。しかし声の主がグロンギであることは容易に察した。
どうやらテレパシーのようなもので、遠くから脳内に直接発しているようだ。


「まさか......まだ生き残りが......?」

「リントの言葉で話したいのか。ならばそれでもよかろう。俺はお前の勝利を認めない。真のンの称号は俺にのみ相応しいのだからな!」

「ダグバは......第零号はもういない」

「嘘をつけ。その血の匂いは確かにダグバのそれのはずだ」

(血の匂い? もしや浴びた返り血の匂いのせいで零号と誤解されている?)

「決闘の場はあんたならわかるだろ? もしまだわかっていないのならば殺害人数と殺害現場を特に着目していけ。一番初めのは俺がやったわけじゃないから勘定に入れるなよ」

「待て! お前はいったい......」

「忘れたのか? 良いだろう。その身に永遠にこの名を刻め、俺はン・ガミオ・ゼダ! 究極の闇だ」


そう言い残すと声の主はその気配を消した。


「今のはなんだったんだろうか......」

その日の昼頃。一条は沢渡桜子の下を訪れていた。今回の事件について、何か碑文に手がかりがないか聞き出すためだ。
すると興味深いことがわかった。

桜子の話によると、遥か昔に行われたゲゲルで勝ち進んだ二人のグロンギ族がいた。名前はそれぞれ、ゴ・ダグバ・バとゴ・ガミオ・ダ。二人の激しい戦闘の末に勝利したのはダグバ。このためにダグバはンへと昇格した。ガミオはとどめを刺される前に逃げ出した。と書かれていたという。


(現在生き残っている未確認生命体がいるとすれば、それはこのガミオという奴に他ならない)


一条はその場を後にすると捜査本部へと戻った。


「一条、何か収穫はあったか?」


杉田に聞かれると一条は、桜子から得た情報をその場の全員に伝えた。
各々がそれについて意見を交わしているときに、笹山がそれを遮った。次の被害者が現れたようだ。

「岐阜県本巣市曽井中島で123人が亡くなられたそうです。死因は昨日と同様です!」

「遂に県を越えましたね......」


悔しそうに呟いた桜井。これほどの死者数を生み出してしまった自分達の無力差を、嘆いているのだろうか。


「どこかに向かっているのか? それとも地図に犯行現場の地点をすべて記すと、図形が浮かび上がるとか......?」

「ローマ字にして母音をずらす、とかですかね?」

「ローマ字!?」


一条が何かを閃いたように叫んだ。


「えっ? ローマ字がどうかしたんですか?」

「もしかしたら......今回の鍵は未確認独特の言語なんじゃないかと思って。ありがとう笹山くん」

「そ......そんな! 一条さん!」 


笹山は一条に好意をもっているため、つい照れてしまった。もっとも、一条がこれに気づくことは生涯ないが。

(わざわざ町字まで指定しているということは、大切なのはここなのだろう。少し前に沢渡さんにグロンギ語について教わったことがあったな......確か......)

(その読み方だと例えば武節町はヅゲヅラヂ、曽井中島はゴギババギラ......まるで意味がわからない......)


謎を解くには至らなかった。

翌日の2月9日。またしても犯行が起きた。今度の現場は岐阜県揖斐郡大野町郡家。被害者数は151人だ。


(逆に今までの町名をグロンギ語と仮定して日本語に翻訳すると......)

(駄目だ......グロンギ語に"つ"や"ま"の発音はない......)


当初、犯行現場は古代の遺跡跡ではないかなどの説もあった。しかし結局その証拠は見つからなかったため、再び振り出しに戻っていた。

「一条、この一連の事件に法則なんて無いんじゃねえか? だいたいゲゲルは集団の中で競うものだったはずだ」


連日の疲れからか、杉田がぽろっと口に出した。


「こんなときに五代さんがいてくれればな......」

「笹山くん! なんてことを......」

「あっ......すみません......一条さん。でも......こんなとき五代さんなら、やっぱり解決してくれると思うんですよね」


口には出していなかったが、その場の全員が同じことを思っていただろう。
しかし同時に、これ以上彼を付き合わせることに対する、己の無力感を感じずにはいられなかった。
そのとき一条の携帯電話がなった。

「一条、お前いい加減マナーモードを覚えろよ......」

「すみません......」

「あっ!」

「笹山さん、どうしました?」


何やら閃いた様子の笹山。それについて桜井が聞こうとする。


「私少し前から、死者数の意味を考えていたんです。それが今わかった気がします」

「携帯のメールって1があ行、2がか行、3がさ行になっているじゃないですか。例えば"お"と打ちたかったら、1を5回連打しますよね? そうやって読んでいけば、何か掴めるんじゃないですか?」

「なるほど! ということは最初の犠牲者数141はえあ、123はいさ、151はおあ......さっぱりわかりません......」


笹山の推理通り、暗号を解読しようとした桜井。だが、得られた答えは支離滅裂。残念ながら失敗と言わざるおえない。

「ところで一条、"が"とか"べ"と打ちたいときはどうすればいいんだ?」

「杉田さん今まで知らなかったんですか? 濁音がつくのは......あっ!」

「実際のメールとは違って、この暗号が11をが行、12をざ行などとしていたら......」

「そう考えて読むと......ば......ず......ぱ? なんでしょうバズパって?」


桜井は再び、出されたヒントを元に解読を試みた。しかしまたしても意味

不明の文章になってしまった。

「あの......」

「なにかな? 笹山君」

「1があ行、2がか行で0がわ行って考えは十進法的な考えだったじゃないですか。でもグロンギ族は確か.....」

「九進法か! そうならば11がわ行、12がが行となるから一段ずれる!」


笹山の意見を受け、未確認のものの数え方を思い出した杉田。
どのような経緯から出来たのか。それはまったくわからないが、確かに彼等は九進法を使っていた。


「それです! それを踏まえて読むと......ダ......グ......バ......? ダグバ!?」


一条の推理によって導き出された結果はダグバ。最強のグロンギの名が、そこに記されていたのだ。

「どういうことなんだ? 沢渡さんの言っていたことも踏まえると、これはガミオからダグバへのメッセージということか?」

「もしかして......ガミオはダグバに復讐しようとしているんじゃ......」


弾き出されていく桜井と杉田の予想。
万が一そのようなことが起きてしまえば、余波で日本は壊滅してしまうかもしれない。


(それなら地名の方はなんなんだ? 武節町、曽井中島、郡家......町字をグロンギ語に訳すことは出来ない。いや、頭文字は可能か......ぶそぐを和訳すると......!)

「皆さん......もう一つの謎も解けた気がします......」

「本当ですか!? 一条さん!」

一条の推理はこうだ。被害にあった、三つの地名の頭文字を繋げると"ぶそぐ"となる。それをグロンギ語とした上で和訳すると"くろう"となる。ガミオは九郎ヶ岳という言葉を作りながら、徐々にそこに近づいているのではないかというもの。

だとすれば少なくとも、あと三つの場所が襲われてしまう。この推理が正しいとすれば、次に狙われるのは岐阜県、もしくは長野県の"が"から始まるところだ。


「今調べてみます!」


そう言うが早いか、笹山はパソコンを立ち上げて調べ始めた。
数分後、下記の五つの地点が候補にあがった。


学園町 (がくえんちょう) [岐阜県岐阜市]

楽田町 (がくでんちょう) [岐阜県大垣市]

河間町 (がまちょう) [岐阜県大垣市]

学園台 (がくえんだい) [岐阜県瑞浪市]

願成寺 (がんじょうじ) [岐阜県揖斐郡池田町]

「多いな......すべての地点を守ろうとしたら力が分散され、いざガミオが出現したときに倒せなくなるかもしれん......」


杉田の指摘はもっともだった。かといって、どこか一つにやまをはることなど不可能だ。


「だけど......ガミオからしたら、この五つの内ならどこでもいいんですよね? だったらこっちから場所を指定してもいいのでは?」


桜井の出した作戦はこうだ。あらかじめ五つの内のどこかに住民をすべて集め、敵の襲撃を待ち構える。そして来たところに神経断裂弾で狙撃するというもの。

笹山がその作戦を実行できる場所を調べた。その結果、岐阜市学園町の岐阜市立早田小学校が候補にあがった。
松倉の説得により、岐阜県警の協力を仰ぐことが出来た。さらに捜査本部に先だって、住民の収容に協力してもらえることとなった。


「今のところ犯行は毎日一件ずつです。つまり今から急げば間に合うはずです」


こうして一条、杉田、桜井、他刑事達は現場へと向かった。
特殊車両に乗っての移動はひとときも気の休まる時間はなかった。だけど交代で仮眠を取ったり、栄養を補給している間に、刻々と時間は過ぎ去っていく。

同日、午後11時30分。五代も、ガミオの出した謎を解き明かしていた。
五代は次の犯行現場までは予測出来なかったものの、ゴウラムの前足に掴まって岐阜県へと移動。
緑の金のクウガに変身して気配を探っているが、なかなか発見できずにいた。


「ん? この感覚......まさか......」


ダグバに似た感覚が全身を包んだ。

制限時間が迫っていたので、赤の金のクウガに超変身。ゴウラムは素早さを上げてその場へと向かう。

金の力。それは未確認生命体第26号との戦闘で負傷した五代に、電気ショックの処置を行ったことで発現した強化形態。当初は30秒の制限時間があったが、後に永続となった。
ただし、緑のクウガに対しては元々50秒という制約がある。

「ここからはリントの気配が感じられる」


岐阜県岐阜市学園町。そこにン・ガミオ・ゼダの姿があった。
その町はすでにひとっこ一人いなくなっていた。そのため、暗号製作が出来ず困惑しているガミオ。
それを見つけたクウガが、勢いよく飛び降りた。


「お前が......ガミオ......」

「その様子じゃ本当にダグバとは別人らしいな。だがダグバを倒したお前を殺せば、俺の復讐は成功したのと同じこと」


第零号をやっとの思いで倒し、グロンギを全滅出来たと信じていたクウガ。彼にとって、ガミオの行いは怒りしか生み出さなかった。
 
彼は青の金のクウガに超変身した。瞬時にドラゴンロッドを生成して、ガミオに飛びかかる。

今までクウガが武器を使うには、素材となる物質を変化させる必要があった。だが凄まじき戦士の力なのか、何もない空間から武器を作り出すことが可能になった。

「おりゃぁぁぁ!!」


青の金のクウガはリーチの長さに優れる。なのでガミオより先に攻撃を当てることができた。
だがガミオの胸に浮かび上がった紋章は、書き消されてしまった。
ガミオが反撃のパンチを繰り出す。それを紫の金のクウガになって防ぐ。クウガは手にした剣で突き刺そうとする。しかしガミオに上空に逃れられた。
空から繰り出された衝撃波。その威力は絶大で、クウガをいとも容易く吹き飛ばした。


「ダグバを倒した貴様の実力はその程度か?」


一歩ずつ、クウガに向かって歩みを続けるガミオ。
ガミオの言う通り、クウガはまだ全力を出してはいない。しかしそれには理由がある。
赤の金のクウガや黒の金のクウガでとどめを刺した場合、その衝撃で起こる爆発は、かなりのものになってしまう。だから使うには、人里離れた場所に移動しなければならないからだ。

「まだだ......!」


だけどこのままでは、どっちみちやられてしまう。そう考えたクウガは、赤の金のクウガへ超変身を遂げた。


「面白い。それでこそ倒しがいがある!」


両者の死闘は更に激化。移動しながら戦っていると、小学校の近くにまでやって来た。


「こちら一条、ガミオと思われる生命体を発見。......あれは五代!?」


到着した刑事達は狙撃地点に移動していた。一条は小学校の屋上に待機し、敵の襲来をいまかいまかと待ち構えていた。
そこに、戦闘中のガミオとクウガが現れた。彼は無線を使って、作戦に参加する全警察官にこの事を報告。

「なんだと? 五代君がいるのか?」

「はい......現在赤の金の4号が、ガミオと交戦中です」


未確認生命体第46号との決戦の際に、使われたのはこれの強化形態である黒の金のクウガ。その爆発の影響を知っている捜査本部の面々は、不安に襲われる。しかしそれが逆に自分達でとどめを刺すことを、一層強く誓わせた。
発砲された多くの神経断裂弾。その内のいくつかが、ガミオに命中する。


「なんだ......?」

(体が思うように動かない......あの弾のせいなのか?)

「今だ!」


赤の金のクウガの拳が、ガミオの顔面にクリーンヒット。ガミオはその場に倒れこんだ。


(五代にとどめを刺させることは出来ない......それにさせたくない......!)


精神を集中し、ライフルを構える一条。
放たれた弾丸。それがふらふらと立ち上がっている、ガミオのベルト部分を目掛けて進んだ。しかし何者かがそれを阻んだ。

『なんて様だガミオ。折角拾ってやった恩を忘れたか?』

「な......なんだ?」


一条の目撃したそれは、全身を光沢のある黒で被われているまるで影のような物体だった。それが奇怪な言語で、ガミオに語りかけている。
それがなんなのか。考える間も無く一条は狙いを定め、再びライフルの引き金を引いた。だが神経断裂弾が効くことはなかった。


「まさか......あいつは未確認じゃない!?」


神経断裂弾とは、グロンギ族の弱点を研究した末に生まれた武器である。だからグロンギ族にしか効果がない。
よって未知の生命体には効かないのだ。

(あそこにいるのは一条さんか......その弾が効かなかったということは......)


現在の戦力を冷静に考えたクウガ。咄嗟に黒い影をガミオから遠ざける。
一条はその隙を見逃さず、ガミオに発砲。ガミオは再び倒れ、やがて人間の姿へ戻った。すなわち、完全に息の根を止めることに成功したのだ。


(よし......あとは黒幕と思われる黒い影だが......そればっかりは俺達にはどうしようもない......頼んだぞ、五代!)


一条は同僚に、無線越しでガミオ討伐の報告を済ませた。するとライフルに弾丸を込めて、クウガのあとを追った。
たとえ力になれなくても、警察官として逃げるわけにいかなかったからだ。

相変わらず町は静寂と闇に包まれている。

赤の金のクウガと黒い人影の戦いは、お互いに決め手に欠ける泥試合となっていた。

黒い人影の正体は異星人。宇宙から体を極小化し、直径10cmの超小型宇宙船に乗ってガミオを連れてやって来た未知の存在である。

ダグバに破れ、命からがら逃げ延びたガミオ。彼はある日、地球視察に来ていた異星人と出会った。
彼らに見込まれ、部下となったガミオ。それから膨大な時は過ぎた。今回異星人の目的と、ダグバに復讐したいというガミオの野望が一致。そのためにこのような事件が起こったのだ。

『なかなかやるな......これは使える』

「このままじゃ......よし......超変身!」


黒の金のクウガへとその姿を変えたクウガ。
一方、猛スピードでクウガに向かって駆け出す黒い人影。
クウガはそれが自分の間合いに入るまで待った。そして来た瞬間、殴るために拳を突きだした。
だが、黒い人影はその腕にまとわりつく。


「なんだ? 離れろ!」


敵が何を企んでいるのかは解らないが、直感的に危険を察知。振りほどこうとするクウガ。
けれどもそれが叶うことはなく、徐々にクウガの体の中心部に影は移動していった。


(これほど強い戦士は殺すには惜しい。だからその身体は我が物にする)

「離......せ......!」

そのとき銃声が鳴り響いた。
弾は正確にクウガを避けて影に当たった。


「はぁ......はぁ......」

「大丈夫か! 五代!」

「一条さん......!」

「そいつはグロンギ族じゃない。だから死ぬときに爆発することもないはずだ」


クウガの攻撃によってグロンギが爆発するのは、グロンギ族に封印エネルギーを注入され、それがグロンギが変身に使っている霊石に流れ込むからだ。そして霊石の持つ力が強いほど、その爆発は大きくなる。

しかし影は霊石を持っていない。したがってそうなることはないと一条は考えたのだ。


「わかりました」

『いててて......殺してやる......!』

起き上がった影。その場で両腕を身体の前で交差させ、構える。

クウガは腰を下ろして両腕を左右に広げて、 精神を集中させる。これはキックをする前の体勢だ。
両者は助走をつけると高く跳び上がる。空中で一回転し、キックを仕掛けた。


「おりゃぁぁぁ!」

『だぁぁぁぁ!』

「いけ! 五代!」

爆発の影響を防ぐため、周囲には人を寄せ付けていなかった。もちろんそれは彼も例外ではなかった。
一条は久々にクウガの必殺キックを目撃することとなる。
クウガの両足は影の、影の右足はクウガの、それぞれの腹に激突した。


「うぐぐ......!」

『がががが......!』


着地した両者。影が振り向いたとき、そこにはうつ伏せに倒れたクウガの姿があった。


「五代!」

『次はお前だ。部下は失ったがこの星を我が国の植民地にするくらい一人で充分だ』

「貴様!」


一条は珍しく感情をたかぶらせた。そして銃を向ける。そのとき、影が苦しみ始めた。

「なんだ?」


一条がクウガの方に視線を向けた。彼はすでに立ち上がっており、影を見つめている。
視線を戻す一条。影は奇怪な断末魔とともにその場に倒れた。


「やったな、五代......?」


振り返る一条。しかし、五代の姿はすでになくなっていた。どうやらもう旅立ってしまったようだ。

一条は静かに微笑むと天高くサムズアップ─古代ローマにおいて満足のいった者だけに与えられた仕草─を掲げる。
気がつくと日が登りかけており、まだ暗みがかかった薄い青空が一面に広がっていた。


終わり

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