益獣フレンズ、アライさん (35)

最近増えてきたアライさんSSに触発されて書いてしまいました
よろしければお付き合いください

かつてアライさんは害獣と呼ばれていました
並外れた生命力と異常な繁殖力を持って人類を脅かす敵対者
自然を荒らし、田畑を荒らし、家屋を荒らす厄介者
中途半端に意思疎通が可能だからこそ、決して相容れることがない嫌悪の対象だったのです

…しかしそれも昔の話
皆様既に御存知の通り、現在においてはアライさんは人類にとってはなくてはならない大切な存在となっています
我々の生活を支えてくれるアライさん、その活躍について少しご紹介させていただきます

アライさんの用途としては、食用…家畜として用いるのが最も一般的だと言えるでしょう
野生にアライさんが広く繁殖し重大な社会問題になっていた頃から、処理によっては非常に美味であるということは知られていました
しかし、当時はアライさんの容姿がヒトに似たものであることから、生理的な嫌悪感が先んじてしまいあまり一般的には食べられてはいませんでした
殺処分したアライさんはそのまま骨まで焼却する、深く埋め立てるなどで処理されるケースが多かったとされています
我々の感覚からすればもったいないとしか言いようがありませんが、当時の常識を現在の感覚で語っても仕方がありません
そういった時代からの積み重ねがあるからこそ今があるのです

さて、それでは実際の養殖の様子を見てみましょう

ノダーノダー
キャッキャ
ビエエエエーン

…不愉快な鳴き声、鬱陶しい笑い声、気持ち悪い泣き声、そして糞尿と腐敗物の匂い
ここではアライさんの幼獣、いわゆるアライちゃんの一括管理を行っています
今更語るまでもありませんが、アライちゃんは非常に頑丈でおよそ食べられそうなものならなんでも食べる生き物です
戦いに向いているわけではないので外敵には弱いのですが、それ以外の要因ではまず死ぬことはありません
こうして隔離された環境で、一般的には廃棄される腐りかけの…時には腐りきった…食料を与えればそれ以外は何も必要ないのです
それぞれのケージに満員電車の倍程度の密度で複数のアライちゃんを詰め込み、水と生ゴミを与え続ける
抗生物質も予防接種も何も必要がないため、非常に安価での飼育が可能なのです

ヒトシャン…ダシテ…ココカラダシテ…
ウンチデタノダー…
イイニオイガスルノダァ…デモ…ウゴケナイノダ…
タチュケテ…ホチイノダ…

泣き声だけではなく、かろうじて言葉を使える個体もいるようですね
アライちゃんは生後一ヶ月ほどで体が倍以上に大きくなり、言葉も話し始めます
誰に教わるまでもなく、本能で言葉を操るのです
ここから更に育って言葉をもう少し話せる時期になれば、ケージから取り出してまとめて洗浄し、個体ごとの管理に移っていきます

さて、最終的にはケージのサイズに対して体が大きくなりすぎるアライちゃん
出る寸前ともなれば身動きがほとんどできなくなるレベルで押し合いへし合いのぎゅうぎゅう詰めです
アライさん養殖の黎明期においては、本当に圧死することも少なからずあったのだとか
しかし、怪我の功名とでも言いましょうか
あえて圧死寸前まで追い詰めるなどして強いストレスを与えることで、生来の傲慢さを薄れさせる個体が現れることがわかったのです
成長し個性が現れ舌っ足らずだった発音もまともになるこのくらいの時期にもなると、もうアライちゃんとは呼べません
通例に習い、これからはアライしゃんと呼ぶことにしましょう


アライしゃんA「やったのだ! でられたのだ…やっとお外に出られたのだ! ここから天下を取るのだ!」
アライしゃんB「ううっ、助かったのだ、もうだめかと思ったのだ、ツラかったのだ、お前は命の恩人なのだ」

さて、ちょうどわかりやすそうな個体がありますね
アライしゃんAとアライしゃんBと呼ぶことにしましょう

アライしゃんAは、なんというかこう、いかにも調子に乗っていますね
聡明なアライさんは自力で脱出したのだー、とでもいわんばかりの態度で目もつり上がっています
アライしゃんBもどこか偉そうではありますが、同時に出してくれた飼育員に恩義を感じてもいるようです
目もなんだか垂れ目気味で、覇気がありません
アライしゃんにもそれぞれ個性がありますが、基本的にはだいたいどちらかのパターンに分岐するそうです

こういった雰囲気などから判断して、飼育員はアライしゃんを2グループに分けていきます
Aタイプは反骨心が高いことが多く、もう少し育てば脱走したり飼育員を襲う確率が高いとされています
一般に想像されるアライさんは大抵これですね
実際、ほとんどのアライしゃんはこのAタイプに分類されます
万が一にも脱走されればかつて起こったアライさん大繁殖の二の舞いになりかねません
その後の管理はアライちゃんだった頃と比べても厳重なものになります

幸い、アライしゃんはAであってもこのまだヒトに対してそこまで反抗的ではありません
そもそもにおいて、アライちゃんの認識では生まれたときから自分たちはケージの中にいたわけですからね
食べ物を奪われたわけでもなし、ヒトと積極的に敵対する理由などありません
ですので食べ物を与えれば飼育員の指示する方についてくるくらいはしてくれます
さて、連れて行かれた先でアライちゃんAはどう扱われるのでしょうか

アライしゃんA1「なんなのだ! ここから出すのだ!」
アライしゃんA2「ひどいのだ! せっかく脱出したのにまた出られないのだ!」
アライしゃんA3「この悪者め! アライさんがやっつけてやるのだ!」

アライさんAは、ケージから出たその日のうちに、それぞれが今度は直径1メートルほどの檻に入れられます
流石に閉じ込められたことに気づいたアライしゃんは怒り狂います
この時点で完全にヒトを敵と認識することになりますが、しかし何ら問題はありません
なぜなら出荷時…早い話が屠殺の時が来るまでアライしゃんがこの檻から出ることは二度とないからです
エサと水は一定時間ごとにオートメーションで檻の隙間から差し入れられ、人間が直接関わることがありません
数ヶ月後、次に人間を目にする時は、すなわちそのアライしゃん…その頃にはほぼアライさん…が死ぬ時になるわけですね

やはり黎明期には多くの苦労があったようです
エサをやるたびに反抗し暴言を浴びせスキあらば脱出しようとするアライさんに、多くの飼育員がノイローゼになったといわれています
飼育員の負担を減らすため、アライしゃんの目をくり抜く、声帯を切除する、爪と牙を折り腱を切断する、脊髄を半壊させるなど様々な手法が試されました
しかし、その全ては徒労に終わることになったのです
生きている限り、そして食事さえ可能なら致命傷であってさえ時に復活し得る…
フレンズとしての特殊能力…自己回復スキルがアライさんには備わっていたからです
食肉にする以上は餌を与えないわけにはいかず、餌を与えれば傷を癒やしてまた暴れる、しかも傷を癒やした分だけエネルギーを無駄にしてしまい、成長が遅くなり肉の味も落ちてしまいます
悪循環の果てに、シンプルに閉じ込めて関わりを持たないという結論に行き着いたのは必然だったのかもしれません

実際の屠殺のやり方については、檻ごと水に沈めて動かなくなったところで首を切るという昔ながらの方法が多いとのことです
生きたままの丸焼きや活造りを望む食通もいるため必ずしもそうなるとは限りませんが、少なくともこのシステムが一般化してからはアライさんが生きて檻から抜け出したケースは報告されていません
何にせよ、アライしゃんからすればAグループに振り分けられた時点で余命が数ヶ月であることが決定するということなりますね
完全な成体になるには一年以上の育成が必要になりますが、育ちすぎると臭みも出ますし肉も固くなります
アライしゃんが妊娠可能なアライさんに成長するその境目の時期…具体的には初潮の寸前こそが一番美味しいというのが定説であり、またもっとも経済効率が高いのだと言います
正直、私にはアライさんの細かい変化は見てもよくわからないのですが、各地のセンターでは厳しい試験をくぐり抜けた国家資格を持つプロがその判定を行っているという話です
関係者の不断の努力によって、私たちは日常的に美味しいアライ肉を食べることができるのですね

さて、少しお腹が空いてきたかもしれませんがもう少しお付き合いください
次はアライしゃんBの話をしましょう

アライしゃんB…ツライさんと呼ばれることも多いタレ目のアライさん
覇気がなく、常に何かに怯え、場合によっては従順にもなり得るそれなり程度にはレアなアライさんです
アライちゃんの頃に恐怖や苦痛を与えることで、一定の確率でこの形質に変化します
このアライさん…ツライさんも、食用として使うことになんら問題はありません
実際に、成長速度も食味も通常のアライさんとほとんど変わらないのです
しかし、近年のアライさん養殖においてはまず食用に使われることはありません

通常のアライさんと違い、暴れたり脱走したりする可能性が低く管理が楽なので、ツライさんは新たなアライさんの母体として有効に活用されるのです
一年ほど檻に入れて育成し初潮が確認できると、その後はそれなりの広さのある施設、通称ツライ宿舎に首輪と鎖付きではあるものの一室を与えられ、その後数年間、繁殖を繰り返し行い続けることになります

ツライさん「あ…あああッ! うぁぁああああっっ」

ちょうどいいタイミングで、陣痛を迎えたツライさんがいるようです

ツライさん「嫌なのだッ! もう嫌なのだぁ! もうアライさんの子供を取らないで欲しいのだぁ…」

ツライさんは右手でお腹を守るように抱えて左手は自分の股間を押さえています
まるで出産を拒むかのような、生まれ出る我が子を胎内に押しとどめようとするかのような体制です

ちょっと埒が明きません
飼育員さんも困った顔です

あまりこの状況が続くとツライさん自身も生まれる前のアライちゃんも危険です
見かねた飼育員さんが出産の手助けに入りました
アライさんの腕を掴みあげ、腹をさすり出産をしやすいよう体位を整えてあげています

ツライさん「やめるのだ! やめるのだ! もう許して欲しいのだ! ほっといて欲しいのだぁぁ」

人の心、家畜知らずとでも言えばいいのでしょうか
ツライさんはそのタレ目から涙を流しながら叫びます
偉そうなアライさんも不愉快ですが、このツライさんの叫びからも自然と生理的な嫌悪感を抱いてしまいます
かつて害獣と呼ばれていた一番の理由は、被害そのものではなくその姿と鳴き声によるものだった…つまりアライさんの本質は不快害獣である、そう断ずる人は少なくありません
私個人はこれまでその意見には否定的でしたが、実際にアライさんを間近で見る機会を得ると少し納得しそうになりますね

おっと、失礼しました
今大事なのは目の前のツライさんの出産でしたね

ツライさん「駄目なのだ、出てきちゃ駄目なのだ、駄…あっ、あっ…のだあああああああぁぁぁッッ!!!」

ノダー
ビエエエエーン

ひときわ大きな叫び声の直後、小さな声がしてきました

ツライさん「ああっ、あああっ、ああああああぁぁ…」

ナノダー
ノダー
テンジョウテンゲユイガドクソンナノダー

続けて次々に新しい声が響きます
どうやら我慢してた分、一気に生まれてきたようです
全部で…五匹、終わってみれば安産でしたね

あとはこのまま生まれたてのアライちゃんをケージに入れ、一ヶ月ほど生ゴミを与えまたアライしゃんAとBに分けてていくのです

ツライさん「お願いなのだ…アライさんの子供を連れて行かないで欲しいのだ…」

それなりに従順であることが特徴のツライさんですが、アライちゃんを連れて行く時は反抗的になるケースが多いそうです
このツライさんもそのケースのようですね

もちろん、そんなセンターの存在意義をなくすようなことができるわけがありません
アライさんの要求はその一切を無視するというのが鉄則です
一つ言うことを聞けば無限大に要求はエスカレートしていく、それはツライさんであっても例外ではないのです

飼育員さんたちは当然、それを弁えた方々です
アライちゃんたちを淡々とケースに投げ入れ、ツライさんの方には目も向けません
彼らのプロ意識があってこそアライさん養殖は安定した成果を上げているのですね

ツライさん「せめて、せめて一回だけでいいから抱っこさせて欲しいのだ…おっぱいをあげさてほしいのだぁ…」

飼育員さんは無言で最後のアライちゃんをケースに入れ、ツライさんに背を向けました

ツライさん「うあああ、どうして…どうしてなのだ…」

未だ荒い息を吐きながら、ツライさんが泣き崩れます
そしてそのツライさんを近くに待機していた違う飼育員さんが押さえつけ、その胸に器具…搾乳機を取り付けました

ツライさん「やめるのだ、それは赤ちゃんのためのおっぱいなのだ、とらないで欲しいのだぁ」

皆様の中にも飲んだことがある方はいるかもしれませんが、アライさんの初乳は極めて美味であり栄養価も高く、高値で取引がされています
そして非常に強力な抗菌作用もあり特殊な薬効も期待できるとして研究機関でも需要があるとか
少なくとも生来の頑丈さを持つアライちゃんに飲ませるにはもったいない代物であることは間違いありません

ツライさん「ああぁ…嫌なのだぁ…やめるのだぁ…アライさんは悪くないのになんでこんな目にあうのだぁ…」

その不愉快な声を背中で聞きながら、飼育員さんに連れられて私はツライ宿舎を後にしました

一般に、アライさんの妊娠時期は大体二ヶ月強であり、平均して一度に4匹程度のアライちゃんを生むのだそうです
そして食料に不自由しないセンターでは、年に複数回の妊娠出産が可能となっています

都合、ツライさん一匹いれば単体でも年間10~20匹のアライちゃんを得ることが可能になるのです
そこから時折現れる新たなツライさんを適時母体役に回して、他は食肉として育成し出荷する
季節を問わず安定してアライ肉を市場に供給し続けることが出来るわけです

ちなみに高い回復能力を持つアライさんと言えども、年に複数回の出産は流石に回復不能な負担があるようです
五年目辺りで著しく妊娠率が下がり、奇形の発生率や流産の可能性が跳ね上がり、母乳の品質も大きく低下してしまうのです
そしてちょうど同じくらいの時期には、精神に変調を来たして首輪と鎖を使い首吊り自殺をする個体が増えてきます
そのあたりで廃棄する方がコスト的に優れているため、ツライさんの死因における自殺率の高さは優秀な施設の証明と言われていますね
ここまで長く生きたアライさんは食用としては臭みが強く需要がないため、その死体は砕かれてアライちゃんのエサとなるのです
アライさんは母性が強い生き物だと言われています
死して子供のエサとなる、本当の愛がそこにあるのかもしれません

育成におけるコストの安さと一切の病原菌と寄生虫を無視できる安全性
物理的に閉じ込めさえすればどうとでもなる管理の簡便さ
アライグマの精液さえ用意すれば簡単に増やせる繁殖力(ヒトの精液でもよいという説もあります)
高い栄養価と優れた食味

現代におけるヒトの食糧事情において、アライさんはなくてはならない存在になっています
かつては最悪の害獣と呼ばれ、一時は根絶寸前となったアライさん
それが今ではヒトと理想的な共存関係を築くに至りました

いつか存在したと言われる楽園、ジャパリパーク
アライさんはそこからやってきた『フレンズ』だという都市伝説があります
アライさんが害獣と呼ばれていた時期は誰もがそれを嘲笑いました
何がフレンズだ、アレとどう友だちになれというのか、と

でも、今は誰もが認めるでしょう
人類にとって最高の家畜
無駄なく使える便利な資源

アライさんは、間違いなく私達人類の大事なフレンズなのです




第一章 食料編 完

第二章 嘘予告


生きたアライさんはあらゆるウィルスに感染せず、寄生虫の宿主になることもありません
それは誰もが知るアライさん基本能力です
ジビエとして野生のアライさんが狩られていた頃からハンターの間では常識ではありましたが、当時はこの事について研究者はいませんでした
しかし、昨今のアライさんの養殖の一般化に伴いその脅威のメカニズムが次第に明かされてきています

致命傷からも持ち直す回復能力
教わらずとも勝手に言語を習得する脳
ウィルスや寄生虫を無効化する超常的な免疫力

怪我を、病を、老化による脳の衰えを克服したいという人類の宿願
アライさんに秘められた力は、それを人類に与えてくれるのでしょうか


第二部 医療編に続かない

あえて言うならくぅつかです
ついつい勢い余って書いてしまいました
お目汚し失礼しました

感想ありがとうございます
アライさん物語以来久々に書かせていただきました今作ですが、楽しんでいただけたのでしたら望外の喜びです
それにしてもたまに文章を書くと気持ちがスッキリしますね
…まぁ、改めて読み返すと誤字脱字や話の矛盾があって少し凹むのですが
投稿前に校正くらいしようぜしようぜ俺、と

基本的に読み専の私ですが、また気分が盛り上がったら何かを書くこともあるのかもしれませんので、もしもその時にご縁があれば読んでやって下さい
それでは失礼しました

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