【モバマスSS】 禁断の果実 【短編】 (12)
注・U149Pを石黒P(149ろP)としています。独自設定注意。
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2017年、×月○日 橘ありす
今日は346プロのアイドル全体ミーティングが有りました。
そのミーティングの最後にモバPさんが、
「私事ですが…」
と前置きした上で、一般女性との婚約を発表しました。
途端に巻き起こる、歓声と喚声。 悲鳴に似た様な声まで聞こえてきます。
モバPさんの担当のアイドルさん達が様々な反応を見せる中、モバPさんは背の大きい武内Pさんや、
何時もチンピラにしか見えない恰好をしている内匠Pさん、私達第三芸能課のアイドル達の担当をしている石黒Pさん、
後、アシスタントの千川ちひろさんからの祝福を受け、嬉しそうに照れ笑いを浮かべています。
ちひろさんが少し寂しそうな顔をしていたと感じたのは気のせいでしょうか……。
なんにせよおめでたい事ですね、周りの反応はさておいて、祝福したいと思います。
2017年、×月×日 橘ありす
昨日のモバPさんの婚約発表から一夜が明けました。
主に彼の担当するのアイドル達の反応は様々でした。
こうしてざっと見ただけでも、爪を噛む女性、ハイライトを無くして虚空を見詰める女の子、
一点床だけを見つめて何かをブツブツ呟く少女、どなたも厄満点の粒揃いです。
私、橘ありすは先述の様に第三芸能課に所属していますので、第一芸能課のモバPさんとはあまり接点がありません。
なので、モバPさんが婚約された、と言われても、特に感情の変化は無いのですが…、
コレがとんでもない事を意味しているのは彼女たちの様子を見て良く理解できました……。
彼女たちの粘ついた視線を一身に受けながら、モバPさんはいつも通りに鼻歌交じりに仕事を片付けています。
何か良くない事が起こらなければ良いのですが……、彼の無事を祈らざるを得ません…。
2017年、×月△日 橘ありす
その翌日、モバPさんが失踪しました。
私の祈りは24時間も持たなかった訳ですね…、大変残念です。
即座に警察が捜査に動き、私も事情を聴かれました。
警察によると、愛想の縺れに依る怨恨の線を辿ると、容疑者が100人程になるそうで、
捜査員も呆れ顔らしい、との事です。
それにしても動きが速いですね…、一日顔を見せなかっただけで、何故警察が動いてるのでしょうか…??
不思議に思って石黒Pさんに尋ねてみると、
「秘密だぞ…?」
と、前置きして、こっそり事情を耳打ちしてくれました。
何でも今日の朝、モバPさんの部屋のドアが開け放たれていたのを不審に思った大家さんが部屋の様子を見て、
即座に警察に通報したそうです。
入り口の鍵は乱暴に壊され、部屋も荒らされ、ご丁寧にモバPさんのスマホを鈍器の様な物で破壊して放置してあったそうです。
どう見ても事件に巻き込まれたとしか思えない状況です。
警察も即座に動くのも理解できますね……。
それにしてもモバPさんの安否が心配です…。
彼は何者に襲われ、何処に連れ去られたのでしょうか…??
モバPさん…、彼の無事を心から祈っています…。、
2017年、×月□日 橘ありす
あれから一週間が経ちました。
モバPさんの行方はようとして知れず、彼の担当アイドル達の精神の平衡も限界に達しているようでした。
彼と関係の余りない第三芸能課は大して変化は有りませんが、担当の石黒Pさんは佐城美雪さんを始めとした、
モバPさんが担当していたアイドルで、第三芸能課に回されてきたアイドル達が、
未だに一切自分の支持を受け入れない事に少々参り気味の様です。
第一芸能課の前を通ると、残されたアイドル同士が互いにプロデューサーを攫った犯人だと疑い合い、
大声で罵り合う姿が見られました。
そんな中、大原みちるさんが二人の喧嘩を止めようと、自分で作って来たらしい、
パンを二人に差し出そうとしました。
ザクロと挽き肉のカレーパンと言うそれは、こんがりきつね色でとても美味しそうでした。
しかし、言い争いにヒートアップした二人はみちるさんを邪魔そうに腕で振り払うと、
そのまま掴み合いの喧嘩に突入してしまったのです。
振り払われた手で転倒し、床にカレーパンをぶちまけたみちるさん。
彼女はよろよろと立ち上がると、悲しそうな瞳で床に転がったカレーパンを一つづつ拾っていました……。
それを見て周りから飛ぶ非難の声、中には掴み合いに参戦するアイドルすら居ます。
まるで地獄の様な光景です。
つい一週間ほど前まで、みんなで仲良くお茶を飲んだり、お菓子を食べたり、持ち寄ったパンを食べていた、
第一芸能課の仲良しだったアイドル達は見る影も有りません……。
どうしてこんな事になってしまったんでしょうか……。
モバPさん……、早く帰って来て下さい…。
2017年、×月@日 橘ありす
更に翌日。
先日、乱闘を起こしたアイドル達は謹慎の罰が下り、いささか後ろ向きな落ち着きを取り戻した第一芸能課の前を通りました。
皆、一様にソファーに深く腰掛け、沈鬱に沈んだ表情で下を向いていました。
今日もみちるさんが、差し入れに作って来たソラマメのキドニーパイを切り分けていたのですが、
誰もソレに手を伸ばす人は居ない様です…。
あんなに食べる事が大好きだった人も居たのに、誰一人…。
どうやら彼女たちは、みちるさん以外、モバPさんが居なくなった日から誰一人まともな食事をしてないようです…。
見るからにやつれていく彼女たちを見ていると、胸が締め付けられる様です…。
モバPさん…今、貴方は何処に居るんですか……、このままでは、みんなダメになってしまいますよ…。
モバPさん……。
2017年、×月※日 橘ありす
今日も第一芸能課が気になってその前を通ると、
肩を落としたみちるさんがバッグを抱えて部屋から出てきたところに出くわしました。
今日も差し入れを食べて貰えなかったのか、と尋ねると、彼女は悲しそうに頷きました。
「みんなに食べて貰って、元気になって欲しいんですけどね……」
と、寂しそうに呟きながら…。
「…このまま持って帰るのもアレだし、ありすちゃん、食べて貰えませんか??」
そう言いながらサンドイッチを私に差し出すみちるさん。
正直、お昼を食べたばっかりでお腹は空いていなかったのですが、断る事など私には出来ませんでした。
イチジクのソテーのサンドだと言うそれは、バターと香辛料がたっぷりと効いた、食欲をそそる匂いでした。
私が、そのサンドイッチを口に運ぶのを見て、みちるさんは、
「ああ、コレで「 」も寂しくないですね…。やっと…仲間が出来ました……」
と、ボソボソと呟きながら、嬉しそうに目を細めます。
私はサンドイッチを咥えながら、首を傾げました。
良く聞こえませんでしたが、今、みちるさんは何と言ったのでしょうか…? それに……仲間??
おかしな事を言うみちるさんを疑問に思いながら、私はそのサンドイッチをゆっくりと咀嚼します。
まず口に広がるのはバターの豊かな風味、そして次に香辛料と経験した事の無い旨み。
私は食べた事が無いのですが、イチジクはソテーするとこんなにお肉の様な風味になるのでしょうか??
今まで食べた事無いお肉の様な、そうでない様な、不思議な風味と食感に溢れています。
それでも力強いパンとしっかりと絡み合い、絶妙なバランスで纏まっています。
流石みちるさん、レベルの高い一品ですね。
そんな風にじっくり味わう私の顔を、みちるさんは何故かじっと見つめていました。
わたしは、そんなみちるさんの視線にどこか居心地の悪さを感じながら、
その不思議な味のサンドイッチをゆっくりと嚥下したのでした。
【完】
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