【モバマス】堀裕子「飛鳥ちゃん…」 (14)

「まさか、飛鳥ちゃんも能力者だったとは……」

━━そう少女は言う。

「ああ、上手くカモフラージュしていただろう。ボクは端から見ればタダの痛いヤツ。しかしその実“組織”に所属する能力者だったわけさ。そしてその組織は皮肉なことに君の組織と敵対している、裕子」

━━先の少女と向き合う少女はそう返す。

その時、二人の少女の間に一陣の風が吹く。

「私は飛鳥ちゃんとは戦いたくないです」

「ボクだって同じさ。裕子となんて戦いたくない。でも気づいてしまった、お互いの存在を意識してしまった以上ボクたちは戦うしかない。今戦わなくてもいずれそうするときが来る。問題を先延ばしにするだけさ」

飛鳥は真っ直ぐに裕子を見つめたままそう答える。

「……どうしてこうなってしまうんですかね。昨日まではあの部屋で楽しくお茶を飲みながら笑ってたのに」

「神サマってヤツは悪趣味なんだよ。人が無様に足掻いてるのをみて楽しんでいるのさ」

裕子は構えをとる。

「手加減はしません。というかできません。わたしの能力はスプーンを曲げるように物を、壊すことが得意なんです」

それに呼応するように飛鳥も構えをとる。

「ボクだって最初からそのつもりさ」


「いくぞッ!裕子!」

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「あれ楽しいのかしらね」

呆れたように、的場梨沙は女子寮の庭先で戯れる二人を横目で見ながら言う。

「楽しくなきゃあんなに恥ずかしいことできないと思うぞ」

そう答えるのは結城晴。彼女も表面上は呆れ気味に答えるが内心こんな時じゃなければちょっとやってみたいとも思っていた。

「なあ、梨沙。ところでさ」

「なによ」

「なんで女子寮に住んでないオレたちが女子寮の洗濯物干してんだ?」

「さあ?」



━━サア?


「やめるんだ二人とも!そんな戦いお互いに傷つくだけだ!」

━━突如、新しい声が裕子たちに加わり、小さな影が相対する二人の間に立つ。

「邪魔しないでくれ、光。これはボクたちの戦いだ」

「そうです光ちゃん。これは能力者同士の戦い。部外者はそこでおとなしくしていてください」

光、そう呼ばれた少女は哀しげに首を振りながら叫ぶ。

「黙って見過ごすなんてそんなこと……アタシにはできないッ!!アタシは、誰の悲しむ顔も見たくないんだ!。それでも裕子さんと飛鳥ちゃんが戦うって言うのなら、力ずくで止めてみせる!」

飛鳥は失った何かを光に重ねるように、穏やかに言う。

「フッ戦いを止めるために戦うのか、ヒーロー」

「そうだ!アタシはアタシの守りたいものがある!そのためなら……アタシはっ」

光の叫びを遮って、裕子もまた穏やかに、けれど強い響きをもって云う。

「私にだって守りたいものがあります。だから光ちゃんが邪魔するなら、容赦はしません」

「ボクにも守りたいものがある。覚悟しろ、光!」

鋭く飛鳥が叫びながら光と裕子に突進する。

「いくぞ!二人とも!変身!」




ヘンシン!



「律儀に二人とも光の変身を待ってるのが面白いわよね」

洗濯物干しを続けながら梨沙は言う。それに後から出て来て洗濯物干しに加わった三好紗南が答える。

「『お約束』って言うらしいよ」

「ああーそれってあれもだろ、倒したヤツがでっかくなるやつ」

「そうそう。……ていうかヒーローは任させれた洗濯物干しサボってもいいのかなー。」

「まあ、見とくように言われたユッコが率先して遊び始めたからな」

はあー、と同時にため息をつき、それがなんだかおかしくなって三人はあははと笑い出すのだった。

ひとしきり笑ってから梨沙は晴に話しかける。

「晴、このあとの約束覚えてるわよね?」

「あーサッカーするって約束だよな」

「違うわよ!午後からネネと飛鳥と四人で出かける約束だったでしょ!」

「あー覚えてる、覚えてるよ」

二人の会話に紗南が加わる。

「あーそれ、あたしも行っていいかな?晴ちゃんと梨沙ちゃんと出掛けたこと無いし、行ってみたいな」

「いいわよ!一緒に晴を着せ替え人形にするわよ!」

「ええー!なんでオレがー!」



ナンデオレガー




「くっ……」

光が苦しげな表情で膝をつく。他の二人も膝こそつかないものの、立ってるのがやっとの状態であった。

「……限界のようだね、光」

片腕を抑え、息の荒い飛鳥が光に云う。

「…飛鳥ちゃんも…人の事は言えませんね…」

脇腹をに手をあてながら裕子は云う。

「……アタシも含めて皆もうボロボロだ。だから、もう止めにしないか、裕子さん、飛鳥さん」

光は呻きながら立ち上がる。

「それはできない相談だね。この戦いは誰か一人になるまで、終わらない」

「なら、終わらせてあげます。私はプロデューサーを守らなきゃいけないんです。」




━━━さいきっくディザスター━━

裕子を中心として凄まじい力が発生する。その力に必死で抵抗する飛鳥と光。

(裕子はまだこんな力を━。奥の手を出すしかない!)

「すまない蘭子。約束は、守れそうにない」

飛鳥は左手を前に突き出す。

「封印されし左腕の雷帝よ!その力を……ボクに示せッ!」

二つの力に耐えながら光はベルトに手をかける。

(裕子さんも飛鳥さんも、これで決める気だ。
━アタシもアレを使うしかないのか。
━アレはアタシ自身にも反動があるから池袋博士がもう使うなって言われたんだ
━でも、二人が取り返しがつかなくらいならっ)


━━━ディレギュレイトモードに移行。激しい負荷が予想されます。

「うおおおおおおおおおお」

━━━ウオオオオオ




「なんかあっちはクライマックスっぽい雰囲気だな」

最後の一枚を干しながら晴が言う。

「結局飛鳥もユッコも手伝ったのは最初のほうかだけだったわね」

「光はあっちに直行したからマジでなにもしてないけどな」

「たぶんもう完全に頭の片隅に追いやられてるんだろうね」

その時、ガラガラと勢い良く扉が開き、藤原肇が三人に向かって歩いてきた。

「あれどうして三人だけで洗濯物干してるの?裕子ちゃんと飛鳥ちゃんと光ちゃんはどうしたの?」

三人は無言で超小規模劇団を指差す。

「はぁー」

肇は深く深くため息をつき、三人はそれを見てこっそりまた笑うのだった。

「皆は何と戦ってるのかな」

肇が三人に尋ねる。

三人は顔を見合わせ、

「「「あ、洗濯物忘れてた」」」

一斉に声をあげる。

「ままま、まずいですよ、飛鳥ちゃん、光ちゃん!」

「手伝いをサボるなんてヒーローじゃない……」

「ふ、これが運命か」

肇がニッコリと普段であれば見とれるような笑顔で三人に向き合う。

「洗濯物干しサボって何してるのかな?」

「ちちち、違うんですよ肇ちゃん!うっかり洗濯物干しを忘れてただけで!」

「それを世間ではサボったって言うのさ、裕子」

「飛鳥ちゃん」

肇が陶器のような笑顔で飛鳥に向き直る。

「なんでもないです」

「まったく…寮の手伝いを寮に住んでない梨沙ちゃんと晴ちゃんに任せるなんて……」




「肇が来たってことはお昼ごはんができたってことよね!」

梨沙が意気揚々と言い、

「そうだな、行くか」

晴が応じ、

「今日は響子さんがお昼当番だったかな」

紗南が答える。

三人は、楽しげに寮の中に入っていく…………。




終わりになります。
やっぱりSS書くのは難しいですね。

【モバマス】女子寮の怪奇ってやつを書きました。

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