P「橘が橘じゃなくなったら」 (18)
P「綺麗だ、橘」
そう口にする俺の前には純白のドレスに身を包んだ少女……いや、もう少女ではないか。美しい女性が立っている。
トップアイドル橘ありす。デビュー時は知る人ぞ知る彼女であったが、数年の時が流れた今では日本で彼女のことを知らない人間はいないほどだ。
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ありす「ありがとうございます、Pさん」
そう言って彼女は俺に微笑む。この微笑みは今、俺だけに向けられている。
しかし、彼女の微笑みの全てを向けられる男は……俺ではない。
俺は控え室の扉に目を向ける。もうすぐ式が始まる。
新郎の彼も、隣の控え室から出て式場へと向かった頃だろうか。
彼に嫉妬がないと言えば嘘になる。俺は彼女のことを娘のように思っていたのだから……そう、娘のように思って……思って………………
本当にそうだっただろうか。確かに最初は彼女のことを娘のように思っていたはずだ。しかし、何年もの間二人で歩き続ける過程で、自分の中での彼女への思いも変化してきていた。
俺は、彼女を娘以上に思っていたのかもしれない。今まで隣に立ち続け、これからも隣に立ち続けている唯一の存在になりたかったのだろう。
しかし、彼女の隣に立つのは、俺ではなかった。
式の開始の時間だ。彼女は時間ぴったりに席から立ち上がる。その一挙手一投足に彼女らしさが詰まっており自然と目頭が熱くなる。
ありす「Pさん、それではまた会場で」
そう言って彼女は出口のドアノブに手をかける。今目の前にいるはずの彼女の背中は、何処か異世界にいるかのように遠く感じる。
ドアノブを捻り扉が開く。
P「橘っ!」
ありす「もう……」
ありす「もう、橘じゃ……無いですから」
P「ありすぅぅぅぅ!!!」
ありす「うわっ!な、なんですかいきなり!ビックリするじゃないですか!」
P「あれ……?」
辺りを見渡す。そこは結婚式場などではなく、いつもの見慣れた事務所のソファだった。
先程まで 俺の頭があったであろう場所に 座っているありすも、齢十二歳の未発達な体躯でこちらを責めるような視線で見つめていた。
P「夢?」
ありす「突然起き上がって叫ばないでください!あと、ありすじゃなくて橘です」
P「あ、あぁ。すまない」
どうやら、仕事の合間に軽くソファに横たわったところ、思いのほか眠ってしまっていたらしい。急ぎの仕事や、今日打ち合わせや収録のアイドルがいなくて良かったと胸を撫で下ろす。
ふと自分の太ももに目をやる。先程まで俺の身体にかかっていたであろうブランケットがまだ名残惜しそうに太ももから膝に向かってかかっている。
P「ありす、ありがとな」
俺はそのブランケットを掴むとありすに渡す。
ありす「だから橘です!」
そう言いながらブランケットを受け取り畳み始める。が、その直後に何かに気付いたように目を見開き、こちらに振り向く。
大方、このブランケットの持ち主が自分だとバレていることや、自分がかけた事がバレている事だろうか。
ありすは何かを言いたそうな目でまごまごしていたが、やがて落ち着きを取り戻したのか、畳んだブランケットを膝に乗せ息をついた。
ふと、さっき見た夢について思い出す。今の彼女はまだ十二歳だが、いずれ誰かと結婚し家庭を持つだろう。その時、間違いなく『橘ありす』は『橘ありす』ではなくなっているのだ。
そうなった時、ありすと呼ばれるのが嫌な彼女を俺は何と呼ぶのだろうか。
P「なあ、ありす」
ありす「だから橘ですっt」
P「橘じゃなくなったら、何て呼べばいいんだ?」
ありす「えっ?」
ありす「……………………ええ!?//」
しばらく考える素振りをしたかと思うと彼女は突然大きな声を上げた。
ありす「いや、でも、その、まだ早いですよそういうのは」
ありすは手をワタワタさせながら言う。いや確かに現状ではかなり先の話ではある。
しかし、恐らく必ず訪れる事ではある。
P「でも今の内から考えておいた方がいいと思うんだ」
ありす「えっ……えぇ……」
そんなに変な事を聞いただろうか。ありすは頬を赤らめ横目でしかこちらを見ない。
P「そんなに言いづらい呼び方なのか?」
ありす「えぇっ、いえ……別に……言いづらいのは……確かですけど……」
ありす「え、えーと……『〇〇』……」
P「?何で俺の苗字なんだ?」
ありす「っ///」
そう指摘するとありすは更に顔を赤らめ勢いよく立ち上がるとそのまま事務所の扉を開き外へと出て行ってしまった。
P「あ、あれ……?」
その後暫くの間、俺のあだ名は『ロリコン』になった。
仮面ライダーギャレン「え?」
アマガミ主人公「お?」
陸軍軍神一号「あ?」
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