佐藤心「6人を10人に」 (13)
アイドルマスターシンデレラガールズです。佐藤心さんのお話です。
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「……これは見せられないよな」
「何が見せられないの?」
「!? し、心さん!?」
事務所に来たら何やら難しい顔をしてパソコンとにらめっこしているプロデューサーが居た。
声をかけてみるとこの慌てっぷり。さては……。
「なんだなんだー☆ 仕事中にエロサイトでも見てたのか☆」
「なわけないでしょうが!」
まぁ、当然だよね☆ プロデューサーって真面目だし、見るとしても家で一人の時に決まってる。
「で、何が見せられないの?」
あ、もしくは誰に、だろうか。
「えー……。あー……その……」
歯切れの悪い奴だな☆ そんなにまずいものを見てたのか、こいつは☆
「もうつべこべ言わずに見せて☆ 見せろよ☆」
「……泣かないでくださいね?」
泣く? 泣くような酷い物なのだろうか。
私がプロデューサーの肩越しにパソコンの画面をのぞき込むと、そこには掲示板のようなものが表示されていた。
……なるほど。これは確かに酷い。
「一部の人ですからね! 心さんのファンは他にもちゃんと居ますから!」
プロデューサーが精一杯フォローをしてくれているが、大丈夫。私も見た事があるし、知っていた。
「大丈夫だって☆ はぁとも見た事あるもん」
「そうなんですか……?」
夢だったアイドルになれて、やっぱり気になるのは自分の評判なのだ。
ある日、ふと自分の名前でインターネットを検索してみたのだ。所謂、エゴサーチってやつだ。
そして、そんなエゴサーチをしていて行きついたのが、この大型掲示板の佐藤心アンチスレだ。
「うん☆ 今でもたまに見てる♪」
「まじすか。メンタル強いっすね……」
確かに私のメンタルは強い方ではあるが、別に特別強いと言う事はない。
見ればもちろんヘコむし、泣きそうにもなる。それでも、このアンチスレには私の悪い部分が凝縮されているのだ。佐藤心自身を研究するためには悪い部分から目を逸らすわけにはいかない。
「だってぇ、はぁとがもっともーっとすごいアイドルになるには研究は必須だろ☆」
「その通りですけど……大抵こんなに叩かれてるのを見たらやる気なくなっちゃいますよ」
まぁ……あまり言いたくはないが、そこは私も伊達に歳を取っているわけではない。世間の荒波に揉まれた事のない若い娘では耐えられないかもしれないが、私は受け入れる事も受け流す事も出来る大人なのだ。
「だからプロデューサーは見せないようにしてくれたのか☆ 優しいな☆」
実際、私も初めて見た時は思いっきりヘコんだしね☆
「やっぱりアイドルには綺麗なものだけ見せておきたいですからね……」
綺麗なものだけで出来ていないのが芸能界だ。……と言うか、大人の世界かな?
「でも、仕方ないでしょ☆ こうやって言われるってのはそれだけはぁと達の知名度が上がったって事だし☆」
そもそも知名度が無ければこんなスレは建てられないし、そもそもアンチもつかない。もちろんファンも。
「だから、ある意味ではこれは成果だと思わない?」
「……まぁ、かもしれませんけど」
「そ・れ・に♪ 結構役に立つ事も書いてあったりするし☆」
マウスをプロデューサーから奪い取って画面をスクロールする。どこだっけな。確かこの辺に……。
「あ、あったあった☆ これとかね☆」
私が該当箇所をドラッグして反転させると、プロデューサーはどれどれと言いながら該当部分を読み始めた。
そこには、私がバラエティ番組に出演した時の事が書かれている。
バーターで出演したにも関わらず、私が主役を食い過ぎてしまった時の事だ。
「バラエティなんて戦場みたいなもんだから、ある程度は仕方ないってみんな思ってくれてるけど、この時はやりすぎちゃった☆」
「佐藤心出過ぎ、自分勝手すぎる、周りが見えていない、司会が困っているのに気付いてない。……あー。あの時のですか」
「そ♪ 終わってからプロデューサーと反省会したじゃん? そこで言われた事以上にあの時のはぁとの駄目なとこが指摘されてた☆」
あの時はテレビに出れるというだけで舞い上がってしまって周りが見えていなかった。スタッフさんは問題ないと言ってくれたけど、収録終わってからの反省会ではプロデューサーに結構手痛く色々と指摘されたのだ。
「だから、あのバラエティ以降やけに周りを見るようになったんですね」
「そゆこと☆ お陰で今は便利屋さんとしてもバラエティに引っ張りだこだしね♪」
司会を始めスタッフさん達からすごく使いやすくてありがたいと言われて重宝されるようになったのだが、それもこれもこうやって駄目な部分を理解して反省したからこそだ。
「叩かれるとヘコむけどさ☆ 叩かれてヘコんで伸びるんだぞ☆」
金属と同じなのだ。叩かれてヘコんで伸びる。伸びた後は磨けば光る。それが佐藤心だ。
「やっぱりメンタル強いですよ。俺だったら……ちょっと無理かもしれないです」
確かに叩かれて気分のいい人は居ないだろう。事実、私だってちゃんとヘコむわけだし。
「それに、叩かれてるの分かっててこういうとこを見れるってすごいと思います」
「そう? でも、プロデューサーも見てたでしょ☆」
「俺の場合はプロデュースのための情報収集ですからね。方針とか決めるのにネガティブな意見も必要なんですよ」
なるほど。プロデューサーはプロデューサーなりの事情があってここを見ていたのか。
「それははぁとも同じ☆ ポジティブな意見だけじゃなくて、ネガティブな意見もちゃんと受け止めてはぁとはより高みへ登っていくんだぞ☆」
プロデューサーは軽く笑いながらマウスを操作してブラウザを閉じている。きっと、私が平気と言ってもあまり見せたくはないんだろうな。
「まぁ、心さんが知っていて見ているなら止めはしませんけど、そういうのは俺の仕事なんでわざわざ見なくても大丈夫ですよ」
「それは止めてるんじゃないのか☆」
「推奨していないだけです」
さっきまではプロデューサーがちょっと落ち込んでいるようにも見えたのだが、軽口を叩けるくらいには回復したらしい。
「でもさ」
「はい?」
「はぁとがこういうの見ても平気な理由はプロデューサーが教えてくれたんだよ?」
私がアイドルになった頃、プロデューサーに言われたのだ。
「『嫌いになる人にばかり目を向けて、好いてくれる人を見ないのは勿体ない』って☆」
「……そんな事言いましたっけ?」
「てめぇ☆」
やっぱり忘れていたのか。私にとっては価値観を変化させた結構重要な言葉だったのだけども。
「10人中6人に好かれれば上出来って考えになったのはこの言葉があったからなのになー」
分かりやすく不貞腐れておく。別に気分を害したわけではないのだが、こうしてプロデューサーと遊んでると楽しいのだ。
「嘘です! 嘘! もちろん覚えてるに決まってるじゃないですか!」
その反応こそ嘘だろ☆ でも、まぁ楽しいからいいか☆
「ホントか~? じゃあその後にプロデューサーが続けて言葉はな~んだ?」
案の定、笑顔が固まったプロデューサーを見て、思わず吹き出してしまった。意地悪はここらで終わりにしておこう。
「あはは♪ スウィーティージョークだから気にすんな☆」
笑顔のまま強張っているプロデューサーの背中をバシバシと叩いておく。
叩きながらざっとプロデューサーのデスクとパソコンを眺めてみたのだが、どうやら仕事は片付いているようだ。
「仕事終わってるんだろ☆ ごはん行こう☆ 行くぞ☆」
「はは……。そうですね、美人のお誘いを断ったら罰が当たりますね」
「やぁん♪ 事実だけど照れる~☆」
「はいはい。準備するんでちょっとだけ待っててくださいね」
「おう☆」
デスクの上を片づけるプロデューサーを壁にもたれながら観察していると、プロデューサーはちらっとだけこちらを見てきた。なんだよ☆
「『好いてくれる人を大事にしていけば、きっと心さんの事を嫌いになる人なんて居なくなりますから。まずは10人中6人に好かれましょう。そして、いつか10人中10人が好いてくれるそんなアイドルに俺がします』」
「!?」
びっくりして目がまんまるになる。さっき覚えてないって言ってたのに……。
「覚えてたの……?」
「さて、なんの事やら」
ニヤニヤとこちらに意地の悪い笑顔を向けるプロデューサーを見て、さっきの私がした意地悪への仕返しだったんだと気づく。
まったく、子供なんだから☆
「もぅ~☆ お腹空いたからさっさと行くぞ☆」
「はいはい」
大丈夫だ。私はこの人とならきっと6人を10人に出来る。
だって、こんなにも私の事を好いてくれる人なのだから。この人の事を見てちゃんと大事にしていけば、いつかきっと10人中10人が好いてくれるアイドルになれる。
嫌いになる人ばかりを見るのではなく、好いてくれるプロデューサーの事を私はちゃんと見ている。
じゃないと勿体ないからね☆
End
以上です。
10人中5人好かれれば上出来、6人に好かれれば万々歳。そんな風に考えています。
良い事にしろ、悪い事にしろ。反応が貰えるだけで嬉しいものです。良い反応が貰えれば嬉しくなりますし、悪い反応だったらヘコみます。でも、反応が貰えるだけで幸せです。
一番辛いのは何も反応が無い事。
さて、現在、第6回シンデレラガール総選挙が行われています。
是非、私の担当である『佐藤心』と『神谷奈緒』をよろしくお願いします。
では、お読み頂ければ幸いです。また見かけたら暖かい目で見てやってください。それでは依頼出してきます。
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