【モバマス】P「なぁカミサマよ、願わくば」 (66)

地の文メイン。
独自設定あり。
未熟者ゆえ、人称や口調等でミスがあるかもしれません。
どうかご容赦いただければ幸いです。

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「……なあ。ええ加減諦めてもらわれへんかなあ。こっちとしてもそろそろ待つの限界やねん」

兵庫県・某所。
とある教会にて。

灰色のスーツをラフに着崩した糸目の男性が、困ったような表情でガシガシと後頭部を荒らした。

対面には、神妙な面持ちの金髪の女性。
スラリとしたその体に、黒の修道服を着込んでいる。

「……もう少しだけ。お待ちいただけませんか。お金は必ず……」

「そのセリフ何度目やと思てるん? ……アテもないんやろ? 諦めた方が利口やと思うで」

「それは……」

金髪のシスターは言葉に詰まる。

「ここの権利書くれたらそれで終いなんやけどなあ。……ガンコな姉ちゃんやな」

男性の口から白い息が流れる。
呆れたようにため息をつく男性に、シスターは深く頭を下げた。

「……お願いいたします。……もう少し。もう少しだけ…………」

「はー……もう。……今日んとこは帰るわ。また来るから、そん時までには頼むから決心しといてや」

借金のカタに教会の権利書をよこせ、などと中々に非道なことをシスターに要求していた男性だが、非情にはなりきれなかったらしい。

頭を下げ続ける彼女を最後に一瞥して、踵を返した。ポケットからタバコを取り出してくわえ、火を付けながら去っていく。




今日もまた、ロクな成果を上げることができなかった。

くわえていたタバコを携帯灰皿に押し込み、小汚く煤けた事務所の扉を開けた。

俺のいる金融機関はしばらく前にとある教会へ融資をした。名目は運営資金のため。貸した当初はそれなりに順調だった返済は、少し経つとすぐに滞るようになった。

それも無理はない。

ウチはそこらの闇金のようにわかりやすい暴利を定めているわけではないが、様々な仕組みを弄して目に見える利率よりもはるかに高い利息を回収している。

表向きは白っぽいグレー、内情はどす黒い。
そんな経営を行なっていた。

だから当然のように、返済に貧する顧客の元へ取り立てに行く必要がある。これが、俺のような下っ端の仕事。

俺はその教会への取り立てを押し付けられた。
味の悪い仕事だと思った。一般家庭に押し入る方がよほどマシだ。
信心などかけらもないが、カミサマとやらのおわすところに踏み入るというだけで行く気は削がれた。

嫌々ながらも取り立てに行った俺の対応に出て来たのが、さっきも会っていたシスターだった。これが俺にとっては曲者だった。といっても、何も屁理屈を並べてかわそうとしたり強気で無理を押し通したりしようとするわけじゃない。
彼女はただただ申し訳なさそうに頭を下げて、切に頼みこんできた。
もう少しだけ待ってくれ、と。


気に入らない相手なら恫喝の一つもしてやろうものだが、相手はただ頭を下げるだけ。
こちらも良いことはしていないという自覚があるから、どうにも強く出ることは出来ずにいた。

上からの指示は早急な回収、できないなら建物を差し押さえろ、登記書を持ってこい、権利書を持ってこい。無理矢理にでも。

しかし、かすかに残ってしまっている良心のせいで、俺はその指示に従いかねてしまっていた。


「おう、ボン。帰ったんかい」

事務所に入ると、強面でガタイのいい男からそう声をかけられた。
『ボン』、というのは俺の呼び名だ。『いいところの坊ン』のようだ、と評された俺の顔。以来そんな呼び方が定着した。

「……兄ィ。お疲れさんス」

「取り立て行っとったんやろ。どやった、今日は」

「……その、もうちょい待ってくれ、と」

「ほォ。……んで、お前はどうしたんじゃ」

「と、とりあえず……今日んとこは帰ってきました」

「そうかそうか」

そう言って、上司であり、兄貴分にあたるその男はヤケに機嫌よく豪快に笑った。嫌な予感が背筋を走る。

それはまったく見事に的中した。

「ボン。お前クビじゃ。荷物まとめて帰れや」

「……え?」

「クビじゃ。帰れ」

口元がひきつる。

「な、なんでですか? 俺、なんかしました?」

理由は薄々分かっていたけれど、そう尋ねずにはいられなかった。


「何もしてへんからじゃドアホ。お前客一人相手にナンボほど時間かけとんねん」

「……それは、あの」

「言い訳なんぞいらん。早よう失せろ、使えんガキ養っとる余裕はないんじゃ」

話は終わった。
そう言いたげに兄貴分の男はくるりとこちらに背を向け、事務所の奥のソファで座っている長髪の男に声をかけた。

「おう、例のブツは買えたんか?」

「ん? ああ、買えましたで。買えるだけ買うとけて言うとったんで結構な量になりましたけど。ええんですよね?」

「ああ、構わん。会社の金やからな。社長には言うなやお前」

「もちろんス。……しかし何するんです? あんなにおんなじCD大量に買うて」

「内緒じゃ」

「オイちょお待て、金余裕あるんやんけ!! 養えや!!」





そんな叫びも虚しく、俺は結局解雇ということで追い出されてしまった。

繁華街からは少し離れた寂れた通りを歩く。

「……明日からどないせえっちゅうんじゃ」

誰に言うでもない愚痴がこぼれた。

しかし、人生万事塞翁が馬。
捨てる神あれば拾う神あり。

「……ん? 君……ちょっと待ってくれるかな」

「は? ……俺ですか?」

そんな言葉を実感した。

「うん、君だ。……ああやっぱり。久しぶりにティンときたかもしれない。ちょっと話せるかな?」

まあ、俺を捨てたのは強面のチンピラくずれで、拾ってくれたのは初老期に入った男性だったけれど。




おじいさん、と表現してもいいだろうその男性は、自身をとある芸能事務所の社長だと名乗った。
そして、自分のその事務所でプロデューサーとして働かないか、と俺に言った。

口頭で説明された労働条件は厳しいものの耐えられないほどではなさそうで、給与面は対価として十分な額。
本当なら是非もない話だった。
前職のことが知られてしまえば普通の転職活動は難しいと思っていたから。

……なんとも嘘くさい、うさんくさい。
そんな第一印象。

しかし、渡された名刺に記された情報をその場で調べた結果、どうも信じてよさそうだとわかった。
ついでに言えば詐欺か何かでも別にいいかとも思った。大した財産もないし、なにより前職がアレで今は無職だ。失うものなんてない。

その場で話を受けると返事し、その足でオフィスであるらしいビルへと向かって契約書に判を押した。

道すがらなぜ自分をスカウトしたのかと尋ねると、直感だという回答をされた。従った結果呼んだのが俺のようなつまはじき者とは、運がないことだ。

その男の芸能事務所はアイドルを中心に推しているところだった。
抱えるアイドルの数に比べてスタッフの数は少なく、慢性的な人手不足らしかった。そのこともあって、俺は誘われた次の日から早速研修に入ることになった。

基礎的な業務から、業界内のしきたりなんかまで。
覚えることは多かったが、物覚えは悪い方ではないという自負はある。研修期間はそれなりに順調に過ぎていった。


入社から二週間程度が経ったある日、俺は社長から呼び出された。経歴に関わることを調べられたのかと思って少し肝を冷やしたが、話はそれとは関わりのないことだった。……後になって思えば、関わりがないとは言えなかったかもしれない。

「……新人アイドルを任せる?」

「ああ。そろそろいいかと思ってね」

「早ないですか? まだそんな経ってないでしょ」

「実際にやってみて初めてわかることもあるだろうしね。しばらくは優秀なアシスタントをつけるから、そこまで心配はいらないと思うよ」

「……そういうことなら、まあ。やれ言うならやりますけど」

「そうか、よかった。いや、実は人手不足が酷くてねえ、さっさと独り立ちしてもらわないとマズイんだよ」

「それは聞きとうなかったなあ。隠したままでよかったんやないですか」

「はっはっは」

「笑い事かコレ。……まあええ、いつからです?」

「実は今日もうじきに来てくれることになってる」

「なあ、なんでそんな急なん? 心の準備とかあるんやで?」

「はっはっは」

「笑ったら全部丸く収まるわけとちゃうで社長」

そんな会話をしているうちに、社長室の扉が乾いた音を立てた。

「あ、来たようだね。どうぞ、入ってくれ」

扉を開けられて、まず目に入ったのは既に何度かお世話になっている事務員の千川さんだった。……その後ろに控えているのが俺が担当するという新人アイドルか。


静かに室内へ入ってきた彼女。
天然モノらしい澄んだ金髪を後ろで結ってまとめ、綺麗な顔立ちは薄く微笑んでいる。

(…………んん?)

その姿には強く見覚えがあった。
向こうもこちらに気づいたようで、顔から笑顔が消えて驚きの色に染まる。

それはまったく予期していない再会だった。

「……え、なんでアンタがここにおるん?」

「そ、それは私がお聞きたいのですが……」

見紛えるわけもない。その人は、俺がこの間まで度々取り立てに行っていた教会のシスター・クラリスだった。


俺が担当する新人アイドルが件のシスターだったということで、俺は即座にクビになることを覚悟した。アイドルの卵とプロデューサー候補ならば、当然前者を優先するだろうと思ったからだ。

しかし、何をどう思ったのかは知らないが、彼女はそもそも俺との関係や俺がどんなことをしていたのかを言わなかった。ただ顔見知りである、とだけ伝えた。

彼女がアイドルとしてやっていくのを支えるのが俺だということを聞いてもなお、嫌そうな顔はせずに

「よろしくお願いいたします、プロデューサー様」

と俺に頭を下げた。

一体どんな精神構造をしているんだ。
カミサマとやらに仕えればそこまで心が広くなるのか? 俺には理解ができなかった。

社長と千川さんは仕事に戻るということで、俺と彼女は社長室からオフィス内にあるカフェへ場所を移した。

テーブルの向かいに座る彼女は、運ばれてきた紅茶のカップをゆっくりと口元へ運ぶ。

「……なんで言わへんかったんや?」

おもむろにそう尋ねた。

「……言う必要はないかと思いましたので」

「アンタ、嫌やないんか? 俺と働くことになるんやぞ」

「もちろん承知しております。……貴方と共に働くことが嬉しいとは言いませんが、嫌だとも思いません」

「……恨んでへんのか?」

「恨んではいませんよ」

そう即答された。

……本当に、よくわからない。


クラリスさんのプロデューサーとして仕事を始めるにあたって、始めの頃、俺は彼女を信用していなかった。
俺を近くに置いておいて、折を見て過去をちらつかせて強請ったり脅したりするんじゃないかと疑っていた。

だけど、十日経って、ひと月経っても、彼女はそんな様子は一切見せなかった。

彼女に対して仕事のパートナーとしての文句は一切なかった。
何をするにしてもまじめで誠実。
レッスンは丁寧にこなし、下積みのような仕事も嫌な顔一つせず力を尽くす。
俺の人生ではなかなか出会えなかったような人だ。

一方俺は、アシスタントである千川さんの力を借りてようやっと仕事ができている状況だった。これでもし担当アイドルがじゃじゃ馬だったら、とてもやっていけなかっただろう。


(……んー、これは到底終わらんなあ。今日も残業やね)

割り当てられたデスクには書類の束が山積みになっている。入社してからこちら、定時で帰れたことはほぼなかった。

(覚えるのは得意なんやけど、どうも要領が悪いんかねぇ俺。……まあ前職も成績不振でクビやしな。あっはっは)

笑い事かと言えば、笑い事ではない。

とはいえ、残業は俺には特に苦にならなかった。
家に帰ってもすることもない。
趣味もなければ欲しいものもない。

残業代がちゃんと出るホワイトな職場であることもモチベーションに繋がった。買いたいものがあるわけじゃないが、使い道はあったから。


省電力のための必要最低限な明かりの下で一人仕事をしていると、なんだか気分まで暗くなってくるようだった。

前の仕事の方が気楽だった、とか。
肉体的にも楽だった。
煩わしい兄貴分はいたけれど、上司部下のような堅苦しい関係ではなかったし。
そんな思いがぽつぽつと浮かんでくる。

今の仕事はとても真っ当で、やり甲斐も以前よりはあって、給料もいい。

だけど、この場所はどこか居づらい。
この居辛さはどこからくるのか。そんなことはあえて考えずともわかる。きっと彼女の存在だ。

善人じゃない俺は、しかし悪人にもなりきれなかったから、直接に彼女を傷つけたりはしなかった。
でも、たぶん俺の存在は彼女をずっと蝕んでいただろう。

もし逆の立場だったら。
そんなことは考えたくもない。一緒に働くなんて死んだって願い下げだ。

非難されたらすぐにでも謝っただろうし、拒絶されればその顔を見ないで済むように動いただろう。
だけど彼女は俺を責めることはしなかった。だから俺も、彼女に対して何もアクションを起こせずにいた。

そんな彼女への後ろめたさが、きっと居辛さに繋がっている。


時計の短針が十の数字を指す頃。

(……やーっと終わったでぇ…………)

残業は苦にならない。それは嘘じゃないけれど、さすがに夜の十時にもなると身体的に疲労が出始める。

「あー……目ぇ痛い。早よ帰ろ……」

記入を済ませた書類や作成した資料をデスク上でまとめ、カバンを持って立ち上がった。
同僚たちは皆既に帰ってしまっている。戸締りもしなければならない。

不意に、かちゃり、と。
窓の鍵を見回っていると、ドアが開くような音が静かに聞こえた。
誰か来たのか。

(……こんな時間に? )

誰だ。
泥棒、強盗、エトセトラ。
面倒な事態が脳裏に思い浮かんだが、入ってきたのは良い意味で予想を裏切った人だった。

「……プロデューサー様? まだ、いらっしゃったのですか」

「……クラリスさん?」

そこに立っていたのは、担当する我がアイドルだった。

「何しとるん、こんな時間に」

「忘れ物をしてしまいまして。明日でも良かったのですが、灯りがついておりましたから」

「ふーん……なに忘れたん?」

「これです」

差し出されたのは、茶色い装丁のシンプルな大学ノートだった。

「……ノート?」

「はい。レッスンでいただいたアドバイスや注意点などをまとめています。寝る前に見返すよう習慣づけていて、それで気づいたのです」

「へぇ。勤勉やねえ」

「それほどでもありませんわ。……プロデューサー様は、今までお仕事を?」

「うん。やること多くてなあ今日。しゃーないわ」


ぐう、と。
唐突に腹の虫が鳴き声を上げた。
気まずい沈黙が一瞬場を支配する。

「……あはは、すまんな。飯食う時間なかってんよ、忙しいてな……」

別にしなくてもいい言い訳を並べていると。

くう、と。
またもや腹の虫が、今度は先ほどよりも小さく鳴く。ただ、今回聞こえたのは俺の腹からではなく。

明かりをほとんど落とし終わっていて薄暗かったからよく見えなかったが、ちらりと顔を伺うと、ほんのり朱が差しているような気がした。

「……腹減ってるん?」

「………………す、少しだけ?」

照れたように言うその様子に、小さく吹き出してしまった。

「……よかったら、一緒に夜食でもどうやろ?」

十中八九断られると思っていた提案だったが、ご一緒いたします、と予想外の返事が小さな声で返ってきた。



「……ここは?」

「居酒屋。女性向けの胃に優しいもんも置いとったと思うわ。たぶん」

事務所の近くにある少しお高めのオシャレな居酒屋を選んだ。自分一人なら安くて量を取れるラーメンや牛丼でいいが、いくらなんでも夜十時に女性アイドルにそんなものを食べさせるのはナシだろう。

「お気遣い、感謝いたします」

「どういたしまして」

通された座席でお互いに望むものを注文する。
俺はガッツリと天ぷら御膳のセットを。
クラリスさんは鯛茶漬けのセットを頼んだ。

(……セット? え、セット食うん? 結構量あるで? ……この人もしかして結構くいしんぼうか?)


注文してから料理が来るまで。
なんとも言えない沈黙が流れる。一体なにを話したものやら。

「あー……なあ、クラリスさん」

「はい、なんでしょう」

「……教会、さ。アンタのおった。どうなったん?」

言ってから、地雷原に足を突っ込んだかもしれないと思い背中に冷や汗をかいた。

ただ、幸いにも地雷は撤去された後だったようだ。

「事務所に肩代わりしていただいて、返済はひとまず息をつけるようになりました。今は以前のように運営できています。あとは事務所へお金を返していくことになりますね」

「あ、そうなんや。……太っ腹やな、ウチの事務所。結構な額やった、よな?」

「ええ。ですが、弁護士の方などを交えて話し合った結果、ある程度減額していただけました。貴方がご存知の金額よりは随分下がっているかと」

「……そっか。そら、よかった」

言うべきか、言わぬべきか。
ずっと胸に留めている言葉があった。
言ったとしてもあまりいい反応は期待できない。でも言わなければ俺の気分は悪い。居心地だって悪いまま。

「……なあ、クラリスさん」

しばし葛藤していたが、考えるのが面倒になった。あと静かな時間が嫌だったというのもある。
言ってしまえ、となかばヤケクソに決心した。

「ゴメンな。……ずっと、クソみたいな借金の取り立てしてて」


今更謝られてもどうにもならない。そう言って冷たい反応が来るのが普通だと思う。少なくとも俺ならそうするか、もしくは怒りをぶつけただろう。

「……顔を上げてください」

だけど、彼女の声は落ち着いた優しいもののままだった。

頭を上げて彼女の顔を見ると、少しだけ困ったように眉尻を下げていた。

「顔合わせをした日にも申し上げたように、私は貴方を恨んでなどいません。ですから、元々謝罪を受ける理由もないのです」

「……いや、でもやな」

「ですが。……今は、あえてこう言おうと思います」

俺の心を読んだように俺の言葉を遮って、クラリスさんはニッコリと微笑んで言った。

「許しましょう。貴方の全てを。……きっと主も、そのようになさるでしょうから」

なんだこの人は、聖人か何かか。

敵わないなと思った。

「……恩に着るわ」

緊張が途切れる。
それは、俺が欲しかった言葉。期待はできなくても求めていた反応だった。


お待たせしました、と。
年若い店員さんがタイミングよく注文の品を持ってきた。

「ふふ、とても美味しそうですね」

「せやな。いただこか」

いつ以来かは定かではないけれど。
ずいぶん久しぶりに、あたたかい食事をしたような気がした。

(……やっぱ残業も、悪くはないもんやで)




あの日から、仕事に対して幾分前向きになれた気がする。

「ちょお千川さん! これ見てや、すごない!?」

外回りの営業から戻った俺は扉を雑に開け、事務所へ飛び込む。
肩を一度びくりと震わせてから、千川さんの呆れたような目がこちらを向いた。

「……もう、プロデューサーさん。ドアは静かに開けてください、驚くでしょう」

「んな細かいことはええねん。ほらほら見てくれやこれ」

「細かくありませんし……ち、ちょっと、押し付けてこないでくださいちゃんと見ますから!」

三ヶ月を過ぎて研修期間は終わり、そろそろ自分で仕事を取って来るように、という訓示が俺にくだった。今までは事務所に寄せられたオファーからクラリスさんに合いそうなものを適当に回してもらっていた。

そんな俺の、初営業の成果。

「……合同ライブのひと枠ですか」

「凄ない? 初めての営業やで? 俺」

「ギリギリ及第点ですね」

「うっそやん。手厳し過ぎやろ……」

「あ、うそうそ、冗談です。凄いと思いますよ」

「やんな! おどかすなやもう」

「隣部署の〇〇さんは初営業で武道館の単独ライブもぎ取ってきましたけど、それは黙っておきますね」

「おう黙っとけや。言っとるやんけ。そんなバケモンと一緒にすんな?」

鬼アシスタントの千川さんはあまり良い反応をくれなかったが、翌日、レッスンのために事務所に寄ったクラリスさんは素直に喜んでくれた。

「他の出演者の方々に迷惑をかけないよう、頑張らないといけませんね……」

「せやね。でもまあクラリスさんならいけると思うで」


「そう言っていただけると。……ところでプロデューサー様、今日のレッスンはどのような?」

「ん? いつも通りにレッスンルームで……ああ、今日はトレーナーさんおらへんのやっけ。……え? あれ、そういうときどないしたらええんやろ」

「いえ、私に言われましても……」

「そらそうや。…………千川さーん!! 千川さーん!?」

レッスン日にトレーナーさんがいないという状況は初めてだった。どうすればいいかまったくわからない。
アドバイスを求めてアシスタントに尋ねると、

「……それは完全にプロデューサーさんのスケジューリングミスでしょう。何してるんですか」

「えっ」

呆れたようにため息をつかれた。

「走り込みぐらいしかできないんじゃないですか? プロデューサーさんがダンスや歌の指導をできるなら別ですけど」

「できへんでそんなん」

「じゃあ体力づくりがてら走ってきては? ライブは想像以上にスタミナを使いますよ」

「ほう。……ほなそうしよか、クラリスさん」

「そうですね。では着替えてきます」



「……プロデューサー様も一緒に行かれるのですか?」

「ついて行くもんやねんて。あ、俺は悪いけどチャリやで」

「あら、一緒に走ってはいただけないのですね」

「無理や、走れん。足折れる」

「そこまで弱っているならなおさらリハビリすべきかと思いますが」

「チャリぐらいがええリハビリになるんやこれが」

「物は言いようですね」


天気のいい昼下がり、自転車で川沿いの道のランニングに付き合う。
彼女はこれまで運動に積極的ではなかったようで、そこまで体力があるわけではない。したがってペースはさほど早くない。距離もそんなに長くは走れないようなのだが。

(……めっちゃ疲れるわ。チャリやのに。体力あらへんなあ俺)

お互いに息が切れるタイミングで何度か休憩を入れつつ、二時間程度の行軍を終えた。

「……お疲れさん、クラリスさん」

「……ふぅ。プロデューサー様も、お疲れ様です」

「バッテバテやわ俺。ぼちぼち歩いて帰ろな」

「ふふっ……はい。私も走って帰る余裕はありません」

ぼちぼち、という言葉通り、ゆっくりと帰りの道を歩く。クラリスさんはテンション高くどんどん話題を持ち出す方ではない。俺もそれは同じ。帰り道は静かな時間も多かった。だけど、特に気まずさは感じなかった。

特にルートを定めず走っていたせいもあってか、終了地点は思いのほか遠かったようだ。事務所近くの繁華街に着く頃には日が傾き始めていた。

「俺は事務所戻るけど……クラリスさんはどうする?そのまま寮帰るか?」

「いえ、着替えが事務所にありますから。戻らないわけにはいかないでしょう……あら?」

「あ、そういやそうやったな。……ん? どうかしたん?」

「……あの子……迷子でしょうか」

「んー?」

クラリスさんが指す方を見ると、まだ幼い男の子がきょろきょろと辺りを見回しながら立ち尽くしていた。よく見れば不安そうな顔。


「……そうっぽいなぁ。クラリスさん、行ったってくれる?」

「……もとよりそのつもりでしたが。プロデューサー様はどうなさるのですか」

非難するような視線が俺を刺した。
慌てて自己弁護に走る。

「いや、ちゃうよ? 見捨てへんよ? その辺見回ってくるつもりやったよ、俺チャリやし。ホンマやで?」

「あ……そうでしたか。大変な失礼をいたしました」

「いや、ええけどね。……まあ行ってくるわ。あの子の名前だけメールで送っといてや。携帯持ってるよな?」

「ええ。わかりました」

子どものケアは任せ、自転車にまたがってペダルを踏み込んだ。

(……めんどくさいけど、まあしゃーないわな)

彼女は俺よりも疲れているだろうし、子どもの相手は俺より慣れているだろう。適材適所というやつだ。

早く見つかればいいが。
そう思いながら走り回るも、なかなかそれらしい人は見つからなかった。
小一時間ほど自転車を走らせたあたりで、ようやく慌てた様子で子どもの名を呼ぶ男女を見つけた。
クラリスさんからのメールに書いてあった名前は『翼くん』。

母親であろう女性の方は「つばさちゃーん!」と何度も叫んでいた。

「あの、ちょいええですか?」

「え……あ、あなたは?」

「通りすがりのモンです。翼って子を探しとるんですね?」

「はい……はぐれてしまって。ずっと探しているんですけど……」

「翼くんならさっきちょい離れたとこにおりましたわ。連れが保護してるんで、一緒に行きましょ」

「本当ですか!?」


「ホンマです。ちょい電話かけますわ」

彼女の電話番号を呼び出すと、ワンコールもしないうちに繋がった。

『はい。プロデューサー様ですか?』

「おお。そこにおったんは翼くんやったよな?」

『はい。あの』

「やんな、よかった。親御さん見っけたわ。すぐそっち行くから」

『え? あの、プロデューサー様?』

「ん?」

『……今しがた、翼くんの母親は見つかったのですが……』

「はあ?」

夫妻の方をちらりと振り返る。

「え、じゃあこの人ら誰よ? ……なあアンタら、探しとるの翼くんやったよな?」

「ええと……あの、さっきから少し気になっていたんですけど」

「ん?」

「いなくなったのは、つばさちゃん……あの、女の子です」

「えぇ……ウッソやろ。マジか。なんやその偶然」

『あの、プロデューサー様?』

とクラリスさんが困惑したように電話越しに俺を呼んだ。

「あー……なんか別のはぐれ親子見つけてもうたみたいや。気まずいからこっちも探すの手伝うわ俺。そっち解決したんなら先帰ってええよ」

『あの、私も手伝いますよ』

「ええよ、疲れとるやろ。先帰り」

「ええっ、帰っちゃうんですか!? 結局見つかってないんですよね!?」

「落ち着けやお母さん。いや、俺は帰らんて。手伝うよ」

疲れている日に限ってなぜこんなことに。
面倒だが、クラリスさんの手前ほったらかしにするわけにもいかない。
結局もう一時間ほど奔走することになった。


予定外の疲労を持って事務所へ帰った。
時間も予定より随分遅くなり、デスクに戻る頃にはすでに他の職員たちはあらかた帰ってしまっていた。

(……俺はここから今日の分の事務仕事か。めんど過ぎるやろぉー……)

内心で弱音を吐きながらも、やらないと仕方がないのでパソコンの電源を入れた。

「プロデューサー様。……お疲れ様でした」

「ん? ……え、クラリスさん? まだおったん?」

「さすがに先には帰れませんわ。これ、よかったらどうぞ」

差し出されたのは、コーヒーとお茶菓子だった。

「ああ、すまんな。ありがとさん」

「いえ。……大変でしたね」

「災難やったわ。こんなことそうそうないで」

「そうですね。……ふふっ、私もそう思います」

「なにわろてんねん」

「申し訳ありません。電話口のプロデューサー様の動揺ぶりを思い出してしまって」

「……早よ忘れてや……」

疲れのたまる一日だったが、彼女との距離はどことなく縮まった気がした。から、まあいいかなと思えた。
……もしかしたら俺はとんでもなく単純な人間なのかもしれない。




走り込みを始めとした積み重ねたレッスンの成果が遺憾無く発揮されたライブだった。

クラリスさんも参加した合同ライブはつつがなくそのセットリストを終えた。

彼女のパフォーマンスは他の新人以外の出演者と比べても見劣りすることはなかった。俺に専門的な知識は皆無なので完全な素人目にはなるが。手前味噌だ? 知らん。

ダンスが少しばかりたどたどしく見えたけれど、得意な歌でそこはカバーできていたように思う。
元々歌唱力は高かった彼女だが、アイドルソングを歌うのは曲調に不慣れなせいか苦手としていた。が、そこも随分改善できていた。
ついでに言えばお客さんのウケも上々だった。

「……というわけで。めっちゃよかったと思うよ」

「そうですか……安心しました」

ライブ会場からの帰途、車の助手席に座る彼女は心から安堵したような息をついた。
その表情は今までに初めて見たようなもので、少しだけ不思議に思った。

「……そない不安やったん?」

「そうですね。……不安でしたよ」

「そうなんか。そんな風には見えへんかったわ」

いつでも落ち着いて、凛とした雰囲気を醸し出している彼女。今日のライブの出番前だって、それは変わらないように俺には見えていた。

「弱みは見せないように振舞っていましたから。無理もないかと」

「……なんでまたそんな」

「……押し留めていないと、不安と重圧で潰れてしまいそうだったんです」

彼女は照れたような、困ったような声色でそう言った。


「もし私がアイドルとして成功することができなければ。様々な方面に迷惑がかかるでしょう」

事務所、教会、その聖歌隊、ついでに俺にも。
迷惑だ、なんて思う人はまあいないと思うが、良くない影響が及ぶのは確かだろう。

「……そのことが、本当に怖かったんです。私はシスターで、今まではアイドルのような存在とは遠く離れた人間でした。私が、その遠い存在に本当になれるのか。なれなかったとき、どうなる? そんな不安はいつも眠る前に心の中に浮かんできました。それを表に出してしまうと、本当にそうなってしまいそうで」

赤い信号にひっかかり、車を停車させる。
心情を打ち明ける様子から、その内容が本当だということが察せる。俺は正直人の心の機微に疎いが、それでも彼女の本心はわかるようだった。

「ダンスはまともにステップを踏むことすらできませんでした。歌には多少の自信があったのに、それもアイドルとしてはまだまだ未熟で。……だから今、私がちゃんとアイドルになれていたと聞いて。本当に、安心しました」

「そうなんか。……なんかゴメンな、そういうのホンマは俺が気づいてなんとかせなアカンのやろけど」

「いえ、そんな。……そのお気持ちだけで十分ですわ」

「……。でもあれやで、ホンマに今日はよかったよ。クラリスさんの歌聞いて、みんな笑顔になっとったし」

「……それは、何より嬉しいですね」


クラリスさんの表情がほころぶ。

「私は、歌が好きですから。歌えるというだけでも幸せです。……その歌で、観客の方を笑顔にでき、それが教会を救うためにもなり。事務所やプロデューサー様のためにもなる。……素晴らしいですね」

「せやなぁ。クラリスさんはさしずめ、みんなを幸せにできるアイドルやね」

「……そ、それは言い過ぎです」

信号の色が緑に変わった。アクセルを踏み込む。安全運転のため顔を伺うことはできなかったが、きっと晴れ晴れした表情をしていることだろう。声の様子からそう思った。

「……ですが、そうなれるように。青い鳥のような存在になれるよう、これからも励もうと思います。……どうかご指導のほど、よろしくお願いいたしますね。プロデューサー様」

「任しとき、とは強く言えんけど。まあできる限りのことはするわ。……あと、あれやでクラリスさん」

「はい?」

「……もっと頼ったり、相談してもええんやで。俺は頼りないやろうけど、愚痴聞くぐらいならできるし。千川さんとかトレーナーさんとか社長とか、あの辺は頼ってもええやろしさ」

「それは……」

「クラリスさんが他の人のためになりたいて思ってんのとおんなじぐらい、他の人もクラリスさんのためになりたいんやで。それは忘れたらあかん」

……俺もな、とは、さすがに気恥ずかしさが勝って言えなかった。

「……そう、ですね。ありがとうございます」

「うん」


(……こういう人を、美しいと言うんやろうな)

ちらりと横目で彼女を伺う。
ライブの疲れが限界にきてしまったようで、首を横に傾けて寝息を立てていた。

見た目も、中身も、生き方も。
高潔で、気高い彼女。

俺と何も変わらない一人の人間のはずなのに。
色んなものを抱えて、背負って、不安を押し殺しながら、ひたすらに努力して、周りのために、さりとて自分を捨てず、前を向いて生きている。

こんな人は今までに見たことがなかった。

隣にいるのが俺でいいのかと思わなくもない。

お天道様からは顔を背けるように生きてきた。
前職のことのみならず、それまでだってロクな人生ではなかった。俺の過去は、叩けば山のようにホコリが出てくるだろう。
俺が彼女のように生きるのは、きっと無理だ。色んなものがたぶんもう手遅れ。

だけど、彼女を助けて、支えていくことならできる。今の俺の、分不相応な立場なら。

もっと相応しい人はいるだろう。たぶん、その辺を歩いてる人を適当に捕まえるだけでも俺より適した人はいくらでも見つかる。

だけどそれでも、今隣にいるのは俺だから。
そこに意味があるのかどうかなんて知らない。

俺にできることをやって、可能な限り彼女に尽くそうと思った。

(……誰かのために頑張ろう、なんて。思ったんは初めてかもなあ)




不安から吹っ切れたクラリスさんの活躍は目覚しいものがあった。
伸びてきたアイドルとしての地力に加え、仕事を選り好みしない彼女のスタンスや人柄が伝わったようで、仕事にも困らないようになっていった。

もともと事務所が大手だったことも大きかったんだろう。

俺の力添えがあったからだ。
そんなうぬぼれはなかった。そもそも俺にとっては、彼女へ力添えができているというだけで満足だった。

俺とクラリスさんがプロダクションに拾われたのは、年明けまもない一月のことだった。そこから春、夏、秋を経て、今また寒さを感じる季節が近づいている。

彼女の事務所への借金は目に見えて減っていて、もうじき完済のめどが立ちそうなほどだった。具体的な元々の額を明記はしないが、あれだけの負債を一年足らずでここまで減らすとは。
つくづく事務所との巡り合わせに感謝しないとなと思う。

一年前まではカミサマや宗教なんて鼻で笑っていた俺だが、信心深く主に仕える彼女がここまで時運に恵まれていることを思うと、あながち笑ってはいられないかもしれない。

とはいえ、今の彼女の立場が天命だったとしても、それはもちろん人事を尽くした結果によるものだ。

困った時の神頼み、なんて軽いものではない。


目標というほど大それたものではないけれど、一方で俺には一つ成し遂げたいことがあった。できれば年内に。

それはクラリスさんのソロライブ。

たった一人で会場費や設備費をペイできるだけの観客を集めるのは簡単なことではない。事務所側も仕事だから、収益の見込めないことは当然許可を出さない。何度も何度も返ってくる計画書や見積書をその度見直し書き直し、提出し続けた。

それと並行して、使いたい会場の元にも何度も足を運んだ。事務所のある東京からは距離があったが、会場に妥協はしたくなかった。

会場側もまた難敵だった。なかなか首を縦には振ってくれず、二度や三度赴くだけでは話にならなかった。

書類の提出と、会場の説得。
時間のかかるそれらをこなしながらも、普段通りの業務もしなければならない。振り返れば自分でも無茶をしていたと思うほどの労働量だった。

「大丈夫ですか。最近、働き過ぎでは……」

テレビ収録からの帰り道、クラリスさんからそんな風な心配をもらったこともあった。

「ヘーキヘーキ。大したことない、心配いらんよ」

そう言っておどけたように返した。

そこまでやったのは、その仕事を決めることができれば、きっと彼女は喜ぶだろうと思ったからだ。

だけど別に、彼女のためというわけではない。

喜ぶ彼女が見たい。
そんな俺の欲求を満たすためだった。


結局、書類提出と会場訪問はそれぞれ十回前後行なった。
双方からゴーサインをもらった日はそれまでの無理がたたって寝込んでいたが、電話で話を聞いて飛び上がるように喜びながら事務所へと向かったものだ。

決まった日程もおあつらえ向き。今が十一月の後半に差し掛かったあたりで残された時間はそう多くないが、このために彼女の仕事はあえて絞っていた。やってやれないことはないはず。

扉を叩き開けて事務所へ転がり込む。
バンッ、という大きな音に肩を震わせる千川さん。

「プロデューサーさん! ドアは静かに開けてください! 何回目ですか! ……っていうか、なんで来てるんですか!? 風邪で休むって言ってましたよね!?」

「んなことはどうでもええねん、クラリスさんは!?」

「お、奥にいますけど……いや、どうでもよくないですよ! 風邪菌ばら撒かないでください!」

「なんやねんマスクしとるやろ?」

「喋る時つまんでズラしてるから意味ないんですよ!! 私が風邪ひいたらプロデューサーさんに労災請求しますからね!?」

「チッ……うっさいなあ。病人には優しいせぇや。血も涙もないんか」

「だったら病人らしくしてもらえますかねぇ? ……で? なんで来たんですか、早く帰ってくださいよ」

「なんて冷たいアシスタントや……これやから東京モンは」

「故郷に送り返してあげましょうか? 社長に陳情を送ることだってできるんですよ」

「ホンマすまんと思ってる」


「……それで? 何しに来たんです、何か用があるんでしょう?」

「はい。こちらの封筒をですね、クラリスさんに渡しといてもらえると幸いです」

「なんですかその口調は。まあ、受け取っておきます。これは?」

「ソロライブの資料。最近ずっとやっとったやつ。さっきやっと話がまとまったんよ」

「あら、それはおめでとうございます。……そういうことなら直接渡した方がいいのでは? なんなら呼んできますよ?」

「いや、やっぱええわ、渡しといて。クラリスさんにうつしてもうたらエライことやし」

「へえ、私ならいい、と。なるほどなるほど」

「ちゃうやん、被害は少ない方がええやん?」

「私は犠牲で切り捨て、と。なるほどなるほど」

「ゴメンやって。マジで。殺さんといて?」

「私をなんだと……まあいいです。早く帰って治してください。決まったなら決まったで、やることはたくさんあるでしょう?」

「スマンな。んじゃ失礼するわ」

なんだかんだ言いつつも、千川さんもまたいい人だ。俺へのあたりが強い気がしなくもないけれど。

この事務所はお人好しばかり。社長に始まり、事務員も、同僚プロデューサーも、アイドルたちだって。

(……ホンマ、凄いとこやわ)


帰って熱を測ると、外出前よりもずいぶん上がってしまっていた。変に動いたからだろう。
結局翌日まで風邪を引っ張ってしまい、復帰が一日遅れて千川さんに怒られてしまった。


復帰する前の日の夕方、クラリスさんから電話が入った。

「はい、もしもし?」

『クラリスです。プロデューサー様、ご調子はいかがですか』

「ああ、クラリスさんか。もう平気や、明日には戻れるよ」

『そうですか。……よかったです』

「どうかしたん?」

『……どうもしていなくても、お世話になっている方が体調を崩せば心配の連絡ぐらいいたします。私はそんな薄情者に見えておられましたか』

「あ、いや、そういう意味ちゃうで?」

『本当はもっと早く連絡しよう、お見舞いにもお伺いしようと思っていたのですが……お仕事の都合でどうしてもできなかったのです。ですが、これでは薄情に思われても仕方がないかもしれませんね……』

「いや、そういうつもりちゃうねんて。ゴメンやん」

『ふふ。冗談ですわ』

「胃の痛なるような冗談やめて。また寝込んでまうよ俺」

『それは困りますね。…………本当に、心配したんですよ。ここのところずっとご無理をされているようでしたから』

「あー……まあ、せやね。自分では平気なつもりやったけど、実際に身体壊してもうたからな。これからは気ぃつけるわ」

『ぜひそうしてくださいね。……貴方がいないと、困りますから』

「お? 寂しかったん?」

『……。もちろん寂しさもありますが。なにか?』

「………………えっ」

『いつもそばにいてくれた方がいなければ、寂しいに決まっているではありませんか。変なことではないでしょう』


「……照れた様子もなくようそんな事言えるなあ」

『本心ですから』

「さいでっか……あかん、顔あっついわ」

『熱が上がらないよう気をつけてくださいね』

「アンタのせいやからな?」

『……あと、ついでですからお伝えしておきますね』

「ん?」

『ちひろさんからいただいた資料、拝見しました』

「ああ、ホンマに。……どうやった? 一応できる限りのことはしたつもりやねんけど」

『……このために無理をされていたのだと思うと、少し複雑ですが。……心から、嬉しく思いました。本当にありがとうございます』

「……そう言ってもらえたら、体調崩した甲斐もあるってもんやな。よかったわ」

『身体を悪くされなければ完璧だったのですが』

「それはまあ、言いっこなしや。許して」

『……許さざるを得ませんね。これだけのものをいただけたのですから』

「よかった。……あんま時間はないけど、頑張ろな」

『もちろんです。……プロデューサー様?』

「うん?」

『……貴方が私のプロデューサーでよかった。今、心からそう思っています。本当にありがとうございました。これからも、どうかよろしくお願いいたします。……で、では、失礼いたしますね』

後半はずいぶん早口で、返事をする間も無く切られてしまった。

(……言い逃げかい)

でも、それでよかったかもしれない。
口元がにやけてしまって、まともに話せそうになかったから。


俺がクラリスさんに用意したソロライブは、他のアイドルにとってはさほど大した仕事じゃない。ハコは小さいし、集客も多く見込めるわけじゃないから。
だけど、クラリスさんには喜んでもらえるという自信があった。

日程は十二月二十五日、クリスマス。

開催地は兵庫県某所のとある教会。

……クラリスさんが仕えている、また、俺が前職で何度も取り立てに訪れていた、あの教会だ。

なんとしてでもあの場所でやってほしかった。
じきに借金の返済を終えるクラリスさんに。
彼女が大切にしているあの場所で。
俺が汚してしまったあの場所で。
上手くは言えないけれど、あの始まりの場所で、いざこざを終えて、あらためて始めたかった。

償いだとかケジメだとか言うとご大層に思える。
ただそうしたい、そうすべきだと俺が思っただけの話。

正直苦労はした。
会場に貸してくれと頼む相手は教会の神父やシスターだったから。向こうからの俺への印象は極悪だった。

ただ、俺の取り立てがロクに成功していなかったことがよかったようだ。悪徳金融の中でも比較的話が通じ、情に訴えられる相手。そんな風に俺は思われていたらしい。
印象は悪くても、最悪ではなかった。

……まあ、なんだかんだ言っても結局は俺がどうこうではなく、クラリスさんのライブだということが何より大きかった気はするが。




クラリスさんのモチベーションは期待していた通りに上がり、俺も俺でやる気に満ちていた。
一昔前までは考えられないような充実した日々。

準備期間が短くて、それなりに逼迫した状況だった。けれど、彼女にとっては言わばホームグラウンドのような地。セットリストもアイドルらしい曲ではなく、彼女が得意とするバラード系でまとめるつもりだ。

不安はない。


……ない、はずだった。

ライブ開催が二週間後に迫ったあの日。
俺の携帯が見知らぬ番号からのコールを鳴らすまでは。


昼頃。
俺の携帯に着信が入った。非通知でもなく、番号はディスプレイに表示されていたが、登録名はない。見覚えもない番号だった。

一年弱の時間の中で、よく使う取引先の番号はもちろん、一度でも関わりがあった仕事関係の人はみんな登録している。
最近では知らない番号からかかってくることはなくなっていたから、なんとなく取ることに抵抗があった。

しかし、仕事に関わりがあるかもしれないから取らないわけにもいかない。
漠然とした不安を持ちながら通話ボタンをタップした。

「……はい、もしもし?」


『ーーよぉ、ボン。元気そうやないか』


「……っ!?」

久しく聞いていなかったような野太い笑い声が通話口から聞こえてきた。

『そこまで驚かんでもええやろがい。頼れる優しい兄貴分からのお電話やぞ?』

「……優しい、兄貴分ね。……そんな人、俺の人生にはおらへんかったなあ」

『はんっ、言うてくれるやないけ。……まあええ、ちょっと話があるんじゃ』

「……俺にはそんなもんあらへんぞ」

『じゃかあしい。ええからちょいと話をしよやないか。……なあ? シンデレラプロのプロデューサーさんよ?』

……俺の立場はバレているのか。
こんな言い方をされては、ぞんざいに扱うわけにもいかない。苦虫を噛み潰したような気分になる。

「……ちょっと待ってくれ。場所を変える」


誰にも聞かれることがないよう事務所の屋上へ移動し、繋げたままの携帯に耳を当てる。

「……話ってなんや?」

『おぉ、もうええんか?』

「構わん。……早よ本題に入れや」

『なんや、偉そうになったなぁオイ。ま、実際エライんか? クラリス言うたっけか、あのアイドル。あの子のプロデューサー様やもんなぁ?』

「……おい」

みしり、という音が耳元で聞こえる。
携帯を握る手に思わず力が入った。

「……あの人に手ェあげたら、許さんぞお前ら」

『おお、怖い怖い。心配せんでも、なんもするつもりはないわ。……オレらは、な』

「なんやと?」

俺の問いにすぐには答えず、しばし電話口は沈黙する。おおかたタバコに火でもつけているんだろう。

『なぁボン。××金融って覚えとるか?』

「……××金融?」

遠くなってしまった記憶を辿る。その名前には聞き覚えがあった。

「……確か、アンタらんとこと敵対しとった金融屋か?」

『せや。そことな、今対立が激化しとる。オレらんとこと違て、あいつらはなりふり構わんとムチャクチャやりよる。さすがに許容できんレベルまで来てな。この辺でシメとかんとっちゅうわけや』

「……それがどうしたんや」

『相変わらず察しが悪いなぁお前は。……なりふり構わんトコや言うたやろ。平気で襲いよるんや。今おる社員だけやのうて、やめていった奴らもな。大方ウチの弱味でも握れたらええと思っとるんやろ』


「……マジなんか、それ」

『大マジじゃ。実際に被害も耳に入っとる』

こう言いたいんだろう。
お前の身も、危ないぞ、と。

『オレらは明日にでもあのアホ共を潰しにかかる。……そうすれば、向こうもデカい動きを起こすやろ。お前は東京におるようやからすぐに手ェは回らんやろうが、それも時間の問題かもしれん』

「……なんで向こうが俺の情報知っとる前提やねん。んなもんわからんやろ」

『オレらでもシッポ掴めたんじゃ。向こうも掴めててもおかしないやろアホ』

「……それは……」

『まぁとにかく。これは忠告の電話じゃ。さっきの様子やと、アイドルに随分ご執心のようやが……あいつらは、その大事なもんにも平気で手ェ出すかもしれんぞ』

「……!」

『大事なんやったら、離れとけや。巻き込むんはオレも本意やないしお前もイヤやろ?』

「……ちょお待ってくれ、なんとかならんのか?」

『ならんこたないわ。やけど、なんとかしたところでそれもマイナスやろ。アイドル事務所を襲うチンピラ、そこを助けたのは闇金軍団。……どう転んでも悪い印象つくやろが』

その通りだった。表沙汰になれば、健全な事務所と闇金業者との不当な癒着が疑われたって無理はない。

『……まあ、辞める辞めやんはお前の自由や。どないしようと構わん。そもそも後ろ暗いお前を雇っとる時点でその会社は危ない橋渡っとるんやしな』


『俺は辞めた方がええと思うけどな』。
そう言い残して、電話は切れた。
ツー、ツー、と言う電子音がイヤに耳に残る。

(……どうする?)

どうすればいい?
俺がこのまま何もせずにいれば、クラリスさんたちが巻き込まれるかもしれない。それはダメだ。絶対に。そんなことあっちゃいけない。

相談するか?
誰に? 社長にか。あの人は俺の過去を知らない。知った時点でクビになるかもしれない。あの人なら大丈夫か? いや、そもそも相談したってこんなことを解決できるとは思えない。

警察は?
どう説明しろというんだ。説明した時点で俺の素性はたぶん洗いざらいバレる。このプロダクションを俺の過去と繋げられるのはマズい。


選択肢は次々に浮かんだ。
だけど、その選択は悪手だという否定の声がそれらをどんどん塗り潰していく。

どれほど考えても、頭をひねっても、もう案が出なくなるまで。そこまで時間はかからなかった。

結局最後まで残っていたのは、最初に見えた直視したくないひとつの道だけ。

(………………クソっ!!!)

怒り、恨み、憤り。そんな負の感情が湧き上がってくる。前職の会社に。対立している闇金業者に。……そして、過去の自分に対して。

俺は。

携帯を操作し、さっきまで繋がっていた番号をリダイヤルした。

「……もしもし。……頼みがある。……………………。そう言わんといてくれ。……頼む、後生や」




その後のライブまでの二週間。

俺は事務仕事でやることが多く、クラリスさんは本番へ向けてのレッスンが佳境に入り、お互いに会う時間は減った。

それは寂しくもあったけれど、都合がよくもあった。

きっとあの人に会って、話して、共に過ごしたら。
俺の決心は鈍ってしまう。

弱い俺は、きっと隠しきれない。
察されて、問いただされて、きっと全てを話してしまう。

そうなってしまってはダメだ。

あの日決めただろう。
彼女のために尽くすと。
できることをやろうと。
誰かのために頑張ろうと。

相応しくなくとも、自分にできることを。

彼女のためを思うなら、彼女に知られるべきじゃない。俺のような人間のためにも、彼女の心はきっと動いてしまうから。

今は大事な時期だ。
大切な彼女が、大切なあの場所で、大切な人たちのために歌うんだ。

結局、隣にいるのは俺じゃダメだった。
ただそれだけの話だろう? いつかの日にだって自分で思ったことじゃないか。

少しの不安も与えない。
最高の調子で、最良の日を迎えてもらうために。


ライブ当日の三日前、俺とクラリスさんは兵庫へと向かった。

兵庫は例の対立が起こっている当地だ。不測の事態があるかもしれない、と少し神経質になっていたが、結果としてはその心配は無用だった。
さすがは頼れる兄貴分、といったところか。
……まあ、契約を守ってくれた結果なのか偶然狙われなかっただけなのかは正確にはわからないが。

「……どうかしたのですか?」

キョロキョロとしきりに辺りを見回す俺を不思議に思ったのだろう。クラリスさんが怪訝な顔で尋ねた。

「んー? いや、ちょっとずつやけど色々変わっとるなぁと思って」

「会場の交渉のために何度もこちらへは戻っていたんでしょう?」

「まあそうやなんけど。それでもひと月ぶりやからなぁ。……クラリスさんは結構帰って来てるん?」

「そうですね。月に二、三度は。シスターとしてのお仕事もなおざりにはできませんから」

「オフの使い方は自由やけど、ちゃんと休みも取りや? いつぞやの俺みたいに身体壊すで」

「気をつけています。大丈夫ですよ」

優しい微笑みを向けられる。

……これを間近で見られるのも、あと数日。

そんなことを不意に思ってしまって、たまらず顔を背けた。

「……ま、さっさと行こか。クラリスさんは結構目立つし、騒がれても困るからな」

「……? ええ、そうですね」


兵庫での宿泊先は、クラリスさんは教会で、俺はその近くのホテルでと決めていた。打ち合わせもあるから俺自身も教会に泊まった方が都合はいいし、向こうもそうしたらどうかと申し出てくれたが、俺の方から辞退した。
少なからず俺が教会内に居座ることを嫌がる人もいるだろうと思ったからだ、というのが表向きの理由。
本音は、クラリスさんのそばにいたらなんだか泣いてしまいそうだったからだ。


打ち合わせや設備の搬入は教会の人たちの協力もあって滞りなく終わり、簡単なリハーサルを行った。

教会の内部では特にライブのためにステージを組んだりはしていない。神父さんが普段立っている祭壇を舞台に、クラリスさんは歌う。

広い内装を見回した。

小さな子どもや、年老いた婦人。老いも若きも男も女も関係なく、色んな人が集まっている。

昔にどこかで聞いた言葉がある。
『教会とは人々の希望なのだ』。そんなセリフ。
この国は無神論者が多い。心の底から神様を信じている人はそう多くはないだろう。

だけど、辛いときや悲しいとき、苦しいとき、いざというとき。神様に祈ったり、縋ったりする人はたくさんいる。
そんな人たちの拠り所になれる場所がここなんだ。
……優しくて、あたたかい空間だった。

(……俺は、そんなもんを奪おうとしてたんやな)

今更ながら強く反省する。
奪うことに失敗してよかった。そこだけは過去の自分を褒めてやりたい。


リハーサルを終えたクラリスさんの元へ近づく。

「どやった? 上手くやれそう?」

「プロデューサー様。はい、問題はなさそうです。きっと、最高のプレゼントを皆様に届けられるかと」

「最高の時間にしやんとな。クリスマスやねんから…………あ、そうか……クリスマスか?」

「……? プロデューサー様?」

「ああいや、ごめん、なんでもない。ちゃんと今日はしっかり食べて早めに寝て、明日に備えるんやで」

「私は幼な子ですか……? もちろん、そうするつもりですわ」

「うん。……俺ちょっとこれから行くとこあるから、あとはよろしく頼むわ。スタッフさんも撤収しとるし、特にせなあかんことはないと思うけど。なんかあったら電話してくれ」

「わかりました。お気をつけて」

教会を出てから、携帯を取り出す。

(……車ないしな。この辺でええとこあるやろか)

マップアプリを片手に街へと繰り出した。


翌日。
空は突き抜けるように青く、まさしくライブ日和といったところだ。演出として外に出るパートもあるから、これは最高の天気だと言っていいだろう。

ホテルで身支度を済ませ、会場である教会へと向かう。懐かしい道のりだった。一年前に何度となく歩いていた。

到着してから最後の打ち合わせを終え、クラリスさんは本番用の衣装に着替える。用意していたのは聖女のような装いのコスチューム。

「……似合っていますか? プロデューサー様」

「似合っとるよ。……せやけどあれやな、ちょっと首元が寂しい気がせんでもない」

「ええっ。……い、今になってそんなことをおっしゃるのですか」

「思ってもうたもんはしゃーないやろ?」

「どうしましょう……何か装身具などあったでしょうか」

「……あるよ。はい」

「……えっ?」

ジャケットの内側から綺麗にラッピングしてもらった小包を取り出し、手渡した。

困惑したような表情で、クラリスさんの視線は手の中の小包とこちらを行ったり来たり。

「あの……これは?」

「……いや、クリスマスやろ、今日。プレゼントや」

「……私に?」

「うん」

「……プロデューサー様から?」

「そらそうやろ」

「……開けても、よろしいでしょうか」

「もちろんや」

クラリスさんはゆっくりと包みを開けた。

「ブローチ……」

贈ったのは、赤い石のはまった胸飾り。昨日急遽買いに行ったわりには、よく似合うものを買えたと自分では思う。……思っていたのだけど。


クラリスさんの反応は随分薄かった。

「……あの、ゴメン気に入らんかった?」

だんだん不安になってきて、聞いてしまった。もしそうなら穴を掘って埋まりたい。渡すためにやった『胸元がどうのこうの』という小芝居があまりにも恥ずかしい。

顔が随分火照ってきたあたりで、やっとクラリスさんは反応を返してくれた。ふるふると首を横に振る。

「気に入らないわけがありません。……本当に、ありがとうございます。プロデューサー様。……ずっと、大切にいたしますね」

幸い、埋まる必要はなかったらしい。安堵のため息をついた。

「……気に入ったんなら、よかったわ。大事にしたって」


そんなことをしている間に、本番の時間は近づいてきていた。普通のステージなら舞台袖で見るのがプロデューサーらしいが、教会ではそれは難しい。
俺も客席の方で一人の客として観覧することになっていた。

「……ほな、俺はそろそろ席の方行ってんで。……大丈夫やな、不安とかない?」

「……緊張は、ありますが」

彼女はふう、と一つ息を吐いた。
顔に浮かんでいるのはいつも通りの微笑み。見る人みんなを安心させてくれるような、暖かな笑顔。

「大丈夫です。最高の時間を、お届けしてみせますよ」

「……頼んだで」

俺がここにいられるのは、これが最後だから。


クラリスさんのステージは、圧巻の一言だった。

心を溶かすような澄んだ歌声が、教会の中を、観客たちを包んで満たしてゆく。
こんな歌声を毎日のように捧げられていたとは、神様に嫉妬しそうだ。

技術的な話は、ついぞ俺にはわからなかった。
音が外れているだとか調子が狂っているだとかは言われたってピンとこない。

だけど、そんなものが分かっていなくたって、素晴らしい歌は素晴らしいと感じられる。
彼女の歌声は、そう感じさせてくれた。


……少しだけ、俺の過去が違っていれば。もうちょっとまともな人生だったら。

この歌を、ずっと隣で聞けたんだろうか。
こんな歌を歌うことができる彼女を、これから先もずっと、支えていけたのかな。

じわじわと熱くなる頬の上を、スッと一筋、雫が流れた。
右手のひらで顔を覆う。

……どうして。
なんで離れなくちゃいけないんだ。
自業自得だと言えばそれまで。でも、そんな言葉で納得できるほど俺は達観できちゃいなかった。
悔しい。嫌だ。離れたくない。

なのに、離れなくちゃいけない。彼女のためを思うならば。

一つ流れ落ちてしまうと、あとは堰を切ったように溢れ出してくる。
こんな顔は見せたくない。情けない、格好悪い。
そう思う。

……だけど、それ以上に。
今歌う彼女を見ていたかった。
目元を乱暴に拭って、ステージを仰いだ。

その姿を、一生忘れずにいられるように。


ライブは大盛況のうちに幕を下ろし、溢れんばかりの拍手が彼女に贈られた。

その、言うなれば夢の跡。

「……どうでしたか、プロデューサー様」

日が沈みきった教会の敷地内、植え込みの作られた庭を二人歩く。

「最高の時間をもらえたわ。お世辞抜きに、ホンマにそう思う」

「……よかったです。このブローチのお返し、というのは傲慢ですが。少しでもお返しになっていたら幸いです」

「傲慢ちゃうわ……あれに釣り合わせよと思ったらブローチ百個は買わなあかんで」

「それは言い過ぎですよ。……あの、プロデューサー様」

「うん?」

クラリスさんの足が止まった。振り返ると、真剣な面持ちがこちらを向いている。

「……ありがとうございました。今日、この場で歌う機会をいただいて。……私は本当に幸せです」

「……そう言ってもらえて、プロデューサー冥利も尽きたわ」

「事務所にお返ししなければならないお金はまだまだ残っていますから、本当の意味でこの場所を取り戻したとはまだ言えませんが。……ここに帰ってこられて、よかったです」

「……うん」

「返済を無事終えることができたら、またここで歌いたいですね」

「……それは催促かな?」

「ふふっ……いいえ。お願い、でしょうか」

「……そうか。ま、すぐ叶うんちゃうかな、そのお願いも。返済もじきに終わるやろ。そんな気がするわ」

星が綺麗に瞬く空を指差す。

「……神様は見とるんやろ? クラリスさんの願いなら、きっと叶えてくれるやろ」




ライブ後はそのまま兵庫でもう一泊し、次の日の朝一番の新幹線で東京へと戻った。

クラリスさんは当然そのままその日はオフ。
俺は事務所へ一度顔を出し、ホテルで作っておいた今回の仕事の書類を提出してから帰途についた。

何もないアパートの一室に帰り着き、一息つく。

それから、二週間前に追加された連絡先へ電話をかける。しばらくのコールの後、通話が繋がった。

『もしもし?』

「……俺や」

『おお、ボンか。……ああそうか、今日で終わりなんやったな?』

「ああ。……もう、好きにしてくれて構わん」

『あいよ。……あ、お前、契約は忘れとらんやろな?』

「ちゃんと用意しとる。心配いらん」

『そうか、ならええわ。……ほな、切るぞ。達者でな、ボン』

「……アンタもな」

電話を切って、部屋の隅に放り投げた。二週間前の、掛け直したあの時を思い出す。



「もしもし」

『……なんじゃボン。こっちゃ忙しいんやぞ?』

「……頼みがある」

『ああ?』

「今日から数えて二週間。十二月の二十六日まで。××金融に仕掛けるんは抑えてくれんか」

『……何を言うとんじゃお前。なんでそんなこと聞かなあかんねん』

「大事な仕事があるんや。二十六日になったらスッパリ会社はやめる。せやから」

『そらお前の都合やろうが。こっちにはこっちの事情があるんじゃ。聞いてられるかそんなもん』

「そう言わんといてくれ。……頼む」


『……お前なぁ、なんの見返りもない頼みが通ると思てんのか? 甘いんじゃ』

「頼む、兄ィ。……後生や」

『お前の後生にナンボほどの価値があんねん』

「足りんなら今生もかけてもええ。……頼む、兄ィ」

『…………』

『……チッ、ホンマにやりにくいボンやなお前は。……おい、お前んとこに前川って子ォおるやろ』

「……え? ……ああ、おるけど」

『お前その子と関わりあるんか?』

「……担当してる人が同じキュート部門やから、多少はあるな」

『……前川のサイン色紙用意できるか?』

「無理ではないやろけど……なんの話なんやコレ」

『できんねんな!?』

「うわっ。……で、できると思うで」

『ほなそれ用意せぇ。ちゃんと俺への宛名入りでやぞ』

「……え、用意したら待ってくれるん?」

『そう言っとるんじゃ。流れでわかるやろボケ』

「……なんで?」

『ファンやからじゃ!! 流れでわかるやろボケェ!』

「え、兄ィ みくにゃんのファンなんか……!? 嘘やろ犯罪やろその見た目でみくにゃん追っかけるんは!」

『やから控えとるんやろうが!! サイン会なんぞ行ったら怖がられんのわかっとるからなぁ!! ちゃんと用意しとけよボケ!! 二週間やぞ、それ以上は待たんからな!!』



そう言って、電話は乱暴に切られた。彼がわざわざ俺に忠告の電話をかけてきたのは、ファンである子がいる事務所に迷惑がかかることが嫌だったからなんだろう。

頼れる兄貴分は約束を果たしてくれた。
……次は、俺が約束を果たす番だ。


兵庫出張へ持って行っていたトランクを開ける。
中から大きめのサイズの二つの封筒を取り出した。

言わずもがな、片方には猫耳アイドルこと前川みくさんのサインが入っている。電話の後すぐに頼みに行ったところ、快くOKしてくれた。

もう一方には、二週間の間に業務と並行して作成した引き継ぎ関係の資料が入っている。俺が担当していたのはクラリスさんだけ。大した量ではないが、これだけはしっかりとやっておきたかった。あと、ついでに退職届も同封している。

郵便局まで出向き、二つの封筒が間違いなく宛先へ配達されるように局員に念を押して頼んだ。たぶん事務所には明日にでも届くだろう。

……たったのこれだけ。
これで、俺が最後にすべきことは終わった。

自宅へ戻り、必要最低限のものをトランクに詰める。大したものは元々この部屋にない。荷造りはすぐに終わった。

太陽はじきに沈みそうだ。

既に退去する旨を伝えていた大家へ鍵を返しに行き、そのまま予約している夜行バス乗り場までふらふらと歩いた。

家を出るのが早かったからか、到着してもバスの出発まではまだ時間があった。

プロダクションに入ると自然に断つようになったタバコはまだ自室に転がっていて、ついでだからと持ってきてしまった。

一本をくわえ、火をつける。

(……マッズ。……こんなもん吸っとったんか俺)


空を見上げると、ぼんやりとした月が浮かんでいた。

(……どないしてたら、明日からもあの人と一緒におれたんかな)

答えのない問い。それはきっと誰にもわからない。
兄ィから電話がきたあの日は、馬鹿な生き方をしてきた自分を悔いた。だけど、よくよく考えてみれば何が正解かなんてわからなかった。

不真面目に生きていたから、兄ィたちのいざこざに巻き込まれることになって、今こうして逃げるようにここを離れることになっている。

だけど、もし真っ当に生きていたら?
そもそも、路頭に迷って社長に拾われることもなかったかもしれない。そうだったら、きっと俺はアイドルになんて興味がないままで、あの人の存在だって知らなかっただろう。

俺は俺の生き方をしていたから、あの人と出会うことができた。
俺は俺の生き方をいていたから、あの人と別れることになった。

どこまでを巻き戻して、どれだけをやり直せば、望む人生を歩めたのか。
あるいは、どれほど思い通りにいじくっても、望む人生なんて得られないのかもしれない。

……過去を悔いたって、どうしようもないんだ。
全ての答えを知っているんだろう神様は、その答えを教えてはくれないから。

だから、俺たちは祈ることしかできない。自分にできることを全てやり尽くしたあとは。ほんの少しでも、いい場所へ導いてもらえることを信じて。

(……なあ、神様よ。……願わくば、これから先のクラリスさんの未来が、幸せにあふれたものでありますように)

……そして、叶うならば。

(……ほんの少しで構わない。俺という人がいたことを、彼女が覚えていてくれますように)


口から溢れる紫煙がゆらゆらと空に上がっていく。わずかに月を隠したかと思うと、一陣の風が吹き、すぐさま煙は散ってしまった。

(……さいなら、クラリスさん)




じわじわという蝉の鳴き声がひたすらに鼓膜を揺さぶる。首にかけたタオルで額に滲む汗を拭った。
夏真っ盛りの昼下がり、熱した鉄板を前にしているのはなかなかに辛い。

(……まあ、仕事やからしゃーないんやけども)

「……おうおっちゃん。タコ焼きひとつくれや。ほい百円」

「おっちゃんちゃうわ。……嬢ちゃんまた来たんか? よっぽど暇なんやな」

ぼうっとたそがれていると、常連客である赤髪の少女がいつの間にかやってきていた。

「いっつもヒマそうにしとるから見兼ねてしもてのう。首吊られても後味悪いじゃろ」

「吊らんわアホ。時間によってはそこそこ繁盛しとる」

「嘘くさ」

「ホンマや。……ほい、タコ焼き」

「おう。……うむ。味は悪くないんじゃがのう。なんでこんな繁盛せんのじゃ。店主の顔が悪いんか?」

「余計なお世話や」

赤髪の少女は、曜日も時間も関係なくここにやってくる。何かワケありなのかとはじめは思ったが、俺が聞いてもどうしようもないので結局は事情は聞かずじまい。

少女は屋台の前に組み立ててある簡易ベンチの上にどっかと座った。手荷物とたこ焼きを乱雑にテーブルに置く。

「……ん? それ何持っとるんや?」

普段の少女は可愛らしいガマ口財布以外は特に何も持ってきていなかったから、なんとなく目についた。

「ん? ……ああ、これか。目ざといのうおっちゃん」


そう言って、少女は不敵な笑みを浮かべながら手持ちサイズのポーチに手を突っ込んだ。取り出したのは、ごく小型のシンプルなシルバーのラジオだった。

「……なんやそれ」

「ラジオじゃ。……まさか知らんのか?」

「知っとるわい。知った上で聞いとるんや」

「ほうか。……まあうちなりにな、なんでおっちゃんの店が繁盛せんのかを考えたんじゃ」

「ほう。なんでや?」

「つまらん」

「なんやと」

「落ち着け。何もバカにしよるんとちゃうんじゃ。ええか、周りを見ぃ」

「周り?」

「おう。……蝉の鳴き声しかしよらんじゃろう」

「せやな」

「このクソ暑いなか、やかましい蝉を聴きながらつまらん店主とタコ焼き食いたい思うか?……断じて否じゃ」

「お前やっぱりバカにしとるやろ? おいこっち見ろや」

「そこでラジオじゃ」

「無視か。聞けや」

「これさえありゃあ野球も聞ける、馬も聞ける。流行りの音楽かて流せるじゃろ。完璧じゃと思わんか?」

「とりあえず話を聞けやと、そう言いたい。……まあでも、悪くはないかもしれんな」

「そうじゃろ。ほれ、これやるわ」

「ええんか?」

「構わん。どうせ安モンじゃ。うちはもっとええのつことるけぇの」

「ちょいちょい鼻に付くなぁ……スイッチこれか」

ぱちり、と音を立てて電源が入る。はじめは砂嵐のようなノイズだったが、アンテナを立てて方向を合わせるとちゃんと音を拾うことはできた。


「おお……ハイカラな歌じゃのう、相変わらず」

ラジオから流れてきたのは、聞いたことのある曲だった。『おねだり Shall We~?』。思い出すところがあって、少し笑ってしまう。

音を拾えた時には既に曲の大半は終わってしまっていて、すぐにラストのアウトロが流れ切った。

『ありがとーございましたにゃー!』

「……うん、よし。タイミングはばっちりじゃ」

「ん? なんか言うた?」

「言うとらん。おっちゃんはよーお耳済ませとけ。生放送じゃ、聞き逃しは厳禁やぞ」

「……?」

ラジオからは番組MCの男性の台本を読むような声。

『はい、ではでは、前川みくさんの『おねだり Shall We~?』をお聞きいただきましたー。……ええと、お次は……んん、またシンデレラプロからですね』

『その歌声は天上の響き! クラリスさんでーす!』

『……よろしくお願いいたします』

「……!」

『えー、クラリスさんにはまず一曲歌っていただくのですが、その後! 何やらスペシャルメッセージがあるようですねー。番宣かな? まあ何はともあれいってみましょう、まずはこの曲!』

誰よりも多く聞いた。そんな自信さえあるクラリスさんの歌声が、ラジオから流れてくる。
伸びやかな声も、丁寧な息継ぎも、あの頃と同じ。変わらない。

蝉の声もラジオから時折聞こえるノイズも無視して、その愛しい歌に聞き惚れてしまった。
テレビやCDでだって何度も聞いていたけど、このラジオ番組は生放送で、今そこであの人と繋がっているということがとても大きかった。


どんなに名残惜しくても、やがて曲は終わってしまう。

『……ありがとうございました』

ぺこりと行儀よくお辞儀をする姿が目に見えるようだった。

歌の余韻に浸って目を瞑っていると、すぱんと軽く頭を叩かれた。

「いたっ。何すんねん」

「ぼーっとしよるから。ちゃんと聞いとけよ」

「はあ?」

何を言ってるんだ、と。そう思ったけれど、そういえばこのあともクラリスさんの出番は続くんだったか。気持ちを切り替えてラジオに集中する。

クラリスさんの声が、ゆっくりと紡がれる。

『……アイドルたるもの、全ての人のためにあるべき。それは承知の上ですが、今だけは。一人の人間として、言わせてください』

その言葉は、俺に向けられていた。

『去年の一年間。私には大変お世話になった方がいらっしゃいます。その方は私のために、身を粉にして働いてくれました。来る日も来る日も、毎日毎日』

『そしてその方は、一年の終わり、私に最高のプレゼントを贈ってくださり。……その後に、姿を消しました。何も言うことなく。誰に伝えることもなく』

『……その方のことです。きっと、なにか事情があったのでしょう。それは承知の上。ですが、私はそれでも納得ができませんでした』

『……さようならの一言もなく去ってしまった、私の……私だけの、プロデューサー様。……今、聞いておられますよね。どこか遠くの地で。鉄板はこの時期お熱いでしょう?』

心臓を掴まれたような気分だった。
どうして。なんで知ってるんだ、今の俺の状況を。


『別れの挨拶も、再会の約束も、感謝の言葉も。……まだ十分に交わせていません。この場で時間をいただきましたが、これではとても足りない。私には、貴方の言葉が届きませんから』

『……ですから、プロデューサー様。貴方が会ってもいいと思ったときで構いません。どうか、私の元へ会いに来てください。私からはお伺いしません。去っていったのは貴方なのですから』

『……お会いできる日を、心待ちにしています』

『その時が来るまで、私はいつまでも貴方のアイドルとして待ち続けましょう。貴方からもらったたくさんのもの。思い出と、幸せと……この胸の輝きを抱きながら』

雨のような拍手の後。
クラリスさんは舞台からはけていったようで、次に呼ばれた歌手が紹介を受けて歌い始める。

色んなものが心と身体から溢れ出しそうだった。

「曲がりなりにも飲食店の店主が、そのツラはどうなんじゃ……」

呆れたような言い方をする少女が、俺の顔にポケットから取り出したティッシュを押し付けた。

「……女にあっこまで言わしたんじゃ。ちゃんとケジメとれよおっちゃん」

鼻を一度大きくすする。

「……嬢ちゃんが、クラリスさんに教えたんか?」

「ほうじゃ。……アンタを見つけたんは偶然じゃけどな。たまたまこっちに里帰りしとって、たまたま冴えんタコ焼き屋に寄ったらアンタやった」

「……知り合いやったんか、クラリスさんと」

「おお。……ついでに言やあアンタも知り合いのくくりに入るかもしれん。そっちは気付いとらんようじゃがの」

「……へっ?」

「……うちもアンタのおったシンデレラプロのアイドルじゃ。一緒に仕事したことこそないが、なんべんか事務所で会うとるぞ」


「……マジで?」

「マジじゃ」

予期せぬ急展開に中々頭の処理が追いつかない。会ったことがあったか? 一日に何人もの人とすれ違う大きな事務所だった。正直全員の顔を覚えてはいられない……けど、向こうが覚えてたんだからこの言い訳は不適当か。

少女は小さくため息をついた。

「……アンタの事情はある程度知っとる。社長と千川の姉御と……まあちょっとした知人からも聞いとってな」

「……どこからどこまで?」

「アンタがウチに入社してから失踪するまでじゃ」

「全部やん。こわっ」

「茶化すな。……まあ知っとるから、アンタが逃げるように辞めて今こんなとこでフラフラ生きとる理由もわかっとる」

眉根にしわを寄せ、彼女は腕と足を組んだ。

「……わかっとるが、それでもうちはこう言うぞ。
あんなええ女を泣かせたアンタは最低じゃ」

「……泣いとったん?」

「アンタみたいな甲斐性なしのためにな」

「なんやと」

「そうじゃろが。勝手にふらふらおらんようなるわ、やたらと心配かけるわ、人の顔は覚えんわ、出した店はよう繁盛させんわ。甲斐性なしじゃ」

「……耳がいたいな」

「ふん。……ちゃんと会いに行ったれや。ああは言うとっても、ただ待つんは辛いモンじゃ」

……会いに行きたい。
そのつもりは俺にだってある。だけど。

「……会いに行ってええもんなんやろか」

巻き込まないために、迷惑をかけないために俺はあの場所を離れたのに。


「……あん?」

我ながらどうしてこんな小さな子に相談しているのだろう。ひと回り以上は歳下だ。自分でも不思議に思うけれど、その少女にはどうしてかそれを許す貫禄があった。

「……ああ、そういや伝えんとあかんことがあったわ」

「え?」

「××金融は潰れたぞ。これで関西じゃアンタの古巣がダントツの筆頭じゃ。ケンカ売るような身の程知らずも、まあおらんようになるんちゃうかの」

「……マジで?」

「マジじゃ」

「……マジか」

「マジじゃ。ま、それがどうしたって話やけどのう。一般人にとっちゃあよ」

「……そうやな」

少女はひょいとベンチから立ち上がり、こちらに目をやることもなく言った。

「ほな、うちは帰る。伝えるべきことは伝えたしのう。じゃあの」

「……ありがとうな、嬢ちゃん」

そう言うと、少女はちらりとこちらを一瞥し、

「……村上 巴じゃ。よう覚えとけ」

そう言って、片手をひらひらと挙げて元来た道を帰っていった。








ラジオ番組での、とあるシンデレラプロのアイドルの独白が瞬間的に大きな話題を呼んでから。

シンデレラプロダクションが開催するイベントの会場に、強い関西なまりで話す店主のタコ焼き屋台が度々出店されるようになったのは、また別のお話。






おしまい。

終わりです。
票を溜め込んでよっしゃ突っ込め!と思ったらいつの間にか選挙が終わってました。何をいってるのかわからないと思うが、自分でも何が起きたのかわかってません。

何はともあれご覧いただいた方、誠にありがとうございました。

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