Aブロック準決勝の翌日 都内の病院
怜「何言うてんの、自分」
巴「にわかに信じがたい話であるのは承知しています。ですが事実なので」
怜「……初対面の病人へ向けたお見舞いのボケにしちゃ、かなりスベってるで?」
巴「いえ、違います」
怜「……霧島神境の巫女いうんはお笑いの修行もしとるんか? 悪いけど、大阪人に言わせりゃまだまだやな」
巴「そうではありません、園城寺怜さん」
怜「…………」
巴「貴女の人生に関わる、至って真面目な話です」
怜「突然そんなん言われても。なんの根拠もあらへんやん」
巴「……では、まず実際にお見せしましょうか」
ゴトッ
怜「なんや……、クーラーボックス?」
パカッ
巴「説明のために用意してきました。三段重ねアイスです」
怜「…………」
巴「お布団を汚さないように布巾を敷いて……。はい、持ってみてください」
怜「…………」スッ
ぼとっ
怜「あっ」
巴「ご理解いただけました?」ペロペロ
怜「……落ちたアイス食うのやめえや」
巴「ちゃんときれいな布の上に落ちましたから。ご心配なく」ペロペロ
怜「人と話してるときにモノ食うなっちゅーねん」
巴「あっ、食べたかったですか? 一応、入院されてる方にはよろしくないかと思いまして」コーンボリボリ
怜「あんたが食わんでええやろが。三段全部にコーンまで」
巴「ほへはっはは、ほっはひはいへふはは」モシャモシャ
怜「最後まで食うてから喋れや」
完食後
巴「おわかりいただけましたでしょうか」
怜「アイス落としただけやん」
巴「……ええ、今のはアイスを落としただけです。……でも」
怜「?」
巴「少なくとも、冗談や空想の話をしに来たのではないと……思っていただきたいのですが」
怜「…………」
巴「貴女が今入院しているのも、この呪いのせいなんですよ?」
怜「!」
怜「…………何をアホなことを」
巴「……事実として貴女は今。準決勝での対局の末に椅子から崩れ落ちてここにいます」
怜「……関係あらへんやん」
巴「霧島神境ではすべて把握していますので。隠そうとしなくてもいいですよ」
怜「…………」
巴「表向きは、元々体調が悪かったうえに集中しすぎての体力消耗……となっていますが」
怜「ちょっと立ちくらみしただけやって」
巴「あなたはあのとき……。一巡先の未来が視える力を、三段重ねしましたね?」
怜「!」ドキッ
怜「…………何言うてるかわからへんな」
巴「貴女には、未来が視える」
怜「……どっかのおーげさな実況解説聞いて真に受けてるんちゃう? 迷惑やわーそういうの」
巴「"一巡先を視る者"……。それは誇張でも煽り文句でもなく事実……」
怜「…………」
巴「そしてその力と引き換えに。貴女は生涯、三段重ねアイスを食べることができなくなってしまった」
怜「はいそこ。おかしいおかしい」
巴「?」
怜「何をアホの数え役満みたいなこと言うとんねん」
巴「……それこそが、貴女が手に入れた一巡先を視る力の代償です」
怜「…………」
巴「アイスクリームに限らず何であれ。貴女は三段重ねしたものを必ず落とす」
怜「…………」
巴「……そういう宿命を背負ってしまったんです」
怜「…………せやから、私が準決で椅子から落ちたと?」
巴「はい」
怜「…………マジで言うとんの?」
巴「はい」
巴「……今はまだ、アイスクリーム程度しか自覚は無いかもしれませんが」
怜「…………」
巴「今回の準決勝で。貴女にまとわりついていた呪いの霊圧が一段大きく膨れ上がるのを確認しました」
怜「…………霊圧て」
巴「今後はより顕著に、貴女の生活のいたるところで発症してくるようになるでしょう」
怜「…………発症て」
巴「……このままでは。貴女の人生が不幸になる可能性が非常に高い」
怜「!」
巴「他人を巻き込んだ大事故につながることも、十分に考えられます」
怜「…………」
巴「ですから、私どもとしては。取り返しのつかないことになる前にお祓いをさせていただきたいと思いまして」
怜「……お祓いて」
巴「それが、今日ここに伺った理由です」
怜「…………」
巴「いかがでしょうか?」
怜「…………そんな話を信じろ言うの」
巴「はい」
怜「…………」
怜「……百歩譲って、あんたの話が全部ホンマのことやったとしてや」
巴「はい」
怜「…………あんたに何の得があんの」
巴「?」
怜「……放っといたらええやんか。なんでわざわざ私に話すねん」
巴「……貴女のためにと思って。それだけですけど」
怜「何か裏でもあるんちゃうかって思うやろ。どういう魂胆やっちゅう話や」
巴「…………ご安心ください。そんな心配するような裏や下心などありませんよ」
怜「…………」
巴「ただ、霧島神境の除念師として。近くにあった災いの種を見過ごしておけなかっただけです」
怜「…………」
怜「……めんどくさいのはイヤやねんけどな」
巴「それほど時間は掛かりません。痛いようなこともありませんよ」
怜「…………」
巴「……ただし、ひとつ言うならば」
怜「?」
巴「三段重ねの呪いは消えますが……その代わり」
怜「…………」
巴「貴女は二度と、一巡先の未来を視ることはできなくなるでしょう」
怜「!」
巴「力とその代償とは表裏一体。根元は同じ不可分の存在なんです」
怜「…………」
巴「……ですから、強請はしません。しかし」
怜「…………」
巴「できれば、大変な事故が起こる前に。なるべく早く決断していただければと」
怜「…………」
巴「……貴女自身のためにも」
怜「…………」
巴「私が思うところはそれだけです」
巴「いかがでしょう?」
怜「…………考えさせてんか」
巴「ええ。私たちは別に急ぎませんから」
怜「…………」
巴「お気持ちが決まりましたら、いつでもご連絡ください。神境までご招待いたします」
怜「…………」
巴「では、失礼します」
数分後
セーラ「よっ、調子はどうや?」
怜「…………うん、大丈夫やで」
竜華「誰かお見舞い来てたん?」
怜「…………いや、誰も」
竜華「……そう。ならええけど」
怜「……うん」
セーラ「午後に退院できるらしいで! 明日の五決も出てええって!」
怜「…………そう」
竜華「大した事なくて……ほんまによかった」
セーラ「おう」
怜「…………うん。迷惑かけてごめんな」
竜華「……ええよそんなん。怜の体が一番大事」
怜「……ありがとう」
セーラ「ほな、なんかすること無いか? なんでもしたるで!」
怜「……そう?」
竜華「せやね。怜はゆっくり寝ててええから、遠慮せんで言うて」
怜「…………ほな、アイスクリーム」
竜華「アイス?」
怜「アイスクリーム買うてきてくれへん? 三段重ねのやつ」
セーラ「なんやそら」
竜華「いくらもう退院や言うてもそんな……」
怜「お願い。全部は食えへんから」
竜華「…………わかった」
…………
……
竜華「はい、買うて来たで」
怜「うん、持たせて」スッ
竜華「? ……うん、はい」スッ
つるっ
ぼとっ
竜華「あー」
怜「…………」
――あいつの前ではしらばっくれたけど。実はずっと気にしてたことやった。
確かに私は、昔から三段重ねアイスを全部食えたためしがない。
いっつも落とす。なぜか知らんが毎回落とす。
…………せやかて。
それが呪いだの代償だのなんて話、誰が信じるっちゅーねん。
怜「……三段重ねを、必ず落とす……」
怜「…………」
怜「治せば代わりに、一巡先が視えなくなる……」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………アホか」
――夢を、見ていた。
.
セーラ「あけおめ、怜!」
怜「うん、おめでと」
竜華「今年もよろしくね」
泉「おめでとうございます!」
浩子「みんなで過ごすお正月もええもんですね」
――これはいつの未来かな。来年の正月やろか。
いつまでもこんな感じで、みんなで幸せに居れたらええな……。
竜華「ほら怜、おせちやで! 三段重ねのお重や!」
浩子「皆で栄養考えて作りましたんで」
泉「少しでも先輩の体のためになればと!」
怜「ありがと」
竜華「ほら、開けてみて!」
怜「うん」スッ
つるっ
怜「あっ」
ドバッ ドンガラガッシャン
ゴリッ
竜華「キャー! 怜が泉の顔に三段重箱ぶちまけたー!」
怜「あ……ごめん……」
浩子「なんか物凄い音しましたよ!?」
セーラ「泉! しっかりせえ!!」
泉「…………」ビクンビクン
浩子「先輩! 泉が息しとりません!!」
セーラ「なんやて!?」
浩子「泉! 泉ーー!!」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「……なんや……今の夢……」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………アホらし。昼間おかしな話聞いたせいや」
――だが、次の日も。
怜「今日からこのファミレスでバイトします園城寺です、よろしくお願いします」
店長「うん、まずは皿洗いね」
怜「はい!」
スタッフ「こっちにお皿が運ばれてくるから、どんどん洗ってね!」
怜「わかりました! 1枚……2枚……3枚……」
ドンガラガッシャン パリーン
スタッフ「キャー! 園城寺さんが三段重ねのお皿割ったー!」
怜「あ……すみません……」
店長「もー何やってんのー」
店長「じゃあ皿洗いはいいから、お客様に料理をお出しして」
怜「はい」
スタッフ「はいこれ! うちの名物、三段重ねのチーズハンバーグ定食だよ!」
怜「なんや集中力つきそうですね」
スタッフ「気をつけて運んでね!」
怜「はい!」
つるっ
ドンガラガッシャン
怜「あ…………」
店長「……洗い終わった皿の片付けくらいできるでしょ?」
怜「…………がんばります」
スタッフ「一枚ずつでいいからね!」
怜「……はい」
怜「…………慎重に……ひとつずつ棚に……」カチャッ
怜「って、こんなノロノロやってたら終わらへんて……」
怜「……働くって……つらいな……」
怜「……考えすぎやって。大丈夫大丈夫」
怜「…………みっつずつ」
カチャッ
ドンガラガッシャン パリーン
店長「…………」
怜「…………」
店長「……君、クビね」
怜「…………はい」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「……また……三段重ね……」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………なんやっちゅーねん」
――また、次の日も。
竜華「ほら怜! 急いで!」
セーラ「早よせなもうバスが出るでー!」
怜「待って……私そんな……速く走られへん……」
タッタッタッタッ
セーラ「このバスに乗らんともう間に合わんで!」
竜華「私らの大事なセンター試験が……」
怜「ハァ……ハァ……ハァ……」
タッタッタッタッ
セーラ「くそっ……今日に限って怜が寝坊してまうなんて……!」
怜「うう…………」
タッタッタッタッ
浩子「この歩道橋渡ってください! 反対側のバス停です!」
泉「なんとか運転手に待っててもらいますんで!」
竜華「うん! お願い!」
セーラ「怜ー! 早よー!!」
怜「もう……あかん……」
タッタッタッタッ
怜「こうなったらこの階段……三段飛ばしで……」
竜華「……えっ」
ダダダッ
怜「たぁっ!!」
ぐきっ
怜「えっ」
ズシャッ
竜華「キャー! 怜が三段飛ばしで階段から落ちたー!」
浩子「足が! 足首が変な方向に曲がってますよ!!」
セーラ「バスが出るでー!!」
竜華「怜! 怜ーー!!」
怜「私の……私の大学受験……」
竜華「そんな場合とちゃうやろもう! 足動かしたらあかん!!」
泉「先輩! 園城寺先輩ー!!」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「……三段落ちて……大学も落ちる……」
怜「…………何を言うとんねん」
――そしてまた、次の日も。
司会「さあ、新郎怜さん、新婦竜華さんによるウェディングケーキ入刀です!」
怜「さあ……いくで、竜華」
竜華「……うん。私幸せや、怜」
スッ
竜華「大きなケーキ……」
怜「うん、凄いな」
竜華「…………あっ」
怜「ん?」
竜華「……このケーキ、三段重ねやな」
怜「えっ」
ドッガァン
竜華「キャー! ケーキがいきなり爆発したー!!」
セーラ「会場中クリーム飛び散ってべったべたやー!!」
怜「な……なんで……」
浩子「先輩! 泉の顔にケーキが直撃しました!」
セーラ「なんやて!?」
浩子「口と鼻ふさがって!! グッタリしとります!!」
セーラ「誰かー!! 早よ救急車ー!!」
ワー キャー ドタバタドタバタ
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「……なんでウェディングケーキが爆発やねん……」
――悪夢の夜は続く。
実況「さあ、プロ麻雀段位戦もいよいよ大詰め! 今シーズンのラストゲームです!」
怜(……最終節を前に降格の危機……。厳しい展開や……)
怜(初めて味わったプロの壁……。でも、足踏みなんかしてられへん……!)
怜(竜華とセーラと一緒に……。もっと上を目指して……!)
怜(ここさえ、この半荘さえしのげば……)
怜(いくで……。トリプルや!)
クワッ
怜(……うん……。……で……ここで…………こうなって……)
怜(…………よし! これや!)
タンッ
プロA「ロン」
怜「!」
プロA「親満直撃、12000です」
怜(そんな……未来が違った……?)
…………
……
プロB「ロンです、8000」
怜「!! ……また……」
…………
……
プロC「ロン。園城寺さん、トビ終了ですね」
怜「……あ……」
実況「最終節決着ー! すべての対局が終了しました!」
実況「園城寺プロ、三段リーグわずか一期で陥落です! これはトッププロへの道が遠ざかってしまったー!」
怜「そ……んな……」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「私の人生て……一体……」
――日に日に、確信は増す。これは私の未来の景色。
怜「新婚旅行やね、竜華」
竜華「うん、幸せやで怜」
空港職員「はい、並んでください」
竜華「あははっ、何回飛行機乗っても緊張してまうね、手荷物検査」
怜「ほんまやで。なんも怪しい物なんか持ってへんっちゅうねん――」
ゴトッ
怜「……えっ」
職員A「!」
職員B「これは!」
職員C「散弾銃!?」
竜華「キャー! 怜が散弾落としたーー!!」
怜「えっ」
怜「いや、待って……私そんなん知らん……」
警備員「このテロリストが! おとなしくしろ!!」
怜「ちゃうって! こんなん私のやないから!!」
警備員「確かに散弾が落ちたじゃないか! 君のバッグから!!」
怜「知りませんって! 私のやないです!!」
警備員「問答無用だ!! こっちへ来なさい!!」
竜華「怜……信じてたのに……」
怜「そんな! 竜華! りゅーーかーーー!!!」
……
ガバッ
怜「……はっ!?」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………」
怜「…………なんやもう……わからんわ……」
――数日後。
竜華「話って何?」
怜「うん……。ちょっと、行きたいとこあんねん」
竜華「?」
怜「…………一緒に、来てくれるかな」
竜華「ええけど……。まさか病院? ゲッソリした顔しとるけど大丈夫?」
怜「……いや、病院やないよ。心配せんで」
竜華「……そう」
霧島神境
巴「ようこそ神境へ」
怜「……うん」
初美「歓迎いたしますよー」
竜華「……あ、はい」
巴「決心はつきましたか」
怜「…………うん」
竜華「決心?」
竜華「ちょっと怜、何のこと?」
怜「……うん。あのな、竜華……」
竜華「?」
怜「…………私、一巡先が視える力をなくしてもらおうと思う」
竜華「!」
竜華「どういう……こと……?」
怜「いろいろ考えたんやけど……」
竜華「…………」
怜「このままやとな、私なんや大変なことになんねんて」
竜華「大変……?」
怜「アホみたいやけど、竜華たちも危険に巻き込むかもしれんねん」
竜華「危険……て……?」
竜華「どういうこと? この人になんや吹き込まれたん!?」
巴「…………」
怜「ううん、そんなんやないよ」
竜華「ちょっとあんた! うちの怜に何言うたんですか!?」
怜「違うて。その人に聞いた話も確かにあるけど……。これは私が自分で決めたこと」
竜華「怜……」
怜「もうあんなアホな夢うんざり……やなくて。竜華たちに迷惑はかけられへん」
竜華「夢……?」
怜「ううん、なんでもない」
竜華「まさか怜……今よりもっと未来が視えて……?」
怜「…………」
竜華「…………」
怜「迷惑はかけたない。それだけや」
竜華「…………」
怜「…………わかって、竜華」
竜華「…………そう」
竜華「怜が決めたことなら……。私は何も言わへんよ」
怜「竜華……」
竜華「怜の一巡先が視える力……。正直言うて、私は凄く複雑やった」
怜「…………」
竜華「怜が麻雀強くなりたい、って頑張ってた姿は……ずっと見とったし」
竜華「この力でエースになって。『これで一緒に戦えるな』って笑った時の顔も……凄く嬉しそうやったの覚えてる」
竜華「怜の力があったおかげで……。私たち、全国大会準決勝なんて舞台までも来れた」
竜華「セーラも、すごく感謝してるって言うてくれとったんよ」
怜「…………」
竜華「……でも」
竜華「……やっぱり、体にはよくないやろって。いつか体壊してしまうんちゃうか、っていうのも……。ずっと思うてた」
怜「…………」
竜華「いっつもフラフラしてたし。ずーっと膝枕が欠かせなかったしな」
怜(…………膝枕は8割以上ただの趣味やけど)
竜華「麻雀のために、そこまで無理してほしくないとも思うてた」
怜「…………」
竜華「……実際、準決勝も無理して倒れたんやし」
怜「…………ごめん」
竜華「そこまでしてる怜の姿見てるの……。ほんまは、凄く苦しかった」
怜「…………」
竜華「どっちが本当にええのか。私にはわからへん」
怜「…………」
竜華「……せやから、私に言えるのはこれだけ」
怜「…………」
竜華「怜が思う通りにしてほしい」
怜「…………ありがと」
怜「大丈夫やで、竜華」
竜華「…………」
怜「一巡先が視えなくなっても。私は麻雀やめたりせんから」
竜華「怜……」グスン
怜「高校卒業しても一緒に麻雀続けよう、って約束は……。破るつもりはあらへんよ」
竜華「でも……」
怜「今度こそ。そんな力なしでも、竜華やセーラくらい麻雀強うなったらええねんて」
竜華「そんな……」
怜「確かに、一巡先が視えへんかったら私は千里山の三軍レベル」
怜「このまま麻雀続けていっても……。いい結果になるとは限らんかもしれん」
怜「……それでも。竜華と一緒に居りたいって気持ちだけは、世界中の誰にも負けへんつもりや」
竜華「…………」
怜「……そのためやったら……、私は頑張れる」
怜「どんなに負けても、ヘコまされても諦めへん。インカレでもプロでも、絶対食らいついていったるわ」
怜「そういう覚悟が、やっと今できたと思う」
竜華「怜……」
怜「ラーメン、つけ麺、私諦めん! ってな!」ニコッ
竜華(うわぁ)
巴(うわぁ)
三段重ねの呪い(うわぁ)
ザァッ
巴「!」
怜「……どした?」
巴「今の凍てつくような寒気……そんな……」
怜「?」
巴「……呪いの霊圧が……消えた……。まるで潮が引くかのように……」
竜華「??」
巴「これは……まさか……」
怜「???」
巴「三段オチが…………落ちなかった!?」
怜「どないしたん、さっきから」
巴「……ちょっと先に、確かめたいことが」ガサゴソッ
怜「?」
巴「……はい、三段アイスです。持ってみてください」
竜華「?」
怜「……ええけど……?」
スッ
ピタッ
怜「…………あ…………」
竜華「?」
巴「やっぱり……」
怜「アイスが……落ちひん……」
竜華「? 普通そうやろ?」
怜「持て……た……」
竜華「???」
巴「そんな……こんなことが……」
怜「持てた……! りゅーか……私、三段アイスが持てたぁー!!」
竜華「…………どういうことなん?」
巴「三段重ねの呪いが……引いてしまった……」
霞「これはまさか……」
初美「知っているの、霞ちゃん!?」
霞「確か、櫻田山神社の神主様が……。あのような御業をお使いになると聞いたことがあります……」
初美「櫻田山神社?」
春「……宮城にあるお社」
霞「園城寺さんの放った言霊の力が……呪いの霊圧を退かせたんだわ……」
初美「……私たちも引きましたけどー……」
巴「でも、言霊だけで呪いを退かせるなんて……。相当に高度な御業では」
霞「……ええ、そうね」
小蒔「凄く徳の高い神主様なのでしょうね! すてきです!」キラキラ
春(…………それはどうだろう)黒糖ポリポリ
怜「お祓いっての、もう終わってたん? 気付かへんかったけど」
巴「いや……終わったといいますか……」
怜「?」
巴「もうすることがなくなったといいますか……」
怜「??」
巴「いいのかしら……こんなことで……」
怜「? ……ま、とりあえず。あんたもありがとな、色々と」
巴「……いえ。呪いが退いたのならなによりです」
――こうして、私が三段アイスを落とすことはなくなった。
結局よーわからんかったけど、終わりよければすべてよしや。
私たちの一番暑く熱かった夏は過ぎ、また二人で新しい道を歩き出す。
いつまでも一緒やで、竜華。
9月の始め
セーラ「夏休み終わってもーたなー」
竜華「そうやね」
セーラ「引退したなんて全っ然実感ないわ! 今日ちょっと打っていかん?」
怜「後輩たちに悪いで」
セーラ「ええやん、ちょっとくらい!」
竜華「……まあ、セーラは国麻もあるから」
セーラ「そうそう! ほないくでー!」
対局中
泉「先輩方と打つの、久しぶりですね」
怜「私、インハイ以来やわ」
竜華「……怜は病み上がりなんやから。私がさせへんかったんや」
セーラ「心配性やなー竜華は。楽しくやったらええねんてー!」
怜「…………うん」
竜華「……せやね」
怜(でも……もう一巡先は……)
―ピキッ―
怜「!」
怜(今……視えたのは……)
セーラ「どしたん?」
竜華「怜の番やで?」
怜「…………なんでもない。リーチ」タンッ
泉「!」
セーラ「来たなー!」
怜「…………ツモ。立直一発ツモドラ2や」
竜華「!」
浩子「……さすがです」
怜「…………」
怜(どういうことや……? 消えたんやなかったん……?)
セーラ「?」
竜華「怜……? 今の……?」
怜「……ううん、偶然やろ」
竜華「?」
怜(…………まあええか)
数日後
怜「三段オチを言うと必ずスベる呪い……?」
巴「はい」
カン
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