【ミリマス】このみ「若者のすべて」 (14)
「真夏のピークが去った? 誰ですかそんな適当言ってたの」
「天気予報士よ」
富士急ハイランドでロケをした帰りに、富士吉田市の旅館で一泊した。
女将の気遣いに甘え、縁側に並んでスイカを食べながらこのみさんとそんな言葉を交わす。
庭先では静香、翼、未来の3人が花火をしてはしゃいでいた。
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「絶対嘘でしょ。こんなに暑いのに」
どこか遠くから微かに防災無線が聞こえてくる。地元の歌だろうか。初めて聞くはずなのにやけに耳に心地よくて優しかった。
「……これが今年最後の花火になりそうねえ」
遠巻きに静香達を見て、このみさんがポツリと呟く。
今年も忙しい。来年はもっと忙しくなるだよう。もしかして。
「……しばらくはこうやって花火なんか出来ないかもしれませんよ」
「え~?」
だから。
「だから今日見る花火を目に焼きつけましょうよ。何年経っても、思い出しせるように」
まぶたを閉じたら浮かんでくるように。
「……そう考えると、若いっていいわよね」
「へ?」
ロケット花火を振り回す翼を眺めながら、このみさんが独り言のように呟く。
「今が楽しければいいって感じじゃない? 翼ちゃんも未来ちゃんも静香ちゃんも」
「若者のすべてってやつですかね」
「プロデューサー、おじんくさいわよ」
「まあ、もうアラサーですからねー」
「でもね。私もプロデューサーも単純計算であと50回ちょっとしか夏を過ごせないわけじゃない? まあ平均年齢が80歳だとしたらの話だけれど」
「そうですねえ……でも。そう考えたら、わかんないもんですよね。俺もこのみさんも未来も翼も静香も、いつ死ぬかなんてわかんないんですから」
「それ言っちゃったら元も子もないでしょー」
ほっぺたを膨らませて抗議するこのみさん。
可愛い。
「俺の好きな……それこそこの業界に入るきっかけになった人は俺が高3の時に亡くなりました。びっくりですよね。俺が高3の時に彼は29だったのに、今の俺は彼と3つしか年が離れてないんですから」
「……もしかしたら。私も、その彼のこと知ってるかも」
このみさんがうつむいてそうこぼす。
そうか。そうだよな。
「このみさんも世代ですもんね」
「でも俺達はいいですよ。ほら、人は死んでも名が残るとか俺達に出来る最大の弔いはその人のことを忘れないって言うでしょ? このみさんはアイドルだから、たくさんのファンがこのみさんのことを覚えてくれる。俺もその時はこのみさんをプロデュースしたプロデューサーとして少しは忘れ……られないといいな。アハハ」
「そうね……じゃあね。プロデューサー」
このみさんが俺の袖を引っ張る。首を向けると、彼女は俺に小指を差し出して。
「指切りをしましょう。私は誰からも忘れられないアイドルになる。あなたは私を誰からも忘れられないアイドルにしてくれる」
思いがけない行動に思わず笑みがこぼれる。
そうだな。そうしよう。このみさんに応えるように小指を差し出す。
ああ、そうだ。これだけは言っておかないと。
「わかりました。でも、1つだけいいですか?」
「なに?」
「クリスマスに亡くなるのだけはやめてくださいね。楽しいだけの日じゃなくなっちゃうんで」
フジファブリック (Fujifabric) - 若者のすべて(Wakamono No Subete)
https://t.co/wF5NJgmvVA
終わりです。
上にあげた曲はこの話のモチーフにした楽曲です。聞いていただけると幸いです。
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