高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「過ぎた後のカフェテラスで」 (43)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「なーんか疎外感」

高森藍子「疎外感?」

加蓮「ゴールデンウィークの予定、夏物を揃えよう、今年のトレンドは……とか言ってて」

加蓮「桜はまだ完全に散った訳でもないのに、お花見の話なんてもう誰もしてない」

加蓮「たまーにテレビで見たと思ったらビミョーな感じでしか咲いてない」

加蓮「それはもうどうこう言うつもりはないし、また藍子とケンカがしたい訳でもないけどさ」

加蓮「なーんか疎外感だなー、って」

藍子「……うーん……」

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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第48話です。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「最初にカフェで会った時のこと」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「春風のカフェテラスで」
・北条加蓮「……」高森藍子「……加蓮ちゃんと、桜の日の夜に」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「静かな部屋で」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「薄明るい自室で」

加蓮「基本流行の先端にいる側だし、たまーに流行を作れる側になってたから、久しぶりなんだよねー、こういうのって」

加蓮「昔もあったなぁ。周りで流行ってるのを今さら初めて、虚しい思いをしたことって」

加蓮「……ま、ただの愚痴だから気にしないでよ。あはは、いきなり変な話しちゃってごめんね? すみませーんっ!」

藍子「…………」ウーン

加蓮「私はグレープジュースで。藍子は?」

藍子「あ、はいっ。じゃあ、私はミルクココアで」

加蓮「だって。お願いしますっ」

藍子「店員さん、お願いします」ペコッ

加蓮「やっぱりお茶よりジュースだよね」

藍子「えー。この前、お茶もいいよねって加蓮ちゃん言っていたのに。……今から注文を変えるって言ったら、店員さん、迷惑がっちゃうでしょうか?」

加蓮「迷惑迷惑。だからやめよう」

加蓮「でもま、何だって終わった話をしてもしょうがないよねー。ほら、ドラマの最終回を見逃したからって愚痴っても話題に入れないのと同じようなもんでしょ」

藍子「もしそうなったら、なんだかとっても寂しいことになっちゃいそうですね」

加蓮「ホント寂しいっていうか昼休みが地獄だった」

藍子「っていうことは、体験談ですか?」

加蓮「そーそー。毎週さ、昼休みの30分がぜんぶ潰れるくらいにあれこれ駄弁ってたのに最終回だけ見落として」

加蓮「なんかハブにされるいじめられっ子ってこんなのかなーって思ったらムカついたんだ。で、その日は早退しちゃった」

藍子「早退までしちゃったんですか?」

加蓮「仕事だからってことで逃げちゃった。あ、これアイドルになった後の話。結構最近のことなんだ」

加蓮「実際、自主レッスンはしたからウソじゃないし? トレーナーさんにも色々教えてもらったし、結果オーライだよ」

藍子「あはは……」

加蓮「間違っても仮病なんて使ったら何て言われるか分かったもんじゃないし。オオカミ少年……オオカミ少女? にはなりたくないからね」

加蓮「あの時ほどアイドルやっててよかったーって思った日はなかったなぁ」

藍子「そんなことでっ」

加蓮「しかもさ、最終回に限って録画すらしてないもん。なんで見逃したんだっけなー……」

加蓮「そうそう、遅くまで収録しててすごく疲れて、そのまま寝ちゃったんだった」

加蓮「やっぱりアイドルやっててよくなかったーって思った日だったね!」

藍子「あはは……冗談でも、加蓮ちゃんがそんなことを言うなんてびっくりですねっ」

加蓮「心にも思ってないから逆に言える的な」

藍子「でも加蓮ちゃんの冗談って、半分くらい本気ってことが多くないでしょうか?」

加蓮「加蓮ちゃんは奥が深いからねー」

藍子「なるほど」

藍子「疲れていたのなら、ドラマのことを忘れていても仕方ないですよね」

加蓮「行く前に録画しとけばよかったなぁ」

藍子「ドンマイです、加蓮ちゃん。……あっ、店員さん。今日もありがとうございますっ」

加蓮「ありがとね~」ヒラヒラ

藍子「ココア、いい匂い♪」

加蓮「ごくごく……んっ~~~! 美味しーっ! 藍子ってそういうことない? クタクタになって帰ってなんか忘れるとか」

藍子「実は、結構あるんですっ」

加蓮「藍子でもあるんだー」

藍子「その日に撮った写真の整理を忘れちゃったり、頂いたお菓子を食べ忘れてカバンに入れたまま、ってこともあって」

藍子「でも、後から写真を見返して、その時に何があったか思い出すの、楽しかったなぁ……♪」

加蓮「……な、なんだろう、この敗北感」

藍子「へ?」ゴクゴク

加蓮「ドラマさ、後からDVDで見たんだけど思ったより面白くなかった」

藍子「放送している時に見ないと、楽しみも半減しちゃいますよね」

加蓮「そうそう」

藍子「楽しみにしていたのに、見てみたら「あれっ?」って思うこともあったりっ」

加蓮「ホントホント」

加蓮「それでも後から見るならやっぱり通し見しなきゃね。奈緒もよく、アニメのDVDを借りるなら一気に! って言ってるし」

加蓮「まーそこまでの時間は取れなかったし、もういいやで終わっちゃった」

藍子「残念。ちなみになんてドラマだったんですか?」

加蓮「んーと、半年前くらいにやってた――」

藍子「あぁ、あのドラマですね。私の友だちも、ハマってたって楽しそうに言ってましたっ」

加蓮「そうなんだー」

藍子「見るといいって何度も薦められちゃって。見てみましたけれど……私には、その、ちょっと……」

加蓮「結構……ハードボイルド? って言うんだっけ? そんな感じのだもんね。エグいシーンも多かったし、確かに藍子には合わないかも」

藍子「でも、そういう作品でも、誰かと一緒に見ると楽しめたりしますよね」

加蓮「ん? 暗に誘ってる?」

藍子「ふふ、誘ってます♪」

加蓮「どうせなら藍子のオススメにしてよ。見てて10分くらいで寝れそうなヤツ」

藍子「じゃあ探してみま――あの、加蓮ちゃん? それ、安眠したいだけじゃ」

加蓮「バレた」

藍子「寝ちゃったら一緒に見る楽しみがなくなっちゃいますっ」

加蓮「一緒にいるって楽しみがあるじゃん」

藍子「……ここじゃ、足りませんか?」

加蓮「あー……。いや、そういうんじゃなくて、えーっと……」

加蓮「と、とにかく、今度藍子の家に行く時になんか持っていくね。一気見……は時間的に厳しいだろうし、とりあえずレンタルショップで1巻だけ借りて行こっか」

藍子「結局、加蓮ちゃんが持ってくるんですね。それなら私、加蓮ちゃんが何を持ってくるか楽しみにしていますっ」

加蓮「続きが気になったらその場で借りに行っちゃおう」

藍子「あんまり遅い時間に外出すると、心配されてしまいそうですね」

加蓮「そこで藍子のお母さんの出番です」

藍子「お願いするなら加蓮ちゃんの方からで」

加蓮「えー」

藍子「私がお願いしたら怒られちゃいそうですから。夜遅くになんて、って。でも加蓮ちゃんのお願いなら、お母さん、絶対に喜んで引き受けてくれますよ」

加蓮「……まぁ機会があったら。そういえば、よく考えてみたらそんな時間にレンタルショップって開いてるかな?」

藍子「ああいうお店って、24時間営業のところが多くないですか?」

加蓮「それがさー、近所のとか早くに店を閉めてたりするの」

加蓮「ほら、前にドラマの収録があって、参考にしよっかなーって思って仕事帰りの……ちょっと遅くなったからモバP(以下「P」)さんと帰りに寄ろうとしたんだけどさ、もう閉まっちゃってて」

藍子「最近、遅くまでお仕事しないようにしよう、って、よくニュースになっていますよね」

加蓮「しかし収録は21時まで続くのでした」

藍子「お疲れ様です、加蓮ちゃん」ペコリ

加蓮「遅くのお仕事……病院の個室……廊下から聞こえてくる足早に駆けていく音……」

藍子「それって……も、もしかして幽霊……!?」

加蓮「え? あ、違う違う。ちゃんと生きてる人だよ。いや幽霊もいるけど」

藍子「ほっ。…………ええええ!? 幽霊もいるんですか!?」

加蓮「何なら生きている人よりいっぱいいる」

藍子「そんなに!?」

加蓮「冷静に考えてみたらさ、生きてる人なんかよりこれまで死んだ人の方が多いに決まってるよね」

藍子「でもっ、亡くなった人がみんな幽霊になるとは限らないじゃないですか!」

加蓮「未練とかなかったらそのまま成仏しそうかな? でもよく考えてみてよ藍子。病院だよ? 病院で死んだ人だよ? 未練とかあるでしょ。ありまくりでしょ」

藍子「っっっっ~~~~!」

加蓮「幽霊VS生きている人。ではリーダーの藍子さん、成仏をお願いします」

藍子「無理です!! 無理っていうか嫌です!!! もっと適任がいますよね!?!?」ナミダメ

加蓮「大丈夫大丈夫。ゆるふわ空間に癒やされれば未練なんて忘れて安らかな顔で天国に逝くから」

藍子「ゆるふわ空間をなんでもできる魔法の言葉みたいに使わないで~っ!」

加蓮「実際そんな物でしょー?」

加蓮「まあ幽霊のことはこれくらいにして。本当のところ幽霊なんかよりすごい形相で駆けてる人の方がよっぽど怖いんだよね、病院って」

藍子「そっか。夜遅くでも、……ナースコール? ってありますよね」

加蓮「実際は夜勤とかシフト制とかあるけど、予定通りにいかないもんだからねー。そしてハプニングにかこつけて脱走しようとする在りし日の加蓮ちゃん」

藍子「何してるんですか」

加蓮「病院とは監獄である」

藍子「脱走しちゃダメですっ」

加蓮「幽霊は友達」

藍子「幽霊の友達がいるんですか!?」

加蓮「昔ね」

藍子「いたんですか!?」

加蓮「脱走ばっかりしてたら、オオカミ少女扱いされたこともあったなぁ」

藍子「…………何してるんですか」ジトー

加蓮「なんだろう。藍子のジト目が前より痛い」

藍子「ここのところ、私たち、ケンカばっかりしちゃってましたから……変なことに慣れちゃいました」

加蓮「改めて藍子ちゃんって怖いなぁと思う加蓮ちゃんでした」

藍子「こ、怖くなんてないですよ~?」

加蓮「そうやっていたいけな女の子をたぶらかすつもりでしょ! この魔女め!」

藍子「……、……いたいけ?」

加蓮「よっし決めた。藍子の家に行く時はガッチガチのホラーを用意していく。小梅ちゃんにオススメを聞いておかなきゃ」

藍子「やめてー!?」

加蓮「でもさ、オオカミ少女扱いしてもホントに容態がヤバイ時は駆けつけてくれるから、医者って不思議な人だよねー」

藍子「本当に冗談で済まされない時が、ちゃんと分かっているんですね」

加蓮「だねー」

藍子「そういうところは、加蓮ちゃんも同じですねっ」

加蓮「ってことは加蓮ちゃんナースバージョンがお披露目できる日も近い?」

藍子「ファンの皆さんを治療してあげてくださいっ」

加蓮「残念ながら不治の病です。というか、私が不治の病にさせる側です」

藍子「きっと、加蓮ちゃんへの好きって気持ちですね♪」

加蓮「病気を振りまく側って……なんかこう、そういう魔物とかいなかったっけ?」

藍子「うーん……ゾンビ?」

加蓮「小梅ちゃんに弟子入りしなきゃ」

加蓮「不治っぷりでは藍子のファンの方が深刻な気はするけどねー……。こればっかりは治さない方がいい病気だね、きっと」

藍子「ふふ。そんなものが世界にあるなんて、なんだか不思議ですね」

加蓮「病院も17時にしまっちゃえばいいのに。そしたら看護師さんもあんな戦争地帯を駆け抜ける軍隊みたいな顔をしなくなるんじゃないかな」

藍子「ぐ、軍隊?」

加蓮「さっきも言ったけど、たまーにいるんだ。目が血走ってる人。さすがにアレ相手では加蓮ちゃんも引っ込むしかなかったよ」

藍子「加蓮ちゃんが引っ込むしかないなんて相当ですね……」

加蓮「……うん。言い方が何か引っかかるけどまぁいっか」

加蓮「あとさー、現場の……あぁアイドルのね。現場のスタッフさんもそう」

加蓮「明らかに何徹とかしてそうな人もいるのに、昨日宴会したんだーとか言い出すおっさんもいてさ」

加蓮「見てて痛々しい人なんかは、もっと早く帰ればいいのにってたまに思っちゃうよ」

藍子「大変そうな方が大勢いらっしゃいますよね……。17時に終わるようにするなら、収録でNGなんて出せませんねっ」

加蓮「17時に撮影を終わらせようキャンペーン。条件は収録すべてを一発OKで済ませること!」

藍子「急にハードルが上がっちゃってます……!」

加蓮「思うんだけどさ、仕事が終わった後の楽しみがあるといいんじゃないかな」

藍子「楽しみ?」

加蓮「私だって例えば、この収録が終わったら藍子とカフェでダラダラできる! って思ったらたぶん一発オッケー連発できるし。……まーどうせ共演者さんがやらかすんだけどね」

加蓮「Pさんみたいな、自分は仕事一筋です仕事が恋人ですそんなのいいから私を恋人にしろみたいな人もいると思うけど、」

藍子「どさくさに紛れて何言っているんですか……」

加蓮「そーいう人はそーいう人でいいと思うけど、それを押し付けるのはイヤだよねー」

藍子「あんまり大変なことを押し付けられるのは、私も嫌です」

加蓮「その点、私達のPさんってホントいい人だよね」

藍子「たくさんお休みも時間も頂いているのに、いつも気遣ってくださって……。Pさんは、ちゃんとお休みできているでしょうか?」

加蓮「たまに心配になっちゃうなー」

加蓮「……思えば私も、ここでのんびりとした時間を過ごすことを覚えなかったら、24時間365日ずっとアイドルのことしか考えない人生になってたのかな?」

藍子「今でも加蓮ちゃん、アイドルのことで頭がいっぱいって感じに見えちゃいますけれど」

加蓮「ホントにそうならここで藍子とのーんびりなんてしてないよ。…………」ジー

藍子「?」

加蓮「……やっぱり藍子は魔女だった」

藍子「どうしてそうなるんですか~」

加蓮「いやなんか思ったことを素直に言うのってシャクだったし」

藍子「この前は、愛してる、なんて言ってくれたのに」

加蓮「一晩考えた結果やっぱり私は藍子のことなんて大嫌いなんだって結論に至りました。べーっ」

藍子「嫌いな相手なのに、一緒にいてくれるんですね」

加蓮「嫌いになれる相手だから一緒にいるんだと思うよ。あーあ、明日の収録は何時までかかるんだろ。苛ついちゃったら電話させてね?」

加蓮「あ、でも電話で愚痴ってるところはあんまり見せたくないなー。メッセージでいい?」

藍子「私も、同じ時間に収録が入っているので……対応できたら、対応しますね」

加蓮「そういえばそうだっけ」

藍子「そんなに今の収録は大変なんですか?」

加蓮「ううん、ぜんぜん。割とスムーズに進んでるし。っていうか普通に楽しいもん。スタッフさんともうまくやれてて、共演者も見慣れた人だし」

藍子「よかった」

□ ■ □ ■ □


加蓮「曇ってきた?」

藍子「みたいですね。さっきまで、あんなにぽかぽかしていたのに……空気も湿ってきて、少し雨が降ってきちゃいそう」

加蓮「ジメジメしだしたなぁ。髪の毛、爆発しなきゃいいけど」

藍子「もし必要になったら、櫛をお貸ししますね。……うくっ」

加蓮「?」

藍子「以前、寝起きの加蓮ちゃんの髪の毛があっちこっちになってたのを思い出――」

加蓮「こら」ベチ

藍子「きゃっ。だって思い出しちゃったんだからしょうがないじゃないですか~。でも、すぐにまとめ上げていつものようになれるから、すごいなぁって感心して見ちゃいました」

加蓮「慣れたことだもん。藍子だってそうでしょ?」

藍子「でも、加蓮ちゃんみたいに手早く綺麗にまとめ上げるのはできませんから……。あ、それより、店員さんにお願いして、中の席に移させてもらいますか?」

加蓮「そーしよっか」

……。

…………。


――おしゃれなカフェ(店内)――

<ポツポツ...

加蓮「って言ってたら早速降ってきたしー……」

藍子「今日は傘を持ってきてないんですよね……。どうしましょう」

加蓮「サイアクどっちかのお母さんにお願いする感じだね」

藍子「それなら……はいっ、加蓮ちゃんっ」スッ

加蓮「え、何? スマフォ?」

藍子「♪」ニコニコ

加蓮「いやあの、……まーいいけどさ。もうちょっとだけ様子を見てみない? 雨って言ってもすぐ止むかもしれないし」

藍子「天気予報では、夕方から夜までずっと降り続けるみたいですよ」ポチポチ

加蓮「調べたの?」

藍子「はいっ」スッ

加蓮「うわホントだ。しかも明日は1日晴れってなってるー。ムカつくー」

藍子「でも、明日はいい天気みたいですよ。今日は雨を、明日は晴れを楽しみましょ?」ニコッ

加蓮「……あ、相変わらず藍子はなんかぴかぴかしてるねー。天気予報って当たるの?」

藍子「この天気予報は、前に虹を見に行った時も大当たりだった予報なので、外れることはないと思います」

加蓮「時間までドンピシャだったもんね、あの時」

藍子「お母さんに携帯電話を買ってもらった頃からお世話になっていて」

藍子「お散歩の時とか、どこかにお出かけする時とか」

藍子「あと、アイドルになってからも! 野外ロケの日とかは、いつも朝に確認するようにしているんです」

加蓮「大助かりだね」

藍子「でも、テレビと違う予報になってたら、やっぱり悩んじゃうんです」

加蓮「あ、そーいうの分かる。テレビとスマフォでぜんぜん違うこと言ってたらさ、どっちがホントなんだー! ってなるよね」

藍子「なっちゃいますよねっ。そういう時って加蓮ちゃんはどうしていますか?」

加蓮「んー。こう、直感?」

藍子「直感」

加蓮「それか、"こうなったらいいな"って思う方を信じるようにしてる」

藍子「あ、その考え、すっごく素敵ですねっ」

加蓮「そう?」

加蓮「……ん? 待って? 雨だって分かっててしかも信じられる天気予報がそう言ってたなら、なんで藍子は傘を持ってきてないの?」

藍子「あっ……て、天気予報をチェックしたのは、今のことですから」

加蓮「さっきいつも朝に見ているって言ってなかった?」

藍子「ええと、それは……」

加蓮「藍子?」

藍子「あっ、そんなことより、」

加蓮「藍子ちゃん?」

藍子「うぅ。…………お、怒らないで聞いてくださいね?」

加蓮「うんうん、怒らない怒らない」ググ

藍子「って言いながらどうして指をデコピンの形にするんですかっ!」

加蓮「大丈夫大丈夫、寛容な加蓮ちゃんはこれくらいじゃ怒らない」グググ

藍子「左手まで準備しないでください!」

加蓮「いやほら、最近、ちょっと今更だけど左手も使えるようになりたくなってさー」

加蓮「私って右利きなんだけど、左手も上手く使えた方がほら、ネイルを塗る時とかすっごく役に立つと思うんだ」

藍子「なるほど~……って、それとデコピンとは関係ありませんよね!?」

加蓮「やさしーやさしー藍子ちゃんに頼めば両利きに慣れる練習に協力してくれると思って♪」

藍子「しません!! 練習するならもっと痛くない方法にして下さい! それなら手伝いますから!!」

加蓮「ちぇ。で、傘を持って来なかったのは何で? 忘れちゃったとか、仕舞ったままだったとか?」

藍子「……忘れちゃいました」

加蓮「そっか」

藍子「でも、忘れたのは傘ではなくて、天気予報を見ることの方で……」

加蓮「うん」

藍子「いつもは、忘れずチェックするようにしていたんですけれど」

加蓮「さっき言ってたね~」

藍子「…………」

加蓮「で、なんで今日に限って忘れたの?」

藍子「…………だって」

加蓮「だって?」

藍子「久しぶりに加蓮ちゃんが誘ってくれたから……。嬉しくなっちゃって、家を飛び出しちゃって……」

加蓮「……へ?」

藍子「…………うぅ」

加蓮「あー……あははー、そうなんだー……そっかそっかー……」

藍子「…………」

加蓮「……いやあの、だってこの前私の家で約束……。……こ、こっ恥ずかしいこと言われても困るんだけど?」

藍子「へ?」

加蓮「え?」

藍子「……? どうして、加蓮ちゃんが恥ずかしくなるんですか?」

加蓮「あれ?」

藍子「??」

加蓮「いや……うん、いいや。……そ、そっかー、忘れちゃったかー」

藍子「な、何度も言わないでくださいっ。だってその……勢いづいちゃったんだからしょうがないんですっ」

加蓮「私に誘われた程度で?」

藍子「久しぶりだったじゃないですか!」

加蓮「それはそうかもしれないけどさ。ふうん、変なの」

藍子「へ、変って言うことはないと思います。加蓮ちゃんだって……ほら、例えば1週間ぶりくらいにポテトを食べたらテンション上がっちゃいますよね!? いつも食べているポテトでも特別おいしくなっちゃいますよね!?」

加蓮「ないない」

藍子「えぇっ」

加蓮「まず1週間ぶりくらいにポテトを食べるってシチュエーションがないもん。私の場合」

藍子「そんなぁ……。それなら、実際にやってみましょう。今から1週間、ポテト禁止ですっ」

加蓮「私に死ねっていうの!?」

藍子「そこまで!?」

加蓮「言ったでしょ。私の半分はポテトでできていて、」

藍子「もう半分はハンバーガー、ですよね」

加蓮「そ。身体の半分がなくなっちゃったらいくら私でも死ぬよ」

藍子「半分でしかできていないなら大丈夫ですよっ。それに、一生食べるなって言っている訳じゃないんです。1週間だけです、1週間、試しにやってみようって言っているだけです」

加蓮「ぐ……そんなこと言ったら藍子だって、1週間お散歩禁止とか言われたらしんどいでしょ? カメラを持つなって言われたらキツイでしょ?」

藍子「無理です」キッパリ

加蓮「でしょー?」

藍子「でもっ、それとこれとは別ですから!」

加蓮「何が!? 同じじゃん!」

藍子「違うんですっ」

加蓮「同じだって!」

藍子「ちがうの!}

加蓮「う~……」

藍子「む~……」

加蓮「……」

藍子「……」

加蓮「……」

藍子「……でも、久しぶりに加蓮ちゃんが誘ってくれて……すごく嬉しかったんですよ。本当に」

加蓮「……んー、そっか。そんなにかー……」

藍子「はいっ。……えへ♪」

加蓮「前々からアンタちょっと私のこと好きすぎでしょって思ってはいたけど、なんか想像超えてきてるね……」

加蓮「ね、それこそさ、1週間くらい加蓮ちゃんに会うの禁止って言われたら堪えるんじゃない? 禁断症状とか出ちゃうかも」ヒヒッ

藍子「うーん……。禁断症状が何かはわかりませんけれど、それはないと思いますよ?」

加蓮「えー」

藍子「ずっと会えなかったら、すごく寂しいです。でも、少しの間、会えないだけなら」

藍子「また会えた時の喜びとか、ワクワクとか……その時を楽しみにできると思って。楽しみなことが、1つ増えると思うんです」

藍子「それは、ただ寂しいだけじゃ、ないのではないでしょうか?」

加蓮「でもアンタ、カフェに行こってメッセージだけでテンション上がっちゃったんでしょ。天気予報を見忘れるくらいに」

藍子「それは、また別ですから」

加蓮「……もう何が別で何が同じか分かんなくなってきちゃったよ」

藍子「なんだか、難しいお話になってきちゃいましたね」

加蓮「結局もう藍子の言ってることとやってることはおかしいってことでいいんじゃないの?」

藍子「それではまるで、私だけが変ってことになっちゃうじゃないですか~」

加蓮「変じゃん」

藍子「変じゃないですっ。きっと、普通ですっ」

加蓮「変」

藍子「変じゃないです~っ。そんなことを言うなら、体の半分がポテトでできている加蓮ちゃんの方が、ずっと変じゃないですか」

加蓮「身体の半分がお散歩でできてる子に言われても」

藍子「む~……なら、加蓮ちゃんだって同じですっ」

加蓮「あ、そーかも」

藍子「同じ変同士……で……、……うう、やっぱりこれは嫌です」

加蓮「個性ってことでいーじゃん」

藍子「ですねっ」

□ ■ □ ■ □


加蓮「雨、上がったねー。天気予報、外れちゃったね」

藍子「みたいですね。珍しいです……。あ、でも、今見たらまた予報が変わっているみたいですよ。ほら」スッ

加蓮「リアルタイム早っ。時間もいい具合だし、そろそろ帰ろっか」

藍子「はーいっ。でも、また降っちゃうかもしれませんね……」

加蓮「今日はもうずっと曇りみたいだし、大丈夫じゃない?」

藍子「そうですよね。……でもちょっぴり不安……」

加蓮「藍子ちゃんイチオシの天気予報サイトなんでしょー?」

藍子「き、今日だけは少しだけ疑いたくなっちゃいます」

加蓮「分かる」

藍子「加蓮ちゃん。雨がまた降ってきたら、強がらないで雨宿りをしてくださいね? 雨宿りじゃなくて、傘を買ってさすだけでもいいですから」

加蓮「私は子供じゃないってのー」

藍子「まだ、もうちょっとだけ心配ですから」

加蓮「はいはい。また体調を崩して藍子を泣かせるのも嫌だもんね。ちゃんと気をつけるよ」

藍子「…………」

加蓮「……そんな真剣な顔をするくらい心配なの?」

藍子「あ、いえ……別のことで……」

加蓮「別のこと?」

藍子「…………」

加蓮「よく分かんないけど、何か言いたいことがあるなら言ってよ。そうやって黙られた方が気になるよ」

藍子「…………、ずっと……」

加蓮「うん」

藍子「ずっと、気になっているんです。気になっていて……でも、余計なことだっていうのも分かっていて」

藍子「傷つくことも必要だって、知っているけれど……終わったことを蒸し返すのも、違う気がしていて」

藍子「分かってはいるけれど、でも……」

加蓮「……藍子が何を思いついたか知らないけど、別に、多少古傷に手を突っ込まれてぐしゃぐしゃにされるくらいなら慣れてることだよ?」

加蓮「今更躊躇う必要なんてないって。何かやりたいことか言いたいことかあるんでしょ? モヤモヤしたまま帰っても気持ち悪いだけでしょ」

藍子「…………」

加蓮「大丈夫。寛容な加蓮ちゃんは怒らない。デコピンもしない。……ほら、言ってみなさいって」

藍子「…………」

藍子「加蓮ちゃん」

加蓮「うん」

藍子「週末、空いていますか?」

加蓮「んーっと……うん、空いてる。Pさんが余計な気遣いで休みを増やしやがってくれたからね。まったく、余計なことをー……」

藍子「……もう、少し遅いのかもしれませんけれど」

加蓮「うん」



藍子「――桜を見に行きましょう」

加蓮「……!」

藍子「……分かってます。加蓮ちゃんにとっては、終わったお話です。終わったお話が戻って来ないってことも……知っているつもりです」

藍子「それに、これは加蓮ちゃんの行きたがっていたお花見でもない――」

藍子「だから、取り戻しに行くのとは少し違います。そうじゃなくて……上書きする、っていう意味なのかな……ううん、それもちょっと違う……」

藍子「ま、満開の桜はすごく綺麗ですけどっ、散り際の桜だってきっと綺麗に決まってます! あ、どうせならアルバムを見てみますか? 私その頃の写真だって撮ったことがあって今でもお気に入りの1枚があるんですっ」

加蓮「……」

藍子「……」

藍子「……たぶん、私が見に行きたいだけなんだと思います。加蓮ちゃんと、一緒に」

藍子「ただ――」

藍子「それでも、少しだけでも……加蓮ちゃんの気が晴れるなら……って」

藍子「一緒に……行きませんか?」

加蓮「……」

加蓮「ん……」

加蓮「……うん。……うん。行きたい」

藍子「!」

加蓮「でも1つだけわがままを言わせて」

加蓮「……」

藍子「なにですか、加蓮ちゃん?」

加蓮「……つれてって」

藍子「大丈夫です! 加蓮ちゃんの家まで迎えに行きますから……。その時に嫌だって言われても、家から引っ張り出しますから!」

加蓮「うん。お願い。その時の私が嫌がっても、引きずりだして」

藍子「はい。予定だけ空けておいてください。あとは……私が、どうにかします」

加蓮「任せるね」

加蓮「……あはっ。私のことなのに藍子に任せたって言うなんて、変な話!」

藍子「ふふ。それは、加蓮ちゃんが意地っ張りなんですから。しょうがないんです」

加蓮「えー。何それ、私が悪いの?」

藍子「ううんっ。悪いのは、きっと私です。終わったことを蒸し返そうとしているのも、加蓮ちゃんじゃなくて私です」

加蓮「そーそー。藍子が悪い」

藍子「うぅっ。で、でも……最初に言ったのは加蓮ちゃんですよ。疎外感だ、って」

加蓮「余計なこと言っちゃったなぁ。目敏すぎるんだから、藍子は」

藍子「目ざとくなんてありません。私、いつもぼんやりしちゃって、色々な物を見落としちゃいますから、大切なことだけは絶対に、じーっと見るようにしているんです」

加蓮「そか」

加蓮「楽しみにしてるね。忘れ物を見つけに行く週末を」

藍子「私も、楽しみにしています。……見つけに行きましょう。あなたの、忘れ物を」

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次回第49話。タイトルはまだ秘密。
少し遅くなりましたがお花見編完結のお話です。近日中に投下します。
また、よろしくお願いしますね。

おしまい。
読んでいただき、ありがとうございました。

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