スナイパー「ククク、標的にこの赤い弾丸を食らわせてやるぜ……」 (24)


男は超一流のスナイパーである。

凄腕として裏社会で名を轟かせており、ひとたび彼に狙われれば、
マフィアの大親分や一国の元首とて、命の保証はない。



金さえ詰まれれば、男はどんな標的だって狙うし、どんな弾丸でも発射する。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497008838


どんな弾丸でも――そう、彼の弾丸は必ずしも銃弾とは限らない。

男の銃は特別製で、小さい球状であればどんなものでも撃ち出すことが可能なのだ。



依頼人の意向で、ギャンブル狂いの標的をルーレットの玉で撃ち殺したこともあるし、
偽ダイヤモンドで荒稼ぎした詐欺師を皮肉を込めてガラス玉で射殺したこともある。


今回の彼の標的は、ある入院患者である。



といっても、この患者は依頼人から恨みを買っているというわけではない。
むしろその逆である。

この患者を楽にしてあげて欲しい、というのが依頼人の意向であった。


標的である患者は、唾液が一切出ないという難病に侵されているという。

一見大したことないようだが、唾液には強力な殺菌作用や消毒作用があり、
それが出ないということは、人体で最大の穴である口に防御機能が全くないということなのだ。


そのため、この標的はさまざまな病気にかかり、入退院を繰り返している。
本人としてもすっかり参ってしまい、たびたび死を望んでいる。

そこで、男に白羽の矢が立ったというわけ。


スコープに映された部屋には、標的と依頼人がいる。

両人とも、どこか覚悟を決めたような表情をしている。

標的はすでに、自分がスナイパーに狙われていることを知っているのだろう。
依頼人は依頼した責任として、標的の最期を見届けるつもりなのだろう。


「ククク、標的にこの赤い弾丸を食らわせてやるぜ……」


男は不敵な笑みを浮かべ、チャンスをじっと待つ。


スコープに映る標的が、大きく口を開けた。
あくびをしたようだ。

これ以上ないチャンス。


(今だ!)


男は引き金を引いた。


発射された赤い弾丸は、男の計算通りに速度を落としつつ、標的の口内に到達した。


すると、奇跡が起きた。


標的の口から大量の唾液があふれ出てきたのだ。
決壊したダムのように流れ出る唾液は、瞬く間に口の中を潤し、浄化してくれた。

おそらくもう、この標的が唾液の出ない奇病に苦しむことはないであろう。


超一流のスナイパーはほっと一息つくと、



「楽にしろ、とは言われたが、死なせてくれ、とは言われてなかったんでね」



その場を後にした。


まさかの結末に、小躍りする依頼人。


「やった! やったんだよ! 君はもう治ったんだ! 死ななくていいんだ!
 スナイパーが治してくれたんだよ!」


一方、正常な唾液分泌を取り戻した標的は、梅干しの種を吐き出すとこう漏らした。


「すっぱいなー」









― 完 ―

※唾液が出なくなる病気は実在しますが、このSSとは無関係です。

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