椎名法子のミスド滞在史 (92)
近所のミスドが閉業した記念
ミスタードーナツと偉大な先人に捧げる
『ミスド公式サイト』https://www.misterdonut.jp/
『【画像あり】俺が独断と偏見で選んだミスタードーナツの美味いドーナツベスト20wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
http://blog.livedoor.jp/goldennews/archives/51874481.html
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1500162957
脂肪と糖。
この2つのために数多の血が流れ、
また数多の命が育まれていった。
アレルギーでもないかぎりは、この2つを避ける者はいても
嫌う人間はいない。
生物にとって、糖も脂肪も効率のよいエネルギー源であるからである。
糖に限っていえば、ありんこだろうと細菌だろうと、
我先にと群がる。
つまるところ、糖分と脂肪分が豊富に含まれるドーナツを、
椎名法子が燃料として“愛用”するのは全く適切である。
【ゴールデンチョコレート】
法子がミスタードーナツ(以下ミスド)のドアを初めてくぐったのは、5歳の頃。
その経緯は知れないが、彼女がこの時、ショーケースに
並ぶ円状の宝石に心を奪われたのは、たしかなことである。
ミスドのドーナツが美味しいのは言うまでもないが、その演出も素晴らしい。
色とりどり、よりどりみどりのドーナツが肩をよせあって
仲良く並んでいる様は、大人であってもわくわくするものだ。
そして、幼い法子のハートを射止めたのが、
『ゴールデンチョコレート』だった。
ちょっと大げさなもの、華やかなものを好むお年頃である。
名前の通り、照明にあてられて、それは黄金色に輝いていた。
衣は砂糖、小麦粉、卵黄で出来ていて、それらは生命の原材料のようなもの。
法子の内に動物的直感もまた、ゴールデンドーナツを求めたのかも知れない。
半透明の紙(サバーラップ…耐水性・耐油性のある紙)の上に鎮座する
ドーナツは、まさに王様のよう。
5歳の法子は小さなおててでその王様を持ち上げて、ぱくりとかじった。
まずたまごとバターの香りがふわっとした。
そのあと、チョコレートの奥深いコクが彼女の舌をくすぐった。
おいしいと母親に言う間もなく、大きめの二口目。
衣のサクサクがたのしく、より濃厚な風味が口のなかをまさぐる。
法子のまぶたの裏に、火花がばちばちと散った。
夢中になってドーナツを平らげた。
2つ目を母親にねだったが、晩ごはんがたべられなくなるから、
と買ってもらえなかった。
それ以降、法子のおやつは彼女の希望で、すべてドーナツになった。
時々は母親がつくってくれたこともあったが、主にミスドのドーナツ。
人の肉体は食べたものでつくられるから、
彼女の身体の半分程度はミスド由来ということになる。
それから月日が経って彼女はアイドルになった。
懐も多少あったまって、自分でドーナツを買えるようになった。
まして親元を離れているから、法子のドーナツ熱に水を差す者もいない。
むろん栄養管理は入るが、きちんとアイドルの活動さえ維持できれば、
小言を言われることはない。
法子はレッスンや仕事がないときは、ミスドに入り浸るようになった。
その時間は寮にいる時間よりもはるかに長く、
実質、“滞在している”と言って差し支えなかった。
ゴールデンチョコレート
…衣が美味しいと思われがちだけど、あえて甘みを少しおさえたドーナツ生地の味も秀逸。
仮にドーナツの方もベタ甘だったら胸焼けがしていることだろう。
ミスドのオールドファッション食べたい
ゴールデンチョコレート美味いよな
なんだかんだ一番好き
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あとは時代劇とかいろいろ
【オールドファッション】
アイドルとして、単身上京することになった椎名法子の不安は1つ。
関東のミスドのドーナツは、関西(大阪)と同じ味なのか。
別方面で両者のちがいを挙げればきりがない。
餅のかたち。お雑煮の具。
すきやきの作り方。カップ麺の風味。
ドーナツの味くらい変わっていても不思議でない。
そこで彼女は、東京についた途端
プロダクションの女子寮には向かわず、
最寄りのミスドに駆け込んだ。
時刻は昼時。ちょうどお腹が空いている。
真っ先にトレイに乗せたのは、『オールドファッション』。
ミスドの定番メニュー、長期選手の1つ。
極めてシンプルな材料で作られているので、
もし風味に違いがあるとしたら、明確に現れることだろう。
おっかなびっくり席につき、法子はしげしげとドーナツを見つめた。
トングの感触から、揚げたて。
消費者をドーナツ沼に引きずり込む、魅惑の白いクレヴァス。
ミルクとたまごの、香ばしい香り。
神様…!
そう祈りながら、法子はドーナツをかじった。
そして、目を見開いた。
オールドファッションの特徴としてまず挙げられるのは、
食感が二段階あるということ。
外側はカリッと。
製造者次第では、ここで上品な苦味が生じる。
内側はみっちり。
ほのかな甘みと余韻の深いコク。
関東のミスドは、法子を裏切らなかった。
一息にオールドファッションを完食した彼女は、満足げに息をついた。
しかし次のドーナツに取りかかる前になって、
やっとアイドル活動に対する不安がやってきた。
オールドファッション”には、「古い、流行遅れの」という意味合いがある。
法子は、容貌には多少の自信がある。
取り柄は元気なところ。
とはいえ可愛くて元気がよい“だけ”のアイドルなら、
いままでに掃いて捨てるほどいる。
歌には多少覚えがあるが、ダンスは初心者。
演技のことも、まだよくわからない。
法子の胃袋が、きゅうと重くなった。
新幹線でやってきたから、まだ大阪を離れて半日も経っていない。
けれども、彼女は無性に実家が恋しくなった。
まだ13歳。
少し前までランドセルを背負っていた子どもである。
アイドルになれると伝えられたときは素直に喜んだけれども、
孤独な東京生活の闇は深く、暗い…。
いけない、いけない。
法子は首を振って、新しいドーナツを手に取った。
きっとお腹が空いてるから、考えが暗くなるんだ。
そう思って、ガツガツと頬張った。
ちなみに、オールドファッションは328kcal。
そして、法子のトレイに乗っているドーナツは後3つ。
彼女はまだ、アイドル界の真の過酷さを知らない。
オールドファッション
…ちっこいガキの頃は良さがわからなかった。
しかしあの地味な見た目の中には、ドーナツの歴史と人間の根源的欲求が秘められている。
食感が軽いのでパクパクいけるが、後に地獄を見る人多し。
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