【たまに安価】「二人旅を楽しむよ」 「……ん」 (36)


「野うさぎ?」

「……ん?」


続々と動物達が慌てて飛び出してくる
それはまるで何かから必死に逃げるようにだ


「どうした?」

『奥から魔物が来てるの!』

「魔物? そんなのどこにでもいるじゃないか」

『ここのボスだよ! ニンゲンがボスを怒らせたんだ』

「縄張りに踏み込んだのか、間抜けなやつだ」

『うわぁきた! もう逃げるからね!』

「引き止めて悪かったな」


事情を教えてくれたウサギはぴょんぴょんと森の中へと消えていく
ふむ、どうやら人間が魔物を刺激してしまったらしい

そしてどうやらその人間がお出ましのようだった


「ち、畜生!! なんでこんなことになったんだ!!」

「くそ! まだ追ってきやがるのか!!」


馬車ががたがたと森の中を突っ走ってきた
御者が激しく馬を鞭打つ

だが俺には動物の声が聞こえる能力があるのだ
馬車を引く馬の声が聞こえる


『はぁっ、はぁっ、もう走れないっての……』

「早く、早く走れ! 追いつかれるぞ!!」

『あっ……!』


馬の体力が尽きたのだろう、足がもつれ、そして転ぶ
動力を失い、バランスを崩した馬車もそれに釣られるように横転した


「いててて……」


御者は投げ出されたがすぐに体を起こし荷台へと歩く

御者は商人なのだろう、恰幅がよく立派なヒゲを蓄えている
服装も舐められないようにするためだろうか、なかなか良い仕立てのものを着て外套を羽織っているが土で既にどろんこだ

荷台の荷物に向かって、商人は声をかける


「さっさとしろ奴隷! 魔物と戦え!!」


その一言を皮切りに、やせ細った男女数人が出てくる
皆とても魔物と戦えるような体ではなく、そして武具はなにも持っていなかった
その目には涙が浮かんでいる

奴隷達は分かっているのだ

自分が魔物に食われている間に商人を逃がせという命令なのだと
自分たちが死ぬことが仕事なのだと

茂みから現れたのは大型の猫のような魔物
双頭のライオンのような姿で、ゆうに体調は3mは超えていた


『よくも我の子供を…… よくも…… よくもぉー!!』

『絶対に許さないぞニンゲンッ!!』


その魔物は奴隷達を嬲っていく
前足を振るえば男の体が真っ二つになり、別の女の頭に噛み付けば頭蓋骨を砕く音がする

奴隷は皆震えながらも、返り血で真っ赤になった魔物へと向かっていった

訳が分からない
なぜ死ぬとわかっていて魔物に向かっていくのか
あんな男のいうことを律儀に聞いているのか

奴隷の考えることは俺にはわからなかった

そして魔物が奴隷の最後の1人を尻尾で払った
棍棒のように太い尻尾に打たれ、奴隷の女の子は5mほども吹き飛ばされ動かなくなる

魔物はそのまま駆け、そして商人の男に追いついた


「や、やめろ! 助けてくれぇ!!」

『ニンゲン!! お前だけは許さん!!』

「か、金をやる! だから助けてくれぇぇぇ!!」

「ガルルルルアアア!!!」

「ああああああああああああ!!!」


商人は魔物の前足に潰される
万力のように徐々に力を入れられ、肋骨がボキボキと音を立てて割られていく
そしてついに、ぐちゃりと音を立てて商人は潰された


『くっ…… うぅっ……』

『どうして……どうして我が子たちは殺されなければならなかったのだ……』

「…………」


「これがお前の子か」


俺は商人のアイテム袋の中を漁る
そこには、この魔物と同じ毛皮が3枚出てきた
これは恐らく、この魔物の子供の毛皮なのだろう


『くっ…… あぁぁ…………』

『許さない…… 許さない!!』

『お前らニンゲンに我らがなにをしたというのだ!!』

「何もしていないな。 悪いのは人間だよ」

『貴様も同じニンゲンだ! 許しはせん!!』

「やめろ! 俺はお前を殺す気は無い」

『黙れェッ!!』


鋭い動きで俺に飛びかかってくる魔物
前足が俺を切り裂く寸前、俺は剣を召喚した

二つの剣が交差するように俺を守り、魔物の爪が俺に触れる前に動きを止めさせる


「もう1度言う、俺はお前を殺す気は無い」

「怒りを鎮めて巣に戻れ」

『黙れえええ!!』

「ちっ」


剣をさらに召喚する
20を超える黄金の剣が俺の視界をいっぱいに埋め尽くした
それが一斉に魔物に剣先を向け、そしてそれが全て顔面に突き刺ささる

寸前俺は魔物の声を聞いた


『あぁ、今逝くぞ我が子たち……』


「…………」


事尽きた魔物に近づく
こいつは俺の強さに気がついていたのだろう
戦いを挑んでも勝てないと分かっていても尚、抑えられない激情

魔物に謝るのは筋違いだろう
奴は俺に殺されあの世で子供と過ごすことを選んだのだ


「俺に嫌な役やらせんなよ……」


魔物の毛皮と大きな爪を剥ぎ取ってから奴隷たちの元に戻る
その中にひとり、まだ息が残っている者がいた

尻尾に吹き飛ばされたあの女の子だ
近づいてみると猫耳を携えた獣人だということがわかる
見たところは14歳くらいだろうか
あどけなさが残るがなかなか可愛らしい顔の子だった

商人が欲張ったのが悪いのは分かってる
そしてそれに飼われていた奴隷なのだ
責任がない訳ではないが…… 死にそうなところを見て見ぬ振りをするのは気が引けたのだ

腕が折れて変な方向に曲がっている
きっと内臓もグチャグチャなのだろう
彼女はまさに、虫の息だった

俺は治癒魔法をかけてやる


「超級回復魔法」


傷が瞬く間に塞がり、骨も元の位置へと整復されていく
どんな傷でも治す最高の超級魔法だ


「うっ……」

「気がついたか?」

「あれ? 死んでない」

「俺が治したよ」

「……あなたが?」

「おう」

「魔物は?」

「あそこに転がってる」

「……ん」

「立てるか?」

「ん」


俺の差し出した手に掴まり、腰を上げる
体は軽く、ふわりと浮いてしまうかのようだ
黒い尻尾がふわふわと漂ってからピンと張った


「ありがとう。 助かった」

「どういたしまして」

「でも、これからどうしよう」

「どうって生き延びたんだから逃げればいいだろ」

「奴隷の首輪がある」

「あぁ、なるほど」


奴隷は契約魔法で強く結ばれている
それは奴隷商会と結ばれており、契約書がそこにあるということだ
あのデブ商人が死んだところで、契約書をなんとかしない限りは奴隷は奴隷のままなのだ


「無理にこの首輪を取ろうとすると死ぬ」

「そりゃ難儀なことだな」

「だから私は奴隷として街に帰るしかない」


ペタンと猫耳が垂れる
尻尾も力なく垂れ下がってしまっていた

表情はあまり変わらないがなんというかわかりやすい子だな


「まぁ俺がなんとかしてやるよ」

「できるの?」

「奴隷契約とはいうが、ただの契約魔法だからな」

「俺がそれより強い契約で上書きしちまえばいい」

「できるの?」

「俺を誰だと思ってんだ」

「知らない」

「ちょっとじっとしてな」

「…………」

「上級契約魔法発動、この少女の奴隷商会との契約を結べないものとする」


パキンという音と共に、少女の首輪が割れ落ちた


「な?」

「わっ…… わっ!」


首をペタペタと触り首輪がないことを確認する
信じられないと目が真ん丸に開き、そして泣いた


「何者?」

「俺のことは聞かないでくれ。 当てもなくブラブラ旅してる魔法剣士だ」

「さっき俺が何者だと思ってるって聞いた」

「気のせいだろ。 お前は、猫族だろ?」

「そう」

「これからどうする? 猫族は奴隷として飼われることが多いからな、もう奴隷契約出来ないようにしたけど」

「ありがとう。 でもどうすればいいか分からない」

「冒険者……になる?」

「冒険者かぁーお前には無理じゃね」

「むぅ」

「だが、そうだな少しお前に力を分けてやるよ」

「え?」

「どうせこのままじゃ野垂れ死に確実だ。 それに、冒険者になるなら腕っ節は必要だ」

「よし、そうと決まれば…… この少女に溢れる力と魔力を」

「剣神と魔神の加護を与える」

「……っ!」


ぱぁっと赤と紫の光が猫耳少女を包み込む
その光が消えた頃には猫耳と尻尾がピンと立ち、綺麗な銀色の髪は少し逆だっていた


「すごい、力が溢れる」

「すぐに慣れるよ、あとほいこの剣あげる」

「これは?」

「鍛冶神が作った剣の一つだ。 強すぎて今俺が力を封印してるけど十分すぎる神剣だぞ?」

「あ、ありがとう」

「ま、これくらいしとけば早々死ぬことはねえだろ。 じゃあな」


「待って」

「なに、防具もほしいの?」

「ちがう。 ここまでしてもらう理由がない」

「そんなの俺の気まぐれだよ、気にしなくていい」

「そうはいかない。 私の気が済まない」

「恩を返すまで同行する」

「はぁ? 返す? やめとけ」

「断る。 だいたいこのままじゃ私街までたどり着けない」

「ただの迷子じゃねえかよ…… 分かったよ街までついて行ってやるから」

「ん。 恩を返しきるまで一緒にいる」

「律儀なやつだなおい」

「人情に厚い」

「そうかい。 っと、そういえばまだ名乗ってなかったな、俺はアルスだ」

「サーシャ」

「おう、よろしくサーシャ」

「ん」


「それにしても何者?」

「だから聞くなっての」

「あんな魔法使えるなんて只者じゃない」

「言わない」

「むぅ」

「見つめてもダメ」

「ふん」


こいつ顔いいんだよなぁ
目がくりくりで見てると吸い込まれそうだ
表情は変わらんけど耳がよく動くし嘘とかつけなそうでそこがまたいい


「ちなみに俺に使えない魔法はほとんど無いぞ」

「おかしい」

「ま、ただのチートキャラだとでも思ってくれ」

「チート?」

「気にすんな」

「誰にも分かる言葉で喋って」

「にゃーにゃー言えばいいのかにゃ?」

「うるさいにゃー」


こいつ、案外可愛いかもしれない


「魔物?」

「ゴブリンだな、めちゃんこ弱い魔物だ試しに戦ってみろ」

「私戦うの初めて」

「剣神の加護をやっただろ? いいから戦ってみろよ」

「……ん」


ゴブリンがこちらに気がついたようだ
汚い涎を垂らしながら棍棒を手にこちらに走ってくる

サーシャは俺が渡した刀を抜刀する
身の丈ほどもありそうな長物だが、剣神の加護は伊達ではない

振るわれた棍棒の横から刀をあてて容易くいなす
そのまま手を返し袈裟斬りを見舞う連携はとても素人とは思えないスムーズな動きだった

刀はゴブリンを豆腐のように柔らかく刃を通し、上半身と下半身をさよならさせる


「おーやるね」

「すごい、勝手に体が動いた」

「すげーだろ? だけど使えば使うほどもちろん技は磨かれていくからな」

「ん」

「あとは剥ぎ取りだ」

「剥ぎ取り?」

「そう、こうやって魔物の皮を剥いで素材にするんだ。 やってみ」

「ん」

「お、おおおう」

「お前やるな、全く物怖じしないんだな」

「え?」

「女の子とか絶対嫌がると思うんだが…… いい神経してるよお前」

「……褒めてる?」

「さぁな」


「サーシャ、もう寝るぞ」

「……ん」


俺のスープでお腹いっぱいになったサーシャは既に眠そうだ
決して猫だからよく寝るんじゃなくて、単純に初めての冒険で疲れたのだろう
野営のテントの中でサーシャは既に寝袋に入って、瞼を引っ付かせないように頑張って睡魔と戦っている


「見張りとかやる?」

「いや、俺が結界魔法使っておくから平気だよ」

「分かった」

「おやすみサーシャ」

「おやすみ」




朝、気がつくとサーシャが俺の真横で寝ていた
寝袋に入っているので一緒に寝ていたという訳では無いが、寒くてくっついてきたのかもしれない

まつげ長いなー
髪も綺麗だし、寝顔が無茶苦茶かわいいなんて思っていると……
思わず彼女の頭を撫でた


「んにゃっ!?」


シュババっと音を立ててサーシャが寝袋から飛び出す
3mほど飛んでからすたっと着地した

おーさすが猫


「おはようサーシャ」

「……うー」

「威嚇やめてー」


「…………」

「なぁまだ怒ってんのかよ」

「…………」


やっと街道に出た俺達だが、サーシャは今朝のことをまだ怒っている
元々あまり喋る子ではないがガン無視である

これはなかなか応える…… 反応がないのに1人で喋るのはきつい
なにより気まずいったらありゃしない


「サーシャ」

「…………」

「おっぱい揉んじゃうぞ」

「…………」

「なーごめんて、あんまりにも可愛いからちょっと撫でたくなったんだよ」

「…………」

「サーシャさん?」

「なんで頭撫でたくなるの」

「なんで……なんでだろうな」

「変態?」

「ちがう」

「ロリコン」

「やめろ!!」

「ふん」


ぷりぷり怒るサーシャを何とか、なだめながらやっと街についた

街に入るための門は大きく、裕に10メートルは超えようかというものだ
圧巻されつつ、街に入るために必要な入場審査の列に並ぶ

列に並んでいるといかにも冒険者風の、胸当てをした1人の犬耳をしている獣人の男が声をかけてきた


「おいおい、猫族じゃねえか」

「……?」

「なんで奴隷身分の猫族がいんだぁ? お前、売っちまうぞ?」

「?」


めんどくさいのに絡まれたな
こいつやっぱし犬族だ
猫族はこの犬族に奴隷にするために狙われやすいのが現実なのだ
人権もくそもあったもんじゃない


「お、しかもなかなかの上玉じゃねえか」

「…………」

「お前ちょっとこっち来いよ」

「…………」

「おい、なにシカトこいてんだぁ? あ?」

「うるさい」

「てめぇ…… ガキだからって調子こいてんじゃねえぞ? 俺が女に手を出さないと思ったら大間違いだぞ」

「うるさいって言った」

「……ぶっ殺す」


剣を抜いた犬族の男
これはもう正当防衛は成り立つ
いざとなれば俺が止めてやればいいか程度に思って横のサーシャを見る


「…………!」

「おいおい」


尻尾が膨らみ、額には怒りマークがついていそうなほどに怒っている
今にも爆発しそうな感じだ

思っていたよりもサーシャは短気なのかもしれない


「土下座するなら許してやるよ?」


得物を抜いてサーシャがビビったと思ったのか、男はニタニタと嫌な笑顔を貼り付けて見下してくる
それだけで勝ったつもりでいるのか、本当に小物だ


「いい加減に黙って」

「……あっそ、お前ウザいから死ねよ」


剣がついに振るわれた
周りで不安そうに見ていた列待ちの人達が叫び声をあげる

サーシャはさっと身をずらして容易く回避した
そして瞬間の抜刀
抜いた刀で男の肩を突き刺した

「がぁぁぁっ!!!」


少なくない血が肩から溢れ、男は剣を落として蹲る
サーシャは刀を抜き、血振りをして鞘に収め涼しい顔をしている

それで気が済むのはいいんだけど、割とあっさり人を切ったなこいつ
うーんサーシャはなかなかの大物だ


騒動を聞きつけた兵士が駆けつけてきて事情を聴取される
周りの人たちが事の顛末を証言をしてくれたことで特に事は荒立たず、すぐに解放された

荒くれ事が多い世界だからこその対応の軽さなのかもしれない
むしろ感謝されたくらいだ

犬族の男は捕縛され詰所へと連れていかれたがあの出血量では誰かが直さないと危ないだろう
まぁ俺が治してやる義理もないのでそのままだ


「じゃあお気を付けて」

「ん」

「はーい」


一騒動ありはしたが街にはこうして入れた

俺達は冒険者が集まるギルドと呼ばれるところへ行くことにしている
冒険者ギルドに登録することで冒険者としてお金を稼ぐことが出来るのだ

兵士から聞いた冒険者ギルドにたどり着くが、これがなかなかでかい建物で、さっきの門を見たあとでさらに街の中で大きな建物に遭遇するとは思わなかった

サーシャは、目をまん丸にしている


「大きい」

「サーシャ、いいから行くぞ」

「ん」


中は思っていたよりも綺麗だ
ちょっとしたホテル並みには綺麗にされている。 まぁあまりにも汚いとギルドの評判にも関わるんだろう

ただ入ってきたのが16歳くらいの男と、14歳の少女だ
受付カウンターにいく俺たちを見て周りはざわついていた


「ギルド登録がしたい」

「はぁここは冒険者ギルドですが」

「分かってる」

「そうですか…… お一人ですか?」

「ううん2人」

「いや、俺は籍があるはずだ。 この子だけでいい」

「はぁ……分かりました。 登録は誰でも出来るのではなく入団テストがありますが」

「構わない」

「実戦形式のものとなっていて怪我をすることがありますが宜しいですか?」

「構わない」

「当ギルドでは一切の責任を負いかねますが」

「自己責任なのは当然」

「……分かりました、こちらで少々お待ちください」


サーシャがテストを受けると聞いて周りの冒険者たちがざわつく
見た目が強そうな子供ならともかく、サーシャは体の線は細く、ボロボロの服に刀を一つ装備しているだけなのだ

いやに絡んでくる奴こそいないが、歓迎はされていないらしい
冒険者の俺らも舐められたもんだな、とそんな態度が見て取れる


「大丈夫かサーシャ」

「ん? なにが?」

「気にしてないならいいよ」

「?」


「お待たせしました」


案内されたのはギルドの裏にあるグラウンドだった
訓練場としてギルドの裏にこのような施設があるのは珍しくない

その訓練場の真ん中に、いかつい装備に身を包んだ男がたっている

190cmを超える大柄の体格でいかにも冒険者という感じのゴリマッチョだ
背中には戦斧が担がれ只者ではない雰囲気がバリバリと漂う


「お前が登録希望者か?」

「ん」


おー威圧してるねぇ試験官
普通であれば泣いて腰を抜かすような闘気を当てられてもサーシャは涼しい顔をして受け流す
うちの子はやっぱり大物らしい

試験官も少し驚いた様子だが斧を構え対峙する


「俺はロイドだ、今回の試験監督をさせてもらう」

「試験内容は簡単だ。 俺と戦ってもらう」

「あまりにも簡単に負けるようであれば不合格だ」

「ん」

「最後通告だ、引き返すなら今だぞ」


ロイドから闘気ではなくついに殺気が放たれる
サーシャはそれを真っ向から受けた上で刀を抜いた


「いいからやろう」

「……上等だ」


俺は訓練場の観客席から見守る
ロビーで事を見ていた奴もチラホラと観戦に来ているようだった


「ではいくぞ」

「ん!」


ロイドの身体がぶれる
瞬きの間にサーシャの横に戦斧を振るっているロイドがそこにはいた

だがサーシャの反応速度も負けていない

斜め上に飛びながら斧をギリギリで回避、空中で体を捻りながらの一閃

鋭いカウンターだったがロイドはそれを戦斧の柄で防ぎ、最初の攻防はこれで止んだようだ

すたっとサーシャが着地すると闘技場が湧いた


「やるじゃねえか嬢ちゃん。 あれを避けるだけでなかなかやるのに、カウンターが来るとは思わなかったぞ」

「ふぅー」


あのロイドとかいう男は全く手加減している様子はなかった
もちろん追撃しようとすれば出来ていたのだろうが、思っていたよりもサーシャが強くてたじろいだのだろう

だがやはり地力ではサーシャよりもロイドの方が数段上だ
あれに勝つのは難しいかもしれないが、サーシャの瞳はギラギラと輝いていた

俺が力を分けてやった子だ、これで負けたら承知はしない


「はっ!!」


サーシャ渾身の踏み込みだ
並の人間では見きれないほどの早さから繰り出された一薙ぎはロイドの上段からの振り落としで吹き飛ばされる

砕かれた地面から礫のように瓦礫が吹き飛んでくる
それを器用に避けながらサーシャはバックステップで離脱するが、ロイドが距離を離させてはくれない


「っらぁ!!」

「ん!」


同時に得物を振り始めたようにみえたが、サーシャの刀の方が動きがいい
数瞬差でロイドを切り抜けられるかと思ったがさすがにの歴戦の戦士だ、戦斧にうまく阻まれる

しかしサーシャの勢いは止まらない
ズバババババと目にも止まらぬ速さで連続攻撃を繰り出す
刀を握って2日、だがもはや達人のレベルでの斬撃の応酬だ

だがロイドはきっちりとサーシャの斬撃に当て、対応してくる
やっぱりこの試験官、並ではない
そこらへんの冒険者とは訳が違うのは明らかだな
観客の野郎たちも沸いている

実力はロイドが本気を出していない分、拮抗しているように見える
だがその油断がロイドの弱点だ
俺がサーシャに与えたのは、刀と剣神の加護だけではない


「下級土魔法、拘束の大地」

「なにぃっ!? 無詠唱だと!?」


魔神の加護はサーシャに魔法を使用させるのを可能にしている
いや、それどころか手練でないと難しい詠唱破棄すら可能にしている

もう本当にサーシャはなんでもありになっている
ちょっと力をあげすぎたか?


足を大地に絡め取られたロイドだが、上半身だけでサーシャの剣戟を捌いていく
だがそれではやはりサーシャの剣戟は捌ききれなくなり、徐々にジリ貧になっていく
そしてその一瞬の遅れで勝負は決っする

サーシャが刀を戦斧に当てた瞬間、上から下に刀を返し、うまく戦斧を絡め、弾き飛ばしたのだ


「なっ……!?」


腕が持ち上がり、隙だらけとなったロイドに向かってサーシャは呟く


「超級火炎魔法、エクスプロージョン」

「ぬぉぉぉぉっ!?」


爆炎がロイドを包み、火柱が上がる
観客席の方までチリチリと熱を感じるほどのバ火力だが、ロイドが身を焦がしながらも、炎を霧散させる

だが目の前にはサーシャが既に剣技を構えている


「紫電、刺突」

「ばかな!」


まさに雷のような速さでの刺突はロイドの防具ごと脇腹を貫く


「おわりっ!」

「がぁぁっ!!」


勢いのままロイドは10m以上水平に吹き飛び、壁に激突してようやく止まる

あのおっさん死んでないだろうなと心配すると、ごふっと吐血しながらも立ち上がった

見るからに満身創痍だが、ロイドの傷口は見る見る間に回復していく
うわー自動再生かよえげつねえ能力
ありゃロイドにはサーシャじゃ勝てねえだろう
でもこれは殺し合いじゃない、ただの試験だ


「かぁ…… 何者だよお前…… 文句無しで合格だ」

「ん」


観客席はいつの間にか見物人で溢れており、そして万雷の拍手に包まれた


サーシャと俺はロイドに連れられてギルドの最上階にあるギルドマスターの部屋に連れてこられていた

ロイドが荒々しくノックをすると中から声がかかった


「どうぞ」

「連れてきたぞシルディア」


室内は思っていたより簡素だ
豪華絢爛とは言えないが客人を通すのには十分ではある

ギルドマスターは耳が長くひょろっとした男性エルフのようだ

ギルドマスターエルフ、いやシルディアといったか?
彼は俺を見るなり目を丸くした


「あなたは……! アルス様……!」

「気のせいだろ」

「? 昨日アルスはアルスって言った」

「ほ、本当にアルス様なのですか!?」

「詮索はなしだギルマス。 俺はただのアルス、それ以外の何者でもない」

「このサーシャの保護者だ。 本題はこっちの子だろう?」

「えぇ、そうですね…… 取り乱して、失礼いたしました。 あなたがサーシャさんですね?」

「ん」

「年齢は?」

「14歳」

「まじかよ見た目通りだったってのか!?」


ロイドが驚きの声をあげる
エルフのように長命種で修行を積んできたのだと思ったのだろう
普通はこの実力ならそう考えるのが普通だ


「しかし彼の気持ちはもっともですよ。 14歳でロイドと渡り合える剣術に、超級魔法をしかも無詠唱で使える? なんの冗談ですか」


ギルマスがサーシャを値踏みするように眉間にシワを寄せながらみる
その瞳は吸い込まれそうでありながら、斬りこまれそうな程に鋭い

やがてシルディアはため息をついて言葉を紡いだ


「まぁアルス様の弟子であるならと納得しましょう」

「ん」

「おいギルマス」

「分かっています。 アルス様にもなにか事情があるのですよね? ならばアルス様のことは黙っておくのは当然です」

「助かるよ」

「それで試験は合格でいい?」

「ええ、もちろんですよ。 ロイドと渡り合う人を不合格にするわけがありません」

「普通であれば入団テストがいい結果でもDクラスまでしか入団を認めないのですが、今回は特例でCクラスにしたいと考えています」


ギルドは元々AからGにランク分けされている。 ランクSという別格の者がいるがそれは世界に数人しかいないキチガイたちだ

上のランクになればなるほど危険なのは当然、逆に下のランクは危険性が少なく何でも屋のような仕事がメインだ

ランク毎に受けられる仕事、クエストは上下1ランクだ
つまりサーシャのCランクであれば、受けられるクエストはBからDランクまでとなる
これは上位ランカーが下級のクエストを独占するのを防ぐのと共に、下位ランカーが危険なクエストに行かないようにするためだ
そしてGやFのようにごまんと溢れている冒険者に仕事が多く回るようにという配慮でもある


他にも色々なギルドの仕様などをギルマスから説明を受ける


「あと冒険者同士のいざこざは基本的にギルドでは責任を負いません」

「もちろん悪質な行為にはそれなりの処分がありますが小競り合い程度では介入はしないのであしからず」


これはサーシャへの警告だろう
サーシャは見た目通りただのガキだ、荒くれ者に絡まれるのは火を見るよりも明らかだからだ


「他になにか聞きたいことはありますか?」

「ない」

「そうですか、もし何かあれば言ってくださいね」

「よかったなギルマスのお気に入りだぜ嬢ちゃん」

「ん」

「はっ、ギルマスの目が届くところに置いてここにうまく取り込みたいって魂胆が見え見えだぜ」

「そう言われると心苦しいのですが…… ですがメリットもあると思いますが?」

「ま、せいぜい使わせてもらおうぜ」

「ん。 なんでもいい」

「では下の受付でギルドカードを発行していくのを忘れないでくださいね。 ご武運を」


言われた通りサーシャは受付でギルドカードを発行する
さっきの受付のお姉さんだが、サーシャがロイドを倒したと聞いて若干引いている


「はい、これで完成です」

「無くしたりすると再発行にお金が必要なので気をつけてくださいね」

「早速クエストを受けていかれますか?」

「その前に素材を売りたい」


俺が横から口を挟むと、受付のお姉さんが素材買い取りカウンターへと案内してくれた

なんとこのお姉さんがそのまま買い取りを担当してくれるらしい
目利きまで出来るのかやるなぁこの人


「この毛皮と爪」

「これは……すごいですね。 ツインヘッドタイガーの毛皮と爪ですか」

「ん」

「これもサーシャさんが?」

「頑張って剥ぎ取った」

「すごい……これは25万ゴールドで買い取らせて頂きます」

「高くない?」

「いえ、傷一つなく綺麗に全身を剥がれていますし適正値段ですよ」

「レベルEのモンスターでこれほど状態がよいものはなかなかないですよ」


レベルというのはモンスターの格付けみたいなものだ
ギルドのランクに比例してレベルが設定されている

ギルドランクEなら、レベルEの魔物になんとか勝てるだろうというような感じだ

ちなみにレベルD級のモンスターが現れると町や村が壊滅しかねないそうだ


「じゃあそれで買い取りお願い」

「あと他にも細々としたものがある」

「はい、そちらも買い取らせて頂きますね」


「おいごらちょっと待てやぁ!」


「おいガキ、その金置いてけや」

「…………」

「てめぇ、ガン無視決め込んでじゃねえぞ」


またこんな輩か
サーシャは受付のお姉さんから代金を受け取り、シカトして横を通り抜けようとする

そこに絡んだきた男がサーシャの肩を手で掴んだ


「俺が売った素材は300ゴールドにしかならなかったんだぞ? おかしいだろこりゃ」

「てめぇ、贔屓してんじゃねえぞ?」

「そんなことしてない」

「あぁ、思い出しましたよ。 あなた達が持ってきたあれ、もはや素材とは言えないものでしたね」

「どうせ数人でボコボコにタコ殴りにして無理やり剥ぎ取ったものでしょう? 傷や穴ぼこだらけでとても素材になんかならないものを買い取っただけありがたいと思ってほしいですね」

「うるせぇ! 適当なこと言って煙に巻きたいだけだろう!!」

「おいガキ、今すぐその金を置いていけば見逃してやる」

「……ん?」

「だいたいガキがレベルEのモンスター素材を持ってくるなんざおかしいだろうが! どうせ不当に入手したものに決まってる」

「だから?」

「サーシャさんはそれだけの実力を兼ね備えていますが? あなたたちでは触れることすらできないほど格の差がある方ですよ」


受付のお姉さんがそう言うと、先の入団テストを見ていた冒険者たちからクスクスと笑いが漏れる
それをこの絡んできたクズたちは、そんな訳がないと嘲笑しているのだと勘違いしたらしく、えらく強気になる


「いいか、猫族ってのはカスで有名なんだ。 俺達犬族に奴隷として売り捌かれないだけマシだと思えや」

「糞ガキ、慰謝料をここに置いていきゃ奴隷として突き出すのは勘弁してやるよ、さっきの金を渡しな」

「…………」

「ギルドってのはいざこざに介入はしねえんだろう? ならお前を助けに来てくれるやつなんかいないぜ?」

「なっ……?」


あまりの物言いに受付は絶句する
それは多少の小競り合いなら見逃すということで犯罪行為を見逃すものではない
こいつらがやってるのはれっきとした恫喝、それどころか人身売買だ
これは捕まれば死刑は免れないんだが……ただのアホだな


「アルス」

「どうした?」

「殺していい?」

「やめとけ、お前の刀で斬る価値もない」

「半殺し」

「好きにしろよ。 ここにいる人はみんなお前の味方だ」

「ん」

「お? なんだやっと渡す気になったか糞ガキ」


サーシャが1歩近づき、男の顔は明るくなる
だが見上げたサーシャの顔はこれでもかと怒りの色があらわれていた
無表情なサーシャがここまで怒りを表すとは思わなかった


「うるさいわん公」

「……あ? 猫族の分際で犬族に逆らうのか?」

「ワンワン喚くな駄犬」

「……てめぇ、ぶち殺されたいようだな」

「馬鹿な雑魚犬には無理」

「雑魚はてめぇだぜ子猫ちゃんよぉ」

「三回まわってワンと吠えるか、今すぐに失せれば許してやる糞犬」

「てめぇ! 犯しまくってから売り飛ばしてやる!」

「口が臭い、それ以上喋るな」

「死ねやぁ!!」


ついに武器に手をかけた
これで正当防衛だ


「無理だよ、もう腕ないもん」

「ひっ? あ? ああああああああっっ!!!」

「探してる腕はこれ?」

「ぎゃあああああ!! いてぇ!! ああああっっ!!」

「それ以上喋るなって言ったじゃん」


サーシャが使ったのは上級風魔法で使えるウィンドカッターだ

そして血だまりを作りながら悶えているわん公の顔面に渾身の蹴りが炸裂する
バウンドしながら吹き飛んで壁に激突して気絶した。 死んではいないと思う

周りの取り巻きのこいつの仲間は動けずに唖然としていた
その間にサーシャは皆無力化していく

冒険者のざわめきはなりを潜め、犬っころの叫び声だけが響いていた


「ねぇ」

「は、はい!?」

「もう行っていい?」

「はい! ご利用ありがとうございます! お気を付けて!」


サーシャは落ち着いたいつもの無表情でドアを開けて出ていく
俺は受付のお姉さんに修繕費として1万ゴールドを渡してそのあとを追った


陽も落ちかけてきた
俺達は宿屋に来ていたが問題が発生したのである


「二部屋はないのか?」

「えぇ、空いている部屋がセミダブルの一部屋しかなくてですね……」

「セミダブルに二人で寝ろって?」

「別に構わない」

「俺は構うんだよ」

「申し訳ございませんがお客様……」

「じー」

「あーもー分かった! じゃあそれでいい!」


ということがあったのだ
荷物を下ろしてサーシャはシャワーを浴びている
水音が聞こえ内心落ち着かない

というか俺は別に浄化魔法が使えるから風呂に入らなくていいんだが

暇だし少しベッドに横になっていよう


目を覚ますとサーシャが髪がまだ少し濡れたまま俺の横で眠っていた

また頭を撫でたら怒られるかもしれない
そう思い、布団をガバッと剥いでやった

伸びていた身体を寒そうに丸ませる猫耳少女
尻尾までクルンと体の下にしまっていた

ふぅむこれでも起きないか
俺はサーシャの頬を撫でた
もちもちの吸い付くようなほっぺたはずっと触っていたくなる魔性のものだな

んぅ…と少し反応があるが俺は続ける
ずっと触ってみたかった猫耳を指で触ってみた

ピクピクと動いて俺の手から逃れようとするのがまたおもしろい

構わずグリグリしているとサーシャがついに目を覚ました


「……っ!?」

「おいバカ、やめろ!!」


ウィンドカッターを右手に纏い、切りかかろうしてくる
俺はその手をなんとか弾く

こいつ今無詠唱どころか、魔法名を言わない無呼名を使いこなしたな
こんなところで進化するんじゃねえ!


俺が旅の用意やら荷物の整理やらで荷物を広げていると、それを横目でチラッと見てきたっきりまたそっぽを向いてしまった


「なぁサーシャ」

「…………」

「サーシャにゃん?」

「…………」

「無視すんな」

「フゥーッ!!」

「威嚇すんなっての!!」

「ふん」


不貞腐れたのかサーシャはごろんと横になってしまった
尻尾がビタンビタンとベッドを叩きつけていて不機嫌なのが火を見るよりも明らかなのが怖い

おいおい勘弁してくれよ、俺は今からあそこで寝んのかよ


「飯まで時間あるんだし少し寝るぞサーシャ」

「…………」


返事はない
が、尻尾はびたんと大きくベッドを叩いた。 これが返事なのだろう

俺もサーシャと同じ布団に入る
身を寄せようとするとサーシャの冷たい唸り声が聞こえた


「こっち来るな」

「……はい」


俺はふと目を覚ました
するとサーシャがなぜか俺に抱きついて、頬をすり寄せているではないか


「なっ!? サーシャ!?」

「んぅ? あ、アルス……」

「何やってんのお前」

「……ぎゅー」

「え、え??」

「アルス~」


まさに猫なで声である
トロンとした目で見つめられ、俺の心臓はうるさいくらいに脈を打った

思い切り抱きつかれているせいで、少し発育のいいサーシャの胸が押し付けられる
その柔らかい感触で俺はナニを大きくしてしまう。 いやこれは仕方が無いだろう

そのせいで嫌われる前にサーシャを引き剥がそうとするがこいつ、かなりの馬鹿力でしがみついてる


「やぁだ~…… 離れたくないよアルス……?」

「おうふ」

「アルス~ぎゅってして」


俺は言われた通りサーシャを抱き寄せてから気がつく
水差しの横に置いてあった惚れ薬が減っている

こいつ……水と間違えて惚れ薬飲んだのか!!


「ぎゅーぅー!」


俺が離れようとしてもサーシャは絶対に離れてはくれない
それどころか、まるでマーキングのように頬を擦り付けてくるのだ

正直可愛くてたまらない

さっきは怒られてしまったが今なら多少のイタズラは許されるのでは?

そう思い、猫耳をもう1度触らせてもらう


「やだ~」

「耳ダメなのか?」

「先っちょはやだ…… 根元なら気持ちいいから触ってほしい」


言われた通り根元を少し強めに指でこすってやる
するとふふんと喉を鳴らして気持ちよさそうに口元が緩んだ

無表情じゃないサーシャかわいい…… やばい

手を止めると少し残念そうにこちらを見つめて、また抱きしめてきた


だが俺の悪戯心はそこでは終わらない
目の前には上機嫌にゆらゆらとしている尻尾がある

俺はその尻尾を軽く握ってやった


「んにゃっ!?」

「うぉ、すげー声」

「だ、ダメだよアルス! それは本当にやだ」


尻尾が一気に膨らみ、ブンブンと振られる
犬であれば大喜びの印だが、猫であれば激怒レベルだ
今は惚れ薬のおかげで少し頬を膨らませる程度ですんでいるが、もし普通の時にやったら刀を抜かれかねない

だが俺は気がついた
耳で根元が気持ちいいなら、尻尾の根元も気持ちいいのではないかと


俺はさっきと同じように尻尾の根元を少し強めに撫でる


「んにゃぁ~!?」

「やっ、あぁ…… にゃぁぁ~!」

「うっわなんだそのエロい声」

「だ、だめぇ~アルス! それ、んっ……」


明らかにサーシャの様子がおかしかった
先の耳を触った時の比ではない
これはまさしく、性感帯を触られているような反応だ

サーシャの顔はみるみる赤くなっていき、艶めかしく熱い息が吐かれる

それでも刺激を続けると段々とサーシャの反応は敏感になっていった


「あっ、ああっ、だめっ、本当に……!」

「ひゃ、あぁん! アルス~ダメだよ~っ!」

「アルスっ、アルス~っ!」


語尾にハートマークがついてそうな嬌声に変わっていた
サーシャは俺から逃げようと体を起こすが、俺が抱っこするようにして抱きしめて捕まえる

俺は両腕で強く抱き締めて、サーシャの熱い吐息を耳元で感じながら尻尾への愛撫を続ける
もうサーシャは1人で座っていられないくらいに腰が抜けていた


「や、やだぁ…… だめ、だめぇっ!」

「んっ、あああぁっ! アルス~!」

「アルス~! 尻尾はだめなのぉ!」

「可愛いぞサーシャ」

「もっと、もっと言ってアルス!」

「サーシャ、可愛すぎる」


いよいよ彼女は、腰を前後に振りながらさらに刺激を欲しがった
俺はそれに応えるように尻尾への刺激を強めてやる


「んにゃぁ~…… 気持ち、いい」

「おかしく、なっちゃうっ!」

「ふにゃぁぁ~~っ!」


尻尾がブワッと膨らみ、まるで何かに耐えるように全身に力が入る
回された腕がぎゅっと俺を掴んで爪を立てる


「はぁぁっ!! はぁっ、はぁっ!!」

「あっ、んぐっ…! ああぁぁぁ~~~~っ!!」


吐き出された息と共に体が俺に投げ出され、サーシャがもたれ掛かってくる

虚ろな目で俺を見つめながら名前を一生懸命に呼んでくる
もう一度サーシャを俺は抱きしめてからサーシャを抱っこして持ち上げる

するとサーシャが乗っていた俺の太ももはすごくびちゃびちゃに濡れていた


飯を食いに下に降りたのだがそれはもう酷かった
周りはガキのカップルだと思ったのか最初から冷ややかだった

なのにサーシャが俺の腕に抱きついてきて、飯を食う時も向かい合って座るのではなく真横に座ってぴったりとくっついて来たのだ

しかも地獄はそれからだ
ご飯を無理やりあーんしようとしてくる
それを断り続けているとついにサーシャが泣き出してしまい、大泣きだった
宥めるも泣き止まず、好きと言わさせられることでなんとか泣き止んだ


周りの目は呆れを通り越して俺への同情に変わっていた
もうあそこいけない……


ぐったりと疲れて今また部屋に帰ってきたところだ


「これはいかんな」

「アルスは私のこと…… 嫌い?」


あ、やばい耳が垂れ下がって泣きそうだ
これはさっきの二の舞になる


「嫌いじゃねえって!」

「じゃあ、好き?」

「おう、好き好き!」

「愛してるって言って」

「愛してるよサーシャ」

「ぎゅーして」

「はいはいぎゅーっ」

「なでなでもして?」

「よーしナデナデぎゅーだ!」

「えへへ、やった」


あー可愛い
可愛いんだがこの惚れ薬って元に戻った時記憶がある系だからやばいんだよな
迂闊にサーシャの体に手を出せないし最悪だこれ生き地獄かっての


「あーるーすー」

「なんだよ」

「……どうしてちゅーしてくれないの」

「お前が俺のこと好きじゃないからだよ」

「そんなことない! だいすき!」

「そりゃ今はな」

「これからもずっとすき!」

「はいはいありがとー」

「むー冷たい。 ひどい」

「……サーシャは怒ったからね」

「え……?」


サーシャは俺を無理やりベッドに押し倒した

ぼふっとベッドに体重が乗りスプリングが軋む


「え? サーシャさん?」

「……アルスから本当はして欲しかったんだけどね」

「んっ!?」


俺は無理やりサーシャに唇を奪われていた


「んふっ♡」

「んんんん!!」

「ん~~~♡」

「ぷはぁっ、やめろって!」

「どうして……?」

「サーシャ、お前は惚れ薬で!」

「んー♡」

「ぷはっ、だからやめろ!」

「やだ! やめない!」

「サーシャ!」

「アルスのばか! どうして嫌がるの」

「そんなの当たり前だろ! お前俺が触るとあれだけ嫌がってただろ!」

「あれは違う! アルスは私の気持ち分かってない!」 

「分かってるに決まってるだろ!」

「違う、そうじゃない!」

「私は……本当に好きなんだよアルス?」

「だから、それは惚れ薬で……」

「んんっ!」

「んっ!?」

「ぷはっ…… 分かってよアルス…… 私は本当に好きなんだよ……?」

「ねぇ、ここ触って? 私今だってすごいドキドキしてる」

「アルスに触れて欲しくて、もっと近づきたくて、愛されたくて」

「……アルスが最初で最後の人だったらいいのにって思ってる」

「サーシャ……」


「ダメだ、サーシャ」

「……酷いよアルス」

「悪い」

「だから、今は眠ってくれ」

「……!?」


無呼名の睡眠魔法
瞬く間にサーシャは瞼が重くなり、そして眠りに落ちた


「アル、ス……」

「悪いなサーシャ、このままだとお前を守ってやれねえよ」

「…………」


彼女の頬に涙が一筋流れ落ちた
俺はそれを拭ってから彼女を撫でながら俺も眠りにつく

また今度
2人をイチャイチャさせ始めましょう

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