【モバマスSS】茜色の空、星々の輝きを添えて (32)

茜と未央の友情ものSSです


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彼女、本田未央は迷っていた。
どうすれば普段通りの自分に戻れるのか、もしくは……

ーーーーーー

時刻は18時を過ぎようとしていた。
外の景色はまだまだ明るく、夏が近づいている実感を多くの人が感じている。
世のサラリーマンは仕事を切り上げ、各々呑みに行ったり、家族が待つ家へ帰ったりするだろう。
カタカタカタ
中にはこの事務所のようにまだ仕事をしている人もたくさんいる。
この日の彼の仕事はそう多くない。既にやらないといけない仕事は終わっていたが、彼が残って仕事をしているのには理由があった。

「ごめん、プロデューサー。待った?」

控えめにドアが開き、現れたのは彼が担当するアイドル、本田未央であった。

「んー、少し。でも次のLIVEに備えて企画書作ってたから今後は楽できるって思えば問題ないかな」

彼はパソコンから未央へと視線を移し柔和に笑う。
それから立ち上がり備え付けの冷蔵庫へ向かう。中からお茶を取り出すとグラスへ注ぎ未央が座ったソファに持っていく。

「はい、お茶。レッスンで疲れてるだろ」

グラスを前のデスクへ置いて、未央の対面に彼も腰かける。

「ありがとう。プロデューサー」

未央はさっそくグラスを手にもって一口だけ飲む。レッスン後に軽くシャワーで汗を流しただけであまり水分補給が出来ていなかった。

「うん。……相談したいことがあるって時間を指定するのは良いけど、次は自分のスケジュールもちゃんと確認してからにするんだぞ」

別に未央は指定した時間に遅れてきた訳ではない。寧ろ時間ぴったりに来てはいた。

「うん、ごめん」

本人も自覚はあるのか素直に謝る。

「それで、珍しく未央は何を相談したいんだ? いつも悩まずに突き進むのが未央だろう?」

嘘。
彼は未央が何を相談したいのかだいたい想像がついている。けれど未央が話しやすいようにそう促した。

「うんとね、この前のLIVEについて」

持っていたグラスを置いて、未央はぽつぽつと語り出す。

「あのときの私、酷かったよね。歌詞を間違えたとかのミスじゃなくて歌えなかったんだから」

高まっていたLIVE会場の熱気が一瞬で消し飛んだ瞬間。その記憶がフラッシュバックして彼女の心に傷をつける。

「でもあれは未央のミスじゃないだろう?」

プロデューサーはそう未央を慰めた。
これがプロデューサーではなくて、同じアイドル仲間でも、事務所の人たちでも、ファンのみんなでさえも同じことを言っただろう。
現に未央がしたミスは彼女が起こしたものではなかった。不運の事故と言っても良いもの、機材トラブルが原因で起こったこと。
音響機材がショートして音が流れなかったら誰もがしょうがないと納得しただろう。けれど現実では音楽は流れた。トラブルの対処法を知っていたスタッフが居合わせたから音楽が流れない事態は避けられた。

けれど流れ始めた音楽は未央の歌う曲ではなかっただけで。

「そうだけど、あの時流れたのは同じユニットで大事な仲間の、友達の……茜ちんの曲なのに」

そう、流れたのは日野茜が歌う曲。誰もが唖然として少しの間曲は流れ続けた。
音響スタッフはちゃんと曲が流れたことで安心をしてしまった。冷静になって流れている曲が違うことに気づき、すぐに未央の曲へ戻した。
その後未央もすぐに意識を切り替えて自分の曲を歌いきった。しかし多くのファンが機材トラブルだと納得しているなか、一部のファンの意見は違った。

ーー同じユニットメンバーの曲も歌えないアイドル

そんな強く攻撃的な毒は現代で普及しているインターネットを通して、すぐに未央のもとへ届いていた。

「あんな言葉は気にしなくていい。だって未央は茜の曲を歌えるだろう?」

未央は決して茜の曲を歌えない訳ではなかった。寧ろ同じアイドルの曲は好んで歌うことが多いことを知っている。
アイドル仲間や事務所のスタッフは。
しかし、その毒はストンと未央の心に入り込み、深い傷を負わせた。何よりも仲間との関係を大事にしている未央だからこそ、穿たれた傷は深かった。

「でもあのとき私が茜ちんの曲を歌えていたら、違ったかもしれない。サプライズとしてもっと盛り上がってたかもしれないのに」

そうであったらどれだけ理想的だろうか。
しかし、そんなたらればの話をしてもしょうがないことは未央が一番理解している。

「そうだな。そんな展開になってたらどんだけ良かったか」

驚いて未央は顔をあげた。ずっと俯いていたのに、それをあげさせるだけの驚きがあった。いつも優しく頼りになるプロデューサーから突き放されるような言葉を初めて聞いたのだ。
次第に未央の顔から色が失せていく。

「……………」

「まあ、待て。そんな泣きそうな顔をするな」

未央は顔をぐしゃぐしゃにして、さらに困惑の色を追加する。
プロデューサーが何を言いたいのかわからない。そんな心情を読み取ったのか、

「誰もそれが一番良かったなんて言ってないだろ」

頭を掻いて彼はどう言葉にしようか数瞬考える。

「まずもう一度言うがあれは未央のせいじゃないし、どうしようもないことだ。どんなプロだってミスはするし、避けられない事故は時には起こる。それに対処できればいいんだが、誰もがそんな器用なわけじゃあないだろ」

それだけ言ってもう一度間を開ける。次に何を言うべきか考える時間。そして未央に言葉が浸透する時間。

「……そもそもの話なんだが、未央は何に傷ついているんだ?」

「え?」

驚き。先程とは違う、単純な疑問。
今それを話していたのに理解していなかったのかと思いながらも、

「あのとき茜ちんの曲を歌えなかったこと」

ともう一度言った。

「だからそれはしょうがないことだって言っただろう。そして未央もそれを理解できている。じゃあ何に傷つく必要がある?」

そこで未央は考えた。

(茜ちんの曲が歌えなかったから? でも私は茜ちんの曲を歌える。あの場で咄嗟に歌えなかったこと? でもそれはプロでも対処は難しいんだ)

では何に傷ついたのか。それをようやく理解した。

「……茜ちんに顔向けできないんじゃないかって思った」

それだけで茜が未央のことを糾弾するなんてことはあり得ないとわかっていながら、もし万が一のことを想定して、茜と会うことを怖れたのだ。

「まさか。茜はそんな子じゃないのはよくわかってるだろう?」

「うん」

「じゃあ未央はどうしたら良いか分かってるじゃないか」

「そう……だね!」

ようやく未央に活力が戻ってきた。原因は外にあっても、問題は内にあったことがわかった。そしてその対処法もわかったことでようやく笑顔が戻った。

「じゃあ、今日は無理だとして、明日茜と話せよ? 運よく明日はポジパのユニット練習がある日だしな」

「わかった! 明日からはもういつもの未央ちゃんに戻るから! ありがとう、プロデューサー」

「おう! そっちの方が事務所も明るくなって楽しいよ」

気がつけば外はすっかり暗くなっていた。壁にかかっている時計の短針は7のあたりを指している。

「夏が近づいてるって言ってもまだ陽が沈むのは早いねぇ」

「これから嫌ってほど太陽浴びることになるぞ」

「まあ、私は好きだから良いけどね。夏も太陽も」

ふいに未央はそこで言葉を区切った。

「……あ、明日さ、茜ちんと仲直り……は、おかしいか。話をして解決したとしてもさ」

「うん」

「ファンの方はどうしよう? 私は茜ちんの曲を歌えます!ってSNSとか使って言えば良いの?」

「まあ、そこはプロデューサーの俺がなんとかすることだから、未央は気にしなくていいよ。未央は俺を信頼してついてこればいいんだ」

「じゃあ任せるとするよ! ……でも一つだけ言わせてプロデューサー。最後のは正直キモい」

「…………」

「まあ、私はもう帰るね。……感謝してるよ、プロデューサー」ボソッ

「ん? おう、気をつけてな」

「うん、お疲れ! プロデューサーもしっかり休むんだぞー」

ーーーーーー

翌日

「ねえ茜ちん」

「なんでしょうか! 未央ちゃん!!」

「今日のレッスン、勝負しない?」

「勝負ですか! 受けてたちますよ!」

「もう二人とも~」

「じゃあランニングで! 負けた方が帰りにアイスを奢るってことで!」

「わかりました!」

「二人とも、賭け事は駄目ですよ~」

「負けた方はあーちゃんにもアイスを奢る」

「……今回だけですからね!」

ーーーーーー

「どうして私は勝ち目の薄い勝負を仕掛けたんだろうか……」

ユニット練習を終えた帰り道、三人は堤防を歩いていた。前を歩く茜と藍子の手にはしっかりとソフトクリームが握られている。
その後ろをトボトボと未央は歩いていた。

「あの、未央ちゃん。一口いりますか?」

藍子が振りかえってソフトクリームを差し出してくれる。

「いや、いいんだよあーちゃん。私にはこのジュースがあるから……」

ランニング勝負で負けた未央は二人にアイスを奢った。自分の分も買おうと思っていたけど、ここ数日消沈していたことで財布の中身を見ていなかったのが運のつき。二人分のアイスは買えても、自分の分はジュースで精一杯だったのだ。

「財布の管理をしっかりとしておくべきだったよ……」

思わず未央は空を見上げて嘆いた。空は夕陽で紅く染まっていた。遠くでは微かに電車の音もしている。

(帰って明日はお金卸さないとなー)

そうやって明日のことを考えたところで気づく。

「……あ」

未央の口から短く音が漏れ、前の二人は振り返った。

「どうしましたか、未央ちゃん!」

茜がそう聞いてきたことで未央はどう答えようか迷った。素直にいつもの調子で、

『いやー、この前のLIVEで未央ちゃん失敗しちゃったじゃん? 茜ちんの曲を咄嗟に歌えなくて。それで謝りたかったんだよね』

と、答えることができたら重い空気にならず茜と話すことができただろう。

「いや、その、何て言えばいいか……」

ここで未央は狼狽えた。つい、小心者な面が表に出てしまった。

「どうしたんですか、未央ちゃん?」

藍子が心配になって未央の顔を覗き込むように見つめる。

「えーと、そのー……」

未央は視線を泳がせた。何と言えば軽い感じになるか考えたが、咄嗟に何も案が浮かんでこない。

(ええい、もうなるようになれ!)

たった少しの勇気を振り絞って、思い付くまま話をしようと決めた。

「ええとね、茜ちんに言いたいことがあってさ」

少し声が震えていただろうか。いくら夕方とはいえ、まだ暑いはずなのに未央の体感では肌寒く感じられた。

「私ですか? なんでしょう!」

純粋に好奇な視線を向けられる。

「えっと、その、この前のLIVEのことなんだけど」

そう告げた途端、藍子が息を飲んだのがわかった。彼女もインターネットに流れた情報を知っていたのだ。
目の前の茜はどうだろうか。先と変わらず、好奇な視線を向けたまま未央のことを見ている。

(もしかして知らないのかな?)

ふと、そんな疑問が浮かび未央は尋ねた。

「……私が咄嗟に茜ちんの曲を歌えなくて、ネットに書かれたコメントのこと、知ってる?」

恐る恐る未央はそう聞く。一体どんな答えが返ってくるのかわからない。内心ビクビクしつつも返事を待った。

「知っていますよ?」

そこにはどんな感情が含まれていたのか、今の未央にはわからなかった。
どうしても未央の思考は最悪の想定を思い浮かべる。そんなことはないと理性では分かっていても、本能が怯えを生む。

「……それで、それで茜ちんは……どう思った?」

結果、未央は逃げを選択した。

(違う。そんなことが聞きたいんじゃない。私が伝えたいのは……)

「私ですか? そうですね……」

茜が少し思案する。数瞬の間。しかし未央には永遠にも等しい間が開いたことで、未央は咄嗟に声を荒げた。

「待って!!!」

その先は聞きたくない。望んでいた形と違う。これでは駄目だと、様々な思考が過ぎ去っていく中でようやく理性が追い付いた。

「違うの。私が言いたいのはそれじゃなくて……。えっと……」

自分の中でのせめぎあい。終わりの見えない攻防はすぐに終戦する。

「未央ちゃん、一度深呼吸をしましょうか」

当の茜にそう促され、未央は瞬いた。不思議とその言葉は綺麗に心に入ってきた。それからゆっくりと深呼吸をすると気持ちが落ち着く。

「落ち着きましたか?」

「うん、ありがとう。茜ちん」

落ち着いたことで何を伝えたら良いのかもしっかりとわかった。同時に不安も綺麗になくなっていた。

「あのさ、茜ちん」

「はい、何でしょう!」

さっきのやり直し。自分の想いを伝えるために未央は同じことを尋ねる。

「茜ちんはあのLIVEで起きたことで、ネットに書かれたコメントを知ってるよね?」

「知っていますよ?」

その言葉を聞いて、未央は思った。

(なんでさっき分かんなかったんだろう)

茜の言葉に込められていた感情。さっきは何も分からなかった。酷く無機質で何も含んでいないかのような、とても冷たいものにしか思えなかったのに。
どうして今はこうもあったかいのだろうか。
そこには茜の優しさが多分に含まれていた。

「それで私、茜ちんに謝りたいんだ」

ようやく未央は茜に告げられた。

「あの時、咄嗟に歌えなくてごめん。大好きな茜ちんの曲なのに私、歌えなかった」

しっかりと茜を見据え、未央は伝えた。
茜はどんな言葉を返すのだろうか。未央はそれを待った。不安なんて何もない。
だって彼女なら、

「未央ちゃん。だったら次は歌いましょう! そうすればファンの方もあんな酷いことは言いません!」

必ずそう言ってくれるから。茜の言葉に勇気付けられる。それと同時に次はやってやろうとさえ思えるようになる。
未央の中で茜の存在はそれだけ大きかった。

「それに、あんな言葉は酷いです! 未央ちゃんのこと何も知らないで言ってるんですよ! 直接ボンバーしたいくらいです!!!」

そんな言葉に、プッと未央は吹き出した。

「あははっ。何を言ってるのさ茜ちん」

ずっと付き合っていても未だにボンバーの意味が分からない。寧ろ長く付き合う度に謎が深まっていく言葉だった。

「あんな人たちはボンバーです!」

「……ありがとね、茜ちん」

「はい!!」

ようやく未央は本心で笑えた。最初から何も怖れることなんてなかったのだ。茜のイメージが良くなることはあれど、悪くなることなんて決してなかった。それが改めて理解できた。


「みおちゃ~んっ」

そこで、グスグスと鼻を啜り、瞳からは大粒の雫を流している藍子が未央に抱きついてくる。

「うわっ、あーちゃん!?」

ジャンプして飛び付いてくるものだから、未央はバランスを保てず後方へ倒れる。

「痛って!」

地面にお尻を強打し、泣きじゃくる藍子を改めて抱き抱えた。

「うぅ~。みおちゃ~ん!」

「はいはい。あーちゃんもありがとね。私のこと心配してくれたんだよね」

藍子が抱きしめてくる力は意外に強い。その細腕のどこにそんな力があるのか疑問に思いながら、未央は藍子の背中をさする。

「未央ちゃん、藍子ちゃん! 友情ですねぇ!」

立ったままの茜がしきりに頷きながらニコニコしている。しかし、目元がうっすらと光っているのを未央は見た。

「何言ってるのさ。茜ちんも当事者なんだから一緒に友情を分かちあってるはずなのに!」

つい未央はそう答えていたが、すぐにそれを後悔した。

「ほんとですか! じゃあ私も混ざらないといけませんね! ではっ」

「えっ? ちょっと待って茜ちん! せめて立ってから!!!」

茜が倒れるように抱きついてくるのだから未央は座った状態でもう一度転倒した。

「いやー!!!」

ーーーーーー

「はぁ、酷い目にあった……」

散々三人で抱きしめあった後、ようやく立ち上がった。

「もうー、あーちゃんが急に抱きついてくるから汚れちゃったよー」

三人の中で、未央だけ土埃がついていた。
二回も倒され、下敷きになったせいだ。

「えへへ、ごめんなさい」

申し訳なさそうに藍子が苦笑いする。もう涙はなくなり、鼻を啜ってもいない。

「別にいいけどさー。次からは気を付けるよーに!」

「はーい」

片手をあげて、しっかりと良い返事。そこで違和感が未央の脳裏をよぎる。
つい視線を満足気にしている茜に向けて違和感は確信へ変わった。

「あの、あーちゃん、茜ちん」

「はい?」

「なんでしょうか!」

二人は未央の顔を見た。まだ何かあるのだろうかと考えただろう。そして未央から告げられた言葉を聞いて、藍子は凍りついた。

「アイス、どこやった?」

思わずそう尋ねた未央にすぐ返答があったのは一つだけだった。

「ん? 食べましたよ?」

どうやら茜は既に食べ終えていたあとだったらしい。

もう一人の藍子はというと、

「…………」

言葉をなくし、必死に俯いていた。
否、俯いているのではなく、地面に落ちているそれを見つめていた。

「あーちゃん……」

未央はなんて言葉をかければ良いか迷った。さっきとは違い、今度はなんて言えば良いのか決して答えは出なかったが。

「ごめんなさい未央ちゃん!」

ガバッと顔をあげた藍子の剣幕が面白くて、未央はつい笑った。
どうやら今度は未央が涙を流す番のようだ。つっと垂れそうな涙を指でぬぐった。

気がつけば空もだんだん暗くなり、星が輝き始めていた。夕陽の明るさでまだあまり見えないが、それに負けじと主張するよう強く輝く星がいくつかあった。

ーーーーーー

翌日

「おはよう、プロデューサー」

未央が事務所へ訪れると既にプロデューサーはパソコンに向き合っていた。

「おはよう未央。昨日はどうだった? 茜と話せたか?」

彼は顔をあげてそんな言葉を投げ掛けた。それと同時に聞かなくても良かったかなとも思った。

「もちろん! もうちゃんと話しましたとも! 涙あり、笑いあり、友情あり。ドラマ化間違いなしだね!」

そんな軽口で応じる未央を見て、顔を綻ばせた。

「そっか」

そうして彼は手招きして未央を呼んだ。

「ん? なになに?」

未央が彼のデスクのそばに立つと今度はパソコンを指差された。

「ちょっとこれ、見てみな」

パソコンの画面には文字の羅列。それと図形が挿入された何かが表示されていた。

「なにこれ? 企画書?」

画面の上部には大きく『次回LIVEの企画書』と書かれている。

「そう。まだこれが通るとは限らないけどさ、次にこういうことをしたいんだよ」

もう一度彼はパソコンを指差す。今度は図形の一部を詳細に。

「……え、これって」

未央はしばらく言葉を紡げなかった。
そして思い出すのは一昨日の言葉。


『んー、少し。でも次のLIVEに備えて企画書作ってたから今後は楽できるって思えば問題ないかな』

『ファンの方はどうしよう? 私は茜ちんの曲を歌えます!ってSNSとか使って言えば良いの?』

『まあ、そこはプロデューサーの俺がなんとかすることだから、未央は気にしなくていいよ。未央は俺を信頼してついてこればいいんだ』

一部余計な言葉まで思い出した気がするが、最初から彼は手を打っていてくれていたのだ。

次のLIVEで茜の歌を歌う。

そうすればインターネットの声なんか消える。

では、新たに練習したから歌えるはずだと揶揄する声があがるかもしれない。
そんなこと言わせないレベルの歌を聴かせればいいだけだ。
だって未央は仲間の歌が好きだから。よく好んで歌っているのはアイドル仲間や事務所のスタッフは知っている。
それをファンのみんなに知ってもらうだけなのだ。

「……プロデューサー」

「どうした?」

彼は答える。茜と同じで優しい声だった。

「……ありがとうっ」

未央の瞳からは、一雫だけ涙が零れ落ちていた。


終わり

初投稿で拙い点があったかと思いますが、
読んでくださりありがとうございました。

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