【ミリマス】静香「霧の町」 (44)




こんばんは。
最上静香です。


今日はレッスンの合間に皆さんに何か面白い話をしろ、と言われてきました。
みんなが集まってくれているこの場所で私がこんな風に自分の話をするなんて滅多にないから
少し緊張してるけれど、温かい目で見てくれると助かります。
それに私は野々原さんのように面白おかしくその場を盛り上げるなんてこと出来ないから。



<あんたいつでも面白いわよ


志保、うるさい。
これは……私がお休みだった日におきた出来事です。



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491829216



たまたま休日が被った春日未来と遊びに行く約束をしていました。
私の地元の最寄り駅と未来の最寄り駅は同じだったから、
私たちは駅で待ち合わせをしたんです。


駅は北口と南口があって、北口には小さな広場があるんです。
本当に小さな。ベンチが1つぐらいしかなくて
そのベンチの背もたれの後ろには良く分からない像があって。


駅前あるあるですよね、良く分からない像があるのって。






私は待ち合わせ時間の10分前にはそこに座っていたんです。
いつも未来は遅刻してくるけれど、
だからと行って私が遅れる訳にはいかない、と思って
いつもどおり10分前に。


待ち合わせの時間になってもやっぱり未来は来なくて。
最悪の場合、未来はこの頃にかける電話で起きることさえある
遅刻常習犯であることは皆も知っていることですよね。


<でへへ~


なにわろてんねん。





で、もう私、その時は今日こそはガツンと言ってやるぞ。
と思って電話したんです、未来に。


そしたら未来はキレ気味で電話に出るんです。

寝起きで起こされて機嫌が悪いのかと思いましたが、
だとしたら今起きたのか、と思ってこっちも少しイラッとしたんです。



未来は
「もう、静香ちゃん遅いよー」
なんて言うんです。




この時も私、未来のことだから「モーニングコールが遅い」という
意味なのかと思ってさらにイラッとしたの。


私はだから未来に向かって
「何言ってるの、未来こそ早く来てよ。ずっと待ってるんだから」
と言ったんです、
なんとか怒りを抑えながら。



でも未来はまたすっとぼけながら言うんですよ。

「え? もういるけど、静香ちゃんどこにいるの?」って。




私は
「もしかして南口にいるの?昨日あれだけ」
北口にって言ったのにって言おうとしたら
未来は私の言葉を遮って



「いや、私北口にいるよ。だって静香ちゃんあれだけ北口北口って」

そう言うんです。
だから私も少し怒って


「じゃあ遊んでないで早く来て。私広場のベンチにいるから」


って言ったんです。



そしたら未来が急に黙って。


「未来?聞いてるの?未来?」



私は何度か未来に訪ねたんですよ。
そしたら未来は



「……私もそこにいるんだけど」



っていうんです。






「は?」って。



でも未来は「だから北口の広場のベンチでしょ?」って。
確かに私もそこにいるんですよ。

周りを確認しても未来の姿は無いんです。


いやほんと、「は?」って思うでしょう? 思いません?


人通りの多い駅前の広場で
私ずっと未来のことをキョロキョロ探したんですけど、
それでも居ないんですよ。



目の前をすーっと
自転車に乗った紺色のパーカーを着た男の人が通っていったんで
未来に聞いたんです。


「今自転車乗ってた人見えた?」

「うん」

「特徴を言ってみて」

「紺色のパーカー着た男の人だった」


あってるんです。
未来と同じ人を目撃してるんですけど、
未来は居ないんですよ。



私なんだかこの時からちょっと気味が悪くて
何がどうなってるのかさっぱり分からなくて、
そしたら未来がまた呑気な声で言うんです。


「もしかして、これってパラパラワールドってやつ?」

「……? ああ! パラレルワールドのこと?」


だとしても……こんなこといきなり有り得るの?
と思ったわけですよ。私のいる世界と未来のいる世界が別の世界になってるって。



未来は
「じゃあどっちかが違う世界に行ったってことなんだ!」

って言うの。私もうちょっと怖くなってきちゃって


「やめてよ!私だとしても未来だとしてもちょっと怖いじゃない」

って。



「私ちょっと探検してくる!」

って未来は言うんです。




私は必死に止めたんですけど


「大丈夫大丈夫一回家に帰るだけだから」って。



私はこの時、もし私の方だったらどうしようと思って、
急いで私も自分の家を目指したんです。




未来には電話は絶対に家に着くまで切らないでってお願いして
未来に適当な馬鹿話してもらって。
それに私がツッコミ入れて。


未来の家の道は私も知ってるし、
未来も私の家までの道は知ってる。


だからお互い、今どこにいるーなんて
報告しながら、また馬鹿話して。


でも未来はどんどん自分の馬鹿話を続けるんですよ。
よくこんなにアホみたいな話できるなぁーなんて
ちょっと関心しながら私もそれに色々ツッコミいれたりして。



でも未来の方は先に家に着いたみたいなんですよ。
未来の方が駅から自宅に近いし、当然と言えば当然なんですけど。



未来の受話器からは未来が家に帰って
未来のお母さんと話をしてる所の声が聞こえてきたんです。



「ただいまー、あ、お母さんただいまー。
 え? うん。そうなんだけどね、今も電話してるの」





きっと私と遊びに行くって行って出ていったのに
私と電話をしながら帰ってきたもんだから不思議に思って

「どうしたの?」なんて聞いたんでしょうね。


でも未来は……そのあとこう言ったんですよ。






「そうそう、なんかさっきから雑音ばっかり聞こえて。
 雑音で返事してるみたいなんだよねー静香ちゃんってば」





……私の声が届いてない。


この時の絶望と言ったらなかったですよ。
だって私も自宅に着いていたんです。


自宅だった場所に。


自宅のはずなんですよ、この場所。
間違えてないんです、帰ってきた道も。



なんにもないんです。





私の家があった場所、なんにもなくなってて
なんか得体の知れない、なんというか、白いんです。
もや、みたいなのがかかってて。



隣の家は両方ともあるんです。
お向かいもあるんです。
間違いなく隣近所の見知った家はあるんですよ。


でも私の家だけないんです。
空き地みたいになってて。


ほら、ドラえもんのジャイアンたちがいつも集まる空き地みたいな
あれよりは小さいですけど、更地になってるんです。



それで……未来にも言ったんです。


「未来、私の家がないんだけど!」


でも未来から私の声は雑音にしか聞こえて無くて
最初は話せてたのに何で?何で?ってずっとはてなマークで。


もう本当にどうしたらいいのか分からなくて。
その場をぐるぐる歩きながら回ってて。




そしたら未来は私がふざけてるんだと思ったんでしょうね。


「……何言ってるか分かんないよー。
 もう切るよー? 今日はなんかごめんね。
 また遊ぼうねー」



そう言って切ろうとするんです。
私ほんとうに慌てて未来にずっと叫んだんです。



「待って未来! お願い切らないで!
 待って! 未来! やめて!!」




もう本当に焦ってて、
怖くて、ずっと叫んだんです。


「やだやだやだやだ!! 切らないで!!
 未来!! 未来!!! お願いお願い待ってやめて駄目駄目!!切らないで!!」


「お願い未来!! 一人にしないで!!
 未来! 未来!!」


でも。



ブツン……ツーツー。
って電話の向こう側から。



私、そのあとすぐに電話かけなおしたんです。
そしたら電話はかかるんですよ。

プルルルルル……。


プルルルルル……。



1分くらいまったところですか。
もう出ないだろうなって諦めたんですよ。
駄目かーって。


もう一度見直したら圏外になってるしで、
もうワケ分かんなくて。



ふ、ケータイから顔をあげると。


さっきまで何もなかったはずの私の家のあった場所に
ほこらがあるんですよ。


あの神社とかにある……何ていうんでしょうね。
小さいお社みたいな。


さっきまで何もなくて、白いもやみたいなのがかかってたのに。


ポツンとそこにあって。



私、ここには絶対にいちゃいけない場所なんだ、って思いましたよ。
だからその場から走って逃げたんですよ。

無意識だったんでしょうけど、
駅とは反対方向に逃げたんです。

自宅の周辺のはずなんですけど、
深い霧があって、
あたりも真っ白にだんだんなってるんです。


そしたらね、前の方から音がしたんですよ。



シャン……シャン。





鈴? の音なんですかね。
遠くの方に……ぼやーっと人影が見えるんです。


で、その人が鈴みたいなの振る時に



シャン……シャン。



って聞こえるんです。




私、本当に嬉しくて「ああ、良かった!人がいる」って思ったんです



だから私大きな声で叫びながら近寄ったんです。



「すみませーん!」って。



そしたら鈴のシャン……シャン。って音も止まって
その人も止まったんです。


遠くの方で。




でもそしたら私に向かって手招きするんです。
こっちにおいでって、ゆっくりゆっくり。


なんだろう?って思ったんですけど。


私この時いつもはそんな遠くのことなんて分かるはずもないし、
ましてやこの時なんてもう気がついた時には周りにも白いもやが
少しかかっている状態だから
そんなこと分かるはずないんですよ。


でもその人が

ニタァーって笑ってるのが見えたんです。





もう本能で「あ、逃げなきゃ!」って思って逃げたんですよ、引き返して。
そしたらまた、シャン……シャン。って。


シャン……シャン。


どれだけ走っても音との距離は広がらないくて、
それが本当に恐ろしくて、もう振り向くこともできなかったんです。


シャン……シャン。


同じ道まっすぐ引き返して来たら私は自宅のほこらに戻ってきたんですね。
まあ、その間も鈴はなってるんですよ。




どこに逃げていいか分からなかったから私、
バチ当たりだから本当は駄目なの分かってるんですけど
「きっとあそこなら神様が守ってくれる!」って思って


そのほこらに走って行って

私ほこらの扉をこじ開けて中に隠れたんです。
小さく丸まって狭いけど入ったんです。





あの鈴は私に向かって進んでくるんです。


シャン……シャン。


本当にこの鈴の音が怖くて、
怖くて怖くてほこらの中でガタガタ震えてて
もう外も見たくなくて小さく丸まって座って
絶対に外は見ないようにしてたんです。


ぎゅっと目をつむって、
耳をふさいで……。

それでも鈴の音は聞こえてくるんです。





私の方に向かってきた鈴はとうとう家の敷地の前で一回止まったんです。


シャン……


って。
でゆっくり鈴の音が


シャン……


シャン……


って近づいてきて……
ついに、私が隠れてるほこらの前にまで来て



ジャラジャラジャラ!!!!

ジャラジャラジャラ!!!


って壊れるくらい勢いよく振り回すんですよ。
もちろん目なんてあけられないし、
ほこらの戸を内側からぎゅっと抑えて離さなかったですね。


そしたらまた


シャン……シャン。


って去っていったんです。



私、もう見つかってるし駄目かと思ったんです。
もうだめだ。私ここで死ぬんだって、そう思ったの。


だから歩き出して遠くに行った時。
「ああ、助かった」と本気で思って安心しましたね。





しばらくしてほこらから出た時ゾッとしたのはほこらのお供え物とか
置くような所にさっきの鈴が置いてあったんですよ。


ほんとに怖くて、でも一応それ持ってないとまた追われるんじゃないかと思って
一応持って逃げたんです。

一目散に元いた駅に戻ってたんですよ。
なんか「元いた駅にとりあえず戻れば大丈夫だろう」と思ったんでしょうね。


それで駅まで走っていきました。
もうあんなに走ったのはあとにも先にもないですよ。


っていう、私、最上静香が体験した……不思議な異世界の話でした。
レッスンの合間の休憩だったけどこんな話で良かったのかしら?



ねえ、どうだったかしら。
少しは怖がってくれたかしら。
みんなそんなに怖くなかったのかもしれないわね、残念。









ねえ、未来、みんな。



返事してよ。







おわり

冒頭で違うと思ったけど、今回も怖かった...
乙です

>>1
最上静香(14) Vo
http://i.imgur.com/ST3UHF5.jpg
http://i.imgur.com/7O1s1qQ.jpg

>>4
春日未来(14) Vo
http://i.imgur.com/sD0gyGZ.jpg
http://i.imgur.com/aQyOApp.jpg

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom