【ミリマスSS】所恵美「花に赤い糸」 (13)
あの日から、性格が変わったなって思うようになった。
ささいなことで怒るようになったり。なんでもないことに幸せを感じるようになったり。
前より涙腺が脆くなったり……って、それは前からか。
とにかく、前にくらべていろんな意味で変化を感じるようになった。
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「いつまで隠してるんですか?」
ある日のファミレスで、志保にふいに
そんな言葉を告げられた。
「え? なにが?」
あまりに唐突な問いに、なんの気の利いた返しもできなかった。隠してる、ね。本当になんの話なんだか。
「……恵美さんがとぼけるならそれでいいんでしょうけど。その気持ちとは向き合わないといずれ辛くなりますよ……と、この前私が演じたキャラは言っていました」
志保が演じ……あーなるほどねえ。そうだよねえ。他人が見てもそう思うってことは、やっぱりそういうことなんだろうねえ。まいったなあ。
「っ! ははっ、そうだねえ……心配してくれてありがと」
うろたえてることを悟られたくなくて、なんとかそれだけを口に出す。
「いえ……恵美さんからかけられる心配なら、よろこんで」
「なにそれどゆこと?」
そこで、彼女はふっと微笑んで。
「たまには頼ってくださいよ。仲間なんでしょう? 私達」
そんな、予想にもしてなかった言葉を口にした。
……ファミレスを出て、家への道をチャリで走りながら考える。
そうだよねえ。隠すような事じゃないよねえ。プロデューサーはこういう時どうするのかな……って。ここでプロデューサーを例えに出す時点で決定的じゃんね、アタシ。
アタシは、プロデューサーが好き。
プロデューサーはどう思ってるんだろう。
胸の奥が棘を刺されたように痛い。その棘は、奥深くまで刺さって決しては抜けはしない。丁寧なことに反しまでついてて、簡単には抜けないようになってる。
本当に痛い、けれど。
なんでだろうな。この痛みを、心のどこかで求めていた気がするんだよね。アタシ。
ねえ、プロデューサー。
アタシはあなたにアタシの気持ちを知って欲しいよ。
この気持ちを、あなたに届けさせて欲しい。
この気持ちを、あなたに結ばせて欲しい。
ガラじゃないけど、赤い糸で、強く強く結びたい。
目の前がふいにぼやけて、クラクションが鳴ったことでようやく信号が変わったことに気づいた。
慌ててペダルを踏み込みながら横断歩道を突っ切る。
嘘、やだ、なんでアタシ。悲しくもないのに泣いてるんだろう。
数日後。
シアターの屋上でぼんやりしてると、洗濯物を取り込みに来た志保と目が合った。
「結論は出たみたいですね」
開口一番これだよ。やだやだ、本音しか言えない子は……そんなところが、この子のいい所なんだけどね。
「そうだねー。いやー、怖いね。自覚してからさ。日に日に重くなってんの、気持ちが。もうねー、自分が自分じゃないみたい」
「怖い……ですか」
ああ、うん。そうだ。
「怖いね。相手のことが1番になって、それまでの考え方とかも全部変わったりしてさ。見てこのシュシュ。これ買うためにこの前未来に付き合ってもらっちゃったよ」
彼が好きそうな服は、髪型は、そんなことを考えるうちに。アタシの好みなんてどこかに消え去ってしまった。
「……恵美さんをそうまでさせる何かが、プロデューサーさんにあったんですね……そうですね。そういう人ですよね。あの人は」
どこか遠くを懐かしむように、志保が視線を空に向ける。
それだけで、すべてを察せられるようになったのは、成長……かな?
ああもう、どうしてアタシらは自分の感情に鈍感なんだろう。
それから、プロデューサーと過ごす日々が、本当に幸せだった。
仕事にも気合が入るし、オフの日も会いに来たりした。前よりも周りを見れるようになったし、なんなら2キロ痩せてウエストも細くなった。
本当に幸せで、アタシはどこか「プロデューサーとの関係は壊れない」なんて都合のいいことを呑気に考えていて。
だから、プロデューサーが海外に留学すると聞いた時は、驚くしかなかった。
いつの間にうちはそんなに大きくなったんだって。
「……1年間海外かぁー」
放課後の教室。なんともなしに呟く。呟いたってそれが変わるわけじゃないし、どうしようものないのに。
「本当は、祝福してあげないといけないんだよね……」
そうだ。そうだよね。
惚れた男の祝福一つできないようじゃ、女が廃るってね。
「よし。決めた」
アタシが、アタシが誰よりもあの人のことを祝ってあげよう。
あの人の担当アイドルとして。あの人を好きな、一人の女として。
「プロデューサー。本当におめでとう。こんなのしか準備できなくて悪いけどさ。これ、良かったら受け取って?」
「……ああ、ありがとう。恵美」
渡米前日。無理を言って時間を作ってもらったプロデューサーに、アタシはドライフラワーの栞を差し出した。
これは、うちの庭で育てた花を加工したやつで……アタシ自身が、咲かせるのに成功した花だ。
これは、呪いだ。
アタシは、この花を見る度にプロデューサーを思い出す。
そうやって、遠くにいるプロデューサーを思い出して、力をもらうことが出来る。
「……ほんと、ずるい女」
「え? なんて?」
「なんでもない! ねえ、プロデューサー。アタシね。プロデューサーが大好きだよ!」
こうやって、どこまで本気かわからないように嘘をつくのも本当はダメなんだろうね。ずるい女だな。アタシ。
「そっか……うん。俺も好きだぞ。恵美のこと。これからも」
……あーもう! なんなんだこの人。なんで、最後の最後で、アタシが欲しかった言葉をくれんのさ……!
……うん、本当に。あなたでよかったよ、プロデューサー。
はじめての恋をありがとう。
はじめての好きをありがとう。
「ありがとっ! ……1年後、またそのセリフ聞かせてね!」
終わりです。
恵美がこの一年幸せでありますように。
また来年もこうやって恵美の誕生日を祝えますように。
タイトルをお借りした曲があるのでよければ聞いてみてください。
HoneyWorks 『花に赤い糸/麻倉もも』
https://youtu.be/NJlUbuW54TA
恵美誕生日おめでとう!
乙です
>>2
所恵美(16) Vi
http://i.imgur.com/BiJOgbP.jpg
http://i.imgur.com/jU8fQ4I.jpg
北沢志保(14) Vi
http://i.imgur.com/ZNFva6G.jpg
http://i.imgur.com/RgKv8om.jpg
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