小日向美穂「ぼくはくまさん」 (25)


P「……美穂、どういうこと?」

美穂『私は美穂ではありません、くまさんです……いや、ぼくはくまさん』

P(美穂がくまのぬいぐるみで顔を隠して喋っている……新しい遊びかな? 取り敢えずしばらく付き合ってみようか)



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美穂『ぼくはくまさん、くまさんで、ええと……』

P(……やれやれ)

P「くまさんはどうしてこんなところにいるんだい?」

美穂『こんなところにいる理由?』

P「うん」

美穂『それは……くまさんは、きまぐれなんだ。どこにでも現れるよ』


P「くまさんが気まぐれにどこにでも現れるのは怖くないか?」

美穂「そんなことないです! ……じゃなくて」

美穂『そんなことないよ。くまさんはかわいいんだぞ』

P「確かにその声でしゃべるならかわいいな」

美穂「も、もう……!」


P「で、くまさんはこんなところに気まぐれに現れて何をするの?」

美穂『ぼくはおしゃべりをしたくなったんだ』

P「へっ? 話ならいつもしているんじゃ……」

美穂「今はくまさんですから!」

P「あっ、そうか。今はそういう設定か」

美穂「設定とか言わないでください!」


美穂「んんっ! 気を取り直して続けますよ!」

美穂『Pさん、お話をしよう』

P「話をするのは構わないんだけど、くまさんはどんな話がしたいの?」

美穂『ぼくは……楽しい話をしたいな!』

P「楽しい話、ねえ……」

美穂『Pさんは最近なにか楽しいことあった?』

P「楽しいこと、楽しいこと……」

P「……すぐには思いつかないな。ごめん……」


美穂「あっ、だ、大丈夫ですから……」

美穂『……謝らなくていいよ。じゃあぼくが最近の楽しかったことの話をするね』

P「ほほう、くまさんはどんなことが楽しかったのかな」

美穂『といってもぼくじゃなくて、美穂ちゃんが楽しそうだった時の話なんだけどね』

P「それはそれで気になるな」

美穂『それなら、美穂ちゃんの代わりにぼくが話すね』


美穂『この前Pさんにもらった本を美穂ちゃんが読んでたんだ』

P「もう読んだんだ。青春小説だったよね。どうだった?」

美穂『美穂ちゃんは笑ったり、ちょっと泣いたりもして、とっても楽しそうだったよ』

P「そんなに楽しんでくれたんだ。俺もあの物語好きなんだ」

美穂『Pさんが好きそうな話だなあ、って美穂ちゃんが言ってたよ』

P「ははっ、俺の趣味はバレバレか。でも美穂の趣味に合うか心配だったから、楽しめたみたいで良かった」

美穂『あとで感想でも語り合いましょう、って美穂ちゃんが言ってた』

P「そっか、いつも隣にいるくまさんも美穂の感想まではわからないか。ふふっ」

美穂『うん……』


P「でも表情までコロコロ変えながら読んでたんだろ? せっかくだから読んでるとこも見てみたかったなあ」

美穂「そっ、それは恥ずかし……んんっ!」

美穂『……ぼくはずっと隣で見ていたからね。羨ましいでしょ? それこそ美穂ちゃんが夜通し読んでるときもずっと--』

P「徹夜までしたのか?」

美穂「あ」


P「まあ夢中になって読んでるとつい夜更かししちゃうよな。気持ちはわかる」

美穂「ほっ……」

P「でも夜更かししていいってわけじゃないぞ」

美穂『み、美穂ちゃんを怒らないで!』サッ

P「おい」

美穂「だ、だって……」

P「体調崩したら困るだろ? 夜更かしはほどほどにしとけ、ってこと」


美穂「で、でも! Pさんも最近あくびしてばっかりですよ! Pさんこそ寝不足なんじゃないですか?」

P「俺は……大丈夫だよ」

美穂「むぅ……」

美穂『ダメだよ。ちゃんと寝なきゃ体に悪いんだから』

P「まさか美穂……いや、くまさんにそれを言われるとはなあ」

P「わかった。今日は早く寝るようにするよ」

美穂『ふふっ、約束……くまさんとの約束だよ!』

P「ああ」


美穂『そうだ、ぼくがPさんが寝るとき隣にいてあげようか? きっと安心して眠れるよ』

P「くまさんが俺の隣で? でもそうなると、美穂は寂しくて眠れなくなっちゃうんじゃないの?」

美穂『そ、そんなこと……あるかも』

P「やっぱりくまさんは美穂の隣にいてあげてよ」

美穂『でも……あっ! それなら三人で一緒に寝れば解決するんじゃない? 誰も寂しくないし!』

P「……くまさんって結構大胆なことを言うんだな」


美穂「えっ、あっ! いや、そうじゃなくてっ! その……///」

P「あはは、大丈夫だよ。俺は一人でもちゃんと寝られるから」

美穂『うぅ……頼りにならなくてごめんね』

P「そんなことないさ……でも、懐かしいなあ」

美穂「? なにがですか?」

P「くまさんが喋るの。小さい頃に母親に同じようなことをしてもらってたのを思い出したんだ」

美穂「そういえば、私もやってもらってました。小さい頃はそうしてもらえないと寝られなかったりして」

P「うんうん、わかるなあ」


P「幼稚園に行くとき、カバンの中にこっそり入れておいたりして」

美穂「そんなことまでしてたんですか?」

P「カバンの中のくまさんが喋り出さないかドキドキしてたんだけどさ、喋り出すわけないよな。母親の声なんだもん」

美穂「ふふっ、そうですよね。でも私もそのくらいの頃はくまさんは喋る、って本気で信じてた気がします」

P「そうそう、あの頃は母親に言われたことなら何でもすぐに信じちゃってたからな。そのくせ母もちょっと虫の居所が悪いと『くまさんはどこかに行っちゃいました!』だからな。人が悪いよ」

美穂「あはは、どうせ騙すなら最後まで騙し通してほしいですよね」


美穂「Pさんの子供の頃の話ってなかなか聞かせてもらえないから、なんか新鮮ですね。Pさんにもそんな頃があったんだなあって」

P「ちょっと喋りすぎたかな。恥ずかしい……」

美穂「かわいくていいと思いますよ♪」

P「そりゃ四歳か五歳の頃の話だからな」

美穂「Pさんのことがまた少しわかった気がします」

P「それはありがたい」


美穂「……やっぱりくまさん貸しましょうか?」

P「だから大丈夫だって。俺はもう子供じゃないんだし……」

美穂「でも眠れないんじゃないですか?」

P「……そんなことない」

美穂「強情ですね」

P「そういうところは子供の頃から変わらない、かな?」


美穂「……えいっ!」ギュッ

P「!?」

 美穂がくまのぬいぐるみを顔に押し付けてきた。

美穂「むむむーん……!」

P「モガモガ……ぷはぁ! 苦しい! いきなりどうした?」


美穂「くまさんパワー注入です! 元気になりましたか?」

P「なったよ、なった」

美穂「……本当ですか?」

P「ああ、本当だよ。今から徹夜だってできそうだ」

美穂「それはダメです!」

P「冗談だって。本当に元気出たから大丈夫!」

美穂「そうですか……? それならよかったです!」ニコニコ

P(嬉しそうな顔……)


美穂「Pさん!」

P「うん? なに?」

美穂『みほくまはいつでも近くにいますよ! 離れたりなんて、しませんから!』

P「みほくま、ってなんだそりゃ……ありがとう」

美穂「どういたしまして。Pさんのお願いなら、私いつでもくまさんになりますよ! ちょっと恥ずかしいけど……」

P「うーん、しばらくはいいかな。俺も恥ずかしいから」

美穂「えっ、それはそれで寂しいような……」



P「……やっぱり俺にも楽しいこと、あったよ」


美穂「へ? 今なんて言いました?」

P(やべっ、つい口に出してた)

P「なんでもない!」

美穂「ええっ!? 気になりますよ~!」

P「だからなんでもないって。そうだ、今日は一緒に帰ろうか。小説の話でもしよう」

美穂「むぅ……露骨に話題を逸らす……」

P「美穂はまだ帰らないのか?」

美穂「帰ります! ちょっと待っててください!」


 美穂は慌ただしく帰り支度をする。くまのぬいぐるみは……持ったな、よし。

 今度は美穂に聞こえないように小さく呟く。


P「今日はよく眠れそうだなあ」

おしまい。美穂かわいい。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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