ドレイク「海賊公女?」 (43)

~地底都市~

~レジスタンステント~


ドレイク「野郎ども!略奪だー!」

女海賊A「野郎じゃありませんが、ひゃっほぅ!略奪でーす!」

女海賊B「食料だ―!酒だ―!お宝だ―!」

女海賊C「姐さん!男どもが逃げて行くぞ!どうする!」

ドレイク「あーん、随分逃げ脚がはやいね、あの距離だと銃も届きやしない」

ドレイク「ま、逃げたんなら放っておきな、そんな事より奪え奪えー!」

女海賊ABC「「「いえっさー!」」」

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ドレイク「よし、じゃあ首尾を聞こえかね」

女海賊A「金と銀と宝石、それに周辺の地図を手に入れました!」

女海賊B「お肉と甘い物とお酒を入手した―!」

女海賊C「剣と槍と斧と棍を見つけたぞ!」

ドレイク「うんうん、いいじゃないか」

ドレイク「特に図を入手したのが大きいねえ、これがあれば周囲の状況を把握しやすい」

ドレイク「ま、その辺の話は置いておくとして……まず当面やる事と言えば」

女海賊A「いえば?」

ドレイク「宴だー!」


女海賊ABC「「「やっほーーい!!!」」」

ドレイク「しかし、アレだねぇ」

女海賊A「はい?」

ドレイク「アンタ達、思いのほか呑み込みが早いねえ、最初は何かボーっとしてて話しかけてもちゃんと返事できないくらいだったのに」

ドレイク「今じゃあ、ちゃんとした海賊として組織だった活動できちまってる」

女海賊B「やったー!褒められたー!」

女海賊C「うん、確かに姐さんの下についてから、何か凄く調子がいい」

女海賊A「以前は、何かずっと頭に霧が貼ってたみたいな感じでしたからね」

女海賊A「その状態のまま、女同士で徒党を組んで行き当たりばったりに略奪行為してた気がします」

女海賊A「まるで野生の獣みたいに」

ドレイク「ああ、この世界へ来たばかりだったアタシに襲い掛かってきたアンタ達は、確かにそんな感じだったね」

女海賊B「あの時は超絶速攻でやられちゃったけどね!」

女海賊C「姐さんは強かった」

ドレイク「アンタの突進も中々手ごわかったよ」

ドレイク「よーし、食べ物も食べちまったことだし、次の獲物を探しに行くかい」

ドレイク「というか、そろそろ拠点を決めたいんだよね、お宝を置いておけるような場所が理想なんだけど」

ドレイク「もっと理想を言えば船がある場所がいいねえ」

女海賊A「さっき手に入れた地図で確認して見ましょうか」ガサガサ

女海賊B「見せて見せて―!」グイグイ

女海賊C「押すなチビ」

女海賊B「はー!?今チビって言った!?」

ドレイク「ふーん、これがこの世界の地図か」

ドレイク「なるほど、このまま川を下っていけば、湖に出るんだね」

ドレイク「湖付近にあるこの印は……都市かい?」

女海賊A「ドレイク船長と会う前にその付近で狩りをした事があります」

女海賊A「確かに大きな建物が集まっていましたね、その辺は」

女海賊A「他の女達の縄張りだったので、中に入った事はありませんけど」

ドレイク「なるほどなるほど、同業者が居る可能性があるねえ」

ドレイク「よし、じゃあ次はその都市が目的地だ!」

ドレイク「野郎ども!準備しな!手に入れたお宝を持って行くのを忘れるんじゃないよ!」

女海賊A「野郎じゃありませんが、了解です、配下の者達にも伝えておきます」


~地底世界~

~水の都イース~


ドーン


女「きゅぅ……」バタン

ドレイク「何だい、歯ごたえが無いね、ここの連中は」

ドレイク「強い弱い以前に、自我が薄いのかねぇ」

ドレイク「統率者もいないみたいだし」

女海賊A「ドレイク船長、この都市を塒にしていた女達はこれで全部のようです」

女海賊B「どうしよっか、この子達」

ドレイク「ああ、取りあえず縛っておきな、こいつらがアンタ達と同じような状態だったなら」

ドレイク「目が覚めたら海賊として鍛え直してやってもいいし」

女海賊C「判ったよ、姐さん」

ドレイク「にしても、こんな大きな都なのにまともな戦いが起こらなかったのは拍子抜けだったね」

ドレイク「塒が手に入ったのは助かったけどさ」

女海賊A「ドレイク船長、都市の調査が終了しました」

女海賊A「建物や家具はそのまま使用できそうです」

女海賊A「衣装もありましたが、これ誰が作ったんでしょうね」

女海賊A「ここに住んでいた女達に生産能力があったとは思えませんし……」

女海賊B「保管されてる食べ物はちょっと少なかったかなぁ、けどお酒は沢山あったよ~」

女海賊C「港には沢山の船が浮かんでた、小さいのから大きいのまで沢山あるね」

ドレイク「お、船があるのかい、それは朗報だ」

ドレイク「やっぱり海賊は船が無いとねぇ、大海原が無いのは惜しいけどさ」

女海賊C「船乗った事ない」

ドレイク「そうかい、だったら明日から操船の練習もしないとねぇ」

ドレイク「けど、その前に」


女海賊ABC「「「宴だ―!」」」

ドレイク「よし、飲め飲め食べろ食べろ!惜しむんじゃないよ!」

ドレイク「配下の女達にもちゃーんと振る舞いな!」

女海賊B「船長船長!さっき何か凄い高級そうな箱に入ったお酒見つけたよ!」

ドレイク「ほう、どれどれ、ああ、これは良い瓶だねぇ」

ドレイク「香りは……うん、イイ匂いだ、これは高級酒だね」

ドレイク「よーし、これはアタシがいただくよ!」

女海賊B「あ、ずるーい!」

ドレイク「あっはっは!早い者勝ちさ!」ゴクゴクゴク

ドレイク「……うん!これは甘くてなかなか」

ドレイク「いや、苦い?」

ドレイク「何とも……言葉にしにくい……味……」

ドレイク「だ……ねぇ……」


バタン


女海賊B「あれ?船長?」

女海賊C「あの酒豪の姐さんが一口飲んだだけで倒れるとは……そんなに強い酒なのか」

女海賊A「瓶にお酒の名前が書いてありますね、えーと、これは……」

女海賊A「ダヒュ?いえ、ダユ?」

女海賊A「ダユー、でしょうか、まるで人の名前のようなお酒ですね」

女海賊B「よーし!私も飲むー!」

女海賊C「姐さんが倒れたような酒をお前が飲めるはずないだろう、チビ」

女海賊B「むかー!こいつまたチビって言った!」

女海賊C「チビはチビだろう、お前は果実酒でも飲んでおけ」

女海賊B「こいつホントむかつくー!」



女海賊A「……このお酒、まさか毒では、ないですよね?」

女海賊A「船長、一応息はしているようですし……」

女海賊A「けれども、少し心配です、船長が死んでしまったら、どうしましょう」

シクシク


シクシクシクシク


ドレイク「ん……んぅ、なんだい、人がぐっすり眠ってるのに……」

ドレイク「えーと、アタシは確か、宴で酒を飲んで……それから……ん?」

ドレイク「どうにも記憶があいまいだね」

ドレイク「それに、身体が……」


グググ


ドレイク「参ったね、動きやしないよ」

ドレイク「それに周囲も真っ暗だし……海軍にでも捕まって牢に入れられちまったかね」

ドレイク「おーーーい、誰かいないのかーい」


シクシクシク


ドレイク「ん?泣き声?」

ドレイク「誰だい?」


シクシクシクシク


ドレイク「ああ、もう、湿っぽい声は御免だよ、何泣いてんだい」

全部、全部沈んでしまったの、全部

美しかった私の都が、私の民が、私の愛しい人々が

全部海の底に

悲しい、悲しい、悲しいわ

けれど私には何もできない

何もできないの

何もできないわ

だって私には……


ドレイク「……何だい、ただの恨みごとかい、それをアタシに聞かせてどうしようってんだ」


……私には、身体がもうないんですもの

私の身体は、私の都と共に海に沈んでしまった

今もまだ、美しいまま海底で眠りについている


こうやって、地底世界に「水の都」を再現した今でも

それは変わっていない

だから何もできなかったわ





今までは

けど、けど貴女が来てくれた

私と同系の性質を持つ貴女

私と同じの行動原理を持つ貴女

私と同じ海賊の貴女

貴女であれば、私の身体として使うのに相応しい

きっと、きっととても良く馴染むわ


ドレイク「……なんだって?」


ふ、ふふ、ふふふふ

抵抗しようとしても、駄目よ

身体が動かないでしょう

魔力を使えないでしょう


動けなくて当然よ

だって、貴女の心は今、海の底に居るんだもの

船も、仲間も、砲台も、何もない

冷たく暗い水の底

私の都、イースが眠るにね海底にね


さあ、略奪するわ

貴女の瞳を

貴女の髪を

貴女の手足を

貴女の身体を

貴女の魔力を

貴女の心を

貴女の魂を


何も残さない

全てを私の物に

そして貴女は私になるの


イースの都の女王

「ダユー」に

「ああ、これは参ったね」

「身体に力が入らない」

「手は銃を掴めない」

「周りは真っ暗で」

「灯台の光も、船も、仲間も、大砲も」

「残っちゃいない」


                        「ええ、そうです、貴女には何も残っていない」

                        「私の魔力が込められたお酒を飲んでしまった時点で、終わっているの」

                        「私は貴女の内部から貴女に浸食している、抵抗なんて不可能よ」

                        「ですから、もう眠ってしまえばいいの」

                        「この海の底で眠れるなら、海賊である貴女にとって本望でしょう」


「確かにその通りだよ」

「状況は絶望的、抵抗しても勝てる見込みはない」

「眠ってしまった方が楽なんだろうねえ」


                        「そうですわ、抵抗さえしなければ、痛みも苦しみもなく眠らせてあげられますから」

                        「ですから」

「けど」

「だからって抵抗しない理由には」

「ならないねぇ」

                        「……抵抗など不可能だと」

                        「伝えたはずですが」

「不可能」

「不可能って言ったのかい」

「はっ、笑わせてくれるね」

「アンタ、ダユーって言ったっけ」

「アンタもアタシと同業者なんだろう?」

「何処を根城にしてたか知らないが」

「随分と平和な海で仕事してたんだろうね」

「けど、アタシが知ってる海は違うよ」

「アタシが生きていた海は気が荒くてね」

「不可能なんてのは、遭遇して当たり前の出来事だった」

「海軍や商船なら、不可能を迂回して進むだろう」

「けどね」

「アタシ達は」

「そんな呑気な事を言ってられなかった」

「必要なら不可能をぶち破って先に進む」

「それが」

 



「それが、アタシ達、海賊だ!」




 

本来であれば、酒を飲んだ彼女は覚醒する事なくダユーに浸食されるはずだった。

彼女の卓越した「自我」が、彼女の意識を覚醒させたのだ。


だが、彼女であってもそこまでだった。

意識を取り戻しはしたが、身体を動かす事は出来ず。

言葉を発しようが、実行に移すことは出来ず。

ゆっくり溶かされるように消滅するはずだった。






それが、彼女の限界。

それが彼女という英雄の限界点。







だが、人類は常に「不可能」を切り開き、道を作ってきた。


それは新たなエネルギーの開発であり。

それは新たな芸術の開拓であり。

それは新たな海路の踏破である。



その新たな道を「最初に切り開いた者」の事を。

人はこう呼ぶ。




星の開拓者と。

海底に沈む都市、イースが大きく振動する。

水が、建物が、地面が。

振動し、ひび割れる。

それだけでなく、落ちて行く。

地盤沈下するかの如く。

ボロボロと。


その底から、何かが現れた。


全長40m。

22門の砲台。

赤い船体を持つ。

海賊船。



フランシス・ドレイクの宝具「黄金の鹿号」が。

彼女の呼び掛けに応じ、都の地面を押し上げ、浮上してきた。

「さあ、こっちは準備が整ったよ!」

「それじゃあ改めて、海賊同士、やりやおうじゃないか!」

「さあ!さあ!さあ!さあ!」

「さっさとアンタの船を出しな!」


何時の間に拘束から脱したのか、ドレイクは自らの船の船首でそう叫ぶ。

赤い船に乗り、赤い海賊服を纏い、戦闘の準備を整え吠える彼女は。

まさにエルドラド。

「悪魔」の名にふさわしい姿だった。


そう、彼女は。

「赤い悪魔」なのだ。

「ああ、ああ、また、またです……」

「また、私の前に現れた……」

「悪魔が、赤い姿をした悪魔が……」

「私から水門の鍵を奪い、イースを海の底に沈めたあの悪魔が……」

「また、私を騙していたのですね、そうやって」

「私の全てを、奪う為に」

「いや、いや、いやいやいやいやいやいやいや!」

「もういやよ!あんなのは!もういや!」

「いや、なの……」



イースに開いた穴。

浮上したドレイクの船の前に、彼女が、姿を現す。

半透明で、蹲る、少女の姿で。



「いやよ、もういや……」

「もう……」


ドレイク「……はあ?」

ドレイク「なんだいそれは、アタシから身体を奪おうってヤツが、何を蹲ってんだい」

ドレイク「アンタも海賊なんだろう!」

ドレイク「だったら、獲物に抵抗された程度でへこたれるんじゃないよ!」



「……無理よ、私には」

「……そんな大きな船に抵抗できるほどの、宝具はないもの」

「私は、結局、英雄なんかじゃない、ただの……」

「ただの、女なのだもの……」

ドレイク「はっ、勝手にしな」

ドレイク「けど、アンタにはアタシを狙った報いを受けて貰うからね」

ドレイク「それが海賊の流儀ってもんだ」


「……」


ドレイク「今から、10秒後に全砲撃をアンタの都に撃ち込む」

ドレイク「逃げたきゃ逃げな、もしかしたらアンタだけなら逃げ延びられるかもね」

ドレイク「じゃあいくよ、10」

ドレイク「9」

ドレイク「8」

ドレイク「7」


「……」

ドレイク「6」



「……」

「逃げ、ろと」

「私に、この都を捨てて?」



ドレイク「5」




「それだけは」

「それだけは、しなかったわ」



ドレイク「4」



「あの日、赤い悪魔に騙されて」

「洪水が都を覆うとわかっても」



ドレイク「3」



「略奪と享楽と背徳を良しとした私でも」

「都を見捨てる事だけは」

「しなかった」

「そう、私は」



ドレイク「2」



「例え父に見捨てられようとも」

「私は、イースを愛していた」

「だから」



ドレイク「1」



「……そうよ、思い出したわ」

「だから、私は作ったのよ」



ドレイク「0」

ドレイク「砲撃用意!」


カウントが終わると同時に、黄金の鹿号の全砲門が輝き始める。

それでもダユーは蹲ったまま、動かない。

ドレイクは彼女の存在を無視し、号令を放つ。


ドレイク「さあ!ワイルドハントの始まりだよ!」


砲門から、光の砲弾が放たれる。

合計22門から放たれた光は、まるで洪水のような勢いでダユーを、彼女の都を襲った。




その洪水は、彼女を飲み込む。

彼女の都を飲み込む。

まるで、イースの崩壊を再演するかのように。

彼女の全ては光の洪水に飲み込まれる。















だが、そうはならなかった。

コルヌアイユという国に、グラドロンという国王が居た。

彼は、溺愛していた娘、ダユーの為に国を一つ作りあげた。

海洋都市イース。

それが国につけられた名前。


だが、海が近いだけあって、その国は嵐に弱かった。


国を与えられたダユーは、まず最初に「海の嵐」に対抗する為の水門を作った。

どんなに海が荒れようが、どんな洪水がやってこようが、イースを守る事が出来る。

そんな巨大な水門。


それによりイースは守られ、大きく繁栄したという。

蹲っていたダユーは、手にソレを握っていた。


彼女が生前に作り上げた、巨大な建造物の鍵。

彼女がまだ純粋だった頃に作り上げた、都市を守る為の防衛機構の鍵。

彼女が最後に「赤い悪魔」に奪われてしまった鍵。


それは、確かに、彼女の手の中に残っていた。

まるで「貴女こそが、正しき鍵の持ち主です」と鍵自身が主張するかのように。



その鍵を握り、ダユーは願った。

ただ、都に願った。



「閉じよ水門、私の都を守れ」

光の洪水が彼女と、その都に到達する直前。

突如として、巨大な「門」が出現した。


それは閉ざされた水門だった。

イースを守る、水門だった。



「嵐の海」を封じる為の水門が。

「黄金鹿と嵐の夜」の前に、立ち塞がっていた。



二つの宝具が衝突する。

光が弾け、轟音が響く。

ギシリ、ギシリと水門が鳴る。

罅割れ、光が漏れこんでくる。




嵐を前にして、人間にできる事は少ない。

ただ、家に籠り祈る事だけだ。

夜明けを信じて、祈るだけだ。


そう。

永遠に続く嵐など、存在しない。

何時か、朝は来るのだから。

轟音と光が去った後、ダユーは恐る恐る顔をあげた。

そこには既に船はなく。

ただ、彼女が立っていた。


「……いやあ、参ったねぇ」

「まさか、防がれるとは思ってなくて、全力出しちまったよ」

「……大したもんじゃないか、アレを防ぐなんてさ」


ニヤリと笑う彼女が、ダユーにはまだ悪魔に見えた。

怖い。

怖い。

怖い。

もう嫌だ。

都は守る事は出来たけど、次に同じ事をしろと言われて出来るかどうか。

そんなダユーを見て、彼女は言った。


「はっ!私に勝った海賊が、なーんてシケた顔してんだよ!」

「もっと胸張りな!不敵に笑う所だろうがそこは!」

「そんなんじゃ……」


ガクリ、と彼女は片膝をつく。

「そんなんじゃ、アタシの身体をくれてやれないよ……」


そのまま、彼女は倒れ込む。

ダユーは不思議そうな顔でそれを眺めた。

何故?

何故あの悪魔は、倒れているんだろう。

また私を騙そうとしてるのだろうか。

そんなダユーの耳に、彼女の声が響いた。


「ふぅ、そもそも無茶な状態から無理矢理船を呼び出したんだよ」

「その上、全力で宝具を放っちまったもんだから」

「力が、もう出ないんだ」

「あはははは」

「正面からぶつかって、こんな結果になっちまったんだ、ここは観念する所、かねぇ」


そんな言葉を聞いても、信じられない。

また、何か私を騙そうと……。


「……その顔だ」


え?


「その顔、止めな」

「アンタ、欲しかったんだろ、アタシの身体が」

「欲しくて、ケンカ売ったんだろ」

「そして、今、アタシはこうやって倒れて観念してるんだよ」

「だったら」

「笑いな」

「精一杯、笑いなよ」

「なぁに、アタシも海賊やってるんだからね」

「悔しいけど、負けちまった時は、身体を好きに使わせるくらいの覚悟はしてる」

「例えアンタが黒い髭の気持ちが悪い海賊だったとしても」

「アタシは同じ事を言ってるよ」

「アンタは自分の力を示したんだ」

「このアタシに匹敵するだけの力を持つ海賊だと」

「だからさ」

「………」



彼女が最後に零した言葉を聞いて。

私は決意を固めた。

そう、そうだ、私の願いは。

私の願いは、イースの復興。


イースを蘇らせて、そこに住む人々を幸せにする。

それが私の目的なのだ。


その為には、彼女の身体が必要だ。

必要、なのだ。


私は彼女に近づく。

彼女はにやりと笑う。

けど、もう怖くない。

怖くはない。


「貴女の身体」

「いただくわ」


そう呟き、私の彼女の唇に、口づけをした。







これでおしまい。

ドレイク「……」

女海賊A「あ、目が覚めたのですね、良かった」

女海賊B「もう夜明けだよ~、今日はどうするの?」

女海賊C「操船を教えてくれ」

ドレイク「……」

女海賊A「えーと、ドレイク船長?」

ドレイク「……ふ」

女海賊B「ふ?」

ドレイク「ふふふふふ、あはははははははははははははははははははは!!!」

女海賊C「姐さん?どうかしたか?」

ドレイク「いえ、別に」

ドレイク「ただ、約束でしたので」

ドレイク「ですが、これは、思いのほか気分が良いですね」



彼女は言った。

自分の身体を渡してやってもいいが、最初に笑えと。

高らかに、笑えと。

そうすれば、怖さも悲しさも全て。

全て、誤魔化せるから、と。

だから海賊は、何時も笑うのだと。

女海賊A「……ドレイク船長?何か喋り方が」

ドレイク「……ダユーよ」

女海賊B「ほえ?」

ドレイク「私は、今日から、ダユー」

ドレイク「覚えておきなさい」

女海賊C「ダ、ユー?」

ドレイク「さあ、イースを再建するわよ」

ドレイク「素晴らしい国にしましょう、民が常に笑っている」

ドレイク「素晴らしい、国に」

ドレイク「ふふふふふふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」

こうして、水の都イースは急速に復興した。

水路を利用した船団が形成され。

女海賊たちは増殖し。

消耗品として男が消費され。

ダユーは毎夜、享楽に耽った。


まるで、何かから追い立てられるように。

女海賊A「……」

女海賊B「ううう、何か、今の船長について行くのは、嫌なんだけど~」

女海賊C「私もだな、今の姐さんは、違う」

女海賊A「……」

女海賊B「えっと、私はね、ちょっと北に行ってみる」

女海賊B「北の方にも、女達の群れがあるみたいだしさ、そっちに合流するー」

女海賊B「そんで、前の船長みたいに群れのリーダーになっちゃおうかなって」

女海賊C「お前みたいなチビに出来るのか、そんなこと」

女海賊B「むきぃぃぃ、出来るに決まってるって!私よ!私なのよ!」

女海賊C「何だその自信は……じゃあ、私は西に行ってみるか」

女海賊C「向こうは、腕自慢の女達が集まってるみたいだからな」

女海賊C「私の力で、そいつらと腕を競って、姐さんみたいな頭目になってやる」

女海賊B「アンタみたいな馬鹿にそんな事できるのぉ?」

女海賊C「はっ、少なくともチビよりは可能性高いだろうよ」

女海賊C「それで、お前はどうするんだ?」

女海賊A「わ、私は……私は、ダユー様の所に残ろうかと」

女海賊A「私は、貴女達と違って弱いですから、きっと1人で行動すると死んでしまいます」

女海賊A「死ぬのは、怖いですから」

女海賊B「ふーん、けど無茶はしないでね?もしイースから逃げ出したいなら、私の所に来ればいいわよ」

女海賊A「はい、その時はお願いしますね」

~北の地~


女海賊B「う、うう、あんな大口をたたいて出てきたけど、甘かった……」

女海賊B「何とか群れの女達を騙して唆して勢力を作ったけど、私では力が足りない……」

女海賊B「あっさり、裏切られて、囲まれて殺されそうに、なるなんて……」

女海賊B「けど、けどいやだよぅ、諦めたくない、諦めたくない」

女海賊B「こんな所で……終わりたくない……」


「その意気やよし」


女海賊B「ふぇ……だれ……」


「誰でも良かろう、どうせ見えぬじゃろうからな」

「諦めず進もうとするその意志、まるで妾のようじゃ」

「どうじゃ?妾がお前を裏切った者に仕返ししてやろうか?」


女海賊B「ほ、ほんと?」


「本当じゃ本当じゃ、妾はその手の罪を裁くのに慣れておるからの」

「ついでに、ぱぁーっと勢いで、群れのリーダーになるよう上手に手ほどきしてやろう」

「その代わり……」


女海賊B「……うん、いいよ」

女海賊B「私の目的を果たしてくれるなら」

女海賊B「私の身体、あなたにあげる」

~西の地~


女海賊C「ふぅ、群れのリーダーになったはいいが」

女海賊C「私の力は、ここで限界か」

女海賊C「女達になら勝てる、だが、巨大な魔物と一対一で戦える程ではない」

女海賊C「姐さんやダユーと戦っても、きっと、勝てないだろう」

女海賊C「もっと、もっと力が……」


「そうか、力がほしいのか」


女海賊C「誰だ!?」


「誰でもいいだろう、どうせお前達には私の姿を見る事は出来ない」

「それより、力を欲しているのだろう」

「なら、私を身体に宿せ」

「そうすれば、お前は今以上の力を手に入れられるだろう」

「最も、その時にお前の自我が残っているかはわからんがな」


女海賊C「……」


「どうした、臆したか」


女海賊C「……いいや、望む所だ」

女海賊C「姿すら持たぬお前に負けるようなら、姐さんやダユーには勝てない」

女海賊C「来い!私の意志でお前をねじ伏せてやる!」


「勇敢な戦士だな、では私も」

「全力でお前の意識を打ち砕いてやろう」

~水の都イース~


女海賊A「ふぅ、今日も何とか生き残りました」

女海賊A「しかし、ダユー様からの要望は日に日に苛烈になるばかり」

女海賊A「このままでは、私の身体が持ちそうにありません」

女海賊A「何か良い方法は……」


「そうです、死にたくはありませんよね」

「貴女の考えは正しい」


女海賊A「……だ、誰ですか!」


「怯えなくてもいいのです、そう、私はただの亡霊」

「この世界に呼ばれはしたものの、正式な召喚ではなかったので身体を持てずにいる、ただの亡霊なのです」


女海賊A「ぼ、亡霊……」


「私は、知っています、死なずに済む方法を」

「そればかりを考えてきましたから」

「ですから、きっと、貴女の役に立つはずです」

「ですから」

「ひとつ」

「私のお願いを、聞いてくださいませんか」

「とても、簡単な、事ですので」

地底世界アガルタ。

女が力を持つ世界。

この世界に、僅かな変化が訪れた。


その僅かな変化は、何れ大きな波となり、アガルタ全土を飲み込む事になる。


これは、その最初の一歩のお話。





おわり

事後提示


このお話はFGO1.5部「アガルタの女」のネタバレを含んでおります。
ご注意ください。
いやっほーい。

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