【デレマスSS】探偵のオフ、園庭の奥 (15)

安斎都ちゃんと佐城雪美ちゃんが出てくる短いお話です。

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掛け布団がほんの少しだけ鬱陶しくなるような初夏の昼下り、探偵アイドル安斎都は久しぶりのオフを満喫するために外へ繰り出した。

今日の都はある命題を抱えていた。

「探偵にふさわしい休日の過ごし方とはどのようなものか」

彼女はそれを探すように、まるで見えないホシを尾行するように宛もなく街を黙々と歩いていた。

レッスン終わりに買い食いをするいつもの商店街を抜ける。

そういえばここから先はまだ寮生活を初めて一度も来ていないなぁなどと考えながらずんずんと歩いていく。

なんとなく、山の麓に探偵がつかの間の休息に行くような小洒落たカフェがあるような気がして方向転換。

少しだけ本気を出した太陽が、都の膝小僧をじわりじわりと攻撃する。

近くにあったスーパーに入って涼む。

売り場をぐるっと一周したものの、人はまばらだったせいかはたまた人気のないせいか、誰にも声を掛けられることはなかった。

これじゃぁ男子小学生の夏休みじゃないか、と独り意気消沈する都。

ふと外を見ると見覚えのある姿が目の前を横切っていった。

黒い猫を従えながら紺青の髪をなびかせて歩く少女。

紛れもなくそれは都と同じ事務所のアイドル、佐城雪美だった。

一体彼女はどこへ行くのだろう。

ミステリアスな少女のミステリアスな行き先。

探偵としての血が騒がないはずがなかった。

いや、しかし雪美ちゃんもオフ。尾行なんてしちゃいけないよね。とアイドル安斎都が諭す。

「同じ事務所のお姉さんとして見守ってあげよう。これは尾行ではない。」

都の中の名探偵が難事件を解決した。

スーパーから出て、雪美が向かった方を見る。

日差しを反射してなびく紺青を黒い猫が追いかける。

その黒猫をおいかける都。

雪美は黙々と歩いていく。

一体どこに向かうのだろうか。

そんな疑問を抱きながら都もあとを追いかける。

住宅街の細い路地に入り込む。

家と家の間の階段を登る。

10分程歩いただろうか、大きな家の角を曲がると、都の目に広い公園が飛び込んできた。

しかしその景色の中に雪美は居なかった。

「都……なにしてる…………?」

ドキリ、と心臓が一度だけ大きく鳴った。

恐る恐る視線を下にずらすといつの間にか雪美が立っていた。

「こ、こんにちは雪美ちゃん」

「後…付けてきた……?探偵ごっこ……?私…ホシ…。キノコ…………好き………」

「えっ、キノコ?」

都の頭上にはてなマークが並ぶ。

尾行とキノコ、何の関係が……謎は深まるばかりだった。

「輝子…キノコ………好き…………」

「あっ、ホシから星輝子さんでキノコですね!」

「大正解…………」

「この灰色の脳細胞に解けない謎はありません!」

謎も何も答えを言ったのにな、という言葉を雪美は静寂の中にかき消した。

「都…何しに来たの……?」

雪美は都の目をじっと見て問いかける。

「ごめんなさい、実はさっき雪美ちゃんと見かけてなんとなくついてきちゃいました」

「………………暇……?」

都がぐぅと唸る。

「し、失礼な。探偵はオフの日も調査に明け暮れるものなのです!」

「…………………」

「…ちょっとだけ暇でした」

「一緒に…遊ぶ…………?」

「せ、せっかくですからそうしましょう」

10歳の女の子と遊ぶなんてあまり探偵らしくないなぁと思ったが、ストーカーをしてしまった負い目もあるので都は雪美と遊ぶことにした。

「あそこ……座って………、雲……眺める……」

「えっ、それって遊びなんですか?」

「楽しいよ……………」

雪美は都の手を引いて木陰へと誘う。

「ここ……寝そべって…………」

「こ、こうですか?」

「うん……そう…………。そして……、雲………見る………」

「終わりですか?」

「…………手本………見せる………」

都の隣に寝そべる。

紺青の髪が都の顔にかかり、少しくすぐったくてふんわりとしたいい匂いがした。

「あの雲……見て…………」

声のする方を向く。

小さいけれど、すらりとした白い鼻。

夜空のような紺青の髪から覗かせる航空障害灯のような赤い瞳。

佐城雪美という女性の美しさに都ははっと息を呑んだ。

「都…………………?」

気がつくと、彼女の赤い瞳の中に自分の顔が映っていた。

「す、すみません。なんだかぽかぽかして眠くなっちゃって」

「お昼寝…する………?」

「それもいいかもしれませんね」

「うん……………」

それからしばらくのあいだ、沈黙が続いた。

心地よい静寂。

ぼーっとして雲を眺める。

どこか遠くで鳥が鳴いているのが聞こえた。

「あの雲…………クロワッサン……みたい………」

鳥のさえずりに混ざって雪美がそうつぶやいた。

都は彼女の指の先を目で追いかける。

三日月形の雲がゆっくりと青空を流れて行くのが見えた。

「あ~確かにクロワッサンみたいですね~」

「あれは………フランスパン……………」

細長い雲を雪美が指差す。

「おいしそうですね。あっ、あれはメロンパンですよ!」

今度は都が楕円形の雲を指差した。

どこか遠くでみちるのあははという笑い声が聞こえたような気がした。

「お腹…………空いてきた………………」

「確かにちょっとお腹空きましたね」

「パフェ………食べる………?」

「パフェですか、考え事をするには糖分が必要っていいますしなんだか探偵っぽいですね!」

「行く……?」

「行きましょう……といってもどこに?」

「私………いいとこ………………知ってる……………」

雪美は立ち上がって背中についた草をうち払う。

その刹那、静かに風が吹いて雪美が払った草を運んでいった。

風にたゆたう雪美のスカートと髪を見て、まるで風を操っているようだと都は思った。

「どうしたの………?」

「大丈夫ですよ! なんでもありません」

都も勢い良く立ち上がって身体についた振り払う。

「こっち……………」

都の手を握り、半ば引っ張るようにして雪美は園庭の奥へと歩いていく。

「えっ、そっちは森の中ですよ?」

「……私……信じて……大丈夫…」

「は、はぁ」

雪美に導かれるまま、都はずんずんと園庭の奥へと歩きだす。

誰も居ない緑の生い茂る雑木林をずんずんと歩きだす。

「雪美ちゃん、もしかして迷子?」

雪美は何も言わずにまた指を差す。

木々の向こう側にログハウスが見えた。

どうやら推理は外れてしまったようだ。

「こんなところにお店があるんですね」

「うん……………………」

「知る人ぞ知る名店って感じでいいですね!」

今度は都が雪美を引っ張るようにして歩を進める速度をあげる。

木々の間を縫うようにして歩き、店の前へと辿り着いた。

ウッド調のドアを雪美が開けると、カランコロンというドアベルの音が店内に響いた。

「いらっしゃい」

ジャケットを着て腕まくりをした初老の男性がカウンターの奥から二人に声をかける。

「すごい! まるで小説の中みたいですね!」

「ふふっ……………」

雪美は少しだけ自慢げに笑って席に着く。

「マスター…………いつもの…………」

「かしこまりました」

「おぉ! 雪美ちゃんかっこいいです!!」

得意げな顔をする雪美を、目を輝かせて都は見ていた。

「そちらのお嬢さんは何になさいますか?」

「えっと……」

都はじっとメニューを見る。

普段全く飲まない珈琲の名前がたくさん書かれていた。

「パフェ……、食べに…来た………。違う…………?」

「あぁ、そうでした。じゃぁいちごパフェを一つお願いします」

「かしこまりました」

主人は小さく会釈をして奥へと下がる。

「雪美ちゃんはどうしてここを?」

「散歩してて………見つけた……」

「なるほど…やっぱり足を使って地道に調査するのが一番なんですね……」

「…………?」

小首をかしげて雪美は都の目をじっとみた。

「雪美ちゃんは良い名探偵になれそうです!」

雪美の瞳に吸い寄せられるように都はゆっくりと手を伸ばす。

心なしか雪美が頭を差し出したように見えて、その髪に触れる。

「雪美ちゃんの髪……すごくサラサラですね」

「ありがとう…………」

お返しと言わんばかりに、雪美も都の髪を触る。

「都……髪………、ペロみたい………」

「それって褒めてるんですか?」

ペロの方に目をやると、抗議の眼差しで都を見つめていた。

「うん……もふもふして………、気持ちいい……」

「そ、そうですか……」

少しだけ気を許したように見えたペロの身体を撫でてみると、確かにほんのりとした暖かさともふもふとした心地よい手触りだった。

「おまたせ致しました」

いつの間にか、店主がいちごパフェを両手に持って二人の前に立っていた。

こげ茶色のコーヒー豆たちが並ぶカウンターの中で、真っ赤ないちごが二人には輝いて見えた。

「ありがとう………、いただきます………」

「いただきます!」

一口、二口と黙々とクリームを口に運ぶ。

「美味しくてつい無言になっちゃいますね…!」

「うん…………」

「でも不思議です、雪美ちゃんと居ると黙っていても全然気まずくない。この謎はいずれ調査しなくては……!」

「密着取材……する……………?」

猫が甘えるように雪美はすりすりと都にすりよる。

衣服がこすれる度にほんのりと少し甘い匂いがした。

「流石雪美ちゃん、なかなかのアイドル力ですね……!」

「都も…アイドル力……高い……。都……出て来る………みんな……わーって……」

「そ、それは雪美ちゃんもじゃないですか?」

「でも……学校のみんな……膝………すりむいても……、泣かない………。ばんそうこう…………都みたい…って………」

「探偵は足が基本ですからね、傷は勲章です!」

そう言って都は自慢げに膝を叩いた。

「ばんそうこう………かっこわるい……でも……、かっこいい………都のおかげ……。すごい………」

「そ、そこまで言われると照れちゃいますね」

都は照れくさそうに今度は両手で両方の膝の撫でた。

――――――――――

二人が店を出た頃には真上にあった太陽も今はかなり日が沈んでおり、長い時間あの店に居たことを物語っていた。

「雪美ちゃん、今日は本当に楽しかったです。ありがとうございます!!」

「ありがとう………私も……楽しかった…………」

「今日は雪美ちゃんのことをたくさん調査しましたが、逆に謎が増えてしまいました」

「ミステリアス……ソング………、特技……だから………」

「本当に雪美ちゃんには謎がいっぱいですね。これからも徹底調査しますよ!」

都は虫眼鏡を持つ仕草をして、雪美の顔を覗き込む。

「ふふっ……………。都…どこまでも…探偵アイドル………ね………」

虫眼鏡を覗き返すように雪美も顔を近づけて、それから二人で笑いあった。

「都…またね………」

「はい、また」

雪美はそういって来たときと同じようにペロを従えて歩いて行く。

都がその後ろ姿を眺めていると、不意に雪美が振り向いた。

「今度は………ちゃんと………最初から…声………かけて…………」

「あっ」

都は雪美に付いて行ったことを思い出し、思わず恥ずかしくなって声を漏らす。

「またね…………」

雪美は都の返事も聞かずまた背を向けて歩き出した。

次は尾行なんかじゃなくて正面から調査しよう。

小さな名探偵はそう決意して、帰路についた。

終わり

以上です。
これからも膝の上の恋人こと佐城雪美ちゃんをよろしくお願いします。

前作です。
【デレマスSS】雪美「光さんの言う通り…」 - SSまとめ速報
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